終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

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初めての感想を貰えて舞い上がったので初投稿です


5.ちょうたつ

 朝。カーテンの隙間からは陽の光が漏れ、室内を照らす

 辺りを見回せば他に人の姿は無く、昨日は結局あれから眠ったという事もあり自分が最後の様だ

 布団を畳み、制服に着替え部屋を出る

 

 

「あっ、葵くん! 今起きた所?」

 資料室を出た所で丈槍さんと遭遇する

 昨日の様にわざわざ起こしに来てくれたのだろうか

 

「ええ、丈槍さんはどうしたんですか?」

「うーんとね、葵くんを呼びに行こうかなーって思ってた所なんだー」

えへへー、と丈槍さんは少し恥ずかしそうに笑う

 ……どうやら、本当に起こしに来てくれたらしい。内心で少し驚く

 

「わざわざありがとうございます。さ、生徒会室に向かいましょうか」

「うん!」

 

 

 生徒会室の扉をくぐる

 昨日と同じく既に全員揃っており、テーブルには昨日見つけたお菓子の袋が並べられている

 恵飛須沢さんはこちらに気が付くと、からかう様に口を開く

「おう、やっと起きたかねぼすけ」

「すみません、遅れてしまって」

「いや、気にすんな。昨日あんだけ働いたんだから」

 

「おはようございます、佐倉先生。昨晩は見張りありがとうございました」

 佐倉先生に夜通し見張りをしてくれた事へのお礼を告げる

「あっ……ええ、気にしないで」

 先生は気まずそうに、ほんの一瞬その笑顔を曇らせた

 ……まだ昨晩の件を、まだ気にしているのだろうか?

 

 

 皆でテーブルを囲み、お菓子を摘まみながら恵飛須沢さんが口を開く

「で、今日はどーする?食糧取りに行かなきゃってのはわかってんだけどさ」

「そうね……これを食べ終わったら食べ物を取りに行って、それが終わったら今日はお休みにしましょうか」

 休息を提案した先生の言葉に、思わず内心で驚く

 自分が言葉を口にする前に、若狭さんが口を開いた

「いいんですか? 先生」

「ええ、一先ず安全圏は築けたんだし。それに、お休みもたまには必要でしょ?」

 

 確かに安全圏の確保は一先ず完了していて、インフラも既に揃っている

 食糧がある購買部の近辺が安全である事に越したことはないが、それもそう急ぐことでもないのかもしれない

「食糧調達のメンバーはどうしましょう?」

 正直自分と恵飛須沢さんの二人で、他の三人を完全に守りきれるとは言い難い

 食事という名の会議は進行していく

 

 

 

 結局の所、食糧調達は自分と恵飛須沢さん・佐倉先生に

 丈槍さんと若狭さんには、バリケードの補強とメンテナンスをお願いする事に決まった

 佐倉先生一人であればどちらかがカバーに入れるであろうし、妥当な所なのだろうか

 

 

「無理しちゃダメよ?」

「お土産持ってきてねー!」

 

 二人の見送りを受け、中央階段のバリケードを乗り越える

 時刻にして午前8時過ぎ。窓からの光もあって視界は良好だ

 購買部への道のりはそう遠くなく、廊下には奴らの姿もそう多くはない

「それじゃあ行きましょうか。僕が先頭に立つので恵飛須沢さんは後ろをお願いします」

「……わかった、無理すんなよ。めぐねえもあんま離れない様にな?」

「え、ええ。わかったわ」

 

 奴らをシャベルで倒しながら、購買部への道のりを進む

 道中の教室も安全の為に確認し、奴らが居れば処分していく

 特に何という事もない、単純な作業

 佐倉先生という戦えない同行者がいる以上昨日より慎重になる必要性こそあったものの、特に何事もなく購買部にたどり着いた

 

 

「とりあえずは一安心、と言った所でしょうか」

 購買部の扉を閉じ、リュックを探す

 手を塞がずに荷物を運ぶのなら、必要だろう

 

