終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

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惑星rimに移住してたり三人組でチャンピオン目指してたり、warzoneに出張してたりしてたらすごい時間経ってた(こなみかん)


27.くろいとり

「いやー、ようやっと晴れたな」

 

 隣で同じく洗濯物を干すカズの、独りごちる様な呟きを聞く

 天を見上げれば、雲一つない澄み渡った青空。昨日までの曇天が信じられないくらいの、絶好の遠足日和だ

 屋上を涼風が吹き抜け、洗濯物がはためく。冬の足音はすぐそこまで迫っていた

 

 遠足への出発は晴れてからにしようというのは、あの日佐倉先生達と共に決めた事だ。流石に出先で雨に降られては、何が起こるかわからない為困るというのが主な理由だ

 計画を決めたはいいものの、あの日以来曇りと小雨の繰り返し。これでやっと安心して遠足に出られるというものだろう

 

 

「にしてもまさかお前が、なぁ?」

 

「……んだよ、悪いか?」

 

「いーや、全然」

 

 くつくつと愉快そうに嗤うカズを睨めつけるが、全く応えた様子はなく。それどころかその愉快そうな笑みを、ますます増していくばかりだ

 その笑みの中に、純粋な祝福の意も感じ取れるのだからタチが悪い

 蹴りの一つでも入れてやろうかとも思うが、遠足の前につまらない怪我をされても困る為自重する

 

 ……コイツの反応は、ある意味正しい

 俺が逆の立場だったら同じ様に揶揄うだろうし、同じ様に祝福をするだろう

 十五年もの間連れ添って来た友の幸福を願う事は当然で。それに関して揶揄う事こそあれど、その事自体を祝福しないなどあり得まい

 

 コイツの隣に俺以外の誰かが居る光景など想像もつかないが、その逆もまた然りだったというだけの話だ

 正直な所、自分でもりーさんと恋仲になるなど思いもしなかった。一年前の自分にこの事を告げたとしても、病院を勧められるのがオチであろう

 

「ま、なんだ。お前も随分と丸くなったな? 前とは大違いだ」

 

「……そうか? 俺としちゃ実感ねえけど」

 

 実感はないが、コイツがそう言うのであれば、そうなのだろうか

 そんな事を考えながらも、空となった籠を片手に屋上を後にする

 階段を下り、三階廊下へと。耳を澄ませば、いつもの部屋で遠足の準備をしているであろう声が聞こえてきた

 軽く手を振ってカズと別れ、生徒会室の扉を開く

 

 

 

「ただいま戻りましたー」

 

 扉の先には、最早見慣れたと言ってもいい由紀ちゃん達の姿。遠足出立前とあってか、珍しく全員がこの部屋へと集まっている

 こちらの存在に気がついたのか、 戯れあっていた(一方的に絡んでいる)由紀ちゃんと美紀さんがこちらへと手を振ってくれていた

 その傍らには、一冊の手製らしき冊子。数ページ程しかないであろうそれを手に取り、パラパラと捲る

 

「おかえりー!」「おかえりなさい、葵先輩」

 

「これは……しおりですか? 随分と気合が入ってますね」

 

「はい、準備する時間が余っているからと、由紀先輩が」

 

 目的地……リバーシティ・トロン・ショッピングモール(あとなんか色々)、スケジュール……三、四日くらい

 持ち物の欄にお菓子の文言がしっかりと記されているのは、由紀ちゃんらしいと言うべきか

 

 ……流し見をしてみて気がついたが、由紀ちゃんが一人で作ったにしては、レイアウトが随分と小綺麗だ

 遠足の心得なる場所に書かれた文字からしても、美紀さんをはじめとして皆が巻き込まれたであろう事は想像に難くない

 字の様子からして、なんだかんだと楽しんであろうという事がわかるのが幸いだろうか

 

 

「……あんまり美紀さんに迷惑かけちゃダメですよ?」

 

 由紀ちゃんの襲来を押し除けている美紀さんへと冊子を返し、予定を再確認していると思しきりーさん達のもとへと歩みを進める

 

「お疲れ様です。僕も手伝いましょうか?」

 

 声をかければ、机に置かれた地図に向けられていた三人の視線がこちらへと向く

 地図には、前回も訪れたショッピングモールを初めとして、いくつかの赤丸が確認できる。恐らく今回の遠足における目的地の候補だろう

 

「おう、おかえり。前は葵達に任せっきりだったし、今回はアタシ達がやるよ」

 

「葵君はゆっくりしてて? 予定は私達で決めちゃうわ」

 

