VCCGTAが面白すぎたので執筆の時間が全く取れませんでした
「こっちの方は大丈夫です、姿は見えません。
そっちの方はどうです?」
「・・・・・・大丈夫、かしら。
昨日はあんなに居たのに」
朝食を終えた皆を引き連れ、焼け焦げた廊下を歩く
万が一に備えて全員で集まって行動し、先生を含む戦える四人で四方を警戒しているものの、地下を出て以来動く”かれら”の姿は一つたりとも見ていない
その代わりに時折目に入るのは、焼死体と化した”かれら”。これは外よりも寧ろ校内に多く、放置しておくのもアレな為窓から処理する必要があり少し面倒くさい
ともあれ、この分では学校の敷地内に居た”かれら”は火事で殆ど全滅したと見て良いだろう。事実、手近な教室内に入って作戦会議をする余裕さえある程だ
今日の一先ずの目的は、校内の確認と燃え残った物資の確保。その点は地下に居る時点で皆の意見は一致していた
どれだけ上に”かれら”が残っているか不明だった為効率が悪くとも全員で集まっていたが、その必要性があるかどうかすら怪しい
「それで、どうすんだ?
カズが怪我してるとは言っても、ここまで安全なら別れても良い気がするけど」
「そうね・・・・・・ それじゃあ、各階毎に三組で別れましょうか?
それなら効率もいいんじゃないかしら」
「じゃ、アタシは美紀とだな。
それで良いか?」
「はい、お願いします先輩」
「じゃあ僕は──」
役割分担が決まっていき、作戦会議が進んでいく。その最中
不意に重なる手のひら。そしてそこから伝わる言い様の無い威圧感に首筋に嫌な汗が伝う
その発生源は、振り返らずとも解る。第一にそのポジションに居るのは一人しか居ない
他の皆には伝わっていない様であるのが唯一の幸いと言うべきだろうか
「あ、はい。じゃあ僕はりーさんとで。
先生、カズと由紀ちゃんを頼めますか? いざとなったらそこのアホ盾にしていいので」
「ええ。わかったわ。
それじゃあ白井君、若狭さんをよろしくね?」
「はい、では解散で。
大声で呼んで貰えれば駆けつけますから」
彼女たちが上階へと去っていくのを見送り、小さく息を吐く
燃え落ちた廊下に残されたのは二人。結ばれた手を握り直し、彼女へと視線を向ける
そこにあったのは、花開かんばかりの笑顔。先ほどまで威圧感を放っていた人物と同一人物とはとても思えない程だ
少なくとも、傍目には昨日の夜の状態からはかなり
「それでは、行きましょうか?」
「ええ、よろしくね? 葵君」
はじめに足を踏み入れたのは学食と購買部の兼用倉庫。そこを手分けして残った物資を探る
金属製の棚が立ち並ぶ倉庫はしかし。元々物が多くなかった事もあるが、やはりと言うべきかその殆どが燃え尽きしまっており、棚に残っている物資は数える程しかない
収穫と言えばその僅かに残った缶詰の類。ただ、地下の物資量からして必要があるかどうかは怪しい所だ。一応一箇所に纏めておこう
「・・・・・・ん?」
倉庫に残った物資を集めている内に、視界の端に金属製の箱が映った
生憎とここにあった全ての物資の内容を覚えている訳ではない。記憶を探っている内に近くへと寄ってきていたりーさんも記憶にないのか、小首を傾げている
「何でしたっけ、これ。記憶にないんですけど。
というかこんなのありましたっけ?」
「わからないけど、開けてみたらいいんじゃないかしら。
害とかがある訳じゃないでしょ?」
ごもっともである。見たところ表面が少し煤に塗れているものの、中から膨張した様子もなければ破裂する様子もない。蓋に指をかければ手応えは軽く持ち上がる
中に入っていたのは、未使用のカセットコンロとそれに対応しているガスボンベが幾つか。それに加え外で使用する目的と思しき着火用具
特筆するべき点として、今まで使用していたタイプとは違う型のカセットコンロだ。以前ここを検めた時にも見た覚えはない
「・・・・・・これ、見覚えあります?