 程なくリュックを見つけ、恵飛須沢さんに手渡す

 佐倉先生にも手渡そうとするが

「はい先生、リュックを見つけたので……って、どうしました?」

 佐倉先生がこちらを見つめている

 まるで、昨日の恵飛須沢さんの様に

 

「……先生?」

「ッ! ええ、ありがとう白井君」

 声をかけると、先生はやっと気づいたかのようにリュックを受け取る

 ……そういえば、先生に奴らを殺す場面を見せるのは初めてだという事に気づく

 生徒だったものが死体に変わる瞬間を見れば、ある意味当然なのかもしれない

「いえ。あまり無理はしないでください、先生」

 

 

 担当する物を決め、各々で食糧を集めていく

 かくいう自分は乾パンやカップラーメン・缶詰等を集めながらも、お菓子を多めにリュックの中に入れていく

 すれ違った恵飛須沢さんに、呆れた顔をされた

「なんでそんなにお菓子が多いんだよ……」

「僕は大真面目ですよ? こういう非常事態には余裕と言うものが必要ですし」

「……そんなもんか」

「ええ、それに丈槍さんにお土産を頼まれましたしね」

 

 

 

 食糧を一通り集め終わり、三人で扉付近に集まる

「集め終わりました? それじゃあ行きましょうか」

 扉をゆっくりと開け、廊下の様子を窺う

 ……来た時より、奴らの数が増えている?

 

「どーした?」

 恵飛須沢さんが、不思議そうに声をかけてくる

「……来た時より、数が増えてます。ちょっと拙いかもしれませんね」

「……マジで?」

 佐倉先生は、何も言わず不安そうな表情を浮かべている

 

「ま、仕方がありません。バリケードまでは僕が先頭に立って、着いたら殿に回って食い止めます。その間にバリケードを登っちゃってください」

「そんな事したら白井が危ないだろっ!」

「そうはいっても、どの道どっちかが殿になって登る時間を稼がなきゃいけません。数はそこまででもないですし大丈夫ですよ」

 身を案じてくれる恵飛須沢さんと心配そうな顔をしている佐倉先生を説き伏せる

 結果として二人は渋々といった体ではあるが、了承してくれた

 

 

「それじゃあ行きますよ? 3、2、1……」

 扉を開け、駆け出す

 道中の奴らを必要最低限シャベルで倒しながら、バリケードへと駆ける

 二人もちゃんとついてきてくれている様だ

 

「到着っ! 二人とも登ってください!」

「わかってる! 無理すんなよ!」

 二人がバリケードをよじ登る。教室の方からも奴らが来ているが、登るまでのわずかな時間を稼げればいい

 なるべくバリケードから離れない様に、奴らに囲まれない様に

 

 3,4体程奴らを倒した時、恵飛須沢さんから声がかかる

「こっちは大丈夫だ! 白井も早く!」

「了解!」

 大きくシャベルを振って奴らを牽制してから、バリケードへと飛び移る

「白井っ!」

 差し出される恵飛須沢さんの手。その手を掴み、引き上げられる

 奴らの手は足を掴む事なく、空を切った

 

 

 息を整えながら、恵飛須沢さんに感謝を伝える

「ありがとうございます、恵飛須沢さん。佐倉先生も大丈夫ですか?」

「……ええ、大丈夫」

 二人の無事を確認し、バリケードを降りる

 随分と騒いだからか、何事かと若狭さんと丈槍さんが駆け寄ってくる

「どうしたの!? 怪我してない!?」

「ダイジョーブだってりーさん。ちょっと危なかったけどな」

「とりあえずここでは難なので、生徒会室に行きましょうか」

 

 

 

 持ち帰った物資を報告して、仕分ける

 仕分けと記録については若狭さんが引き受けてくれた

 元気のない佐倉先生とそれを心配している丈槍さんを尻目に、若狭さんに帰りの出来事について報告する

「……帰りに、数が増えてた?」

「ええ。何に引き寄せられたのか、何故増えたのかはわかりませんが」

「というかアタシたち、大して引き寄せるような事してたか?」

 

