終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

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23.きゅうじつ

 ──拝啓。吹く風もすっかり秋めいて参りましたが、今もどこかに居ると思われます親父殿母上殿につきましては、いかがお過ごしでしょうか

 

 私達は今、巡ヶ丘学院高校の屋上にて水遊びに勤しもうとしています

 右を向いても左を向いても水着美人。正直な所、とても胃が痛いです

 

 事の起こりは、例の如く由紀ちゃんの一言でした──

 

 

 

 薄暗い図書室。秋もそこそこだと言うのに室内はうだる様な暑さだ

 

 対面には俺と同じく本に目を通しているカズの姿。ある意味いつも通りの光景だ

 本の頁を捲りながら、そういえばコイツに聞きたい事があったのを思い出した

 

「なぁ、そういや聞きたい事があんだけどさ」

 

「ん、どした」

 

 本の向こうから視線だけがこちらを向く

 美紀さんを救出したゴタゴタですっかりと忘れていたが、アレの事については聞いておくべきだろう

 

 

「あそこのモールに避難区画があるだなんて、どこで知ったんだ? 少なくともあの避難マニュアルには書いてなかっただろ」

 

「あぁ、貰いもんの地図にそう書いてあったんだわ。ホントかどうかは知らんけどな」

 

 コイツはこの事についてはあまり関心がないらしく、そう発したきり視線を手元の本へと戻した

 

 確かにコイツは、あのモールの避難区画に関しては確信がない様子だった

 あの日持っていた地図が貰い物だというなら、ある程度筋は通っているのかもしれない

 その地図を誰から貰ったのか、という疑問は付き纏うが──

 

 

「おっ、居た居た!」

 

「どった?」「くるみちゃん、どうしましたー?」

 

 声に反応し振り向けば、図書室の入り口からくるみちゃんがこちらに手を振っている。わざわざ探しに来たということは、何かあったのだろうか

 急いでいる様には見えないので、緊急の事態という事ではなさそうだ

 追及を中断し、本を閉じて重い腰を上げる

 

「なにか用ですか?」

 

「いや、由紀のやつがさ──」

 

 

 彼女の言葉を要約すると、由紀ちゃんが暑いのでプールに入ろうと言い出し、流石に学校のプールまで行くのは危ないと判断され校内でやる事になった。ではどこでやるかとなって、屋上の貯水槽を洗ってプール代わりにする事に決まったらしい

 

 

「貯水槽か、そういやそんなんもあったな」

 

「じゃあ僕達が洗っておきましょうか?」

 

「いや、貯水槽の方はアタシ達で洗っとく。葵たちは休憩用の椅子とかパラソルとか持ってきてくれないか?」

 

 

 

 ──という様な事があり、現在屋上には蒼い海(貯水槽)白い砂浜(コンクリート)が広がっている

 休憩用の長椅子に日焼けのパラソルまで展開されており、まさに完璧な形だ

 

「よっしゃ、アタシ一番乗りーっ!」

 

 くるみちゃんの声と共に、水しぶきがあがる

 そこまで水深はなかったと思うのだが、飛び込んで平気なのだろうか

 

「あっ、くるみちゃんずるーい!」

 

 次いで由紀ちゃんも飛び込み、再び水しぶきがあがった

 りーさんと美紀さんもプールへと入っていき、屋上はすぐに喧騒へと包まれる

 時折こちらまで飛んでくる水の滴が、冷たくて気持ちがいい

 

 

「……いやぁ、壮観ですねえ」

 

 思わず言葉が漏れる

 隣で彼女達を見守っている佐倉先生を含め、揃いも揃って美人ときていて、そんな人達が水着で戯れているのだ

 自分達が場違いな存在である事は、確定的に明らかだろう。胃が痛い

 

「白井君と典軸君は遊ばなくていいの?」

 

「いやー、流石にアレに混ざる程」「空気読めない訳じゃないです」

 

 かけられた問いを、カズと共に否定する

 少なくとも自分には今すぐアレに混ざる勇気も、度胸も存在してはいない

 混ざるとしても、もう少し胃の調子が落ち着いてからだ

 

 

「先生こそいいんですか? せっかくのプール日和なんですし」

 

「私はもう少し経ってから行こうと思って。みんな楽しそうなんだから、邪魔しちゃ悪いでしょ?」

 

 佐倉先生らしい考えだ。先生が彼女達に混ざった所で邪魔になるとは思えないし、彼女達が邪険にするとは到底思えない

 個人としては先生も偶には羽目を外して楽しんでもいいと思うし、そうして欲しいのだが──

 

「めぐねえ達も早く早くー!」

 

