終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

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22.いわかん

「あっ、葵くーん!」

 廊下に響き渡る元気な声。その主は言わずもがな、由紀ちゃんだ

 遠くの方から、何かを手に持ちながらこちらへと駆けてくる

 

「廊下を走ると危ないですよー?」

「だいじょーぶだいじょーぶ!」

 

 正直な所、彼女の大丈夫は全く信用ができない

 転ばれたり、誰かにぶつかられたりしても大変だ。彼女のもとへと歩みを進める

 

 

「それでね葵くん、これなんだかわかる?」

「これは……カメラですよね? 詳しい事はちょっとわからないですね……」

 

 辿り着いた由紀ちゃんの手には、カメラらしきもの。少なくともフィルムカメラやデジタルカメラ、使い捨てカメラの類ではない事はわかる

 生憎、自分はそういった方面には疎い。中学に写真部の知り合いは居たが、そいつが使っていたのも専らフィルムカメラだった

 

「学校の備品みたいですし、佐倉先生に聞けばわかるかもしれないですけど……」

「んお? こんなとこでどーした」

 

 階段の方から聞こえたのは、カズの声だ

 階段を降りてくるカズに由紀ちゃんから受け取ったカメラを渡すと、その正体をコイツは知っていた様で

 

 

「あー、ポラロイドカメラか。珍しいな」

「ポラロイドカメラ?」

 聞いた事のない名前だ。どうしてコイツはこう、妙な知識に詳しいのだろうか

 

「ポラロイドカメラっつーのはあれだ、撮ってすぐに写真が見れるタイプのカメラだな。今は殆ど見ねーもんだと思ったけどな……っと、ほれ」

 カメラを由紀ちゃんの方に向け、そのままシャッターを切る

 フラッシュこそ焚かれなかったものの、由紀ちゃんは驚いたように体を硬直させた

 

「わわっ! もう、脅かさないでよー」

「おう、悪い。ほら出てきたぞ」

 そう言ったカズの手にあるカメラから出てきたのは、一枚の紙

 それを受け取った彼女は、訝しむ様にその紙を眺め──

 

 

「ただの紙じゃん!」

 床に叩きつけた。それはそうだろう、自分から見てもただの紙にしか見えなかったのだから

 

「おう落ち着け。ほら」

「……? おぉー!」

 カズが拾った紙に、一枚の像が浮かび上がる

 それは紛れもなく、先ほど撮った由紀ちゃんの顔だった

 

「すごい、すごいよこれ! すごいカメラと名付けよう!」

「ポラロイドカメラな。とりあえずこれがあるって事は予備のフィルムもあんだろうし、これからは写真も撮れるかもな」

 一枚の紙、改め写真を持ちながらぴょんぴょんと跳ねる由紀ちゃん

 

 

「これがあればさ、アレ作れるよ、アレ!」

「「アレ?」」 

「アルバム!」

 

 アルバム。つまりは卒業アルバム的な何かを作ろう、という事であろうか

 記録を残しておく手段としては、悪くない様に思える

 それに個人的には、友人との卒業アルバムというものにも、ほんの少し憧れがあった

 

「あー、だったら佐倉センセーに聞いておいた方がいいんじゃねえか? そういうの作るってなったら皆の協力が必要だろ?」

「それにそのカメラの使用許可と、フィルムがどこにあるかも聞いておかなければですし」

「わかったー!」

 階段を駆け上がっていく彼女の後を追う。この時間ならば、全員生徒会室に居るだろうか

 

 

「って事で、皆で写真を撮ろう!」

 生徒会室の扉を開け放った由紀ちゃんに、皆の視線が集まる

 威勢が良いのは良い事ではあるが、流石にそれでは説明不足が過ぎるだろう

 

 説明不足な彼女の代わりに、大まかな趣旨を伝える

「要するに、由紀ちゃんがカメラを見つけて来たので、皆で写真を撮ろう。って事ですね」

「とっても楽しそう! 皆がいいなら、やってみましょ?」

 

「アタシは構わないけど、りーさん達は?」

「私もやってみたいわ」「先輩たちがいいなら、私も構わないです」

「それじゃあ、決まりっ!」

 

