鬼滅の弓兵   作:爆死太郎

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お気に入りが一話でめっちゃ来てて嬉しいです。
正直エミヤは難しいけど頑張ります。


第2話:帰還後の最初の仕事

 

 

 荒れ吹く砂嵐に、枯れた大地。そして、そこに刺さる無数の剣。

 再び俺は、この場所に還ってきた。どのくらいここから離れていたかは分からないけれど、ずいぶん久し振りな気がする。

 砂埃は酷く、緑の恵みなぞ、求められるわけもない。人もいるわけでもなく、あるのは無機質な剣ばかり。

 でも、俺には酷くこの環境が嬉しく思える。かつて自分が住んでいた家と同じくらいの愛着を覚えてならない。

 この風景は、数多の存在に裏切られ、ついには理想からすらも突き放されて辿り着いた景色ゆえ、以前は憎んでもいた。

 でもーー俺はここから遥か遠く離れた場所で、"答え"を得た。しかし、これは酷い話だ。その答えを得るためには、愚の極限を煮詰めたような写し鏡を見させられるのだから。誰だって、黒に塗りつぶしたい歴史があるわけで、そんな歴史を歩んでいる自分には会いたくない、または殺して消したいと願うのは至極当然の理だろう。

 でもーー、その鏡は怒りを覚えさせるけれど……綺麗だった。憎たらしいほどに透明だった。素直だった。その愚かさで地獄を見ると何度も言っているにも関わらず、奴は剣を落とすことなく立ち向かった。何度か俺を受け入れようとしたけれど、その度に愚かにも叫び、俺へと取ってかかる。

 腹立たしかった。殺意が止まらなかった。でも、同時に俺は認めざるを得なくなっていった。

 疲弊し、裏切られ続けた俺が置いてきてしまったものが、奴の中にあるのでは。そんな疑念を抱いたときには、もう遅かった。

 奴の信念は確固たるものになり、誰が相手でも壊れるものではなかった。英雄の中でも最強であり、虚構を嫌うあの男ですら打ち砕けなかったのがその証左だ。

 あの男の愚直さこそ、俺の失敗の原因であることは、今でも変わらない。でも、それはきっと間違いではなかった。

 俺の運命は、例え過去の世界で激闘を繰り広げ、道を見つけたところで変わらない。しかしーー理想のために費やせる時間はたくさんある。俺は、理想を求めてこれからも、生きていく。そう誓った。

 

 

 

 俺は、顔を上げた。そこには青い球体が在り、何かを語りかけてくる。帰ってきて早速仕事があるようだ。

 しかし、俺は悲観などしない。必ず俺は、理想を実現して見せる。正義の味方として、皆を救うのだ。

 青い球体は、俺の意思を汲み取り、荒廃した世界を青く塗りつぶしていく。そして、俺の脳裏にこれから転移される場所、時代、そして抹消すべき相手を伝えていく。

 俺は静かに首だけを縦に降る。するとーーいつのまにか世界は、荒廃した大地ではなく、夜のとばりが訪れた崖地へと切り替わっていた。崖下には町があり、ポツポツと明かりが点っている。

 

「……なるほど」

 

 青い球体は、こう語りかけてきた。今転移してきたのは、日本の大正時代であり、大量の鬼によって日本どころか世界が危機に陥る可能性があると。故に俺は、その元凶である、鬼舞辻無惨という人物を倒す必要がある。彼が恐らく、鬼を繁殖させているのだろう。

 鬼というのは、日本の伝承に伝わる怪物であり、架空の存在とばかり認識していたが、実際に出現してたとは露知らなかった。

 とにかく、俺はこの場所に転移されてきた。ということは、ここに討伐対象がいるはずだ。俺は目を凝らし、町中を観察する。怪しい動きがあれば、それを真っ先に射抜くのみ。何時かは分からないが、大正故、夜遅くまで起きているということは考えにくい。人が出歩くことは早々ないはずだ。

 だがーー程なくして、人は現れた。着物姿の華奢な女が、町の男に近寄ってきた。家屋が数件しかないこの町で水商売をしても、意味がない。俺は注意を引いてそれを見る。

 そのとき、女はいきなり男の背首を引っ掻き、何食わぬそぶりでそのまま前を歩いていた。まもなく男は胸を抑え始め、近くにある家屋へと突進した。

 

 ーー間違いない。あの女こそ、鬼舞辻無惨だ。

 

