とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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66.幾つになろうと訪れるもの

 

 

 

 

 

 アイエイアの病院、僕はサファイアさんと一緒にお見舞いに向かっていた

 

「大丈夫かなあ、コルタナさん」

「ひどい怪我でしたからね……」

 

 会話から分かる通り、コルタナさんが安静のため入院となってしまったのだ。といっても傷の縫合や抜糸のためであり、入院は1週間も掛からないそうだけど。

 

「というわけでお見舞いに来ました」

「……何が、というわけで、だよ」

 

 部屋に入ってすぐに文句が返ってくる。何故かやや恨みがましい目線も添えて。

 

「納得いかねぇ……なんで俺だけ入院なんだ」

「わ、私なんかが無事ですみません……!」

「サファイアさんは落ち着いてくださいねー。それとコルタナさん、あの時、他の人は結構距離がありましたから……あと入院はグラウコスさんもですよ」

 

 最後の青白い塊による攻撃。コルタナさんとグラウコスさんは他の人と比べて近い距離だったし、その差が出たんじゃないかなと。

 

 ちなみにほとんど怪我なしはペイルホースである。あの戦いではずっと離れていた。戦えよと思わなくもないが、戦いが終わってペイルホースがすぐに街の兵士を呼んできてくれたおかげで全員無事とも考えられる。

 あの時はもう、グラウコスさんも僕もまともに動けなかったし、例の女性も同様だ。

 

 コルタナさんはちらりとサファイアさんを見た。

 その後僕を見て聞いた。

 

「……最後のあれ、なんだったんだ」

 

 これはきっと真祖の行動についてだろう。言葉を濁したのはサファイアさんがいるからか。

 

「正直、よくわからないです。あの時なんであんな行動を取ったのか」

「……そうか。まあそうだよな。お前は大丈夫なのか?」

「問題なしです。強いて言うなら、前よりも少し声がうるさくなったぐらいですね」

「それって大丈夫なのか……?」

「怪我さえしなければまあ……なので今まで通りです」

 

 最後のあれは他の人魚の肉を取り込んだもの。それによってパワーアップがあるのかもと懸念したが、しかし元々死んだ肉。大してパワーアップはしていない、と思う。

 

「とりあえずお見舞いの果物です」

「ありがとよ。そこ置いといてくれ……ってバナナかよ。普通もっと豪勢なもんじゃないのか?」

 

 別の人からもそういうこと言われたな。バナナを馬鹿にするな。

 

「わ、私はリンゴがいいと思ったんですが……」

「その意見を強くミゼルにぶつけてくれ」

「でもバナナにするべきって言われたので……」

 

 バナナを馬鹿にするな。バナナは腹もちがいいんだぞ。栄養バランスもいい優れものなんだから。

 

「それより入院は1週間ですか」

「ああ。まあ魔獣討伐の日程には間に合うさ」

「といっても、結構ギリギリじゃないですか?」

「そうなんだよなぁ。1週間後に出たとして、途中ダマバンドを経由、シバについたらだいたい翌日には魔獣と戦うことになるよな……」

 

 ダマバンドまで半日、そこからシバまで1日。

 作戦日程は10日後らしい。アイエイアの現女王が口に出していたので間違いないはず。読めないのはやはりもどかしい。

 

 嘆きながらコルタナさんはバナナを食べる。やっぱりバナナは食べやすいよね。

 

「そのことなんですけど、コルタナさんの退院を待つというのも考えたんですけど、早くシバのあの女王に使者としてやり遂げたことを報告した方がいいかなって思っているんです」

「それがいいだろうな。俺はアイエイアの船に乗せてもらうとするよ。ここからもシバへの派兵があるからな。事情を説明すれば乗せてくれるだろ」

 

 あ、結構あっさり。そういうもんなんだろうか。

 

「じゃあ明日には出発しますね。お大事にですよー」

「明日か。ずいぶん急ぐんだな」

「今回の顛末をトゥリタさんも気にしてると思うので報告をしに行きたいですからね。あとダマバンドのお祭りがまだ続いているのではと期待して」

「さよか……」

 

 その後は、見舞いの品はバナナ派、リンゴ派、メロン派で別れて議論。最終的にバナナVSメロンになった。リンゴ派はすぐに折れた。

 

 そんな話を終えて、次は別の病室に向かう。

 グラウコスさんへのお見舞いだ。もちろんバナナ。

 

「グラウコスさーん」

「あら、お見舞いですか?」

 

 病室には看護師がいた。それと膨らんだベッド。

 ベッドからは寝息が聞こえる。というか、いびき。

 

「あ、寝てるんですね」

「今朝からずっとよ~。大人しくしてくれてこちらとしてはありがたいんだけどね」

「もうお昼越えてますよ」

「……」

 

 何故かサファイアさんにジト目を向けられた。言いたいことはなんとなくわかる。僕たちも朝に見舞いに来るはずだったもんね。けど起きた時間がお昼だったもんね。不思議だよね。

 

「グラウコスさーん、起きてくださーい。ご飯を食べましょうね~、あとお見舞いの方が来てくれてますよ~」

 

 看護師はグラウコスさんのベッドに手を掛けてひっぺがす。

 そうすることにより、当然いびきの主の姿が見えた。

 

「……え」

「……け、毛深くなりましたね」

 

 出てきたのは丸くなって眠っている、サーベルタイガーの姿。どう見てもグラウコスさんではない。

 彼(彼女?)は未だに大きないびきを立てて熟睡中だ。

 

