冒険者ギルドの中の一スペースにて。
「ペイルホースのリーダー、シュラフだ。我々のギルドは堅実な冒険を第一信条としている。君も堅実な冒険を求めているらしいな。それならばペイルホースの方針にすぐに馴染めるはずだ」
僕がこれから所属するギルド、ペイルホース。
現在ペイルホースのメンバーに顔合わせということで囲まれている。
ギルド長の反応からどんなやばそうなギルドかと思えば今のところ結構普通だ。
「ミゼルです。これからよろしくお願いします」
「ああ、よろしく頼む。他のメンバーも紹介しよう。まずうちの稼ぎ頭、ノーフォークだ。その収穫技術は長年の経験によって培われたもの。目利きも得意で迷宮内の採集において横に並ぶものがいないほどだ」
採集担当って感じかな。
「それからブーツ。安全な探索術理論を組み立てたギルドのエースだ。冷静な観察眼と豊富な知識で我々の探索範囲を広げてくれる。ブーツがいなければどれほど危険があることか……」
探索担当かな。
それからも数人ほど紹介が続いたけど、なかなか戦闘担当的な人が出てこない。なんだ焚火担当って。道具手入れ担当ってなんだ。そして各自でさらに手入れするってなんだ。
「あとは君と同じく新入りのシャーロット。これでメンバーは全員だ」
同じ新入りと言われた女性はなんだか不機嫌そうに頬杖をついていた。絶対この人このギルドに馴染めていない。普段を知らないけどそう思わずにはいられない。それにしてもこの人、どこかで見た顔だち……誰かに似ている? 最近似たような顔を見たような……駄目だ、思いだせない。他人の空似とかかもしれないし、気にするだけ無駄かな。
というか、紹介されたメンバーのほとんどが僕の探検家とか冒険者像からかけ離れていたんですが。いや、魔物と戦うのは避けるのが普通なのか。遭遇を避けるから戦闘員はいらないのか。いやでも……なんだか釈然としない。
「さっそくだが明日から樹海の探索に参加してもらう。奥へは行かずに、新メンバーに慣れてもらうために1階までだ」
リーダーのシュラフさんがそう言うと、同じ新入りさんが思いっきりため息をついた。それだけにとどまらず異を唱えた。
「また1階で止まる日々に戻る気?」
もう言葉に棘がありまくりだ。
彼女が不機嫌マックスな原因の一つは確実に僕に違いない。リーダーは僕に慣れてもらうために奥に行かないと宣言したんだし……かといってそれを撤回してほしくはなかったり。まずは慣れることは大事だと思うから。冒険初心者は慎重すぎるぐらいがいいのだ。たぶん。
「当然だ。新人のためだけでなく我々のためでもあるんだ。連携が取れない状態では普段の道も危険なものへと変わることがある。お前の時もそうしたではないか、シャーロット」
リーダーは意見を曲げる気はないようだ。もしも曲げちゃうようなら全力で説得を考えてたからありがたい。ていうかリーダーの言葉にごねる要素なくない?
ところが彼女はまだごねるつもりのようだ。
「そう言って1ヶ月も1階に行っては帰ってを繰り返してたじゃない……毎日毎日同じ場所、同じ道のり、同じ時間同じ行動! 変わり映えのない繰り返しばかり! ピクニックでももっと変化があるわ!」
髪をくしゃくしゃ掻きむしりながらの猛抗議。
ていうか今の話が本当なら一ヶ月ずっと進展なしだった?
「樹海は危険な場所なんだ。慎重に慎重を重ねてもまだ足りない」
「度が過ぎてんのよ! 道にある小石1個1個まで調べる勢いじゃない!」
「拳サイズの小石は調べないと何が潜んでいるかわからないんだ。調べるのは当然だろう」
「どこが!? え、まさか調べるの? 本気で!?」
「新人が慣れてきたらそのつもりだ」
本気で言っているとは思えない内容だけど……滅茶苦茶真剣な顔だ。
シャーロットさんの性格に問題があると勘違いしてたのがちょっと申し訳ない。シュラフさんが異常だこれ。
あ、でも小石を調べる目的がお金のためとか。樹海で得る物は冒険者にとって生活に左右するものみたいだし。深都探しに力を入れてほしいけど、お金がなくなって生活できないとなっちゃ詰みだしね。
「だいたい小石サイズの魔物にどんな危険があるっていうのよ!」
「当たり所によっては死ぬ危険がある!」
「その調子じゃ外を歩けなくなるんじゃない!?」
話の流れからしてお金のために小石を調べるわけじゃなさそう。
うん、これあれだ。
初日だけどギルド変えたい。
い、いやまだあれだ。もしかしたら冗談で言ってる可能性がある。滅茶苦茶真顔だけど。こう、顔に出ないタイプなだけかもしれない。僕とシャーロットさんはどちらも新人だから、シュラフさんの冗談に気づいていないだけで……そしてシュラフさんもどこまで悪ノリを続ければいいかわからず暴走中とか……
「す、すみません。僕としても、ずっと進展ないのは遠慮したかったり……」
本気か冗談か判断つかないけど、とりあえず自分の意見を主張。
「進展がないなんてことはない」
「あの一ヶ月の無駄期間が?」
「新たな仲間を加入したパーティでも1階を安定して探索できるとわかっただろう。大きな進展だ」
「その調子じゃ深都を見つけれる気がしないんですが……」
言ってて思ったけど、ひょっとしてこのギルドは深都発見に力を注いでいない?
