アーモロードのロード元老院にて。
老婆に海都の将軍クジュラ、それからギルドムロツミが報告を行っていた。
報告を聞き終えた老婆はため息交じりに言う。
「奥までは行けてないのかい……」
「深都の兵がしつこくついて来たからな。事を荒立てるのは不味いと判断した」
「撒けばいいじゃないか」
「そうもいかない。深都が飼いならした魔物が道を塞いでいたからな。それより向こうの返事はどうなっているんだ」
3人による報告だが、発言しているのはクジュラのみ。
ムロツミの2人はそもそも何を報告すればいいのか、それどころか元老院がどういった情報を求めているのか、全く知らされていない。だから何も言うことができない。
「全然駄目だね。探りまで入れてきたさ」
「そうか」
「それに……姫様の体調もよろしくない。これ以上悠長にはできないよ」
心配げな表情を浮かべた後、老婆の言葉に力がこもった。
その場にいた者には、失敗を許さないと言外に言われていると感じるものだった。
「深洋祭祀殿を見つけてきな」
聞いたことのない名称。しかしアガタとカナエは尋ねない。
答えるのはやはりクジュラだ。
「深都との対立になるが」
「……あの方なら姫様を優先してくださる。対立するとしたら、妙なことを吹きこむ女狐が深都にいるってことだね」
「その時は」
「当たり前のことを聞くんじゃないよ。害獣は駆除しな」
「了解した」
クジュラは部屋を出て行く。それに続いてムロツミも。
残された老婆は、3人の人物が描かれた一枚の絵画を見つめて、深くため息をついた。
元老院を出て、アーモロードの中を歩くクジュラとムロツミ。
しばらくは無言だったが、クジュラから2人に話し掛けた。
「飯を食ったら深都に、光輝ノ石窟にいく」
「はい」
「お、おう」
普段通りの簡素な指示。
だが今回はそれに別の言葉が付け加えられた。
「あの女との決着も近い。だが逸るなよ」
「……はい」
その言葉に返したのはカナエのみ。
アガタはというと、
「な、なあ。深洋祭祀殿ってのは何なんだ?」
話を変えたくて別のことを尋ねることにした。
「100年前に沈んだ施設だ。かつては世界樹を称えるための祭殿だった。今はどうなっているかわからないがな」
「姫様とそれを見つけることってなんか関係あるのか?」
「当然ある。そこには姫様の病に効く薬の材料があるからな」
「……それじゃあ、邪魔をする深都は姫様の命を見捨てる考えなんですね」
「深都には儀式に必要な材料の採取として訴えている。命が掛かっているとは知らないだろうな」
クジュラのこの言葉は2人には理解不能だった。
何故わざわざ儀式などと別の言葉で訴えるのか。人命に関わることだと伝えれば対応が変わるのではないかと。
「不思議そうだな。だが理由が、深都に言えない理由がある」
その理由を言わないということは、教える気がないということ。
クジュラと行動を共にすることが多くなった2人はそのことを理解した。
「飯は、そこでいいか」
クジュラに選ばれた昼食場所は、羽ばたく蝶亭だった。
「イラッシャイマシー! オー、ショーグンじゃないカ! 赤いナ、ヨク参ったナ! サア席にツケ!」
羽ばたく蝶亭は普段なら客入りも多い。だがこの頃は空席が目立ちつつある店になっていた。
それでも店の主人はいつものように、どこか奇妙な言葉で客を歓迎する。
「高いモノ頼むカ!? 昼からお酒でもイイゾ!」
「飯でいい。お前たちはどうする」
「あ、アタシもご飯で」
「オレも。そもそもオレたち酒飲めねえよ」
「メニューにあるモノを言ってホシイケドナ! しかしママサンの見せ所とミタ! メシとゴハンとゴハン、タシカニ承ッタ!」
どんな料理が出てくるのだろう。ムロツミの2人は内心落ち着かない。
店主が厨房に調理へ向かおうとした時、またドアベルが音を立てた。新たな来客だ。
「イラッシャイマシー! オヒゲのダンナじゃないカ! ヨクモ参ってクレタ!」
「ここにクジュラ将軍はいるか!?」
「オー? ココハ迷子保護所ジャアリマセン! 酒場ダ!」
来客はインバーの港の港長だ。
アガタとカナエはあまり港に行くことはないが、アーマンの宿の少年といるところを何度か見たことがあったので覚えている。落ち着いた雰囲気の男性だったと。
だがこの日の港長はいつもの雰囲気は消え失せ、焦燥感で余裕が一切ない姿だった。
「そこにいたか、クジュラ将軍!」
「なんだ、港長。俺たちはこれから飯だが」
掴みかかりそうな勢いで港長はクジュラの席へと近づき声を荒げる。
「何故シバから兵を引き上げた! 今の海の状況を君もわかっているはずだろう!?」
「元老院の、ひいては婆さんの指示だ」
「兵への指揮権は君の方にある! 君が拒否すれば引き上げはなかったはずだ!」
「ああ、そうだな」
だからなんだとばかりにクジュラは返す。
その場は喧嘩に発展しかねない雰囲気になっていた。
「な、にを馬鹿なことを……!」
