とんでもなく寝過ごした   作:横電池

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7.アーマンの宿の先生

 

 

 

 

 

 

 クロスジャンケ海賊団はアーモロード海兵隊の船と共にアユタヤへ向けて出航した。

 

 僕は僕で、海の底に沈んだ深都の探索に向けて動きだそうと思う。

 まあ当然、素潜りなんかで海底なんていけるわけないし、港長が言うには冒険者となって迷宮に赴けとか。そのためにはまず冒険者ギルドと呼ばれる場所で冒険者登録を行えとのことで。

 

「……ここ、であってるのかな」

 

 看板を見てもさっぱりわからない。言語は問題ないのに文字は異なっている。通貨も正直わからないけど、まあこっちはすぐに覚え直せそうだ。

 

 それより今は冒険者ギルドだ。

 港長に書いてもらった地図に従ってきたけども……ここで登録を行うの? もっと役所的な、綺麗な場所をイメージしてたんだけど。

 

 眼前に広がるのは、円状に広がる石壁に囲まれた中庭のような場所。中にはロバが何頭もいる宿舎をそばに置いて、中央には南国を思わせる植物が並び立っている。天井はなく、青空が広がり開放的だ。とても登録名簿の管理などしているような場所ではない。どちらかといえば休憩所とか、そういう感じだ。

 

「うん、ここは休憩所っぽい」

「全然違うな」

「おわぁ!?」

 

 一人納得しながら呟いた言葉に返答が来て驚いた。誰もいないと思っていたのに。

 

「人の顔見て悲鳴をあげなくてもいいじゃねぇか」

「す、すいません!」

「何しに来たんだ? さっきも言ったが休憩所なら別だ」

 

 その男性は褐色肌に全体的にゆったりとした民族衣装……砂漠地方の服装に腕には金のバングルをいくつもつけている。体のラインがわかりづらい服装だけども筋肉質なことは、露出している腕からもよくわかった。

 

「えと、冒険者ギルドというところを探していて。登録をするために」

「あ? お前がか? ……誰かのお使いか?」

「お使いとかじゃないです」

 

 じろじろと見られる。

 上から下までじっくりと、少しだけ足を見る時間が長かった。

 

「…………希望する奴を止める権限は俺にはないが、忠告だけはしておく。冒険者の挑む迷宮は、熟練の戦士ですら簡単に命を落とす場所だ。観光気分なら悪いことは言わん。買い物でもして帰るんだな」

 

 命の危険。それについてはわかっているつもりだ。

 挑むべきじゃないと頭の中の冷静な部分が主張するけど、もう一方で海底に行くべきだと主張する部分もある。海底には大事な何かがあると。

 

「大丈夫です。行かなくちゃいけないんです」

「そうか。それじゃ、お前は今日から新米の冒険者だ。これに名前を書きな」

「……字が書けない場合はどうすれば」

 

 すんなり進むなと思ったけど字は無理だ。

 僕の言葉に男性は面倒臭そうな顔をした。

 

「……面倒くせぇな。代わりに書いてやるから名前を言え」

 

 表情だけでなく口でも面倒臭いと主張してきた。

 

「ミゼルです」

「ミゼル、か。俺のことはギルド長とでも呼べ。この街で冒険者を管理、管轄するのが俺の仕事だからな。で、お前はどうする?」

「はい?」

「あー……何も知らないのか?」

 

 言葉が足りなさすぎて何を聞きたいのかさっぱりわからない。

 こんなんでギルド長をやっていけるのだろうか。

 

「冒険者って言っても一人で迷宮に挑めば死体になるだけだ。だから仲間を募ってギルドの結成することを推奨しているんだが、お前自身がギルドを結成して挑むか、それとも他のギルドに加入して挑むのか。その選択をどうするかってことだ」

 

 あ、個人で挑むものじゃないのか。それもそうか。競争とかじゃなくて深都の発見を元老院が求めているんだから、足の引っ張り合いは推奨してないよね。

 

 にしても、結成するか加入するか、か。

 

「加入がいいです」

 

 加入が断然いい。

 

 結成だとそもそも仲間探しから始めなくちゃいけない。さらには迷宮の情報はゼロだ。

 それに比べて既存のギルドへの加入なら、仲間探しの必要はない。それにある程度の進捗がある状態だろう。

 

「そうか。んじゃ今からいくつか質問をするから簡単に答えてくれ」

「はい」

「大胆、慎重。お前が選ぶならどっちだ?」

「はい?」

「いいから答えろ」

 