 別に大した労力でもないので手伝おうかとも考えたが、断られてしまった

 部屋の隅に置かれていた椅子へと腰掛けながら、地図へと向き直るりーさん達を眺める

 

 予想よりも早く暇になってしまった。洗濯物が乾くにはまだあまりにも早いであろうし、この部屋で話し相手になりそうな二人は、今なお戯れあって(由紀ちゃんが一方的に絡んで)いる

 残っている暇潰しの相手は、今どこに行っているかもわからない。わざわざ探しに行くのも面倒だ

 

 ぼんやりと、当てもなく思考を彷徨わせる──

 

 

 

 ──部屋に変化が訪れたのは、その数分後だった

 美紀さんと楽しそうに話をしていた由紀ちゃんが、突然その口と動きを止めた。部屋全体が、ほんの少し静かになる

 次いで、呟く様な彼女の声

 

「……何か、聞こえた」

 

 その言葉を聞いた瞬間、意識が急浮上する。先生達と共に地図へと向き合っていたくるみちゃんも、傍らのシャベルを手に取り椅子から腰を上げ、耳を澄ませている

 

 物音一つすらしなくなった室内から耳を澄ませば、何処かからほんの僅かに聞こえる、大気を切り裂く様な音

 日常においてはあまりにも聞き慣れた、されどこの終わってしまった世界においては、聞くはずもない音。この音の正体は──

 

「ヘリコプター……?」

 

 

 誰のものともつかぬ呟きが、部屋を駆ける

 その音は少しずつ、されど確実に大きくなってきていて──

 

「葵っ、屋上!」

 

「……了解! 皆さんも早く!」

 

 部屋から飛び出すくるみちゃんに追随し、部屋から駆け出る。つい先刻通った階段を駆け上がり、再び屋上へと

 相もかわらず晴れ渡った空を見上げれば、そこに見えるのは大気を切り裂きながら羽ばたく鉄の鳥の姿

 遅れて、由紀ちゃん達が屋上へとやって来た。天に浮かぶ鉄の鳥の姿に瞠目しながらも、自分達と同じく天を見上げている

 

 

 ──何処かから救助にやってきた?

 ──今更になって、何故?

 ──いや、そもそも

 

「あれは、どっちだ……?」

 

 漏れた呟きは、羽ばたきの音に掻き消される

 問題は、あのヘリは何処から、何を目的にここにやって来たかという事だ

 

 政府ないしそれに類する組織から来たのであれば、おおよそ安全であると言って良いだろう

 全員があのヘリコプターに収容できるとも限らないが、その場合は彼女たちを優先して救助して貰えれば何も問題はない

 

 ……問題は、あのヘリコプターがランダル・コーポレーションなる組織の物だった場合だ

 その場合においては、かの組織が友好的であるとも限らない以上、避難あるいは逃走も視野に入れなければならない

 こちらとしても、安定している住居を失うのは惜しい。出来れば前者であって欲しいのだが──

 

 

「……なんかあれ、怖い」

 

「……大丈夫よ由紀ちゃん。きっと、みんなを助けに来てくれたのよ」

 

 由紀ちゃんの呟きが、耳に入ってきてしまう。それに伴う佐倉先生の言葉は、安心するには酷く頼りない

 こういった時の彼女の勘は頼りになるというのは、嫌と言うほど知っている。嫌な汗が、背筋を伝う

 

「……あの、揺れて、ませんか?」

 

「どう……かしら。着陸するんじゃないの?」

 

 嫌な予感を他所に、鉄の鳥はふらふらとその身体を揺らしながら、高度を落とし続ける

 その姿はまるで──

 

 

「……やっべえ!」

 

 限りなく素に近い言葉遣いが、口を衝いて出てしまう

 目に入ったのは、大きく身体を傾ける鉄の鳥の姿

 

 ──何かがひしゃげる音が響き渡り、立ち昇る黒煙。鉄の鳥は、その身を地へと堕とした

 

 

 

 

「美紀っ、行くぞ!」

 

「はいっ!」

 

「葵はめぐねえ達を頼む!」

 

 くるみちゃんが、美紀さんを伴い扉へと駆けて行く

 自分は、ここで彼女達を見送るべきなのだろうか?

 

 彼女を引き留めたとして、彼女はそれを聞かないだろう

 また、佐倉先生達を放っておかないというのも事実だ。万が一避難が必要な事態になった場合、護衛もなしでは奴らの群れの中を歩けまい

 

 されど彼女達二人では、あの墜落現場から還る事が出来るかどうかは、疑わしい

 墜落の音に釣られ、奴らはあの現場へと引き寄せられているだろう。ともすれば、学校の外からも

 そんな場所に、彼女達だけで行かせていいものだろうか?