 俺は迷うことなく、弓を出現させて矢を放った。狙いは寸分の狂いもなく、あの女の脳天を貫く。

 これまでの世界にとっての異分子は、この一撃で死んでいた。当然だ。俺は英霊で奴等は人間。勝つどころか逃れることすらできない。それは当然の摂理であり、故に抑止力として機能するのだ。

 矢は周囲への被害も考えて通常のものにしている。それでも家屋ひとつは破壊できるほどの威力は誇っており、人間が食らえば、痛みを感じることもなく昇天するであろう。

 

 

 

 だがーー突如俺の体は激しく身震いさせられた。

 蛇にでも睨まれたような感覚。補食する側だったはずが、補食される側に変わったと告げるような震えだった。

 何故だ。私と奴では少なくとも2キロは離れている。並みの人間では視認することすら困難なはずだ。ましてや、放たれた矢をかわすなど、不可能だ。

 けれども、矢は空を裂き、そのまま地面へと刺さる。そこには誰もおらず、引っ掛かれた男が暴れ散らかしたモノが散らかっていくのみ。

 矢をかわしたことは事実と認めざるを得ない。ならば次にとるべき行動は、相手の迎撃だ。きっと奴は、俺の近くにいるに違いない。呼吸を整えて、相手の気配を探っていく。

 果たしてーー俺の後方から、風を切る音が鳴った!

 

「ーー防がれたか」

 

 振り向き様に投影した双剣で、奴の爪を防ぐ。しかし、剣と相対して砕けない爪とは、恐るべきものである。

 俺は状況をリセットすべく後ろに跳び、双剣を構え対峙する。着物の女ーーもとい鬼舞辻無惨は表情を変えずに無防備に歩み寄る。

 

「私の一撃を防ぐことに関しては非常に興味深い。だが生憎私は暇ではなくてね。お前の相手をしている余裕はないのだよ」

 

「貴様の都合など知るか。お前をここで排除する」

 

「私の言葉こそ絶対だ。お前に指図などはされない。ーー行け」

 

 奴は僅かに後ろを振り向くと、奴の背より異形が一匹現れ出た。背丈は奴とほぼ同じくらいだが、見ただけで人間とは比べ物にならない存在であることは感じさせられる。

 

「私は先に戻る」

 

「お任せくださいませ。この者は私が始末いたします」

 

 部下の熱意に満ちた言葉に、特に耳を傾けることなく奴はその場から消えた。

 

「ッ――待てっ!!」

 

 逃がすまいと地を蹴って追うも、奴の部下の鬼が豪腕を振るって、進路を阻む。狂ってしまったギリシャの英雄の攻撃の方がずっと速く、ずっと驚異だが、これで鬼舞辻無惨を捉えることは不可能になってしまった。

 俺は舌打ちをかましながらも、鬼舞辻無惨が召喚した鬼に双剣を投げつける。奴は無駄のない動きでそれをかわし、一気に間合いを詰めていく。

 刀の間合いに入った瞬間、奴は腕を引き、貫手を放つ。通常の刃物とは比べ物にならない鋭さを誇る爪で、俺の喉元へと吸い込ませていく。

 だが――その爪は俺を貫くことはなかった。氷のように冷たい血飛沫を飛ばしながら、突き出した腕がどさっと鈍い音を立てて地面に落ちる。

 共学に満ちた表情で、切断された腕を見る鬼。切断された事実に惑わされていて、これから迫り行く死に気づいていなかった。

 果たして――もう一本の剣が飛翔し、奴の首を軽々と宙へと放って見せた。激痛に歪む表情を浮かべ、恨みを込めた目で俺を睨む。だが、それも無意味だ。俺は手を伸ばし、帰って来る双剣を掴むべく手を伸ばした。

 しかし――宙に浮かぶ首は、突然笑みを浮かべ始めたのだ。

 

「――何」

 

 死ぬ間際で笑うことの意味を探る。戦いに、生涯に満足でもしたのか? いや、とてもそんな雰囲気ではない。

 ならば言えることはただ一つ。まだ、戦いは終わっていないということか。

 

 果たして、そう返答するように。

 切断された胴体が足を使って間合いを詰めて、鍛え上げられた筋肉をもって俺の腹に一撃を見舞った。

 

 内臓が圧迫されたような感覚を味わい、少しだけ気分が悪くなる。英霊故に痛くはないけれど、それよりも敵が生きていることに衝撃を覚えていた。

 俺は剣を構えなおし、呼吸を整えると奴を睨みつけた。

 

「……首を飛ばしたというのに、なぜだ?」

 

「そのような得物では鬼は殺せねえよ。それも知らずに俺に挑んでくるとは愚かだな」

 