 なんだその質問。

 性格診断か何かですか。

 

「え、えと、慎重で」

「そうか。それじゃ次……」

 

 

 その後の質問は一つだけ戦闘スタイルについて尋ねられたけども、他のはすべて心理テストか性格診断と思わせるような質問ばかりだった。

 

 

「……よし、これで終わりだ」

「何だったんです今の質問……」

「お前のスタイルに合ったギルドを探すための質問だ。これで確実に相性のいいギルドなんて見つかるわけじゃねぇが、目安程度にはなる。もちろん合わないことがあるだろうし、脱退も可能だからあまり心配するな。あと当然、入りたいギルドの希望がありゃ聞いてみるが、相手だって選ぶ権利はあるからな。あまり期待はするなよ」

 

 プロフ作り的な感じ? 命の危険ある場所に赴く前のプロフにしては漠然とし過ぎだと思うけど。

 

「最悪どこのギルドもお断りってこともあるが、無所属の間は迷宮に挑むことは禁止だ。路銀の心配はあるだろうが大人しく街で待ってな。無所属で挑むのは死ぬだけじゃ済まないぜ? ……俺が元老院に小言を言われるんだからな」

「はぁ……」

「もちろん加入を諦めて自分で結成するのもありだが……仲間がいなければ死ぬ可能性を高めるだけだからな。また明日にでもここに来な。早ければその時に決まってるかもしれない。ま、決まるまで安静にしてな。足の怪我のためにもよ」

 

 ギルド長にそう言われ、僕は冒険者ギルドを後にした。

 

 宿代がどれだけのものかわからないけど、お金が残っているうちに決まればいいな。

 質問内容的に、戦闘スタイルより性格や傾向を気にしていたけどどうなるだろう。結構慎重な回答ばかりしてしまったけど、まあいいか。深都を探すのは大事だけど、途中で命を落とすのは駄目だし。

 

 とりあえず登録は済んだことだし、次は寝泊まりの場所だ。つまりは宿だ。

 

 港長が言うにはアーマンの宿がお勧めらしい。理由は

 

『あそこの少年はこんな老人と一緒に釣りを楽しんでくれる良い子だからね』

 

 とのこと。宿についての評価は……?

 まぁわざわざ悪い場所を勧めるような人には見えないし大丈夫だろうけど。

 

 とにかく、港長がくれた地図を頼りに次の目的地は『アーマンの宿』だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アーマンの宿は割とすぐに見つかった。

 看板がヤドカリのマークとあらかじめて聞いていたのもあるからだ。他にそれっぽい看板はなかったし、と中に入れば従業員らしき……少女? いや、少年? いや少女かな。まあその人が机を拭いていた。

 

「あ、いらっしゃいませ。ここはアーマンの宿です。……ひょっとしてアーモロードは初めてですか?」

「あ、はい」

 

 声からも少年か少女か判断がつかない。成長期早く来て。

 

「やっぱり! あ、すみません! ボクってアーモロードを出たことがなくて、外の人が来ると嬉しくなっちゃうんです。あ、でもアーモロードが嫌いとかじゃないですよ? 透き通る空が自慢のとってもいいところなんですから」

「な、なるほど」

「あ、すみません。ごほん、本日はどのようなご用件でしょうか」

「えと……」

 

 港長に、アーマンの宿では冒険者登録を行ったことを伝えるように言われていた。

 何でも冒険者には宿施設は割引料金で提供されているのだとか。

 

「冒険者登録が済んだから、宿を取りに来たんですけど」

「冒険者の方なんですね。お名前をお願いします」

「ミゼル、です。字の読み書きは駄目なんで、代筆をお願いしたいんですが」

「はい」

 

 明らかに年下の子に代筆を頼むのはちょっと辛い。

 

「それにしても、アーモロード出身じゃないってすぐにわかるんですね」

「あはは。ミゼルさんはなんというか、肌の色がアーモロードの人と全然違うので」

「あー」

 

 ギルド長といい、この子といい、日に焼けた肌とは確かに違うだろう。こちとら研究所に篭り切りだったんだから。

 

「えっと、冒険者の方には元老院から宿代の支援が出ているんですけど、経験日数によって料金が変わってくるんです。ミゼルさんはまだ成りたてですよね?」

「あ、はい」

「一週間ごとに元老院の支援額が減少していくのでその分宿代の負担が大きくなっていきます。それだけご理解お願いします」

「ちなみに今のお値段は……?」

「初日ですから5エンですね」

「5円……?」

 

