終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

4 / 35
4.おやすみ

「……て、お…て」

 ……誰かの声がする

 声からして女性の様だ。珍しく母親でも帰ってきたのだろうか

「起きて!」

「うおっ!?」

 

 耳元で大声を出され、飛び起きる

 目の前に居たのは丈槍さんで、寝ていたのは見知らぬ部屋。窓からは夕日の光が見える

 起き抜けの頭で、何故丈槍さんと自分がこんな所に居るのか思案する

「おはよ、葵君。ごはんだよ?」

「ご飯……?」

 

 いつの間に彼女とそんな仲になったのだろうか

 記憶を探るも、起き抜けの頭でははっきりとしない

「もー、もしかして寝ぼけてる?」

「……あ」

 ようやく頭が働きだしてきた

 職員室を捜索した後、資料室の布団の上で独りだらけていた事を思い出す

 恐らくはその内に眠ってしまっていて、彼女は時間になっても姿の見えない自分を呼びに来てくれたのだろう

 

「いえ、今目が覚めました。わざわざありがとうございます、丈槍さん」

「えへへー、どういたしましてー」

 扉へと向かう丈槍さんを目で追いながら、自分も立ち上がる

 

 

 資料室の扉を閉め、丈槍さんと共に廊下へと出る

「もしかして、葵君って寝起きが悪い?」

「確かによくはないですね。今までも結構苦労してきましたし」

「へー、大変そうだねー」

 他愛もない会話をしている間に、生徒会室へと到着する

 

「ただいまー」

「すみません、遅れてしまって」

 既に全員集まっている。どうやら自分達が最後のようだ

 恵飛須沢さんと若狭さんは椅子に座り、佐倉先生はお湯の準備をしている

 

「ん、大丈夫だったかー?」

「聞いてよくるみちゃん、葵君ってばすっごく寝起き悪かったんだよー」

「わかったから離れろって」

 恵飛須沢さんに丈槍さんがじゃれついている。少し寝ている間に随分と仲良くなった様で、安心する

「今朝はあんなに早く起きていたのに……意外ね」

「昨日早く寝た分、早く目が覚めたっていうだけですから」

 

 

「さあみんな! 好きなのを取って!」

 佐倉先生が出来上がった人数分のカップラーメンを持ってこちらへと歩いてくる

 席に座り、三人が選ぶのを待ってから余りものを手に取る

「「「「いただきまーす!」」」」

 それぞれが選んだものを手に取り、食べ始める

 

「食糧も早いとこ取って来ないとなー」

 恵飛須沢さんが独り言の様に言葉を口にする

「購買部自体は遠くないですし、明日の朝にでも取りに行きますか。ただ……」

「ただ?」

 丈槍さんが首をかしげながら、聞き返してくる

……気がつけば、全員がこちらに注目していて

「……いえ、なんでもないです。明日の事は明日にでも決めますか」

 この場で話すような事でもないと判断し、適当にごまかす

「まっ、そうだな。行くにしてもパッといってパッと帰ってくりゃいいだろ」

 談笑しながら食事を終え、ゴミを片付ける

 

 

 

 

「……そういえば、見張りとかどうします?」

 資料室で布団を女性陣から離れた場所に敷きながら、見張りの必要性を思いつく

 バリケードがあるとはいえ、流石に作った初日は不安だ

「見張り? あー、確かに必要か?」

 布団に寝転がっている恵飛須沢さんも、必要性は感じたらしい

 若狭さんも少し不安そうにしていて

「確かにバリケードも作ったばかりだし、もし何かあるといけないわね……」

 佐倉先生は真剣な表情をして何か考えているし、残りの丈槍さんはというと既に夢の中だ

 

「戦える面子ってなるとあたしか白井になる訳だけど、どっちがやる?」

「んー、じゃあ初日は僕が……」

 流石にあれだけ動いた後に女性に無理をさせる訳にはいかない。そう考え立候補しようとしたその時

「いえ、先生がやります」

 佐倉先生に言葉を遮られる

 

「……先生、本当に大丈夫ですか?」

 思わず疑問を口にする

 見張るだけだったらそう苦労はしないのだろうが、あまり無理はしないで欲しいというのも事実で

「白井君も恵飛須沢さんも、今日は沢山働いてくれたからもう今日は休んで?」

「……わかりました。何かあったら起こしてください」

 昼寝をしたおかげでそこまで眠くはないのだが、ありがたく好意を受け取る事にする

 話はそこで終わり、先生以外の全員が布団へと潜る

 

 

 

Side:佐倉慈

 

 月明かりが、頼りなく部屋を照らす

 皆が眠ってから二時間程。何事もなく夜は更け、私は職員室の窓から外を眺めていた

 街に人工の光は既に亡く、本当になにもかもが終わってしまったのだと実感させられる

 私は、護るべき生徒たちの事を思い浮かべる

 

 

 丈槍さんは明るく、元気だ

 あの笑顔を見ているとこちらも元気づけられる

 彼女が居なければ、私たちの空気はもっと沈んでいたに違いない

 

 若狭さんは落ち着いていて、頼もしい

 芯が強く、他人を思いやれる人だ

 彼女の様な人がこの先、必要となってくるのだろう

 

 白井君と恵飛須沢さんは、本当によくやってくれている

 あの二人が居なければこうして安全圏を拡げ、食糧を手に入れる事すら難しかった

 生徒に荒事を任せっきりにしてしまうのは心苦しいが、白井君の言う通り"適材適所"という物なのだろう

 

 

 ……少し考えすぎかもしれないが、白井君は自己犠牲が過ぎる様に思える

 