 プールの方角から由紀ちゃんの声が響く。その方角を向けば、プールからこちらへと手を振っている由紀ちゃんの姿

 ()、と言う事は自分達も含まれているのだろうが、そこは敢えて無視をする

 隣を見れば、先生も自然と顔を綻ばせていて

 

「ほら、ご指名ですよ?」

 

「……そうね!」

 

 駆けて行く先生を見守る。自分達はまぁ、落ち着いてから混ざれば良いだろう

 

 

 

 ──先ほどまでビーチバレーで賑わっていた屋上は一転、静けさに包まれていた

 そこには、相対する二人のガンマン

 

「──なぁ、最後に一つだけ教えてくれよ」

 

 そう呟くくるみちゃんの腰には、二つのホルスターが吊るされている

 その中身は二挺の水鉄砲。背中にはいつものシャベルを背負っていた

 

「……何かしら」

 

 対するりーさんの手には、一挺の比較的大柄な水鉄砲

 麦わら帽子の奥で、不敵な笑みを浮かべている

 

「アンタ、かなり手練れのガンマンと見た。……二つ名とか、あるんじゃないか」

 

「……さぁ、どうかしら」

 

 ──屋上に一陣の風が吹く。二人は睨み合ったまま、動かない

 

「はわわわわわ……」

 

「いや、なにやってだアイツら」

 

「シッ! 今そういう野暮なツッコミはできねえ空気なんだよ!」

 

 物陰に身を隠しながら、隣で野暮なツッコミを入れているカズを窘める

 彼女たちが楽しそうであれば、それで良いではないか

 

 

 ──数瞬の沈黙の後、二人が同時に駆け出す

 

「なーにが誰かが持ち込んだおもちゃだってんだ! 大方自分で持ち込んだ私物ってとこだろっ!」

 

 手にした水鉄砲を撃ち合いながら、並行して菜園内を走る二人

 ……元陸上部のくるみちゃんの動きがいいのはともかくとして、りーさんは相当手慣れてないか?

 

「……ふふっ、ご名答。代わりにいい事を二つ教えてあげる。一つは、貴女随分と景気よく連射していたけど──その二挺拳銃の残弾、もう心許ないはずよ」

 

 りーさんの言葉に、対面の影に隠れるくるみちゃんの表情が凍る

 彼女の使用しているのはりーさんの物よりも小型のタイプだ。当然内容量も少なく、景気よく撃ちまくってしまえば、早期に弾切れが起こるのも道理であろう

 

「そしてもう一つ、私の通り名を教えてあげる。──"風船爆弾の魔術師"よ」

 

 反射的に空を見上げたくるみちゃんの眼に映ったであろうのは、空から飛来する二つの水風船

 駆けだした彼女の背後で、二つの水風船が爆ぜる

 

 

「クイボじゃねーか!」

 

「俺達はナワバリバトルを見ていた……?」

 

 隣でカズが叫ぶ。流石ゲーム脳

 未だりーさんの腰には二つの水風船が吊るされている。残弾有利と障害物越しの攻撃手段を持ち合わせている事を考え、形勢はりーさんが有利であろうか

 

「甘いっ!」

 

「なんのっ!」

 

 顔に当たる起動で放たれた水風船を、くるみちゃんが手にしたシャベルで打ち返す

 その水風船は、綺麗な放物線を描き──

 

「やべっ」「やばっ!」「まずっ」

 

「……えっ?」

 

 カズ、由紀ちゃん、自分の順で物陰へと身を隠す

 遅れて、それに気づいた美紀さんも身を隠した

 

 直後。佐倉先生の顔に水風船が飛来し、佐倉先生は水濡れとなった。R.I.P(安らかに眠れ)

 

 

「……中々やるじゃない? それじゃあこれならどうかし、らっ!」

 

 みたび、りーさんの手から水風船が放たれる

 先ほどと同じ顔への軌道。そんなものを食らうくるみちゃんではないだろう

 りーさんの水風船も、これで最後となった

 

「そんなもん食らうかってんだ!」

 

 当然、顔を覆うように振るわれたシャベルによって水風船は弾かれる

 そして、目の前を横切る影に反射的に銃口を向け──

 

「なにっ?」

 

 ──そこにあったのは、桜色のカーディガン

 ついさっきまでりーさんが着用していたものだ

 くるみちゃんの体が、一瞬固まる

 

「──甘いわね」

 

「うわっ!」

 

 声と共にくるみちゃんの真横から一閃の水が放たれ、彼女の顔を濡らす

 いつの間にか真横へと回り込んでいたりーさんによって、彼女は討ち取られた。ゲームセットだ

 

 

「……いやぁ、すげえもん見たな」

 

 水風船で視界を潰し、カーディガンで視線を誘導

 その隙に自分は側面へと回り、本体を討ち取る

 本人の言葉通り、相当な手練れの動きであった

 

