終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

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本編が前後編の流れなのに、流れをぶった切って閑話を入れるなど本当はしとうなかった

本編には全く関係のない時系列の話なので本編には関係ありません(エンプレス構文)


閑話:ばれんたいん

 時が過ぎるのは早い物で、年明けから既に一月以上が経とうとしていた

 思えば、随分と長くこの学校で生活をしている気がする。ここで暮らし始めた当初には、ここまで長く生活するなど正直想像していなかった

 

「……さみいなぁ」

 

「ああ、寒いな」

 

 男二人が、最早いつもの溜まり場と化した図書室で呟く

 窓から光が射し込む室内は、日中だというのに肌寒い

 息をつけばその吐息は白く染まる。一応は室内だというのに、この有様だ

 

 一応電気炬燵があると言えばあるのだが、四人しか入れぬそれは、生徒会室にて由紀ちゃん達四人に占領されている

 野郎共の優先度は最低(一応遠慮している)であり、使用は望めまい

 

 ──ふと、壁に掛けられたカレンダーが目に入る。正確に言えば、目に入ったのはカレンダーのある一部分だ

 二月の十四日。中度、或いは重度のゲームプレイヤーであった俺達にも、ある意味馴染みのあるイベントの日である

 

 

「……そういや、もうすぐバレンタインか」

 

 思わず言葉が漏れる。カズもその言葉に反応し、視線をカレンダーへと向けた

 そう、バレンタイン。非モテかつここ数年は異性の友人すらいなかった俺達にとって、ゲーム内の出来事でしかなかったアベック共の祭典である

 いや正確には小学卒業まで、ある意味縁のあるイベントではあった。暴君に貢物(餌付け)をする的な意味ではあったが

 

 何はともあれ、バレンタインである

 恐らく由紀ちゃん達も彼女達の間でチョコを贈り合うのであろうし、日ごろからお世話になっている彼女達に、お礼の意味を込めて何か贈るのもいいかもしれない

 

 

「……まぁ、お前の考えてる事は大体わかるけどな。でも卵がねえとなー」

 

「かと言って、生クリームはもっとねえしな」

 

 いつの間にか手にしていたレシピブックを捲るカズが言う様に、問題は材料だ

 事件から半年も経った今現在において、卵や牛乳などの生素材はもはや伝説上の存在である。作成候補は必然的に、これらを使用しない菓子類となるだろう

 チョコを溶かして整形し直すだけであれば、これらも使用はしない。ただ彼女達がこの手法を取るであろう以上、この手法を使うのは味気ないと思うのも事実だ

 さて、どうしたものか──

 

 

「……お、こんなんがいいんじゃねえか? アレルギーに考慮した卵と牛乳なしのカップケーキだとよ」

 

 ほら、という言葉とともに投げ渡された本に書いてあったのは、アレルギーに様々なアレルギーに考慮したレシピの数々

 成る程、こういったものであれば作る事もできなくはなさそうだ

 そうと決まれば、学校にない材料を取りにいかねばなるまい

 

 重い腰をあげ、図書室を後にする。外出するとなれば一応佐倉先生に外出の許可を取らねばならないし、ついでに何か取ってくる物があればそれも聞いておきたい

 

 

 職員室へと歩みを進めていると、生徒会室から出てくる由紀ちゃんと遭遇した

 ちょうどいい。確認の意も込めて彼女にも聞いておこう

 

「あ、由紀ちゃん。僕たちちょっと外に行ってこようと思うんですけど、何かついでに取ってくるものあります?」

 

「あっ、葵くん! 皆でチョコを交換するから、チョコをいっぱい持って来てくれると嬉しいなー」

 

「わかりました。失敗した時の分も含めて多めに持って来ますね」

 

 やはり予想は当たっていたらしい。彼女達四人が渡し合う……いや、佐倉先生にも渡すとなれば、必要な材料は相当に多いだろう

 由紀ちゃんと別れ、再び職員室へと歩みを進めようとしたその時。後ろを歩いていたカズがなんとも言えない表情をしている事に気がついた

 

「ん? どした」

 