そう考えれば合点がいく要素がちらほら。樹海で安定して収入を得られるのなら、無理して探索範囲を広げる必要もない。探索範囲を狭く、そして安全な場所に絞れば命を落とす危険性も少ない。それによって経験日数だけは延びていき、ベテランギルドとなる。
なにもペイルホースだけじゃないだろう。
そもそも海底に沈んだ都の存在なんて、本気で探す人間がどれだけいるのか。元老院が深都はあると言い、発見すれば報酬を出すと言っても誰もが同じように深都の存在を信じれるわけじゃない。
ううーん、ひょっとしてギルド加入の方向はあまり良くないかもしれない。
かといって自分で立ちあげるのもなあ。まず同じように深都を探そうとする人がいるかどうか。
「……深都の発見への一番の近道。それは安全を確保しての探索だ」
「どうだか。このままじゃ一生かかっても無理な気しかしない。そもそも深都を探す気なんてないんじゃないの?」
シャーロットさんの悪態。
彼女は深都を探そうとしている側だろうか。それか変化の少ないペイルホースが嫌で言っているだけか。
シュラフさんはその言葉を受け思案に耽った後、辺りを見渡してからシャーロットさんと僕を見つめて言った。
「なんと言われようとギルド方針を変える気はない。我々は我々のやり方で……」
シュラフさんは途中で話すのを止め、再び辺りを見渡した。まるで誰かに聞かれたら困るとでも言うかのように。
「深都を本気で探している。それとこれは忠告だが、深都発見への熱意をあまり口に出さない方がいい。熱意を表に出すほど、早死にする傾向にある」
深都への熱意を口に出さない方がいい。
嘘をついている負い目から出た雰囲気には感じられない。本気で、老婆心からの忠告で言われている。
まあ、小石一つ一つ調べるなんて本気で言ってそうな人だしどこまで信じていいかわからないけど。
「今日のところは解散しよう。明日は朝の7時に樹海へ入る。では解散!」
お疲れ様ですーと口々に言ってメンバーが散っていく。
とにかく形どうあれ明日樹海に出発だ。シュラフさんの真意がどうあれ、樹海への第一歩。それが安全なものになっているのは良いことなんだ。
明日の準備をこれからしないとなあと思いながら、僕も部屋を後にしようとしたら後ろから肩を捕まれた。
「おわっ」
引き留めた人物は、シャーロットさん。
今のところ怒りっぽい印象があってあまり絡みたくないというのが正直な感想。
「ミゼル、ったっけ? ちょっと付き合って」
「……すみません、お金は持ってないんです」
「? 何言ってんの?」
きょとんとされた。
これはひょっとしてカツアゲではなさそう……?
