Side:若狭悠里
あの出来事が夢であったなら、どれほどよかっただろうか
──私の願いは、顔を照らす朝日によって打ち砕かれる
瞼を開け、辺りを見回す。どうやら私以外に起きているのは白井君だけだ
他の三人はまだ眠っている様で、まだ起きる様子は見られない
「おはようございます、若狭さん」
私が目を覚ました事に気が付いたのか、校庭を眺めていた彼が声をかけてくれる
「おはよう白井君。もう起きてたの?」
「昨日は眠った時間がいつもより早かったですから、自然に目が覚めてしまって」
「それより体は大丈夫でしたか?ブルーシートを敷いてるとは言え下はコンクリートですから」
「大丈夫よ。白井君の方こそ大丈夫だった?」
「ええ、一日くらいだったら平気です。流石に何日もとなると勘弁して欲しいですが」
そう言って、肩を回す仕草をしながら彼は笑う
……無理をしている訳ではなさそうで、少し安心する
白井君との会話を終え、屋上に静寂が戻る
彼は相変わらず校庭を眺めていて、その様子は何かを警戒をしている様にも見える
バリケードも完成していて、昨日校庭に見えたあの動く死体(の様に見えたもの)達ではここには入ってこれないはず
それなのに、一体何を警戒しているのか──
そこまでぼんやりと考えた所で、私の体が空腹を訴える。そういえば昨日のお昼から何も口にしていない事に気づく
(収穫できるようなお野菜、あったかしら……)
夏野菜ならいくつか収穫できるものもあるかもしれない。そう考え確認の為に立ち上がろうとしたその時
「んっ……あ、あれ?」
佐倉先生が、目を覚ました
「っ! 先生!」
「若狭さん……?」
先生はまだ完全に目が覚めていないのか、ぼんやりとしながら辺りを見回していて
「ん、おはようございます先生」
白井君も私の声に気づき、先生に声をかけている
「んゅ……めぐねえ……?」
「……なんだなんだー?」
私の声に反応したのか、丈槍さんとくるみも目を覚ます
二人ともおはようございます、という白井君の声を聞きながら佐倉先生が目を覚ましたことに気づいたのか
「めぐねえっ!」
「目が覚めたのか、めぐねえ」
丈槍さんが佐倉先生に抱き着き、くるみは安心したように声をかける
昨日先生が倒れた時はどうなる事かと思ったけれど、これで一先ず安心できそう
Side out
全員が目を覚まし、佐倉先生達も顔を洗い終えた
今後の方針を決める為にブルーシートの上に集まる
「それじゃあ今後の方針を……っと、その前に」
バッグからポテトチップスの袋を取り出す。110g程の、大容量タイプ
全員で分ける分には少ないが、気分転換にはなるだろう
「昨日家に帰ったら食べようと思ってた物なのですが、よかったら皆さんで分けてください」
──丈槍さんの目が輝く
「いいの!? やったー!」
「……昨日もそうだったけど、本当にいいの?」
恐らくブルーシートの事を言っているのだろう。若狭さんが不安そうに尋ねる
「いいんですよ、僕は生で食べられそうな野菜を適当に食べますので。それに気分転換も必要でしょう?」
「……そう、じゃあいただくわね。ありがとう、白井君」
丈槍さんと恵飛須沢さんは既に食べ始めていて、若狭さんもそれに続く
「ほらめぐねえ、めぐねえも食べよう!」
「いいえ、私はいいからみんなで食べて? あとめぐねえじゃなくて佐倉先生でしょ?」
「はーい、めぐねえ」
彼女達にわずかに活気が戻る。見ていて微笑ましい
「とりあえずそれを食べながらでいいので、方針だけ決めてしまいましょうか」
話し合いの結果、三階から順々に制圧していく事に決まった
「わかりました……でも、無理はしないで危なくなったらすぐ帰ってきてね?」
佐倉先生は生徒を危ない目に遭わせる事に否定的だったが、なんとか説き伏せて許可を貰う
制圧に関しては一人で行って、他の四人にはバリケードを担当して貰うつもりだったが……
「いや、あたしも行く」
恵飛須沢さんからそう言われた時は、正直昨日の彼女の件もあってかなり気は進まなかったが
