終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

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仕事してたり文体を忘れてたりしてたら1年半経ってるってマジ?
短めですが、どうぞ

次回は未定です


30.ちかい

Side:丈槍由紀

 

 “それじゃ、行ってきますね”

 

 そう言い残して、それぞれの武器を携え二人はシャッターの向こうへと消えて行く

 金属の軋む音が止み、シャッターが完全に降ろされた。残されたのは未だへたり込むりーさんと、その隣に佇むわたしだけ

 

「嫌、いかないで、いや、いや・・・・・・」

 

 縋る様に。うわごとの様にただ言葉を繰り返す

 それは今までわたしが見たことのないりーさんの姿で。普段のりーさんからは想像も出来ない様な、あまりにも弱りきった姿で

 或いは彼だけに見せていた、見せる事のできていたりーさんの本当の姿なのかもしれないけれど

 

 

「・・・・・・わたしだって、一緒に行きたかったよ」

 

 小さな声が口から溢れる

 

 わたしも一緒に行くと、葵くんに伝えたかった

 

 くるみちゃんも、みーくんも、カズ君も。葵くんも、めぐねえだって

 みんな戦ってる。いつかみんなで笑い合う為に、最善を尽くそうと努力している

 そんな中で、わたしだけが何もしない訳にはいかない

 

 ──でも

 

 

 “ええ、約束です。由紀ちゃんも、りーさんをお願いしますね?”

 

 必ずみんなで帰ってくる。葵くんはそう約束してくれたから

 葵くんが、わたしを頼ってくれたから

 だから、わたしは

 

「大丈夫。約束したもん」

 

 体を優しく包む様に抱き寄せながら、静かに囁く

 大丈夫、大丈夫、と。幼子をあやすかの様にゆっくりと頭を撫でながら、只々繰り返す

 胸の内の嗚咽が止むことはなく。静まり返った地下に、ただ囁く様な声と嗚咽が響く

 

 わたしの言葉が、今のりーさんにどれほど届いているのかはわからない

 もしかしたら、いやもしかしなくても今のりーさんに必要なのはわたしの言葉なんかじゃなく彼の言葉、彼の存在なのかもしれない

 

 それでも

 

 わたしの戦場は、ここにある

 

Side out

 

 

Side:恵飛須沢胡桃

 

 校舎を飛び出して来てから、どれ程の時間が経っただろう

 

 数分か、数十分か。それとも数時間なんて事もあり得るだろうか。戦いの中で時間感覚は薄れ、もうどれ程の時間が経ったかなんて分かりやしない

 

 額どころか身体中に玉のような汗が浮かんで気持ちが悪い。シャベルのグリップはびしょびしょで、気を抜くと手から抜けてしまいそうな程だ

 アタシたちを援護する術を失った美紀を背に、肩で息をしながらも手の中にある得物を再び握り直す。幸いにして、まだ”かれら”からの怪我は、誰一人として負っていない

 

 

「ったく、全然数が減らねえな」

 

 呆れる様なカズの声は、短いながらも現状をよく表していた

 

 眼前に広がるのは、相変わらずの景色。燃え広がる炎に、無数の”かれら”の群れ

 ”かれら”の群れは、少しは密度を減らした様に見えなくも無いが、依然として突破をするには厳しい。むしろ、今までの戦いにおいて体力を消耗してしまった分、厳しくなったかもしれないくらいだ

 

 このまま無策に戦いを続けていれば、先にこちらの体力が尽きるのは明白で。それをどうにかしようにも、敵の群れを確実に突破する手段が見つからない

 

 

「で、どーするよ?」

「一先ず、美紀だけでも安全な場所に移動させたい」

「成る程な。具体的な案は?」

「・・・・・・」

 

 小声で語りかけてくる声に、無言を返す

 案がない訳では、無い。幸いにして、一時的に避難をするだけであれば候補には恵まれている

 目前へと迫った頭に、シャベルを振り抜く。物言わぬ死体へと戻った”かれら”の一人から視線を外し、視線を一台の廃車へと向ける

 

 あそこであれば、ここからそう離れてはいない

 校舎から少し遠ざかる分今まで以上に脱出は厳しくなるが、車の中に入ってしまえば、美紀は安全だ

 少なくとも、アタシ達が戦っている間は

 

 傍らの”かれら”にバールを振り抜いたカズに、視線で車を示す

 あの二人の様になんでも以心伝心とはいかないが、視線の先にある物を見て察してくれたらしい

 

 

「あーいよ、そんじゃ俺が前行くわ。──美紀! あそこまで移動するぞ!」

「は、はいっ!」

 

 二人が駆け出した事を確認し、後に続く

 距離にして約十数メートルを一息に駆け、足を止めると同時にひび割れた窓を裏拳打ちの要領で叩き割る。割れた窓から腕を突っ込んで中を弄れば、すんなりと車のドアは開け放たれた

 

「早く入れ。美紀」

「でも、先輩達が」

「いいから。アタシ達のどちらかがへばった時に交代出来る様に休んでてくれ、な?」

 