 相変わらず情報が少ない。三人して思案する

 ゾンビ物の作品ではどういう特徴があったか、と思い出そうとする

「……フィクションの類では音とか光、あるいは熱に反応するというのが定石ですよね」

「つってもアタシ達大して音立ててなかったしなー」

「光……もなにか光源になるような物は持っていかなかったものね」

 

 

 結局奴らの習性についてそれらしい進展はなく、程なくして昼食を取った後に自由時間になる

 夜の見張りに備えて睡眠を取ろうと生徒会室を出ようとした時、丈槍さんが声をかけてくる

「葵くん、どこ行くのー?」

「いえ、夜の見張りに備えて昼寝でもしようかと」

 その言葉に丈槍さんはほんの少し悩む素振りを見せた後、何事もなかったかのように口を開き

「そっか、それじゃあおやすみ! 寝坊したらまた起こしに行くねー」

「ええ、ありがとうございます」

 丈槍さんに見送られ部屋を出る

 資料室で布団をかぶり、瞼を閉じる──

 

 

 

Side:佐倉慈

 

 三階の制圧の時に恵飛須沢さんの様子がおかしかったという理由が、少しわかったかもしれない

 

 かつて生徒だったもの達に、楽しそうにシャベルを突き立てる彼

 クラスメイトや知り合いだった人達も居たかもしれないのに、笑顔のままそれを気にする素振りすら見せず

 

 恐らく彼女は、そんな彼がどこか恐ろしかったのだ

 

 ──今の私と同じ様に

 

 

 

「……なあ、めぐねえ。少し相談があるんだ」

 食事を終え、ぼうっとしていた私に恵飛須沢さんが声をかけてくる

 見られていると言う事に気づき、私は抱えている悩みを悟られまいと取り繕う

 

「あら、どうしたの? くるみさん」

「ここだと話し辛いから……隣の放送室で話したいんだ」

 丈槍さんと若狭さんは楽しそうにお話をしていて、こちらの様子に気づく様子は見られない

 ただ、彼女がそう言うからにはきっとあの二人には聞かれたくない様な内容なのだろう

「わかったわ、行きましょ?」

「……うん」

 

 

 放送室の扉を開け、中へと入る

 椅子を引いて彼女を座らせ、私も隣へと座る

「それで、どうしたの? 随分と悩んでるみたいだけど」

「……なあ、めぐねえもアレ、見たよな?」

 ……アレ、とはもしや

「正直言って、アイツ……白井の事、めぐねえはどう思う?」

「どう、って……」

 難しい問いだ

 彼について知っている事はあまりにも少なく、私が彼に抱いている感情には、吐き出すべきではないものもある

 ──全てを吐き出してしまえれば、どれだけ楽だろうか

 

「アイツがいい奴だって事は知ってる。アイツがあたし達を気遣ってくれてるって事も知ってる」

 独白する様に、彼女は続ける

「でもあたしはアイツに何も返せてない、返そうにもアイツの事を何一つまともに知らない」

 懺悔するように、彼女は続ける

「だから、もっと知らなきゃいけないと思うんだ。アイツの事を」

 

 

 返す言葉を見失う

 私は彼の事をただ恐れるばかりだったのに、彼女は彼を理解しようとしていたのだ

 

「……ええ、そうね。私も、白井君の事を何も知らないわ」

「めぐねえもか」

 軽い笑みを見せる彼女

「それなら、今日の夜に二人でお話しするのがいいんじゃないかしら」

「見張りの時にか? ……そっか、そうしてみる」

 納得するように頷き、椅子から立ち上がる彼女

「ありがとな、()()()()

 

 振り向き様にそう告げ、彼女は部屋を去っていく

 ……私も、彼女を見習わなければならない

 ただ恐れるだけではなく、彼の事をもっと知ろう

 共感できずとも、理解できるように努めよう

 

 だって、彼も大切な仲間なのだから




超クッソ激烈に無理して何事も無かったかの様に明るく振る舞うめぐねえと、マニュアルの件から朝呼びに来られるまで自分を責めながら職員室で呆然としていためぐねえのどっちがいいか悩んでました
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