 僕の通貨感覚が狂っているのだろうか。安すぎない? ていうか円って、ジャパンの通貨……

 

「こ、これで足りるかな」

 

 適当に巾着袋からお金を一つ出す。これが通貨でありますようにと願いながら。

 

「はい、大丈夫ですよ!」

「あ、ありがとう」

 

 字が読めないだけじゃなく、通貨がわかっていないというのは恥ずかしい。今のやり取りでもわかっていないことはバレてる気がするけども特に気にした様子はない。ひょっとして珍しくないんだろうか。

 

「……字の読み書きができないことや通貨価値がわかってないのって、ここでは珍しくないんですか?」

 

 もう正直に聞いちゃおう。今恥をかけば後にかかずにすむ。

 

「そうですねぇ。アーモロードはいろんな人が来る街ですから、そういった人もそれなりに見ますよ」

「あ、やっぱりそうなんですね」

「ミゼルさんは訛りもそんなにないので助かります。言い方が悪いですけど、中には動物の言葉で話す方もいましたから……」

「それはまた……」

 

 比較対象特殊すぎない?

 

 あははーと笑う宿の子は特に作業をしていない。

 

「もしも余裕があるなら少しだけお金について教えてほしいんですけど」

「もちろんいいですよ!」

 

 悩むことなく即答である。すごい助かるけど本当にいいのだろうか。

 本当に大丈夫なのか聞いてみると、

 

「ボクはおねえちゃんみたいに冒険者さんの手助けはあまりできないから、何かできることがあればといつも思ってたんです。だからこうやって頼られるのはすごくうれしくて」

 

 ……。

 

 …………良い子すぎる。

 

 良い子で健気すぎる。人間が全て滅びなくて本当に良かった。うん。

 

「それじゃあ、その言葉に甘えさせてもらいます」

「はい! あとそんなに固くなくて大丈夫ですよ。ボクの方が年下ですし」

「でも教えてもらう身なので、先生は敬わないと……」

「先生……て、テレますね」

「先生!」

「え、えと……せ、生徒のミゼルさん!」

 

 案外ノリがいい。ちょっと楽しい。

 

 互いに顔を見合わせてクスクス笑い合う。心の清涼剤すぎるこの先生。

 

 

 

 字については覚えるのに時間が足りなさすぎるけども、お金の通貨に関してはすぐに理解できた。特に変な数の数え方とかもあるわけではない。

 さすがにいつまでも付き合わせるのは悪いし、それに足を安静にするためにもと部屋に案内してもらう。

 

「ここがミゼルさんのお部屋になります。朝の7時か夜の7時にシーツ交換をするんですけど、どちらの時間がいいでしょうか?」

「んー。朝で大丈夫……まあ寝てるかもだけど、もしよければそのとき起こしてほしいので……」

「大丈夫ですよ! それじゃあ朝の7時に伺いますね」

「先生やさしい」

「えへへー」

 

 なごむ。

 

 先生が持ち場に戻ったのを見送ってから部屋に荷物を置く。といっても銃と剣、財布しか持っていなかったけど。

 

 明日の予定はとりあえず、冒険者ギルドに行くことかな。

 あと先生が『羽ばたく蝶亭』って店に行ったほうがいいと言ってたし、そこにも行ってみよう。なんでも冒険者のたまり場みたいなもので情報も集まりやすいし、なんならそこで仲間探しもありと言ってたし。ほかにも何かいろいろ教えてくれたけど、とりあえず行けばわかるはず。

 

 深都探索のために船を降りたけど、なかなか探索に赴けないものだなあ。

 

 まあ、足が完治するまでは危険だしいいか。

 とりあえず良いギルドへ加入できたらいいんだけど……冒険心を抑えて慎重に探索をしていくような、石橋をたたいて渡るタイプのギルド。

 

「っても冒険者、っていうぐらいだしある程度危険はつきものかな……」

 

 ギルド長は早くても明日といってたし、これはじっくり待つとしよう。とりあえずは動き出すまでにやれる準備だ。うん。

 今はまず寝よう。明日ちゃんと起きないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

羽ばたく蝶亭まで入れようかと思いましたがここでいったん区切り。
まだ冒険には出れません。
世界樹の迷宮の二次創作なのに……
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