 昨日、私たちを先に屋上に逃がしてくれたこともそうだし、寝る時にはブルーシートを若狭さん達に全て譲ったそうだ

 今日の朝だって貴重な食料を皆に分けて自分は口にせず、自分から率先して三階の制圧や夜の見張りを買って出た

 何が彼をそこまで駆り立てるのか、わからない

 

 正直、事件前の彼の事は殆ど知らないと言っていい

 今年に入って彼の学級の国語を担当するようになってから、会話すら両手で足りる程しかした事がないだろう

 彼が他のクラスメイトと話している姿を見る事は殆どなかったし、それは丈槍さんに対してだってそうだった

 唯一知っていた事と言えばたまに図書室に通っている事と、隣のクラスの典軸和義君と仲が良いという事だけ

 

 

 ……そういえば、典軸君は無事なのだろうか

 事件直後に白井君に連絡をしてきたらしいが、その後はどうやら連絡がついていない様だ

 白井君は、彼の事を心配していないのだろうか

 

 

 ぼんやりと思考を巡らせていると、不意に職員室の扉が開く

「……お、先生。やっぱりここに居ましたか」

 白井君だ。寝ていたはずなのに、どうしてここに

 思考を切り替え、座っていた椅子から立ち上がる

「白井君、どうしたの?」

「いえ、元々夜型なもので。どうにも寝付けなくて」

 苦笑いしながら、彼は答える。……私を心配してきてくれたのだろうか

 教師として、情けない

 

「ホント、この学校に色々あってよかったですよね。シャワーが出るって素晴らしい事だと実感しましたよ」

 ほんのわずかにでも表情に出してしまったのか、彼は話題を変えてくれる

 確かに、お湯が出たのはとても助かった

 

「本当ね。丈槍さん達も喜んでたもの」

「食糧も購買部でなんとかなりそうですし、発電設備と菜園もあって、確か浄水施設、ま、で……」

 言葉が尻すぼみになりながら、彼が何かを考え込む

「……白井君?」

「いや、まさか。でもあまりにも……」

 

 私の言葉は彼に届いていない様で、独り言を呟きながら何かを考えている

「……先生、学園案内ってありますか?」

「え? ええ、確か棚にいくつか……」

 教員用の戸棚から学園案内を一冊手渡す

 ありがとうございます、と言ったきり彼は学園案内を読み始める

 ……学校の、施設案内の項目だ

 

 

 屋上の菜園、発電設備、浄水施設

 ──冷静になって考えてみれば、この学校はあまりにも

「あまりにも、設備が整いすぎてませんか」

 彼が私と同じ考えを、口にする

 独り言の様に、彼は言葉を紡ぐ

「購買部と菜園に食糧があり、発電設備と蓄電設備で電気が賄え、浄水設備で水も賄える。どうやら地下に作物の備蓄倉庫もあるみたいです」

 

 嘘だ、そんな、まさか

「まるで、災害で街のインフラが全滅してもここで生活出来るように最初から設計されていたかのような」

 そんなはずは

「……いや、通常の災害を想定していたんだったらこんな最初から籠城する気満々な施設なんて」

 

 

 ……ある事を思い出す

 確かあれは、この学校に赴任した時の事

 確認を促された一冊の冊子。確か、アレは

 

 震える体を抑えながら戸棚を開け、冊子を取り出す

 その表紙には、"職員用緊急避難マニュアル"の文字

 大丈夫、そんなはずはない

 ただの避難指示だ。大丈夫

 

 そう願いながら、震える手で、封を開ける

 

 

 

 冊子が、手から滑り落ちる

 蹲り、口を抑えながら吐きそうになるのを必死に堪える

 

 ひどい。

 想定されていた感染爆発

 ()()()()()()()()()()()()()防護施設

 武力衝突の結果生じた犠牲を看過する旨の言葉

 

 ひどい。

 生徒達はどうなっても良いというのか

 犠牲になるべき存在だとでもいうのか

 

 

 ──白井君が、落ちた冊子を取り上げる

 

 これは、大人である私だけが背負うべき罪だ

 それを読んではいけない

 止めようとしても、震える私の体は動かない

 それを読んではいけない

 止めようとしても、吐き気に耐える私の口から言葉は紡がれない

 

 

 彼は、黙ってマニュアルを読み進めている

 私は、蹲りながらそれを見上げる事しかできない

「……成程、パンデミックを想定した一種のシェルターって訳ですか、ここは。まぁひっどいもんですね」

 思ったよりも彼は落ち着いた様子だ

 どうやら凡そ読み終えてしまったらしい

 独り言のように、彼は言葉を続ける

 

「想定人数は十五人程、当然生徒なんて含まれちゃ居ないでしょうね。まぁその施設を俺達がありがたく使わせて貰ってるんで、結果的にいいっちゃいいんですが」

 何故、そんなに落ち着いて居られるのだろうか

 日常を奪った原因が、ここに在るのに

 こんな危険な生活を強いている原因が、ここに在るのに

 

「どう……して」

 辛うじて、掠れる様な言葉を紡ぐ

「……どちらにせよ、これは丈槍さん達にはしばらく見せない方がいいかもしれませんね」

 差し出される冊子

 私はそれを、どうにかして受け取る

「先生が預かっておいてください。それとも、僕が預かっておきましょうか?」

 それはダメだ。これは、私だけが背負うべきもので

「まぁ、これから二人で一緒に考えましょう。二人だけの秘密、ってやつです」

 そう言って彼は笑いながら、扉へと向かう

「それではおやすみなさい、佐倉先生。また明日」




めぐねえを曇らせていると思わず筆が乗るねんな
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。