とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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62.浄化の試み

 

 

 

 考えれば、アーモロードでオランピアの襲撃に合ってからのだいたい丸5日ほど、何も食べていなかった。

 シバでも食べに行くことなく宿のベッドでぐっすりだったし。

 

 そんなわけで久々の食事で。

 

「……うまぁ」

 

 このお芋のスープが美味しすぎる。久しぶりだからそう感じるだけなのか、純粋に味覚にマッチしているだけなのか。とにかくスープが美味しい。身体に染みこむ美味しさ。

 魚も食べてみたが、こっちはそれほど美味しさを感じなかった。香ばしい匂いはするのだけどね。となると、やはりスープの味が好みなだけか。

 

 またまたチキンを皿に取っているコルタナさんがスープをお代わりしている僕に気づいた。

 

「さっきから肉取ってないが、お前肉嫌いなのか?」

「いえ、好きですよー。でも今はこのスープが一番好きです」

「ふぅん」

 

 ていうかコルタナさんはチキンを取り過ぎだよ。もう骨どんだけあるのさ。10本超えてるじゃないか。一度捨てに行きなよ。

 

「そんな羨ましそうに見るなよ。鶏ならあっちの皿にまだあるからな」

「いや、そういう目で見てたわけじゃないんですが……。鶏肉好きすぎでしょ」

「シバだと魚ばっかりで鶏肉は滅多に出ないからな。今のうちに食えるだけ食わないと勿体ない。まあそういうの関係なくうまいしな」

「そうなんですか」

「そうなんだよ。今でこそ多重水門ができて魚は取れるようになったが、それができるまでは魚すら出なかったらしい」

 

 海異の影響か。シバの立地を考えるとかなり危なかったのではないだろうか。じっくり見たわけではないが、土地も広いとは言えなかったように思う。そして海異が起こす海流の異常で魚も鳥も寄り付かなさそうだ。

 

「ダマバンドは恵まれてますね……」

「ああ。金を貯めたらダマバンドに引っ越そうって何度も考えたぐらいだからな」

「へー。でも過去形なんですね」

「あー……まあな。ほら、あれだ。引っ越す必要が無くなるだろ?」

「? そうなんですか?」

「……もっかい鶏取ってくる」

 

 話を切り上げられた。

 不機嫌になったというより、なんだろう。何か別の要因で言いたくないみたいな。信用がないってことかな。

 

 まあしつこく聞くのも悪いだろうし、そしてトゥリタさんを待たせていることだし。

 次のスープを飲んだらトゥリタさんの元へ行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういいのか」

「はい、とても美味しかったです」

 

 もしもトゥリタさんに言われなかったらあのスープを飲むことがなかった。そう考えるとなんて勿体ない。感謝しかない。

 

「それで話って?」

「場所を変えよう」

 

 そういって食事会の場所から距離を話した場所で2人。まだ楽し気な食事風景が遠くに見える。見晴らしのいい場所を選んだのは盗み聞きを避けてだろうか。

 人魚が体内にいる僕に話したいこと、と事前に聞いていたし当然の行動か。人に話せる内容じゃない。

 

「……人魚の肉を喰らうと、不老不死になる伝説がある」

 

 いつの時代でもそういう伝説はあるんだなあと少ししみじみ。

 しかし話題が少し怖い。なんだろう。食べられるとか嫌だよ。いや、僕は人魚じゃないけど。ひょっとしてご飯を食べるよう勧めてきたのは太らせて食べるために……!

 

「引くな。引くな」

「つい……」

「伝説は伝説だ。事実無根とまでは言わないが、誇張された部分もあるだろう」

「はぁ……」

「不老不死など人間を辞めた存在だ。不老不死とは何らかの比喩で、別のものを指していたのではないかと考えた。人魚の肉を喰らうと人外になる……と」

 

 話が見えない。

 なんだ、事実関係を確認したいからお肉を一部くださいとか?

 

「……アイエイアに、人外へ変わりゆく呪いを受けた者がいる」

 

 アイエイアは次に向かう都市の名前だ。

 そこに人魚の肉を食べた人がいると? これは忠告だろうか、単なる情報だろうか。

 

「30年以上前だ。このダマバンドに若い男女が来た。女は意識が朦朧としており、足はなくなりつつあったそうだ。師の話によれば、足の骨がまず消えていたそうだ」

 

 その女が、人魚の肉を食べた人。

 

「ダマバンドに来た理由は守護竜の加護を求めてだった。だが守護竜の加護ある地といえど万能ではない。男のあまりの必死さに見かねた私の師が、その2人のために処方した薬がある」

 

 見せられたものは黒色の粉末。

 

「毒薬だ」

「え」

「……師は、女が助からないと考えた。せめて人間の姿が残っているうちに幕を閉じさせようとした。だが、師の狙いとは裏腹に、女は死ぬことなく、むしろ身体変化の進みが緩やかになった」

 

 毒が有効に働いた? 使い方によっては有毒なものも薬になるとは言うけども、話しぶりからしてこれは本来致死にいたるものだろう。

 

「男は師に感謝した。以来、定期的に師が処方した劇薬を届けていた。師が死去した後も、私がその任を継いでいる」

「……」

「だがもう限界だ。変化の進みが緩やかになったとはいえ、治るどころか止まることもない。女の意識もいつまでも回復せず、ただ引き延ばしているだけ」

 

 シバで、アイエイアに奇妙な噂があると聞いた。

 海を歩く美女を見た。異形の怪物がいた。そんな話。噂が出たタイミングから考えれば最近のものだ。

 

