Side:若狭悠里
──悠里先輩と葵先輩って、いつからお付き合いされているんですか?
残響の如く繰り返される言葉を振り払う様に、独り寝返りを打つ
数日前、美紀さんから問われたあの言葉が、どうしても頭から離れない
あの時私は、勢いのままに彼女の言葉を否定した。彼女の言葉はただの思い違いで、彼はただのお友達に過ぎないのだから
当然、彼も同じように答えるだろう。確かに彼は私に親しく接してくれているが、それは友人としての範疇を出ないものだ
──そう。否定するだけならば、簡単だった
勢いのままに彼女の言葉を否定する私が居た一方で、それも悪くない。と思ってしまった私が居たのも、また事実だったのだ
彼と一緒に居るのは、悪い気分じゃない
むしろ心のどこかで好ましいとすら思っていたし、他の誰と一緒に居るよりも、安心して過ごす事が出来るというのが事実だ
ここ最近は気がつけば彼の姿を目で追ってしまっているし、ふとした瞬間に彼の事を考えてしまっている
終いには彼が他の女の子と話しているのを見かけると、胸が締め付けられる様な感覚に襲われてしまう
そんな自分に気づいた時には、恥ずかしさでどうにかしてしまいそうな程であった
……ああ、そうだ。正直に言ってしまえば、彼の事が好きなのだ
お友達としてではなく、異性として。どうしようもなく、彼に恋い焦がれてしてしまっているのだろう
その切っ掛けが何であったのかは、私にはわからない
友人としての信頼関係からの発展であったのか、あるいは私の弱さを受け止めてくれるという依存心からの発展であったのか、はたまた別の要因か
何れにせよ、彼に対する想いは今なおこの胸の内で燻り続け、日に日に熱を増していくばかり
今となっては、彼の事を避ける日々が続いている
彼は優しい人だ。私達の事を第一に考えてくれているし、私を──もとい私達の事を、いつも気遣ってくれている
私の弱さを曝け出しても、笑って受け止めてくれた人だ
仮に私がこの胸の内を曝け出したとして、困った顔をしながらも、彼は私を受け入れてくれるだろう。というある種の信頼さえある
だがそれは、彼の優しさに甘える行為だ。これ以上彼に負担をかける様な真似は、するべきではない
弱さを打ち明けたあの夜だって、彼の隣で眠ってしまったあの時だって、彼に一日中看病をさせてしまったあの日だってそうだ
私は、あまりにも彼に負担をかけすぎてしまっている。そんな私が胸の内を打ち明けた所で、負担にしかならないだろう
大丈夫、今まで通りに過ごすだけでいい。そうすれば、いつの日かこの想いも諦める事が出来るだろう
彼に想いを告げられずとも、彼の隣に居られずとも。共に笑い合えるならば、それでいいではないか
己が内で叫び続ける誰かの声を聞きながらも、そう結論付け、抱えていた枕に顔を埋める──
──ガラリ、という扉の音で目を覚ます
窓へと目を向ければそこから覗く日は未だ高く、それほど長い間眠っていた訳ではないらしい。霞がかった様に、頭がぼんやりとする
布団から体を起こしながらも、扉の方へと顔を向ける
一体、誰がやってきたのだろうか──
「あ、おはようございます。りーさん」
叫びそうになるのを、必死で堪える。扉の向こうにあったのは、紛う事なき彼の姿
半ば反射的に彼へと背を向け蹲る。何故、彼がここに居るのだろうか──
Side out
「……あー、その。少しお話があるんですが、大丈夫ですか?」
寝室の扉を開けた先に見えたのは、こちらに背を向け蹲るりーさんの姿
その姿に一抹の寂しさを覚えながらも、彼女のもとへと歩みを進め腰を下ろす
ここまで近づいても、彼女からは反応の一つすらない
「……りーさん。僕に至らない点があるんでしたら、遠慮なく言ってください。避けられたままというのは……その、かなり困ります」
ふるふると、彼女が静かに首を横に振る
何も言えぬまま座り込んでいると、静かに、彼女が口を開いた
「……葵君は、何も悪くないの。これは私の問題だから」
「……僕にお手伝いできることはありますか?」
反射的に問い返してみたものの、何も出来る事はないのだろう
彼女の言葉を信じるのならば、今回の件は彼女自身の問題で、自分だけが避けられている事から、恐らく自分が関連していて
ならばそれに自分が手出しするのは、逆効果になりかねない
部屋に沈黙が流れる。彼女からの返事は、ない
今は彼女を一人にしておくのが良いだろう。そう考え、部屋を後にする為立ち上がる──
「……手を、繋いで」
その寸前で、か細い声が耳に届く。振り返れば、こちらに背を向けたまま差し出された手
手を、繋ぐ。自分が彼女と?