「……」

「せ、先生~! またグラウコスさんが逃げました~!」

 

 再犯とは。

 何やってんだあの爺さん。どこに……あ、宿か。絶対宿だわ。

 

 バタバタ忙しく動く病院関係者に頑張ってくださいと声をかけ、僕とサファイアさんは宿へと向かった。

 

 

 宿にはアイエイアに住居を持たない者。例えばペイルホースやスターブラザーズなどが部屋を取っている。他の旅行客や行商の人などもいるが、そこに昨日からある女性が宿泊しているのだ。当然その女性とは、グラウコスさんが夢中になっている彼女のこと。

 彼女のアイエイアの住居はもともと借家だったため、現在は別の人が使っている。なので宿を利用しているのだ。

 

 そしてグラウコスさんは、

 

「あ、いた」

「ああ、君たちか。こんにちは」

「普通に挨拶してきましたよ、この人……道端で三角座りしながら……こ、こわいです」

 

 宿の前で座り込んでいた。地べたに。

 割とグラウコスさんも変人かも知れない。

 

「病院から抜け出したようで」

「ああ。すまないね。どうしても彼女が気になって、だがバレないように影武者を置いてきたよ」

「影武者さん、バレましたけど」

「また見回りが強固になってしまうな……」

「それでなんで宿に入らずこんなとこにいるんです?」

「彼女の部屋に入ったら、その、だな……丁度、間が悪く、着替え中だったようで……」

「……また覗きですか」

「すぐに退室するべきだとはわかっていたのだが、見惚れてしまい……」

 

 どうしようもない色ボケ爺だ。

 

「それで追い出された、と……。病院を抜け出してやることですか」

「し、仕方ないだろう!? 心配でいてもたってもいられなかったのだから!」

 

 まあ、仕方ない……のかなあ?

 一応女性も病院で診てもらったが問題なしと診断された。念のためポルックスさんも診てくれたがそちらも問題なし診断。

 しいて問題をあげるならかなり痩せていることだろうか。健康状態は問題ないが。

 

「それよりも私に何か用かね」

「ああ、そうだった。お見舞いとお願いを少し。あ、バナナをどうぞ」

 

 不思議そうにバナナを受けとるグラウコスさん。まあ普通は病院で渡すもんね。お見舞いの品なんだから。でもグラウコスさんが脱走してるからこうなったわけで、つまりグラウコスさんが悪い。

 

「お願いか。なんでも言ってくれ。君たちには感謝してもし足りないぐらいだ。ああ、それに、海の異形退治報酬をまだ渡していなかったな」

「明日またダマバンドに出るんですけど、コルタナさんは入院しているんです。退院後、シバへの船に彼が乗れるように口利きしておいてほしいなと」

「お安い御用だよ」

 

 そういえばグラウコスさんの退院はいつ頃になるのだろう。コルタナさんと同じように入院としか聞いていなかった。

 

「グラウコスさんは討伐作戦、間に合いそうですか?」

「無理だろうな」

 

 元気そうなのに。

 彼はそっと右肩をさする。確かそこは、戦闘で深傷を負った場所。

 

「無理をしたからか、右腕の痺れが収まらないんだ。もともと身体にガタが来ていたからね。だが、怪我がなくとも私は足手まといだったろう」

「足手まといなんてことはないと思いますが……」

「はは、ありがとう。だが私はアイエイアから離れられない、というより、離れたくないからね」

 

 アイエイアからではなくて彼女から、だろうな。

 まあ30年ぶりの青春を謳歌したいのだろう。追いだされているあたり前途多難っぽいけど。

 

「グラウコスさん、変なところに座り込まないでください! 宿屋の人が困ってましたよ! ってあら? あなたは……」

「あ、どうも」

「ごめんなさいね。恩人の名前を覚えていなくて」

 

 宿から怒りながら出てきたのは件の彼女。戦っていた時と違い血色は良くなっている姿。もうどこからどうみても人間だ。

 

「ミゼルです。あの時はいっぱいいっぱいだったから仕方ないですよ」

 

 そんな自己紹介を挟めば彼女も名乗り返してくれた。

 するとグラウコスさんが立ち上がり彼女の隣へと立つ。

 

「ミゼルくん、報酬はまた後で渡すよ。私はこれから逢引きを──」

「違います。いつもいつも、あなたは段階がおかしいんですよ! それから気配りも足りてない! 今朝だってそう! 部屋を尋ねるならノックぐらいしてください!」

「す、すまない……」

「あと病院に戻りますよ!」

「なにっ!?」

 

 驚いているが、それが当然だと思います。

 彼女は心底嫌そうにする色ボケ爺と腕を組み、僕に一礼する。

 

「ミゼルさん、慌ただしくてごめんなさいね」

「いえいえ」

「ほら、行きますよ!」

「あ、ああ」

 

 口調はキツイが、足取りはゆっくりだ。引きずっていきそうな勢いだったのに。

 傍から見れば若い美女とそのお爺ちゃんである。そんな2人が去って行くのを見届けてから思う。

 

 自分から腕を絡ませるあたり……

 

 

「……青春してるなぁ」

 

「ミゼルさん、爺臭いです」

 

 

 しみじみと呟けば、まさかサファイアさんに指摘されるとは。

 

 

 

 

 

 

 






アイエイア編のエピローグみたいなお話。

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