 ──水鉄砲に水を詰め、片方をカズに投げ渡す

 余り物しかなかったが、ハンデとしては十分だろうか

 

 カズと顔を見合わせ、体を屈めながらそれぞれ反対方向へと駆ける

 

 

「さぁ、私を倒せる者は居るかしら?」

 

「「ここにいるぞ!」」

 

 菜園の影から身を晒し、同時にりーさんへと向けて水鉄砲を発射する

 その射撃を彼女は身を捩って躱し、遮蔽物へと隠れた

 

「あらあら、か弱い乙女に二人がかりだなんて。随分と卑怯なんじゃない?」

 

「卑怯なんて言葉は──」「敗者の戯言なんですよねえ!」

 

 

 そんな戦場に、乱入する影が一つ

 レッドゴリラ=サン(くるみちゃん)のエントリーだ!

 

「ゲェーッ! レッドゴリラ=サン!」

 

「誰がゴリラだ、誰がっ!」

 

 りーさんとレッドゴリラ=サン(くるみちゃん)に挟まれたカズが、堪らずといった表情で叫ぶ

 ──いや、これ相当拙いんじゃないか?

 

 りーさん自体は連戦続きとは言え、無駄撃ちを殆どしていなかったから残弾にはかなりの余裕があるだろう

 くるみちゃんも先ほど水を補給していたのが見えた。状態は完璧といってもいい

 

 対するこちらは野郎が二人とは言え、その武装は貧弱だ

 武装面でいえば彼女達に遠く及ぶまい

 

 

「装備の貧弱な野郎二人に、装備の良い二人がかりとか卑怯じゃないですかねぇーっ!」

 

「あら、卑怯なんて言葉は敗者の戯言って言ったのは、どこの誰だったかしらね?」

 

 全くである。今やとんだブーメランだ

 何はともあれ、早く彼女を排除しなければまともに勝ちの目すら見えない

 

 ……のだが、いかんせん目の前の彼女は強敵だ

 彼女もこちらの焦りを理解している様で、まともに身を晒さず最低限の守りだけをこちらへと向けている

 

「もっとゆっくり楽しみましょ? 時間はたっぷりあるんだから」

 

 その提案は魅力的だが、頷くわけにはいかない

 なんにせよ、強引にでも突破する手立てを──

 

 

「グワーッ!」

 

 耳に入ったのは、肉盾(カズ)の討ち取られる音

 恐らくはくるみちゃんに狩られたのだろう。南無三

 ……これはもう、詰みだな?

 

 背中越しに、裸足でコンクリートを駆ける音を聞く

 次いで、右から葉擦れの音。そちらへと銃口を向け、迷わず発射する

 ──そして目に入ったのは、麦わら帽子

 

(……あっ、これさっき見たな)

 

 遅まきながら、自分が判断を誤った事を理解する

 反射的に体を反転させるも、正面からの衝撃に背中をコンクリートへと打ちつけられた

 咄嗟に受け身をとれたのは、幸いというべきであろう

 

「……私達の勝ちね?」

 

 背中の痛みを堪えながら瞼を開けば、眼前には突き付けられた銃口と、りーさんの笑顔

 水鉄砲を握る右手は水鉄砲ごと抑えられ、体はりーさんに馬乗りになられ動けない。完全なる詰みだ

 

 

 ここで問題だ! この馬乗りになられた状態からどうやって逆転するか? 

 三択──ひとつだけ選びなさい

 

 ①ハンサム(笑)の葵は突如反撃のアイデア(セクハラ)が閃く

 ②仲間(既に居ない)が来て助けてくれる

 ③逆転の目なんてものはない。現実は非情である

 

 ①は論外だ。そもそもそこまでして勝ちに行く必要なんてないし、そんな事をしては申し訳なさで屋上から飛び立つ(俯瞰風景)事になるだろう。よって却下

 

 ②に関しては、唯一の仲間のバカは既に脱落済みだ。よって助けなんてものはない。却下

 

 

(うーん、どうやっても逆転は無理か)

 

 そもそもこの武装で、片方が討ち取られた時点で詰みだったのだ。ここは潔く負けを認めておこう

 水鉄砲を手放し、降参の遺志を示す

 

「僕達の負け、ですね。……あの、出来れば早めに退いてくれると助かるんですけど」

 

 その言葉に、彼女は首をかしげている

 

 かなり近い彼女の顔に、眼前で揺れる双丘、馬乗りの状態

 自分のしている事と状態を理解したのか、彼女の顔はどんどん赤く染まっていき──

 

 屋上に、彼女の悲鳴が響き渡った




私はほほえみ村の住人ではにい。これだけははっきりと真実を伝えたかった
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