「……いや、たまーにマジでお前を尊敬する事があっけど、今がそん時だなって(意訳:よく自分も貰えるかもとか思わねえな)

 

 ……よくわからないが、褒め言葉として受け取るべきなのだろうか

 まぁコイツがおかしいのはいつもの事だ。早く佐倉先生から許可を取って外に繰り出すとしよう──

 

 

 

Side:若狭悠里

 

 ──バレンタイン。一般的に、女性が意中の男性にチョコレートを渡す日。尤も近年においては、同性の友人間でチョコレートのやり取りをする事も多くなり、一概にカップルの為のイベントとも言い難いのも事実だ

 事の始まりは、由紀ちゃんの一言だった

 

「バレンタインしよ、バレンタイン!」

 

 由紀ちゃん曰く、私達がお互いに渡すのは勿論、葵君や和義君、めぐねえにも。チョコを渡すと同時に、普段伝えられない感謝を伝え合おう、との事だった

 チョコは葵君たちが外に出るついでに集めて来てくれるらしく、材料の心配もいらないらしい

 

 ……勿論、それ自体はいい事だと思うし、異論もない。くるみも美紀さんも──なんだかんだではあるが、賛同していた

 感謝は伝えられる内に伝えておくべきだともわかってはいる。こんな世界では、そんな事すらもいつ伝えられなくなるかわからない事も

 ただ、それ(理性)これ(感情)とは話が別だ

 

 とある一点において、私は思い悩んでいた──

 

 

 感謝の意を込めてチョコを手渡す。ただそれだけで、他意はない

 そう思おうとしていても、脳がそれを拒むのだ

 ならば、いっその事開き直ってしまうのはどうだろうか

 ダメだ。そんな事をできる勇気は、私には無い

 

「……悠里先輩?」

 

 思考が堂々巡りに陥っていた私に声をかけたのは、ある意味において、私をこの状態に陥れた原因とも呼べる人物──美紀さんだ

 彼女の姿を眺めている内に、無意識に言葉が漏れる

 

「……ねえ、美紀さん。どうしたらいいのかしらね」

 

「……わかりませんけど、先輩の心に正直になるべきだと思います。私も、なかなか感謝の言葉を伝えられずに居ましたから」

 

 

 ──自分の心に正直に。私が望むのは、なんなのだろう

 

 

 

Side out

 

 バレンタイン当日。野郎二人組のお菓子は既に焼き上がり、包装を待つのみとなった

 ちなみに俺がココアカップケーキ、カズの奴がココアクッキーである。卵や牛乳、バターなどを使用しないレシピを探した都合上、比較的シンプルなものに仕上がっている

 

「……にしても、菓子作りなんて久々にしたな」

 

 カズの言葉通り、最後にお菓子作りをしたのは六年近くも前になる。あの頃は毎年この時期になるとお菓子を要求してくる友人が居たので、それに応じて毎年作っていた

 しかし彼女が引っ越してからはそれもなくなり、お菓子作りなどという手間のかかる事をしなくなって久しい

 

 ……まぁ、久しぶりに作ってみたら、意外と楽しかったのも事実だ

 強制ではなく、自分の意思で作っているというのも大きいのだろうが

 

「よし、熱も粗方取れたし包んで渡しにいくか」

 

 由紀ちゃんにくるみちゃん、りーさんに美紀さん、そして佐倉先生。なるべく見栄えの良い物は均等になる様に、順々に詰めていく

 今回作ったのは全部で十六個。一つ余るが、自分で食べればいいだろう

 

 

「おーい、ちっとこっち向いてくれ」

 

 ──カズの言葉にそちらを向けば、何かがこちらへと飛んでくる事に気づく

 反射的にそれを手に取れば、それは包装されたクッキーであった

 

「いつもあんがとな、相棒」

 

「……こっちこそ、いつもありがとな」

 

 残ったカップケーキを、包装して投げ渡す

 一番見栄えのひどいものだが、コイツ相手にはこれで十分だろう

 何より、感謝を伝えるのに見栄えなど関係あるまい

 

 包みを開け、クッキーを口へと運ぶ

 ──素人が作ったにしては、十分の出来だ

 