 

 

 僅かに逡巡している間に、既に彼女達の姿は消え去っていて

 代わりに目に飛び込んできたのは、扉を開け放つカズの姿

 

「すげえ音が聞こえたんだが、何があった!?」

 

「丁度いいとこに来た、くるみちゃん達を連れ戻してきてくれ! 多分ヘリが堕ちたとこに行ってっから!」

 

「お、おう!」

 

 明らかに事態が飲み込めていないカズに、半ば命令染みた指示を出す

 駆けていくカズを見送りながら、フェンスにもたれかかり、一息つく

 ……一先ず、これで次善の手は打ったものと思いたい

 

 

 

 

Side:恵飛須沢胡桃

 

 バリケードを飛び越え、誰もいない廊下を駆ける。まだ日は高いにも関わらず、辺りに”かれら”の姿は一つもない

 傍らを駆ける美紀に、疑問をぶつける

 

「……なぁ、少なくないか?」

 

「……減るはずはないですから、どこかに集まっているんでしょう」

 

 若干息を切らしながらも、冷静な言葉が返ってくる

 ……あぁ、そうだ。そんな事はわかりきっていた

 

「……どこに?」

 

「それは、多分──」

 

「おーい、大丈夫か!」

 

 美紀の言葉を遮る様にして廊下に響いたのは、上階から階段を駆け下りてくると思しきカズの声

 その声を聞き、思わず立ち止まる。声の主は、あっという間にこちらへと追いついてきた

 

 

「ふー、アイツにお前らを連れ戻してこいって言われてな。……んで、何があった?」

 

「……救助に来たらしいヘリが、堕ちた。誰か生きてるかも知れないから、助けにいく」

 

 どうやら、事態を完全には把握していない様で、葵の指示でこっちに来たらしい

 息を整えながらも、カズは口を開く

 

 

「脱出してる可能性があるにしろ、多分、生きちゃいねえぞ?」

 

「わかってるよ」

 

「アイツらだって集まってるだろうし、すげえ危ねえぞ?」

 

「それもわかってる」

 

 明らかにアタシの無謀を咎めるような視線が、アタシを射抜く

 それでもこっちにだって、譲れない事の一つや二つくらい、ある

 ここで目を逸らす訳には、いかない

 

 ……ややあって、諦めた様に頭を掻きながら、カズは溜息をついた

 

「……わぁーった、なら俺も行く。そっちの方が安全だろ?」

 

 

 

「三つ数えたら行きます。……三、二、一」

 

 美紀の引き抜いたブザーの音が辺りに鳴り響くと同時に、堕ちたヘリの方角へと駆け出す

 突き出される”かれら”の腕をシャベルで弾き、進路を確保する

 目に見える全部を相手にしちゃいられない。最低限だけを相手にして、切り抜けなければ

 

「前は俺が拓く。くるみは美紀のカバーをしてやってくれ!」

 

「りょーかいっ!」

 

 そんなやりとりをしている間にも、美紀に手を伸ばそうとしている”かれら”が一人。美紀がケミカルライトを投げているが、日中の屋外故か、効果が薄い様だ

 ──それでも、稼いだ時間は十二分で

 

 首元を狙い、シャベルを振りかぶる

 突き刺さるシャベルに、倒れ込む”かれら”

 

「わりぃ、大丈夫か?」

 

 動かなくなった”かれら”を置き去りにして、再びヘリの方角へと

 前へ、前へ。息を切らしながらも、走り続ける

 

 

 

 廃車の影へと滑り込む

 視線の先には、今尚黒煙をあげ続けるヘリコプターと、それに圧し潰されたいくつかの乗用車

 

「……無理だな、ありゃー」

 

「で、でも……」

 

「あの中じゃ、助かりません」

 

 左隣でカズが力なく首を横に振り、右隣では美紀がアタシを引き留めるかの如く、服の裾を掴む

 

「……まぁ、万が一って事もあるか。周りをある程度捜索して、校舎に戻るぞ」

 

 

 そう言って立ち上がるカズに倣い、アタシも立ち上がる

 ──ふと、目に留まったのは一台の車。いいや、正確にはその車から漏れ出たと思しきガソリン

 火が、着いている。その先にあるのは──

 

「──伏せろっ!」

 

 その言葉と同時に、爆発音が鳴り響いた

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