 奴は高らかに笑うが、俺はなにも言い返せなかった。それほどに不利な状況に陥っているのは、自他ともに明らかだ。

 どうするべきか。奴の攻撃自体は単調でかわすことは可能ではある。しかし、現状俺の持つ武器に、奴を葬る武器はない。どう考えても俺の方が不利なのは明らかだ。ならば、今ここで勝機を作る他はない。

 だが、俺は雁作者。無から作り上げることは不可能だ。故に、俺の記憶から手繰り寄せ、形にしなければならない。

 ふと、鬼という言葉で何かが頭に降ってきた。遥か昔に置いてきた、現世の記憶のなかにそれはあった。俺が小さい頃無謀な夢を描いていたときに、会得した知識だ。

 

 

 

『ーーじねぇ、覚悟ーー』

 

『ふっふっふ! ーーちゃんは無敵なのだ!』

 

『……ふふ、ーーちゃんは鬼なのに勝っちゃうんだね』

 

 

 

「ッ!!」

 

 強烈な何かが、俺の頭を殴り付けた。とっくに死に絶えた脳のなかで、何かが暴れている感覚。故に俺はその場に踏みとどまることができず、膝をついてしまう。

 

「愚かなっ!!」

 

 奴はそれを隙と判断し、飛び掛かった。爪が振り下ろされ、剥き出しになった俺の首を掻く。

 その刹那、俺は記憶の海から何かを拾い上げた。ぼんやりと形作られた棒を、現世に甦らせるために。

 

 

 

 

「ーートレース」

 

「?」

 

 

 

 曖昧なイメージが逃げないように、息を吸う。水に落としてしまったものを手探りで見つけるように、思い描くべき姿を求め続ける。拾い集めたかけらを逃すまいと、魔力を集中させていく。そしてそれは俺の中で閉じ込められ、だんだんと型どられていく。腕に魔力が伝わり、骨子、及び中身が形成されていった。

 何もない男だからこそ、偽を頼る。偽で戦う。本物を越えていくのだ。

 

 

「ーーオン」

 

 スパークがはじけ、現界した剣が姿を見せる。大正の世にはあまり広まっていない英語で唱える魔術ゆえ、敵にとっては何をしているのかはわかるまい。だが、敵は特にそこに関しては疑問を抱かず、はっと嘲笑う。

 

「いったい何してんだ? そんな刀で何ができる」

 

「確かにこれは無銘だ。こんな剣、普通ならば出現させんよ。が、日本で最も有名な鬼殺しが使っていた剣とされている。となれば、貴様にも通用すると思ってな」

 

 伝承の多い日本の中でも、最もと言っていいほどに有名な話に登場する、鬼狩りの剣。それは無銘だけれども、鬼を殺したのは事実。故に、例え名前がなくとも奴に対しては絶対的な威力を誇るだろう。

 

「はっ! ははははは!! お前馬鹿だな! 俺たち鬼に通用する刀は、日輪刀って奴だけなんだよ!」

 

 俺は地を蹴った。風と同化するかの如く奴との間合いを詰めていく。

 

「なっ……消えた!?」

 

 ――消えたのではない。お前が見えないように動いているだけだ。目を逸らしたら、お前の負けは確定だ。

 

「ちっ……どこ行きやがったっ!?」

 

 ――首を逸らしたな。これで、終わりだ。

 無銘の剣は、鬼の首を捕らえ、刃を吸い込ませた。それはまるで絹の糸のように美しい線を描き、血飛沫もなく鬼は静かに生命を終えた。そして――その剣は、鬼と共に大気中に霞んで消えていった。

 

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 一つ分かったことがある。

 今回投影した桃太郎の剣は、すぐに消滅してしまう。実体がないので、形を保てなくなってしまうからだ。故に、確かにこの世に存在する日輪刀と云う得物を入手しなければ、今回の仕事は完遂できない。それを一度視認し、これからも複製できるようにする必要があるのだ。

 日輪刀の存在を知っているということは、鬼と戦っている存在がいて、その存在がそれを持っているということになる。ならば再び鬼を見つけ、そこで戦っている人を助ければよいのだ。

 尤も、今はそれどころではない。鬼舞辻無惨が先ほど裂いた男はいまだに暴走を続けている。まずはそれを止めなくてはならない。俺があの化物と戦っていたのはせいぜい5分程度であり、その間に死者が出なければ良いのだが。