「いいから付き合って。あの馬鹿連中に毒される前にあんたの話を聞いておきたいし、気になることもあるから」
「馬鹿連中って」
「聞いてたでしょ。道端の小石すら危険視する集団よ。言っとくけどあれ、本気だからね。あいつら本当にまともじゃないから」
ボロカスに言ってるよこの人。
「お金がないってんなら一食ぐらい奢ってあげるから、ほら。ほらほら」
ぐいぐい引っ張られてしまう。
無理にふりほどくのもなと思いつつ、引っ張られる力からしてふりほどける気がしない。この人……結構力強い。
連れてこられたのは、
「お、ミゼルじゃねぇか。二日目にして女連れとか……昨日までのフレッシュなミゼル君はどこ行っちゃったの?」
羽ばたく蝶亭だ。そして今日も昼間からトーマさんが水を飲んでいた。この人誰かに奢られるまでは水で粘る気か。この人は無視しとこう。わけのわからないこと言ってるし。
「イラッシャイマシ! 今日モ来てくれテ嬉しイデス! 邪魔にナラナイ程度にくつろいでユケ! アナタも久しブリダナ! ヨクゾ参らレタ!」
「ええ、久しぶり。注文だけど、紅茶を二つ……いえ、三つね。私たちと、そこの水で粘ってるやつに」
「お? おお? なんだなんだ? 俺ひょっとしてナンパされる? 逆ナン? シャーロットって肉食系なの?」
トーマさんが何か言っているが、シャーロットさんも無視することにしたのか何も言わずに椅子に座った。
ちなみに僕としては紅茶よりコーヒーのほうがよかった。別にいいけど。
「聞きたいことがあるの」
「俺紅茶よりオレンジジュースのほうがいいんだけど」
「紅茶派になりなさい」
「横暴じゃね?」
僕はコーヒーのほうがいい。
「深都の発見に力を入れているギルドはどこ? 情報屋気取りなら教えてくれない?」
「おいおい、ずいぶんと変わった質問が来たな」
出された紅茶をちびちび飲む。
時代が変わっても、やっぱり紅茶の独特な香りが苦手だ。
「正直わからん。深都なんて知ったこっちゃねぇ、なんて口では言いながらも内心じゃ全力で探してたりするかもしれねぇからな。だからさーっぱりだ。あとな……」
そこで言葉を区切り、トーマさんは店内の顔ぶれを見渡した。
なんだろう、これ、デジャヴだ。
「……深都探しを本気でやりたいですなんて姿勢、あんまり見せない方がいいぜ」
「……シュラフさんも同じことを言ってた」
セリフもだいたい似たようなものだ。
デジャヴというより、これはもしかしたら暗黙の了解なのかもしれない。
「シュラフ?」
「あ、ペイルホースのリーダーの───」
「ペイルホースゥ? ペイルホースに入ったのかお前! まじかー、すげぇとこ入ったなあ。ペイルホースといやあ有名ギルドだぜ? ある意味エリート街道じゃねぇか。ある意味な、ある意味」
明らかに変なギルドに入った人扱いだこれ。ある意味とか何度も強調しないで。
「話を脱線させようとしないで。深都探しの熱意を見せてはいけない理由は何? 何か知ってるのよね」
「ゲン担ぎみたいなもんだな。深都探しに全力な奴らほど死んでんだ。ただの迷信だなんて言うなよ? 精度がかなり高いんだからな。他のやつも口を揃えて同じこと言うほどだ!」
ゲン担ぎ……にしてはなんだか違和感。ペイルホースのシュラフさんもトーマさんも、周囲を気にしていた。シュラフさんは異常な慎重を求めているから、ゲン担ぎでも慎重に扱うだろうけど……トーマさんは違う気がする。迷信とかではなく、何かを警戒していた。
「本当のことを言う気はないわけね」
「本当のことしか言わねぇ主義なんだよ。曖昧なこと言っちゃ信用してもらえなくなって誰からも奢ってもらえなくなるしな」
「深都を探すギルドはわからない。熱意を見せてはいけない理由も教えてくれない。聞くことがなくなったわ」
「今更紅茶返せって言われても無理だからな。飲みかけでいいならあげるけど」
「いらない」
しっしっと手で払う動きをして差しだされた紅茶を突っ返している。まあ飲みかけとかちょっとね。
本当にもうトーマさんに聞くことがなくなったのか、シャーロットさんは座り直して僕に向きを変えた。
「さて、次はあんたね」
「えと、何がでしょうか……」
僕は何も情報なんて持っていません。
「正直に答えなさい。深都を探す気はある? ポーズだけじゃなくて、本心から」
それはもちろんある。
深都には僕と同じ時代を生きていた人たちの手掛かりがある、かもしれない。その手掛かりの根拠は全然ないけど、この海の底に行かなくてはという強迫観念に近い感情もある。
こくりと頷く僕を見て、シャーロットさんは席を立った。
「それなら丁度いいわ」
「?」
「それじゃ、私はもう行くから。お勘定払っておくわね」
何だったの今の。っていうか丁度いいって何。しかも話終わり?
「ええと……」
「なんだったんだ?」
呼び止める言葉も浮かばず、店に置いてけぼりを食らった。とにかく解散ということでいいのだろうか。
隣で見ていたトーマさんも首をかしげるだけ。当然僕も。
「なんだったんでしょ?」
ていうか結局奢ってもらったのは紅茶一杯だけとは。一食奢るとはなんだったのか。
この日はそれから、樹海で素材を持ち帰れそうな肩に掛けれる大き目の鞄を雑貨屋で買ってから早く寝ることにした。
ペイルホース
大航海クエストの共闘NPC
共闘時は「シュラフ」「ブーツ」「ノーフォーク」の三人が参戦。
酒場のクエストで依頼人としても何度か登場する。『野営を制するものは樹海を制す』とのこと。
とりあえずお騒がせなネタギルド。本人たちは真剣な模様(戦闘は防御ばかり)
シャーロットさんはオリキャラです。もう一人のメインキャラです。
これ以上はオリキャラは出ない……はずです