「一人じゃ危ないだろ? それに白井もめぐねえにかなり我が儘言ってたし、お互い様だ」
・・・・・・こう言われては、返す言葉もなかった
両手用シャベルを借り受け、恵飛須沢さんも昨日のシャベルを担ぎ、階段へと向かう
「……無理、しないでね?」
丈槍さんの見送りを受け、屋上への扉を閉める
電気はついておらず、校内は薄暗い
「それじゃあ本当に無理はしない様にしてくださいね?お互いをカバーできる様に、あまり離れないでください」
「わぁーってるって」
まずは三階教室方面の排除に乗り出し、一体一体、慎重に処理をしていく
何体か処理してみてわかった事だが、やはり定石通り頭を潰せば殺せるらしい
血が飛び散れば汚い上に気持ち悪いし、悪臭も漂う
人間だったモノの頭部にシャベルが突き刺さる様は正直グロテスクだし、ゲームだったら明らかに18禁待ったなしの映像だ
それでも、言ってしまえばただそれだけに過ぎない
いつでも恵飛須沢さんをカバーできる様に意識しながら、シャベルを振るい人間だったモノを死体へと変えていく、単純な作業
そんな作業が、どこか楽しい
いつの間にか、職員室前まで排除は終わっていた
・・・・・・昨日屋上に押しかけてきた分を考慮しても、思ったよりも数が少なかった
殆ど3階の生徒は下校していたのだろうか
それに死体の処理にも困る。流石にこんなものがゴロゴロ転がっているのを、丈槍さん達に見せる訳にはいかない
「……んー、裏にでも捨てちゃいますか。流石に見える場所に置いておくのもアレですし」
恵飛須沢さんからの返答は、ない
不思議に思い彼女の方へと視線を向けると、彼女はこちらを見つめていた
「……恵飛須沢さん?」
「……ッ! いや、なんでもない」
何かを誤魔化す様な様子の彼女。……もしかしたら、処理した中に仲のいい友人がいたのかもしれない
だとしたら、本当に辛い事をさせてしまったのかもしれない
「とりあえず、倒したのは窓から学校の裏側にでも捨ててしまいましょう。このまま放置しておく訳にもいきません」
「……そう、だな」
やはりどこか歯切れが悪い。無理をしていないだろうか
「大丈夫ですか? 処理自体はしましたし屋上の方に戻っていても……」
「いや、いい。あたしもやる」
会話もなく、死体を窓から落としていく音だけが廊下に響く
数はそこまででもないので大した時間もかからず終わりそうではあるが、元人間とだけあって、それなりに重い
不意に、恵飛須沢さんが口を開く
「……なぁ、白井って」
「ん?どうしました?」
死体を窓から放りながら、聞き返す
「……いや、なんでもない。忘れてくれ」
「そう言われると、余計に気になるものなのですが」
「ははっ、わりぃわりぃ。でも本当になんでもないから忘れてくれ」
誤魔化すような彼女の笑顔。……後で佐倉先生にケアを頼んだ方がいいかもしれない
脳内で予定を組み込み、作業を続ける
「戻りましたよー」
「ただいまー」
出来得る限り体を綺麗にして、屋上へと戻る
流石に血は落ちないが、意識しないよりマシだ
「おかえり! 大丈夫だった?」
「ええ、思ったより数が少なかったのでなんとか」
丈槍さんが出迎えてくれる。佐倉先生と若狭さんはどうやら収穫できそうな野菜を選んでいるらしい
会話をしながら佐倉先生の下へと向かうと、佐倉先生が慌てた様子で駆け寄ってくる
「二人とも、大丈夫だった!?」
「勿論。ご覧の通りです」
「あたしもヘーキ。心配しすぎだってめぐねえは」
佐倉先生に一先ず三階は目につく限りは処分してきた事と、思ったよりも数が少なかったことを伝える
「数が少なかった……?」
「ええ、昨日扉に集結してきた数と部活で残っていた数、教員の数から考えても少なかった気がします」
考え込む先生。正直、今判断するには情報が少なすぎる
「まぁとりあえずその事に関しては後で考えましょう」
「……そうね、今考えても仕方がないものね」
「皆! 少し早いけどお昼にしましょ?」