 所々聞こえる悲鳴に急かされるように俺は崖から飛び降り、強力な気配を放つ場所まで全速力で疾った。

 その最中周りを見るが、誰も倒れてはいなかった。怪我を負ってしまった人はいるが、死者は出ていなかった。その事実に安堵し、俺は暴れている鬼の元へと辿り着く。

 そこには、軍服を着た男が一人いた。尻餅をつき、半身が欠けた刀を握り締めている。そして、絶望しきった顔で俺を弱々しく見つめる。

 あれはただの刀ではない。永すぎる月日で培ってきた経験故に解る。そう、丁度先程投影した架空の剣と似たような気を感じる。

 ならば、あれが日輪刀であろう。欠けてしまうほどには弱いが、そんなものは、問題外である。

 鬼もまた、突如現れた俺に気づく。そして無謀にも、俺に飛びかかってきた。

 俺が思い描くは、鬼を必滅する剣。心のなかで描きたいものを形にするのだ。

 

「I am the bone of my sword」

 

 魔力が膨張し、全身が震える。しかしそれを、強靭な精神力で抑え込む。生前の、自殺に近い鍛練でそれは修得済みだから慣れたものだ。

 敵は暴走状態であるため、俺の詠唱に関してまるで警戒をしない。故にすべて詠唱する前にその爪は俺の喉を抉り取ってしまうだろう。当然そうは問屋が卸さない。この程度の敵は、最後まで詠唱などしない。

 

「ーーSo as I pray,unlimited blade works」

 

 中途半端な詠唱にも関わらず、心は俺に応えてくれた。右手には、刃渡り70センチものの長い刀が握られている。見た目自体は普通だが、普通ではない気を感じさせてくれる。これで十分だ。

 俺は思いきり前へ踏み込み、襲い掛かってくる鬼の首へと刃を振った。

 鬼はかわすことも、防ぐことも間に合わず、あっけなく二つに分解されてしまった。

 

「な、なぜ……丸腰のはずでは……!?」

 

 首のみになってしまった鬼が、困惑しきった表情で問う。

 

「ーー丸腰などではない。この身に万は武器がある。敗因は、それを見抜けなかったお前の単純さだ」

 

 冷淡に言い捨て切ったときには、鬼の姿はこの世から消え去っていった。

 

 

 

 

 

 鬼が消えたことを確認した俺は刀を消滅させ、尻餅をついて呆然としている男に声をかけた。

 

「大丈夫か?」

 

 男は色々と整理がつかないようで、喋らずに首だけ縦を振った。まあ無理もあるまい。魔術など一部の人間しか知らない上に、遥か未来の人間が目の前にいるのだから。

 

「怪我をしているようだ。すぐに医者にいくといい。この程度なら、この時代の医療でも治る程度だろう。歩けるか?」

 

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 しまった。"この時代"といってしまったら必ず疑念を抱く。最悪こいつの存在が未来を変えることになってしまったら、別の抑止力で消されてしまうかもしれない。迂闊な発言をした己を叱る。

 だが、特に気に止めなかった様子なので、口止めはしなくてもよさそうだ。これ以上過去の人間に関わるのは危険だ。さっさと消えて、鬼舞辻無惨を探さなくては。

 俺は立ち上がって背を向け、どこか遠くへ去ろうと歩き出す。あの青年なら大丈夫だ。あの程度の怪我ならば一人で医者のもとへと行けるだろう。

 さて、次は何処にいこうか。

 そんなことを考えていたからーー

 

 

「あ、あの!! ーーありがとうございました! あなたは俺の、命の恩人です!」

 

 

 

 俺は、珍しく驚いた。

 

 

 

 いつ以来だろうか。感謝をされたのは。

 俺は世界の秩序を守る道具に過ぎず、どこの時代でもどこの場所でも、利用だけされてすぐに捨てられた。当然感謝など無く、むしろ憎しみや欲望ばかりを身に受けてきた。

 俺は感謝を求めて、正義の味方を張り続けたわけではない。そうなりたいという願いがあるから、形として俺に返ってこなくても構わない。

 でもーー感謝されたことに嬉しさを覚えたことを、否定はしない。それを象徴するように、朝日が雲の間から俺へと差し込んできた。

 ーー暖かい。

 こんな気持ちになったのは、子供の時以来かもしれない。喧しくもそばで見守り続けてくれた年上の女と、俺の憧れであり続けた、若くして老いた男だけで創られた世界で生きていた時のことを思い出す。

 やはり、この幻想は、この願いは間違いではなかった。俺は鬼舞辻無惨を倒す必要があり、達成したところで正義の味方になれるかどうかは分からない。

 でも、いつかきっとなれる。そう信じて、剣を振るうのだ。

 俺は、いつの間にか歩みを止めていた足を動かし、男の前から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

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