 

 

 生徒会室の扉を背に、学生組六人が並ぶ

 背丈と写真幅の都合上、自分達が後ろで彼女達が前だ

 佐倉先生の手には、カメラが握られている

 

「はーい、それじゃあ撮るわよー」

 先生の声とカシャリ、という音と共にカメラから写真が吐き出される 

 

 

「……うんっ、よく撮れてる」

「先生、代わりますよ」

 写真を眺めながら満足げに独りごちる先生に、歩み寄る

 先生はこの集団の中心人物なのだから、先生も写真に写っていなければ締まらないだろう

 

「どうだったー?」

 由紀ちゃんを始め、彼女達も写真を見ようとこちらに駆け寄ってくる

 

「あぁ、ちゃんと綺麗に撮れてま、す……?」

 先生から受け取った写真を軽く流し見た。その時だった

 言い知れぬ違和感に襲われ、手元の写真に視線を落とす

 

 

 確かに写真はよく撮れている。よく撮れてはいるのだが

 この写真を眺めていると、何とも言えない違和感に襲われる

 

 例えるのならば、完成された絵画に追加で書き足したかの様な

 あるいは、二種類のピースを無理やりに混ぜて完成させたパズルの様な──

 

 なんでもない写真の筈だ。ただ、その違和感がどうしても拭えない

 

 

「葵くん、どしたの?」

 ──由紀ちゃんの声に、意識を引き戻される

 

「……由紀ちゃん、この写真に違和感はありませんか?」

「……?」

 ふるふると、彼女は首を横に振る

 周囲に視線を向けるが、皆も一様に首を横に振るばかりだ

 

(……思い違い、か?)

 由紀ちゃんはそういった事には自分などよりもよっぽど鋭い

 彼女が違和感を覚えないという事は、つまりはただの思い違いなのだろうか

 

 ──あるいは、彼女達(女性陣)自分達(野郎共)が混じっている事に対する違和感だという事もあり得る

 

 

「なんでもないです。ささ、次は僕が撮りますので佐倉先生が入ってください」

「ええ、それじゃあお願いするわね?」

 佐倉先生からカメラを受け取りながらカズに視線を向け、撮影から外れる様に指示を出す

 

「それじゃあ撮りますよ。はい、チーズ」

 カシャリ、という音と共に再び写真が吐き出される

 程なくして写真に像が浮かび上がる。彼女達五人の、笑顔が眩しい写真

 

(……まただ)

 先程よりはマシになったものの、未だ違和感は拭えないままだ

 ただ、先程とは違和感の質が異なる気がする。その違和感を何と言い表せばいいかはわからないが──

 

 

「お、こっちもよく撮れてるじゃん」「わ、私変な顔してなかった?」

「ちゃんと綺麗に写ってるよ、めぐねえ」 

 

 彼女達が駆け寄ってくる。相も変わらず、違和感を覚えているのは自分だけらしい

 自分達が入っていてはダメ。佐倉先生が入っていてもダメ。ならば最後に残るのは──

 

「……すみません、最後に一枚だけいいですか?」

 

 

 

「それじゃ、いっぱい写真撮ってくるねー!」

「あんまり無駄遣いはダメですよー?」

 佐倉先生と共に、由紀ちゃんが部屋を出て行く

 先生が一緒に居るならば、まぁ無駄遣いはそこまでしないだろうか

 

「それにしても卒業アルバムねー、葵たちは将来どうしたいんだ?」

「将来って、この件が全て終わったら、って事ですか?」

 正直途方もなさすぎて、よくわからない

 地下に試験薬こそあるものの、この状況では治療薬自体には長い時間がかかるだろう

 短くて三年、下手したらそれ以上かかってもおかしくはない

 

 

「んー、そうですねえ。山の中であまり人と関わらず、狩りとか畑とか耕したりして自給自足の生活ができればいいですかねー」

「……なんつーか、地味だな」「おじいちゃんみたい……」

「うぐっ」

 

 くるみちゃんの言葉はともかくとして、りーさんの言葉はかなり心に刺さる

 元々、人と関わるなど自分には向いていないのだ。この一ヶ月余りだけでさえ、数年分人と関わった自信がある程には

 