「港長、お前も知らされているはずだ。海を騒がせている存在、その奥に潜む元凶のことを。派兵を取りやめたのは元凶を叩く準備でもある。これはお前の望む海の平和に繋がるはずだが」
「……だが、そのおかげでアーモロードは孤立する! 各都市からの信用もなくなるぞ!」
「外都市の信用を優先できるほどの余裕はない」
「各都市だけではない、大勢の冒険者がアーモロードから出て行った! 内部からも信用が欠け始めているからだ!」
「港長、余計なものに囚われ過ぎだ。俺たちの優先すべきものは信用ではない。……ああ、お前は俺たちとは違ったか。だが真の海の平穏を望むなら元凶は叩くべきだろう?」
2人は睨み合う。いや、正確には港長のみが怒りの込めた目でクジュラを睨んでいる。睨まれているクジュラは気に留める様子はない。
「元老院の婆さんも俺も、昔から優先するのは姫様だけだ。姫様のためならどんな力も使う」
「その未来がアーモロードを孤立させることになるんだぞ!」
「今までだって孤立してきただろう。何も変わらん。姫様の悲願が叶うという点を除いてな。話は終わりだ。店の客でないのなら出て行け」
「貴様……!」
「店内での狼藉は許しマセン! コレ以上ママサンの店をヒモジクさせるナ!!」
一触即発な中、カタコトで店主の乱入。喧嘩両成敗とばかりに2人の頭部をオタマで叩いた。
「腹減るト怒りヤスクナル。ママサンも覚えがアリマス。ダカラと言って暴れてイイワケジャナイ! ワカッタカ!?」
「だがこの小僧は……!」
「駄菓子ナンテモノハナイ! ワガママ言うナラ宿屋の息子に言いツケルゾ! 息子は悲しむダロウナ! ヒゲのダンナが怖いッテ! ハッキリ言ってアナタの今の顔、スゴク怖いゾ!」
「……っ!」
ショーグンはイツモ怖いケドナ、と付け加えた。言われ慣れているのかクジュラは気にしていない。
「息子言ってたマシタ。ジーチャンと最近釣りをしてイナイト。店で暴れるクライナラ息子とアソンデヤレ! 甲斐性ナシ!」
「い、痛い痛い。わ、わかった。わかったから叩かないでくれないか……」
少しだけ、港長に普段の優し気な雰囲気が戻った。
だがそれもすぐに霧散する。
「……私は納得していないからな、クジュラ将ぐ──」
「休憩中に仕事の話をサレルと嫌でショウ!? まだわかりマセンカ!?」
「痛い、痛い。す、すまない。出て行く!」
「息子に会いにいきナサイ!」
「そうさせてもらおう!」
また怖い雰囲気になったと思ったが、またまた霧散し、今度こそ店を出て行った。
嵐が去った後のような心境でアガタは安堵する。
もしも喧嘩に発展していればどうなっていたか予想がつかなかったからだ。港長の発する雰囲気からただの老人ではないとも思えたし、それに対してクジュラがどう動くかもわからない。最悪刃傷沙汰に発展しかねなかった。
「……えっと、大変でしたね」
場は収まったが何を言えばいいかわからず、カナエもとりあえずとして労りの言葉を掛ける。ぎこちないものではあったが。
「ああいった揉め事は慣れている。港長からは初めてだったがな」
なんでもないようにクジュラは言う。だが少し思うところがあったのか、奇妙な話を彼はした。
「あの男は海の平穏を声高に叫んでいるが、本当の望みは仲間との再会だ。だと言うのに、自分の望みを見失いかけている。本当に求めている物は、見失いがちなのだろうな」
「え?」
「……古い時代の兄妹の話だ。妹があるものを欲しがり、兄はそれを見つけると約束した。しかし兄はほどなくして姿を消した。妹はそのことを嘆き悲しんだ」
クジュラが任務と関係のないことを長々と喋るなど、今までになかったことだ。
何故語り出したのかわからず2人は黙って聞くことにした。
「だが、もしかしたら兄は自分が求めたものを探すためにどこかへ行ったのではないか……。妹はそう考えた。そして妹はそれを探すことにした。そうすれば、いずれ兄と繋がると信じて。だが、求めたものが見つかることはなかった」
そこまで語ってクジュラは目を閉じる。どこかに思いを馳せるように。
「本当に欲しがっていたものを見失わなければ、妹の未来は変わっていたのだろうな」
「……」
「お前たちは見失わなければいいな」
「あ、おう……」
「ゴハンとゴハン、メシをお待ちの客人! 待たせたナ!」
「余計な話をしてしまったな。忘れろ」
もしかするとクジュラは相当疲れているのかもしれない。
そんなことを思うアガタだった。
ちなみに出てきた料理は3人ともシーフードカレーだった。
一方海都では、みたいなお話。
サブタイ通り、幕間みたいな。
そしてゲーム中でも重要なクジュラの昔話です。
ゲーム中ではある方からの伝言として語ってましたが、ある方がプレイヤーギルドに話す理由ってなくね?と思ってます。あれはクジュラの信用の現れかなーって思ってます。重要アイテムもくれますしね。
このお話では今回のは信用とかではなく、単にポロッと溢れた話。なので重要アイテムを渡してはくれません。
しかしこれ、ムロツミ空気では……