 

 

「と言う事で、いつもありがとうございます。皆さん」

 

「わっ、ありがとー!」「おー、ありがとな」「ありがとうございます、先輩方」「ありがとう、二人共」

 

 カップケーキとクッキーを、纏めて手渡す

 彼女達は喜んでくれている様で、作った甲斐もあったというものだ

 存外、作るのが楽しかったのはこれが原因かもしれない

 

「……貰ってばっかりでいいのかしら」

 

 佐倉先生が、ぽつりと呟く

 どうやら佐倉先生は彼女達がチョコを作るとは知らされて居なかった様で、自分たちも佐倉先生には外に物資を取りに行くという事しか伝えなかった

 詰まる所、完全なる仲間外れである。合掌

 

 とはいえ先生はいつも自分たちを助けてくれているし、いつもは与えるばかりの立場なのだから、こういった時くらいは貰ってばかりでもいいのではないのだろうか

 

 

「あっそうだ。二人とも、いつもありがと!」

 

「え? あ、はい。ありがとうございます?」

 

 由紀ちゃんから差し出されたのは、小さな包み。恐らく、中身はチョコレート

 正直、かなり驚いた。てっきり彼女達の間だけで交換する物だと思っていたが、そうではなかったらしい

 

 次いでくるみちゃんと美紀さんからも、小包を渡される。……こうなると知っていれば、もっと気合いを入れてお返しを作ったものを

 

「なんだ、お前ホントに気づいてなかったのか?」

 

「……いや、正直全くの予想外なんだが?」

 

 隣で同じく受け取ったカズが、小馬鹿にしているかの様に笑う

 女性からバレンタインにチョコレートを貰うなどと言う事自体経験がない。そもそも、今までバレンタインは渡す日であって受け取る日ではなかったのだから

 

 

「──ん? そう言えばりーさんはどこに行きました?」

 

 先ほどから気になってはいたが、りーさんの姿が見えない

 彼女に渡さないと、今日と言う日は終わらないのだが──

 

「……あー、さっき階段上ってるの見たから、屋上じゃないか? ついでに俺の分も渡して来てくれ」

 

「ん、あいよ。それじゃあ、ちょっと行ってきますね」

 

 最後のクッキーの包みを受け取り、生徒会室を後にする

 アイツの言葉が正しければ、なぜかはわからないが屋上に居るのだろう

 さっさと行って、渡して来なければ

 

 

 

 冷たい風が吹き付ける屋上に、彼女は居た。手すりにもたれ掛り、校庭を見下ろしていた

 風に吹かれ、彼女の長い髪が靡いている

 その背中は、どこか寂しげに見えて──

 

「……りーさん?」

 

 名前を呼ぶも、反応はない。……何かあったのだろうか

 ゆっくりと、彼女のもとへ歩みを進める

 

「りーさん? どうしました?」

 

 再び呼びかけるも、反応はない

 ついには彼女のもとまで辿り着き、彼女の肩に触れる。その瞬間、弾かれた様に彼女は振り向き、俯きながらも何かを自分の胸に押し付けてきた

 

 

「……受け取って」

 

 絞り出す様な声。彼女は俯いたままで、その表情は窺えない

 

 ……随分と丁寧に包装された小包だ。ご丁寧に、リボンまで巻いてある

 彼女は包装にまで拘るタイプなのだろうか

 

「ありがとうございます、りーさん。これは僕たちからです」

 

 小包を受け取り、自分達の作ったお菓子の包みを渡す

 俯いたまま、彼女はそれを受け取った

 

 ひとまず、ここに来た目的は達成した

 彼女もここに居て欲しくなさそうだし、早めに撤退する事にしよう

 そう考え、階段へと足を向ける

 

 

「……いつもありがとう、葵君」

 

 風に乗って、彼女の呟きが耳に届く

 ──あぁ、その言葉を聞くだけで、今まで頑張ってきた甲斐があったというものだ

 振り返らないまま、しっかりと言葉を返す

 

「いいえ、こちらこそありがとうございます。りーさん」




最近りーさん絡みの話ばっか書いてる気がするな???????
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