そう結論付けていると、若狭さんが生野菜を運んできてくれる
「ほら、二人とも手を洗ってきて?」
促されるままに、手洗い場へと向かう
相談をしながら食事を終え、今度は全員で校舎の中へと入る
「それじゃあ、階段三か所にバリケード作っちゃいましょうか」
念のためにシャベルを携帯しながら、バリケードを作り始める
重量はある為そう簡単に倒れたりはしないだろう
下から奴らが現れたりはしないか警戒をしながら、作業を続ける
「ん~、終わったー!」
作業を始めた時間が早かったおかげか、夕方前には作業を終えることができた
「それで、これからどうしましょう? 今から購買部にでも向かいましょうか?」
屋根のある場所は確保したが、食糧の問題は依然として存在している
いつまでも生野菜という訳にもいかないだろう
「……そうね、丈槍さん達は使えそうなお布団を探してきてくれるかしら? 私と白井君は職員室で食べられそうなものを探すわ」
そういって佐倉先生は丈槍さん達に指示を出す。流石にこれ以上危険を冒すのはマズイと判断したのだろう
「ん、わかった。ほらいくぞー」
そう言って恵飛須沢さんは二人を連れ捜索に出かける
・・・・・・無事なものが見つかるといいが
「それじゃ、私たちも探しに行きましょ?」
職員室へと入り、シャベルを入口の傍へと立てかけ捜索を始める
職員机の引き出しなどを開け、食べられそうなものを探す
「……ごめんなさいね、本当は大人である私がやらなきゃいけなかったのに」
……恐らく生徒を危険に晒した事を気にしているのだろう
どこまでも優しく、生徒想いな先生だ
「いいんですよ、こういうのは適材適所です。それに恵飛須沢さんのおかげでだいぶ楽でしたし」
「恵飛須沢さんにも、謝っておかないと……」
「……あぁ、その恵飛須沢さんの件なんですけど」
佐倉先生が不思議そうな顔をしながら、こちらに振り向く
「様子が、変だった?」
「ええ、三階を制圧した後、どうも様子が変だったと言いますか……」
三階を制圧した後の彼女の様子を、見た印象そのままに佐倉先生へと伝える
「僕としては処理した中に親しい友人がいたのではないかと思ってるので、できれば先生にケアして貰いたいと……」
「……わかった。先生が何とかしてみるわ」
「ありがとうございます。僕はどうもこういうのが苦手でして……」
会話を終え、捜索を再開する
「先生、お湯って使える環境ありましたっけー?」
「確か生徒会室に台所があったはずだから、そこで使えるはずよ」
捜索を終え、見つけたものは未開封のお菓子が数個とカップラーメンが六つ程
……やけにカップラーメンをため込んでいた先生がいた事が幸いだった
「それじゃ、私たちも合流しましょうか?」
「ええ、と言っても合流地点を指定し忘れましたが」
まぁ三階はそう広くないので、歩いていれば見つかるだろう
そう考え、職員室を後にする
──結果として丈槍さん達は全員分の布団を見つけた様で、比較的被害が少なかった資料室に運び込んだ後だったらしい
夕食の時間までまだ余裕があるので、今日は夕食の時間までお開きとなった
Side:恵飛須沢胡桃
──まだあの感触が、手に残っている
シャベルに付いた血を洗い流しながら、そんな事を考える
人だったモノの頭へシャベルを突き立て、殺す感覚
級友だって居たかもしれない。部活の友人だって居たかもしれない
殺さなきゃこちらが殺される。わかっている
噛まれたら先輩の様になってしまう。わかっている
それでも、あの感触が頭から離れない
そんな中アイツは平然としていた
平然とシャベルを突き立てて殺し、平気な顔をしていた
あまつさえ、どこか笑ってさえいた
声をあげて笑っていた訳じゃない
ただ……そう、ゲームをしている様な、楽しげな笑顔
──私は、アイツの感覚がわからない
それが、どこか恐ろしかった
くるみちゃん絶賛SAN値削れ中
原作より多めに削れております
その分ゆきちゃんは原作より正気度高いからヘーキヘーキ