「そ、そういうくるみちゃんはどうなんですか。スプリンターですか? それともシャベルの名手ですか?」

 自分が答えたのだ。彼女達の回答も聞いておかなければ気が済まない

 そう自分が問いかけると、赤い頬を掻きながら口を開いた

 

 

「そりゃー、あれだよ……お嫁さん、とか」

「お嫁さん……?」

 随分と、可愛らしい夢だ

 彼女の事だからスプリンターだと予想していたのだが、予想よりも随分と乙女チックな夢だったらしい

 

「希望を持つのは、良い事だと思います」

「そうそう、夢見るだけならタダだからな」

 静かに優しい眼差しをしている美紀さんと、からからと笑うカズ

 揶揄われている事に気が付いたのか、くるみちゃんの顔がどんどん真っ赤に染まっていく

 

「おっ前……! そういうお前はどうなんだよ!」

 彼女がカズを指差し叫ぶ。当のカズはと言えば、なんでもない表情をしていた

「俺? 俺はそうだな、漠然としててまだなんもわかんねーけど……」

 

「けど?」

「五年後だろうと十年後だろうと、下らない話をしながら笑い合えてるんなら、それでいいんじゃねーか?」

 

 ……確かに、それも一つの真理かもしれない。コイツの癖に珍しくまともな事を言うものだ

 カズの言葉に、彼女も押し黙る。思ったよりもまともな回答だったからだろう

 

 

 将来の事などわからない。わからないが、いつか来る時の為に考えておくのはタダだろう

 さて、どうしたものだろうか──

 

 

 

Side:直樹美紀

 

「……先輩、まだ起きているんですか?」

「ん……? あぁ、美紀さんですか」

 

 カップを傾けながら写真を眺めていた先輩が、音も立てずに椅子から立ち上がる

 先輩の側にあるランタンの光だけが、頼りなく室内を照らしていた

 

「どうしたんです? 美紀さんも眠れないんですか?」

 あ、ココアでいいですか?という先輩の言葉に、黙って頷く

 別に眠れなかった訳ではないが、少し気になる事があったのだ

 先輩からカップを受け取り、口をつける

 

 

 私達の間に、沈黙が流れる

 先輩は尚も写真を眺めていて、その表情はどうにも晴れない

 

「……あの、その写真がどうかしたんですか? お昼に写真を撮った時もそうでしたけど」

 写真に注いでいた視線を、こちらへと向ける

 先輩の表情には、困惑の色がありありと浮かんでいた

 

「いや、どうもこの写真に違和感があってですね……美紀さんは、わかります?」

 そう言って先輩は、三枚の写真を机へと滑らせる

 昼間に皆で撮った写真だ。違和感はどこにも、何一つもない

 

「……いえ」

「ですよねー。由紀ちゃんもないって言ってましたし、やっぱり思い違いなんですかねー」

 先輩は写真を集め、一列へと並べる

 

 

 初めに六人で撮った写真、佐倉先生と五人で撮った写真、佐倉先生を抜いた四人で撮った写真の順に指で指しながら、先輩は言葉を口にする

 

「……この写真が、一番違和感があるんですよ。なんていうかこう、完成した絵画に追加で何かを書いたような感じって言いますか」

 

「次にこの写真は、さっきのよりかは違和感がないんですけど、質の違う違和感があるんです。……その感じはうまく言葉にはできませんけど」

 

「最後の写真は、逆に違和感が全くないです。全てのピースがあるべき場所に収まってる感じって言えばわかりますかね? ……逆にそれが違和感って言えばそうなんですけども」

 

 

 ……先輩の説明を聞いても尚、私には先輩が語る違和感についてはよくわからなかった

「……まぁ僕も、直感では理解してはいるんですよ。多分この違和感はどうでもいいものなんだろうな、とはね」

 

「でもまぁ、気になっちゃう性なものでして、こうしてあれこれ考えてるんですけどね」

 

 

 先輩の言葉を最後に、再び沈黙が戻る

 私が眠気に誘われて寝室に戻るまで、先輩はカップを傾けながら写真を眺めていた

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