 変化を抑えられなくなった、その女が噂の正体か。

 

「だが、私もその男も、最後に一縷の望みを見出した」

「望み?」

「封印祭で竜の血を抜く。竜の血は万能の霊薬になるという言い伝えがある」

「え、でもダマバンドの竜は血がないって聞きましたが」

「通常の血ではない。空気に触れればものの数秒で消えてなくなるものだ。そのため血がないと認識されている。空気に触れさせることなく血を抜き維持できれば……」

 

 じゃあダマバンドの竜でも真祖との分離は可能? いや、もう無理か。封印祭が終わった以上、次の祭りの時期がくるまで血は得られない。それに注射器のようなものがないと抜き取ることもできない。

 

【そこの男が持っているのではないか】

 

 黙ってて。というか分離ができるからって、手に入れてもまだ分離する気もない。

 

「そしてとうとう封印祭が行われ、血を確保できた。だが……少し、遅かった。アイエイアの海に出没する魔物。もう完全に変化してしまった」

「もしかしたら、そこから戻る可能性も……」

「……男はこう言っていた。彼女が魔物に堕ちた際は自分の手で終わらせると」

「……」

 

 トゥリタさんはまた別の物を取りだした。赤い液体に満たされた小瓶だ。

 

「勝手な頼みだが、使者殿にこれをアイエイアのグラウコスという老人に届けてほしいのだ。魔獣討伐の任と用意のため私はアイエイアに赴けない。人に頼むにしても、彼女の件はあまり人に知られてほしくない。……もしも間に合わなかった場合、この血は使者殿の好きにしてくれていい」

 

 半ば押し付けるようにトゥリタさんは血を僕に渡した。

 話はこれで終わりらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

【期せずして血が手に入ったな】

 

 何言ってんだこいつ。

 まだ手に入ってないよ。これはアイエイアのグラウコスって人の物だ。

 

 というか魔物に変えられつつある女って、どうせ何か真祖が変なことしたのでは。

 

【……】

 

 黙りだした。やっぱり何かしたのかコイツ。

 

【違う。僕自身はその女に関わっていない。……それよりもお前、まさかその血を本気で他の人間に渡すのか? 同族といえ他人だ。他人に頼まれたからと、みすみす貴重な血を手離すのか?】

 

【僕に自由を与えずに分離を企んでいるようだが、その時また血が手に入るとは限らない。これを手離せばもう二度と好機は訪れないだろう】

 

【それでも他人の望みを優先するのか】

 

 急にやかましいヤツだ。

 言いたいことはそりゃわかる。こんなチャンス、もうないかもしれない。

 

【なら】

 

 だけど僕は人間で、他人の目を気にしちゃう生き物なんだ。誰かから良く思われたい。だから頼まれたことはちゃんとする。真祖みたいに神とやらのためにのみ動くなんてできない。

 それに、30年もその女の人は苦しんでるなら助けないとだ。身体を変なのにいじられる苦しみは僕も現在進行形で理解してるし。

 

【……随分な物言いだ】

 

 

 

 

 

 

 翌朝、僕たちを見送りにトゥリタさんが港までやってきた。

 

「なんというか、あれですね……」

「なんだ」

「貧相な見送りだよな。シバでもそうだったが」

 

 せっかく濁そうとしたのにストレートに言い過ぎだ。

 

「ただの使者への見送りにどんな期待をしているんだ」

「まあそうですけども」

「領主さまも見送りに来られる予定だったのだがな。どこぞの姉妹への討伐作戦の説明で酷くお疲れでな」

 

 それはなんとまあ、ご愁傷様です。

 

「っと、すまない。面倒臭い話題を出してしまって……サファイアはどこへ?」

「船室のベッドの上でダウン中です。起こすと面倒そうだったので」

 

 運搬はコルタナさんでした。

 

「変なことをしていないならいい。時間の問題だろうが」

「そうですね……」

「あの姉妹は性格さえまともなら……」

 

 なんだか愚痴が始まりそう。ダマバンドで同じ占星術師だからよく行動範囲が被って苦労してるとかだろうか。

 

「っと、関係ない話だな。それより」

「なんです?」

「私から、グラウコス宛てに伝言を頼みたい。遅くなってすまない、と」

「……わかりました」

「何の話だ?」

「個人的な話だ」

 

 早朝の漁帰りの船がいくつか戻ってきた。もう少しすれば港も賑わうだろう。

 伝言もこれ以上ないだろうし、そろそろ出発だ。

 

「ではもう行きますね」

「ああ、無事を祈る」

 

 天候も海の様子も穏やかそのもの。交易都市アイエイアまでの航路は問題ない。ダマバンドの守護竜の加護によるものか、ダマバンドとアイエイア間では安定した海流らしい。

 

 問題があるとすれば、魔物に変化しつつある女性。

 

 人間が人間でないものへ変化する。そんな災害、僕たちの時代で終わるものだと考えていたのに。もっとも、あれは植物への変化であって魔物ではないが。

 

 航路の安全を思えば、件の女性がすでに討伐されているという形がいいのだろうが、間に合ってほしいとも思う。

 この血はまだ、僕の手に余るものだから。

 

 

 

 

 

 






一話あたりの文字数が減っちゃってます。次話もしくは前話とひっつけようかと思いましたが、まあいいかとこのままで。
実際文字数ってどれぐらいがいいんでしょうね。書いてる最中は気にしても調整する余裕はありませんが。

とりあえずダマバンド編は戦闘なしという結果です。
魔物いるところに毎回居合わせるのもなぁ、と。

というわけでアイエイア編に移ります。

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