たったそれだけでいいのだろうか
「そのくらいでしたら、お安い御用ですよ」
彼女に背中を預けて座り、差し出された手を握り返す
遠足の夜と同じ、柔らかい手。繋いだ手から伝わる彼女の温もり
異性の手を握る気恥ずかしさなど、問題解決の前には些事だろう
部屋を、再び沈黙が支配する
自分も彼女も、言葉一つ発さず。背中合わせに手を繋ぎ続けた
──どれほどの時間が経っただろうか。日は既に傾きかけ、部屋には夕焼けが射し込んでいる
今まで手をつないだまま黙り込んでいた彼女が、口を開いた
「……ねえ、葵君。私の事を負担だと感じた事って、ないの?」
「ん? 何言ってるんですか。そんな事ある訳ないでしょう」
自分が彼女に負担をかけるならばともかく、その逆などある訳がない
恐らくは彼女を看病した時の事を言っているのだろうが、自分が好きでやった事だ。負担に感じるなど、ある訳がない
「第一、りーさんは我が儘を言わなすぎです。由紀ちゃんくらい……とは言いませんが、少しくらいは我が儘を言った所で誰も怒りはしませんよ」
背中越しに、息を呑む音を聞く
そう、彼女は我が儘を言わなすぎだ。プールの時の様に極稀にはしゃぐ事こそあれど、基本的に長女気質と言うべきか。とにかく我慢しすぎなのだ
由紀ちゃんくらい……は流石に困るが、あのバカ程度には我が儘を言ってもバチは当たらないだろう。ただでさえ普段から、彼女は家計簿や屋上の菜園などで貢献しているのだから
「……そう、なのかしら」
「そーですよ。少なくとも、僕はそう思います」
手から伝わる体温が失せ、彼女が立ち上がる気配がする
そしてそのまま、自分の正面へとやって来た
「……それじゃあ、我が儘を言ってもいい?」
「ええ、どうぞ?」
逡巡する様な表情をする彼女だったが、それもほんの数瞬だった
意を決したかのような彼女を見た次の瞬間、胸に伝わる衝撃
彼女の行動を認識すると同時に、背中に布団の感触が伝わる
次いで、体から伝わる彼女の感触
この間のプールとは比べようもなく。密着としか言いようがないくらいに、自分と彼女の体は重なっていた
「りーさ──」
行動の真意を問おうとするも、その唇は言葉を紡ぐことなく、彼女の唇によって塞がれる
重なり合う唇から伝わる感触は甘く、柔らかい
──永劫とも思える時間が経った。口づけが終わり、彼女の唇が離れていく
惚けている場合ではない。彼女に、真意を問わなければ
「あの、りーさん? これはどういう……」
「……好きなの、貴方の事が。どうしようもないくらいに」
懺悔するかのような、彼女の声
目の前の彼女は、今にも泣き崩れそうで。自分の知る普段の彼女とは、あまりにもかけ離れていた
「我が儘だって事はわかってる。忘れようって思った、諦めようって思った! でも、どうしようもなかったのよ!」
ぽろぽろと流れる涙を拭う事もせず、彼女は叫ぶ
……あぁ。そんな事で彼女は悩み、自分を避けていたのか
「……莫迦ですねえ、りーさんは」
彼女の体に腕を回ししっかりと抱き寄せ、今度は自分から口づけを交わす
目を見開く彼女を優しく撫でながら、精一杯の笑顔で微笑む
正直言って恥ずかしい。恥ずかしいが、はっきりと伝えなければ
何より想い人の告白に応えないなど、有り得はしないだろう
「僕もりーさんの事が好きですよ。……愛してます」
泣きじゃくる彼女を何とかして宥め、部屋には再び静寂が戻った
永遠に抱き合っているのもいいが、そろそろ夕食の時間だ
彼女の手を取り、立ち上がる
「……ありがとう、葵君。私を……私の弱さを、受け止めてくれて」
「いいえ、どうって事はありませんよ。りーさん」
泣き腫れた赤い目を擦りながら、りーさんも立ち上がる
生徒会室に行くまでに言い訳を考えなければならないが、最悪どうとでもなるだろう
寝室を後にする為扉に歩みを進めようとすると、突然、りーさんが再び抱き着いてきた
「ねえ、二人きりの時は私の事、悠里って呼んで?」
「え゛っ」
「……ダメ?」
抱き着きながらも上目遣いでこちらに問いかけてくる彼女。とてもかわいい
ではなく、晴れて恋人になったとはいえ、リーさんの事を呼び捨てにするのは、かなり抵抗がある
長い間りーさんで慣れてしまっているというのもあるが、異性である彼女を呼び捨てにするのは、こう……かなり、恥ずかしい
……とはいえ、大切な恋人の頼みだ。断れまい
「……わかりましたよ、悠里」
「……!」
彼女の表情が、ぱぁっと花が咲いた様な笑顔へと変わる。そして抱き着くのを止め、スキップをしながら扉へと駆けて行った
……わかりやすい
彼女の後を追い、歩みを進める
リアル多忙で一週間半創作から離れてたら、創作の仕方を忘れたの巻
恋愛描写とかクソ苦手なんですよね!!!!!!!