終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

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17.そうぐう

Side:恵飛須沢胡桃

 

 太陽の光が顔を照らす

 前の座席を見れば由紀とめぐねえはまだ夢の中で、起きる様子は見られない

 ふと気が付けば、車の外から何か声が聞こえる

 

 僕を信頼してくれているのは非常に嬉しいです。ですが、こういった事は由紀ちゃんかくるみちゃん辺りに──

 

 葵の声だ。声の感じと内容からして、誰かを叱っているらしい

 由紀たちを起こさない様に扉を開け、車の外へと出る

 

 「確かに僕が言い出しっぺですから、少なく見積もって三,四割方の非があるのは認めます。ですが、それとこれとは話が別で──っと、おはようございます。くるみちゃん」

 

  

 そこに居たのは、葵とりーさんだった

 状況的に、葵が叱っていた相手はりーさんなのだろうか

 

「おはよ、何かあったのか?」

「やー……まぁ、色々ありましてね」

 葵は言葉を濁す。よくわからないが、何かあったことは確からしい

 

「すみませんが、他の三人を起こしてきてもらえますか? 食事をしたら出発しましょう」

「わかった。何があったのかわかんねーけど、程々にしといてやれよー?」

 とりあえず、めぐねえ達を起こしにいくかー

 

「ほら起きろ由紀ー、朝だぞー」

「んゅ……おはよ、くるみちゃん……」

 

 眠そうに目を擦りながら由紀が目を覚ます

 眠たげな眼で辺りを見回し、首をかしげている

 

 僕だってあまりくどくどと言いたくはないです。ですが明確にしておくべき一線と言うものが──

 

「……どしたの? あれ」

「さぁ?」

 

Side out

 

 

 食事を終えた俺たちは、野営地にしていたコンビニエンスストアを去った

 

「なるほどなー、それで見張り交代しに来なかったのか」

「信頼してくれてんのは嬉しいし、言い出しっぺが俺だから俺も悪いってのもわかんだけどさぁ……」

 隣でハンドルを握るカズが楽しそうに笑う。……他人事だと思いやがって

 昨夜の件で一睡もする事ができず、正直かなり眠い

 

「ま、帰りも俺が運転すっから、そん時にでも寝とけ」

「そん時になったら、帰って寝ても同じ気はするけどな……」

 

 ショッピングモールが遠くに見える

 目的地は、もうすぐだ

 

 

 

「とうちゃ~く!」

 車から飛び出した由紀ちゃんがくるりと一回転している

 周囲に奴らの影はない。一先ず駐車場付近は安全だろう

 

 

「とりあえず捜索するべきは地下一階と三,四階か」

 車から出ると、いつの間にかショッピングモールの見取り図らしきものを手にしていたカズが、ぽつりと呟く

 

「地下ってなると奴らが溜まってそうだな……食品売り場だったっけか?」

「おう、ここにも避難区画があるって話だったんだが、これには書いてねえんだよなー」

 それは当たり前だろう。むしろそんなものまでパンフレットに書いてあったら、ここの機密管理はどうなっているのかと疑わざるを得ない

 

 

 ……ちょっと待った。避難区画? ここに?

 あの避難マニュアルにはここの事は書いてなかった筈だ

 

 アイツの持っている見取り図らしきものを改めて見れば、それはパンフレットの類ではなく、手書きの類で

 

 そんなものを一体どこで──

 

 

「おーい、置いてっちまうぞー」

 思考の海に沈みかけた所を、くるみちゃんの声に引き戻される

 

「あっ、今行きまーす」

 どちらにせよ、これについて考えるのは後だ

 学校に帰ってからアイツに問いただしでもすればいい

 

 

 

 入口からモール内を窺えば、疎らとは言え奴らの影は多い

 二階や三階にも奴らの影は見えて、いちいち相手をしていてはキリがないだろう

 

「……どーします? 思ったよりも多いですね」

 半数が戦えるとは言え、六人という大人数である以上、ある程度計画性を持った行動が必要だ

 

 最初の目的地は地下にある食料品フロアだが、地下に繋がる階段はここから近いとは言い難い

 それに食料品店ともなると陳列棚の間のスペースも狭く、死角も多いだろう

 絶対に全員を守りきれるとも限らない

 

「そうね……地下に続く階段に近いのはどこ?」

「最寄りが音楽関係のテナントらしいです」

 佐倉先生の声にカズが持っている見取り図を見れば、最も階段に近いのは音楽関係らしき店

 

 

「地下ならアタシと葵とカズの三人で行って、二往復くらいしてくればいいんじゃないか?」

 ……確かに、それは一理ある

 

 中の安全さえ確認して、シャッターを閉めてしまえば一時的な安全地帯にはなる

 戦えるメンバーだけで往復してしまえば、ある程度安全ではあるだろう

 

「んー……じゃあそれで行きますか。安全に越したことはないですしね」

 皆が頷く。決まったのならば、行動に移すのは早い方がいい

 隊列を確認し、なるべく気付かれぬ様、走り出す

 

 

 

 地下一階、食料品フロア

 想定していた通り奴らの影は多く、生鮮食品のせいか、異臭も漂っている

 

 目標はまだ無事であろう缶詰コーナー

 奴らの群れの向こうにケミカルライトを投げ、進行方向以外へと誘導する

 

 

「……これは、役に立つな」

 棚からリュックへと缶詰を移しながら、独りごちる

 

 りーさんの発案で受け取って来たものだが、ブザーと違って遠くの奴らまで引き寄せる心配もない

 狭い空間ではこちらの方が役立ちそうだ

 

 彼女はこういった所でも機転が利く。頼もしい人だ

 自分やカズ(脳筋共)なんかではこんな事は思いつかなかっただろう

 