上にあったのとは違うタイプですよね」
「私も見た覚えはないわ。
もう少しデザインが違った気がするもの」
「ってなると、
確か前にここの在庫チェックした時もアイツと一緒でしたし」
出自に多少の不審点はあれど、これは有用な物資だ。残っていた事に感謝しつつ有効に使わせて貰うことにしよう
特に調理用具の類は地下にも在庫がなかった。地下の物資が加熱せずとも食べられるとは言え、やはり温かいご飯とそうでないものとでは士気に差が出る事は確かなのだから
確かな戦果に満足し箱を廊下へと運び出し、その後も事務室、保健室、技術室、資料室等を巡るが目立った発見はなく目ぼしい部屋の探索を終えることとなった
思ったよりも早く探索が終わってしまった
元々
さて、これからどうしたものだろうか
「どうします? 外の探索に向かうか、皆と合流するかになりそうですけど」
とは言ってみたものの、果たして皆と合流する必要性があるかどうかは疑わしい所だ
現状殆ど危険性は無いに等しいので護衛の必要性はないし、探索を手伝うにしてもそこまで時間が押している訳でもない
目の前の彼女も同じ考えに至った様で
「そうね、先に私たちで外の探索をしておかない?
上は皆んなに任せておいてもいいでしょうし」
「わかりました。ではそれで」
彼女の手を取り、生徒玄関を潜った先。その右手には数日後に自分たちの足となる二台の車両が停まっている、筈だった
「・・・・・・うっわー」
思わず声が漏れる
果たしてそこにあったのは、煤に塗れ車体のひしゃげた二台の車両。元気に走り回っていたかつての姿は見る影もなく、先日の火災に巻き込まれ炎上したであろう事を如実に物語っている
一目見ただけで、これはもう動かないと確信できる程の徹底的なまでの廃車っぷりだ。りーさんもあまりの光景に言葉を失っている
この車が壊れているのは非常にマズイかもしれない。というよりも確実にマズイ
というのも、そもそもここからの脱出には移動用の手段が必要不可欠な上、物資の積載という意味でも車両は欠かせない
昨日の夜はこの二台が残っていることを前提に楽観視していた節もある
今から新しい車を探すとなると、どれだけの手間がかかるか。まだ動く車自体は学校の敷地内に残っているかもしれないが、その鍵の持ち主が何処にいるかはわからない上、外部に車を探しに行こうにも鍵が挿しっぱなしになっている車を見つける、或いは偶然車の鍵を見つけ更にその鍵に合う車を見つけられる可能性は如何程か。今から考えるだけでも頭が痛い
「・・・・・・予定変更、一先ず先生に判断を仰ぎます。
いいですね?」
返ってきたのは無言の肯首。流石にこの光景を見せられては情報共有が最優先だろう
来た道を取って返し、そのまま事務室側の階段を登る。こちら側に特殊な部屋が集中している為、佐倉先生たちが居るとしたら恐らくこっちだろう
「先生、先生! どこに居ますか!」
廊下に声が響く。普段ならば廊下で叫ぶなど以ての外だが、”かれら”が居ない現状況下ではさして問題になるまい
声を張りながら廊下を歩くこと十数秒。図書室の扉からひょっこりと先生の顔が出てくる
きょとんとした面持ちの彼女に駆け寄る
「白井君、どうしたの?」
「ちょっとマズイかもしれません。多分昨日の火事が原因なんですが、車が両方とも使えなくなってます」
「・・・・・・両方とも?」
「ええ」
ほんの少し、先生の表情が険しくなる。事の深刻さを正しく理解してくれているからこその反応だ
「どうしましょう? 流石に足がないと物資どころか僕たちの移動すら出来ませんよ?」
「うーん、時間をかけてでも他から車を取ってくるしか無いんじゃないかしら。確か近所とは言えないけど市内に運送業者が──」
「それなら、アテはあるぞ?」
不意に降ってわいた第三者の声に三人揃って振り返れば、そこにはカズの姿。更に廊下の奥には置いて行かれた由紀ちゃんの姿が見える
おい、仕事しろ
「アテだぁ? 何かあんのかよ」
