終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

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明けましておめでとうございました


15.ひかり

「それじゃあ第一回、巡ヶ丘高校キャンプ大会! はじめるよっ!」

「わー」「おー」

 由紀ちゃんの言葉に、疎らに鳴る拍手

 何の大会なのかは全くわからないが、彼女が言うからにはそうなのだろう

 早速彼女は花火セットを開封し、選び始めている

 

「どれからやろっかなー」

「いや、まずは景気良くこれだろ?」

 くるみちゃんが手に取ったのは、三十連装の打ち上げ花火

 見れば、同じようなタイプの花火がいくつか袋の中に入っていた

 

 

 夜空に咲く、いくつもの光の華

 放たれた打ち上げ花火は、校庭上空で煌めいていて

 彼女達も、賑やかな歓声をあげている

 

「いやー、存外バカにできない物ですねえ」

「すっごーい!」

 まばらに校庭に見える奴らも、その光と音に引き寄せられ明後日の方向を向いている

 これならば校舎側に引き寄せられる事もないだろう

 

「問題なさそうですよ、佐倉先生」

「よかった、安全にできる事に越したことはなかったから」

 光と音に引き寄せられる奴らを、校舎側に引き寄せずに花火をする方法

 その方法の発案者は佐倉先生だった

 作戦が成功して、佐倉先生も安心した表情を浮かべている

 

「それじゃ、今の内に他の花火でも遊びましょうか」

「はーい!」

 

 

 

 花火を手に、はしゃぐ彼女達

 手すりに背中を預けて座り、その様子を遠巻きから眺める

 一緒になってしばらく騒いでいたはいいものの、彼女達に交じってはしゃぐのにも少し疲れてきた

 

「白井君、もう遊ばなくていいの?」

 しばらく休んでいると、隣に座ってきたのは佐倉先生で

 先生も、休憩をとりに来たのだろうか

 

「いえ、少し疲れたものでして。楽しい分には楽しいんですけどね」

 流石に普段から陰に潜む者(ぼっち属性)だった身には負担が大きい

 楽しい事には楽しいのだが、それとこれとは話が別だ

 

 

「いやぁ、それにしても偶にはこういうのも良いですね。青春って感じで」

「はうっ!?」

 何気ない一言に突然胸を抑え、蹲る先生

 

「佐倉先生? どうしましたー?」

「大丈夫、大丈夫よ……私はまだ若い、まだ若いから……」

 蹲った先生はぶつぶつと、独り言を繰り返している

 ……何か地雷を踏んでしまったのだろうか?

 

「何を言ってるんですか、先生も十二分に若いじゃないですか」

 聞こえているかは定かではないが、一応フォローをしておく

 正直な所、この童顔の先生が御年幾つなのか興味はあったが、乙女に歳を訪ねるのは失礼(死体蹴りはN G)にあたるため、聞く事は躊躇われた

 独り言を呟き続ける佐倉先生をスルーしながら、手元にあった鼠花火に火を点け、由紀ちゃんの足元へと放る

 

 

「わわっ! もー、危ないなー!」

 足元をくるくると回る花火に、驚く彼女

 花火に混ざらずとも、こうして屋上の華を眺めているだけで十分に楽しいものだ

 ……若干不審者的考えに陥ったが、浮かれているという事でどうかご容赦いただきたい

 

「葵くんもこっち来ないのー?」

「もう少し休憩したらそっち行きますよー」

 彼女に手を振り、休憩を続ける

 佐倉先生が元に戻る気配は、まだない

 

 

 そっかー、と声を返してくれる由紀ちゃんから視線を外し、なんとなしにカズへと視線を向ける

 ……あの異性だらけの中で、よくもまあ気負わず振る舞えるものだ

 

 当のカズ(バカ)は、ごそごそと花火の袋を漁っていて

 袋から引き抜いたその手に持っていたのは、ロケット花火

 ──どこか、嫌な予感がする

 

 声をかけようかと一瞬迷ったものの、視線に気づいたバカがこちらにジェスチャー(静かにしてろ)をしてきた

 アイツの視線の先には、花火を持ってはしゃいでいるくるみちゃんの姿

 ……まぁ、最終的に割を食うのはアイツだし、いっか

 

 

 花火に火をつけるバカ。飛んでいくロケット花火

 完全に彼女の死角から飛んでいく形だ。とてもではないが避けられないだろう。合掌。

 

 ……と思われたが、彼女に当たるほんの数瞬前

 彼女がロケット花火の存在に気づいたようで、ぎょっとした様な表情を浮かべ体を捻る

 かくして、元々狙いが甘かったという事もあったのかロケット花火は彼女の脇を抜け、明後日の方向へと飛んでいく

 

 

「っぶねえなぁ! お返しだっ」

 彼女が仕返しとばかりに、ロケット花火をカズに向けて発射する

 勢いよく、カズのもとへと飛んで行く花火。奴はそれを見て余裕の笑みを浮かべている

 ……随分と自信があるらしい

「さあ来い! その程度余裕で避けて見せるわ!」

 

 

「カズくん、大丈夫ー?」

 数秒後、そこには股間を抑えて悶絶しているバカの姿があった

 正直この結末は予想できた。残念でもないし当然である

 

「そこのバカの自業自得なんで、放っておいていいですよー?」

 花火の袋を漁る。もう殆ど中身は残っていないが、恐らくアレは残っているはずだろう

 線香花火の束を手に取り、袋から出す

「ま、花火の〆と言ったらこれですよね。佐倉せんせー、そろそろ戻ってきてくださーい」

 

 

 円を描くように集まり、順々に手元の線香花火に火を点けていく

 