「こっちは終わりましたー、そっちも動けますか?」

 なるべく小声で呼びかけつつ、くるみちゃん達の方を向く

 既に準備を完了している様だった

 

「それじゃめぐねえ達の所に戻るか。棚の影とかには気をつけろよ?」

 彼女の言葉に頷き、食品フロアを後にする

 

 

「ただいま戻りましたー」

 階段を駆け上がり、音楽ショップのシャッターを潜り抜ける

 声に反応して、由紀ちゃんが駆け寄ってきてくれていた

 

「おかえりー! 大丈夫だった?」

「ええ、数は多かったですがフロア自体は広かったので」

 

 由紀ちゃんへとリュックを手渡す

 それなりに軽くしてきたので、小柄な彼女でも問題なく背負えるはずだ

 現に、彼女はリュックを背に飛び跳ねている

 

 

「あ、りーさん。"これ"、助かりました」

「そう? よかった」

 くるみちゃんからリュックを受け取っているりーさんに、ケミカルライトを示す

 彼女はくすくすと微笑んでくれていて。やっぱりお礼は素直に言うべきだな、と実感する

 

「それじゃ、もうひとっ走り行ってくるか」

 空のリュックを背負い直し、再びシャッターを潜る

 

 

 

 三階、婦人服店前

 賑やかな店内を尻目に、店の外で辺りを見張る

 付近の奴らは粗方掃除した為安全ではあるとは思うが、念のためだ

 

「……しっかしまぁ、楽しそうだな」

「女性の買い物はこういうものだって、相場が決まってるだろ?」

 

 それにあの日から今まで制服だけで生活してきたのだ

 今日ばかりははしゃいだ所で、バチは当たらないだろう

 俺たちは、待っているだけでいいのだ

 

 

「そりゃそうだけどな。まぁ時間はあるし特に問題は──」

 苦笑いしていたカズが、何かに気づいた様に真剣な表情に変わる

 同時に突然屈み、エスカレーターの方へと耳を澄ましていて

 

「ん? どーした」

「──シッ!」

 静かにしろ、と言う事なのだろう

 カズに倣い俺も屈む。……奴らの群れでも来たのだろうか

 

「……エスカレーターを上る足音、一人分。随分としっかりした足音だ」

「……生存者か?」

 

 このモールには生存者はいないと踏んでいたのだが、自分達が着いた後からやって来た人間だろうか

 どちらにせよ単独であるのならば、よほどの相手でもない限りこちらが有利だろう

 

「どうする?」

 あくまで確認をする様な、カズの問い。そんな事、決まっている

 

 

「……とりあえず制圧、その後に見逃すか処分するか考えよう。彼女達の手を煩わせるまでもない」

 何より、彼女達を危険に晒すわけにはいかない

 

 音はだんだんと近づいてきている

 幸か不幸か、ここからエスカレーターは近い。身を屈めながら音のする方へと近づく

 エスカレーター脇の物陰へと隠れ、足音の主を待つ

 

 

 足音の主が三階まで上りきった瞬間、カズと同時に物陰から飛び出す

「うわっ!?」

 

 男と思しき、驚いたような声が響く。相手が立ち止まっているならば、都合がいい

 シャベルの柄を首へと押し付け、押し倒す

 

 奇襲の甲斐あってか、男は思ったよりも容易に倒れこんだ

 即座に馬乗りになり両腕を抑え込む。これで抵抗はある程度防げるはずだ

 カズは男に暴れられても対処できるように、バールを突き付けてくれている

 

「……随分と、あっけなかったな」

「お前は誰だ、何の目的でここに来た。……俺達に害意はあるか」

 男を押さえつけながら、質問をぶつける

 

 

「ったた……僕は物資の補給でここに寄っただけだよ。君たちが居る事なんて知らなかったし、危害を加えるつもりは微塵もない」

 そう答えたのは、無精髭を生やした眼鏡の男。身長は俺よりも少し低い程度だろうか

 

 抵抗する気はないらしいこの男は、両腕に力を入れぬままだ

「どーする? 俺はこのおっちゃんに害はないと思うけど」

「そうだな……」

 

 

「二人とも、どうしたの!?」

 男の処分を決めあぐねていた所に、佐倉先生の声が響く

 声のする方を見れば先生が駆け寄ってきていて、他の三人も洋服店から心配そうにこちらを見ている

 

「あ、佐倉センセー。危ないかもしれないんであんま近寄らないでくださーい」

 カズが先生へと手を振っている。正直、あまり近づかないでくれると助かるのは事実だ

 

 ……どちらにせよ、彼女達に見られた時点で結論は決まった様なものか

 

 

「正直、貴方を生かしておく理由は一つたりともないです。彼女達の安全を最優先とするならば、ここで処分してしまった方が得策でしょう」

「……そうか。なら、僕はここで殺されちゃうのかな?」

 

 半ば諦めたような男の声。諦めるには、まだ早いと思うのだが

 

「──ですが、僕は彼女達の前ではいい人であろうと決めています」

 押さえつけていた腕を離し、馬乗りになっていた男の上から退く

 未だ地面に寝転んだままの男は、意外そうな表情をしている

 

「まずはあらぬ誤解をした事への謝罪を。彼女達を護る為とは言え、すみませんでした」

「いや、いいよ。僕だって同じ立場だったら同じことしてただろうしね」

 そう言って、彼は立ち上がる

 

「僕は佐竹、佐竹正昭(さたけまさあき)。君の名前は?」

「白井葵と言います。よろしくお願いします、佐竹さん」

 

 彼の差し出した手を握り返し、握手を交わす




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