「あぁ、俺たち全員で乗れて物資もある程度乗せられる様なとっておきのがな。
鍵は持ってるし多分まだ残ってるだろ。取ってくるか?」
確か、こいつの家には今廃車になっている黒い軽とは別に、もう一台車があった筈だ
ただその車は七人も乗れる様な物ではなかった覚えがある。他にアテがあるのだろうか
先生に視線を送る。返ってきたのは肯定
ならば自分からは何も言うことはあるまい
「つっても足はどうすんだ、こっから近いのか?」
「普通に歩いてく。まぁ、注意してきゃ何とかなんだろ。
とりあえず今日はここのサルベージをして、出るとしたら明日だな」
「期間は?」
「んー、どうだろな。どんくらい距離あるかはわかってるが道中どんくらい時間がかかるかはわからんから何とも。
なるべく早く帰ってくるつもりじゃいるが。長くても明後日には帰って来れんだろ」
「りょーかい。なるべく気をつけろよ?」
「わかってるって」
ひとまず車の確保はなんとかなりそうだ。あの火事で車が壊れたのは予想外にも程があるが、代わりの車のアテがすぐに見つかったのは僥倖という他あるまい
長くとも明後日には帰って来るらしいので、ここを発つのは明々後日くらいになりそうか
それまでに物資を纏めておかねばなるまい
「それでどうしましょう? 僕たちの方は終わったので先生たちの方を手伝いましょうか?」
「いいえ、私たちももうすぐ終わりそうだしその必要はないわ。
恵飛須沢さんたちの方を手伝ってあげて?」
「わかりました。では行きましょうか、りーさん」
Side:佐倉慈
白井君と若狭さんが階段の方向へと消えてから、暫しの時間が経った
学生食堂。このフロアで最後の探索場所
焼け焦げ煤に塗れた床や壁に、散乱したテーブルと椅子。目の前に広がる光景には、もはやかつての面影すらない
丈槍さんと典軸君は既に見つけた物資を地下へと運びに行って居ない為、ここには私一人だ
探索をするとは言っても、ここに残っている物資も高が知れているだろう
元々外界に出ようとしていた理由の一つが、食料問題なのだ。何か食べられるものが残っていたとしても量は知れているであろうし、そもそもあの火事で焼け残っているか、或いは業務用の冷蔵庫等に入っていたとしてもダメになっていないかどうかはわからない
などと考えながら散らばったテーブルの間を気をつけて歩いている内に、耳が小さな音を拾った
乾いた何かが床を擦る様な、乾燥した音。半ば無意識に音の方向へと目を向ける
「──え?」
そこに”在った”のは、炭化しかけた腕でゆっくりと這う”かれら”の姿
腕は辛うじて動いてはいるものの、足は既に炭と化し本来の役割を果たしてはおらず、その顔にあるべき眼球や髪の毛すら燃え尽き。もはや生前の性別すら引っかかっているだけに等しい制服の切れ端でようやく僅かに判断可能、という有り様であった
心臓が早鐘を打つ。呼吸が無意識に乱れる
──周りは、誰もいない
箒を持つ手が震える。思考がうまく定まらず、膝が折れそうになる
──彼女を放置していても、害はないのでは
けれど結局白井君たちに助けられ、自ら手を下すには至らなかった
その事に甘え、彼らに甘え続けた結果がこの様だ。自らが対処するしかないという恐怖に震え、あの日の決意すら揺らぎかけている。あの日からたったの一晩しか経っていないというのに
それとも、あれは彼らを助けるという目的があったからこその虚勢だったのだろうか
──証明しなければ。他の誰でもない、私自身が
そう。やらなければ
そうでなければ彼らの隣に立つ資格などない
守るべき生徒たちばかりを矢面に立て、己が身可愛さに震える大人など、私の目指した大人の姿ではないのだから
何よりも。あの日の決意を嘘にしない為に
小さく息を吸う。少しずつ呼吸が安定し始め、手の震えもおさまる
既に思考は明瞭だ。やるべき事は、わかっている
ゆっくりと、箒を振り上げる
Side out
それでは皆さま、ルビコン3にてお会いしましょう