 正直、一秒の時間すらも惜しい。未だに難色を示している美紀を車の中へと押し込み、扉を勢いよく閉める

 

 一先ず、これで美紀は安全だ。体を反転させ、再び”かれら”の群れへと向き直る

 相も変わらず、うんざりする程の数だ。よくもまぁここまで集まってくるものだと、少し感心するくらいに

 

 

 なんて事を考えながら、自身にほんの少しだけ余裕が出来ている事に気がついた。美紀が安全になったからだろうか

 余裕があるのは良い事だ。余裕なんてものはあると思えばあって、ないと思えばない。そういうものなのだと、昔誰かに聞いた気がする

 自然と、唇が笑みの形へと変わるのがわかった

 

「なんだ。随分と余裕そうじゃねえか?」

「そっちは随分と大変そうだな、手伝ってやろうか?」

「ハッ、ナイスジョーク。流石にそこまで落ちぶれちゃいねーよ。あんま張り切りすぎんなよ? 俺たちの目的は殲滅じゃねえんだからな」

 

 軽口を叩き合いながらも、お互いの死角をカバーするかの如く背中合わせに己の得物を振るう

 突出し過ぎない様に、体力を使い過ぎない様に。少しずつ、数を減らしていけばいい

 

 幸いにして、先程よりも体は軽い。心の余裕もある。何の根拠も無いがきっと大丈夫。そう、思えたんだ

 

 

 ──ああ、後になって思えば、美紀の安全性が確保されたからか、私は油断していたのかもしれない

 油断というものは、些細なミスを引き起こし得る。どんな些細なものであろうと、極限の状況下においては致命的だ

 

 

 

 何体目かの”かれら”にシャベルを振おうとした時、砂が擦れる様な音と共に、突如として視界が僅かに沈む

 コマ送りの様な視界を眺めながら、アタシが足を滑らせたのだと理解するのに、そう時間はかからなかった

 そのままの体勢でシャベルを振るうも、不完全な体勢からか”かれら”を即死させるには至らない

 シャベルによって傷ついた顔が、アタシへと迫る

 

 真横で”かれら”を倒していたカズがアタシをカバーしようとしているみたいだけれど、きっともう遅い

 第一、バールを振り抜いた直後の体勢だ。再び構えて振り抜くよりも、アタシが噛まれてしまう方が早い

 

 そう、思っていた

 

 

「──チィっ!」

 

 ほんの僅かな鉄の匂いと共に、鮮血が舞う

 何ががぶつかる感触。衝撃ともに、アタシの体は真横へと突き飛ばされる

 アタシが見たのは、体当たりをしてきたカズの姿。そして

 

 鮮血を滴らせる、彼の右腕だった

 

 

 

 

 

 思考が真っ白に染まる

 何故、私は地面に転がっているのか

 何故、彼は私を庇ったのか

 何故──

 

「呆けてんじゃねえ! さっさと前を向け前を!」

 

 罵声と共に”かれら”が蹴り飛ばされ、その顔面にバールの先端が突き刺さる

 死体へと還ったそれを顧みる事なく。無事な左腕で地面のシャベルを手に取るとこちらへと滑らせ、血の気を失い今にも飛び出して来そうな様子の美紀へまだ待機していろと言わんばかりに右手を突き出した

 

 

 痛みを堪えながら立ち上がる

 シャベルを握ればだんだんと視界が広がってきて。真横から近づく”かれら”にシャベルを突き立て、アイツの元に駆け寄る

 

「・・・・・・ごめん。大丈夫じゃ、ないよな」

 

 今のは明らかにアタシのミスだった。油断をしていたのは自分で、それによって傷を負うのはアタシであるべきだった

 コイツが代わりに傷を負う理由なんて何一つとしてなかったのに、アタシのせいでコイツは、刻一刻と命を蝕まれている

 

 

「その話は後。先ずはここを切り抜けんのが先だ」

 

 話は終わりとばかりにアタシから視線を外し、無事な左手にバールを持ち替えるとそのまま背中合わせに向き直る

 ”かれら”に対しているカズの方を盗み見れば、それほど相手をするのに労していない様に思えたのは不幸中の幸い、と言うべきだろうか

 

 いけない、しっかりと気を引き締めなければ

 また二度と同じミスを繰り返す訳にはいかない。手の中のシャベルを握り直し、呼吸を一つ

 ・・・・・・もう、大丈夫だ。先程より少し明瞭になった思考と共に、”かれら”へと体を向ける

 

 そこから先は、さっきまでと同じ事の繰り返し

 ”かれら”の頭に武器を突き立て。時にカズの隙をカバーし、時にアタシの隙をカバーしてもらう

 不明瞭なタイムリミットの下、お互いの存在を頼りに少しずつ、少しずつ人ならざる者の数を減らしていく

 

 

 

 そして。それが訪れるのに、そう時間はかからなかった

 アタシの背後で”かれら”からバールを引き抜いた彼の体が、何かを聞き留めたかの様に突如として止まる

 背中越しでは表情の全てを窺い知る事は出来ないが、唇はどこか笑っている様に見えて

 

「──やっとこさか。救世主様のご登場だぜ?」

 

Side out

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