 パチパチと、音を立てて弾ける火花

 それはやがて小さくなり、小さな火球はその短い役割を終え、地へと落ちる

 楽しかった時間も、もう終わりだ

 

 

「さあ、お片付けしましょ?」

 りーさんの一声を切っ掛けに、全員が片づけを開始する

 花火のゴミは袋へと入れ、バケツの中の燃えカスもきちんと選別を行う

 守るべき環境もクソもない今、こんな行為に意味はないがやらないよりはマシだろう

 

「あーあ、もう終わりかぁー」

「いつか次がありますよ、次が」

  

 

 

「それじゃあ、僕達はこっち使いますので」

 テントの振り分けは自分とカズ(野郎二人組)由紀ちゃん達(女性陣四人組)と相成った

 四人では少々手狭かもしれないが、女性一人が野郎二人に混ざるよりは幾分かマシだろう

 

 彼女達と別れ、テントに敷かれた布団へと潜る

 先ほどまでの余韻もあってまだ微睡むには至らないが、野郎二人では他にする事もない

 

 

「……なぁ、今日はどうだった?」

 どれほどの時間が経ったかはわからないが、不意にカズの声が耳に入った

 アイツは俺に背を向けたまま、布団へと潜っていて

 隣のテントからは、彼女達の楽しそうな声が漏れている

 

「あ? まぁ普通に楽しかったな。ちっと疲れたけど」

 偽りならざる、本音だ

 確かにいつもよりは疲れたが、彼女達との時は楽しかった

 ──ともすれば、またやりたいと思ってしまう程度には 

 

「……そうか」

 布団を被り直す音

 アイツの質問の意図はよくわからなかったが、満足したようなのでそれでいいだろう

 

 

 同じく布団を被り直した所で、テントの入口がぼふぼふと音を立てて揺れる

 その向こうには、比較的小さな人影

 隣で寝ていたカズも、怪訝そうな顔つきで起き上がる

 

 ファスナーが開き、屋上の風景が見えた時、そこに居たのは予想通り由紀ちゃんで

 彼女は、嬉々とした表情でこう宣った

「ねえねえ! 恋バナしよっ!」

 

 

 

 彼女たちのテントへと招かれ、入り口を潜る

 ランタンの光に照らされたテント内を見れば、ウキウキとした表情の由紀ちゃんに、苦笑しているくるみちゃんとりーさん。蹲っている佐倉先生(似た様なのさっき見た)

「……とは言っても、僕達も大した話はできませんよ?」

 

 そもそも、我々(ぼっちと準ゲー廃)に彼女は何を期待しているのだろうか

 異性とのまともな交友関係なんてこの十八年の人生で一人しか該当する人物はおらず、その人物とも交友関係が途絶えて久しい

 年齢=恋人居ない歴の我々だ。そう話す様な事なんてない

 ──それこそ、そこら辺に居る"奴ら"を掻っ攫ってきて聞いた方がまだ望みがある程度には

 

 

「えー、そうなのー?」

「というか僕達に何を期待していたんですか、由紀ちゃんは……」

「恋バナっつってもなあ、俺達と交友関係があった奴なんて……"アイツ"くらいか」

 苦虫を噛み潰したような表情をしながら、カズは口を開く

 カズの表情が物語るように、自分もカズも"あの少女"に振り回された口だ。彼女に親愛の情こそあれど、恋愛の対象にはなり得ない

 

「えっ!? 誰々っ!?」「おっ、誰だそりゃ」「私も興味あるわね」

 それでも、三人とも(佐倉先生を除く)興味津々の様だ

 別に隠すような話でもなし。思い出話ついでに話しても構わないだろう

 

 

「そうだな……兎に角、傍迷惑な奴だった。周りを巻き込んで色々な厄介ごとを引き起こしたり、自分から厄介ごとに首を突っ込んだりする様な、そんな奴」 

「近所に猪が出没したと聞けばやれ捕まえに行こうだの、不審者が出たと聞けばこれまた見に行こうだの。とにかく色んな事に僕達を強引に引っ張って行く様な人でしたねえ」

 

 それでも何故か、憎めない

 皆に迷惑をかけて叱られながらも皆から愛され、常に集団の中心に居る。太陽の様な人

 当然クラスでも人気があり、クラス内どころかクラス外、上下問わず他学年にも多くの友人がいる様な人だった

 ……そんな彼女が、何故自分達に特別に関わってくるのかは、最後までわからないままだったが

 

「まぁ小学校の卒業式後にどこかに引っ越してしまったので、それ以降交友関係はないんですけどね」

「へー、そうなんだー」 

 納得した様に声を漏らす由紀ちゃんを横目に、古き友人に想いを馳せる

 

 

 今、彼女はどこで何をしているのだろうか

 確か北の方に引っ越す、と聞いた気がする。ならば、この事件の情報を早めにキャッチして生き残っている可能性もゼロではないだろう

 

 正直な所、彼女は今も生き残っていると思えてならない。それくらいに、彼女は"特別"だった

 それに彼女の事だ。生存者を集めて全国をまわる、なんて事をやっていてもおかしくはないだろう

 

 ならばいつの日か出会えるだろうか

 太陽の様に輝く、彼女に

 

 

「ま、そんな感じです。次は由紀ちゃん……は論外っぽいのでくるみちゃんかりーさん辺りにでも話を聞きましょうか?」

「にゃにおー!?」

 由紀ちゃんに脇腹を小突かれながら、次の人物へと話を振る

 彼女達ならば、自分達よりもよっぽど経験があるだろう。多分

 

 ──喧騒を伴い、夜は更けていく

 屋上の明かりが消えるには、まだ時間がかかりそうだ

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