終わる世界、始まる物語   作:フィーラ

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今回はずっと胡桃ちゃん視点です


6.ともだち

Side:恵飛須沢胡桃

 

(そろそろ、大丈夫かな……)

 瞼を開ける。皆が寝床に入ってから暫く経った

 もうそろそろ、寝静まっている頃だろう

 

 

 そう思い起き上がろうとしたその時、もぞもぞと動く音がしてゆきが起き上がる

 そのまま様子を伺っていると、なにやら廊下へと出ようとしている

 

「由紀、どうしたんだ?」

 りーさん達を起こさない様、小声で声をかける

 由紀は眠そうに目を擦りながら、こちらを振り向いた

「……あ、くるみちゃん。ちょっと眠れなくて」

 言葉とは裏腹にその表情は眠そうで、足取りはふらふらと危なっかしい

 共に廊下へと出ながら、会話を続ける

 

「トイレでも行くか? ついてってやるよ」

「うーん……トイレはいいや。代わりにあっち」

 由紀が指さした方向にあるのは、光の漏れるドア。生徒会室だ

 恐らく、白井が休憩でもしているのだろう

「……なんでまた。ま、いっか」

 丁度アイツには用があった所だ。由紀が戻った後にでも話せばいい

 

 

「よっ、お疲れ」

「やっほー、葵くん」

 扉を開け、白井に声をかける

 ココアの入ったマグカップを片手に座っている。やっぱり休憩中だったらしい

「おや二人共、どうしたんですか?」

「いや、由紀が眠れねえって言うからこっち来た」

「なんでまたこっちに……いえ、別にいいんですが」

 少し呆れたような顔をしながら、アイツは立ち上がる

 どうやらアタシ達の分のココアをいれてくれる様だ

 

 

 ココアの入ったカップを手渡され、椅子へと腰掛ける

「それでまあ、お二人が眠くなるまで少しの間ならお付き合いしますが」

「やったー! ありがとー」

 そう言って、由紀と白井は他愛もない話をし始めた

 

 由紀はココアを飲みながら楽しそうにしていて、白井もなんだかんだと楽しそうに見える

(この調子だと由紀が寝るまで案外時間かかるかもなぁ……)

 今日はそんなに動いてないとは言え、寝る時間が遅いと明日に影響が出るだろう

 ココアを啜りながら、二人の会話を眺める

 

 

「そう言えば、あの日カズ君から連絡来たって言ってたけど、あれから連絡取れた?」

「いや、全く取れてませんね」

「カズくん大丈夫かなー」

 典軸和義。アタシと同じ3-Bの生徒

 運動部に入っていない癖して妙に運動の出来る奴。確か一年の時に陸上部に何度か勧誘されていたのを覚えている

 あんまり積極的に話すような奴じゃなかったけど、白井が何度か教室に呼びに来てたからには二人は仲がよかったはずだ

 

「というか丈槍さんアイツの事知ってたんですね、隣のクラスなのに」

「うん、たまにめぐねえの補習を一緒に受けて答えを見せて貰ったり、考え方を教えて貰ったりしてたからー」

 アイツ、そんなに勉強ができない奴だったか?

 確か他の教科は悪いどころかそれなりにできている方で、国語も普段はそれなりに点数を取れていた記憶があった

 その疑問の答えは、白井がすぐに教えてくれた

「あー……佐倉先生の補習を受ける為に、たまにわざと点数を落としてるって言ってましたね、あのバカは」

「そうなんだー」

 

 先ほどまでの楽しそうな雰囲気とは一変して、いつの間にか由紀は不安そうな顔をしている

「カズくんの事……心配じゃないの?」

「ん? まぁ心配か心配じゃないかって言ったら、特に心配じゃないですね。アイツならなんだかんだとうまくやってるでしょう」

「どうして、心配じゃないの?」

 震えるような由紀の問いに、白井はただ一言で告げた

「信頼してますから」

 

 

 楽しそうに笑う白井とは対照的に、由紀はどこか覚悟を決めた目をしている

「……ねえ、葵くん」

「はい、どうしました?」

「カズくんの事、信頼してるって言ったよね」

「ええ、言いましたね」

 カップに口をつけながら、白井は言葉を返した

「わたし達の事は、信頼できない?」

 

 

 白井が動きを止める

 アタシも、なぜ由紀がいきなりそんな事を言い出したのか理解ができなかった

「……いきなりどうしたんですか? 勿論信用してますとも」

 白井は困ったような顔をしている

 それでも、由紀の言葉は続く

「なんていうか……葵くん、わたし達に対してよそよそしい気がするんだよ。気を使っているっていうか、距離を取ってるっていうか、壁を作っているっていうか……」

 

 ……白井は、黙ったままだ

 由紀の告白は、続く

「わたしは、葵くんの事友達だと思ってる。でも、わたしは葵くんの事を何も知らない。このままじゃいつか取り返しのつかない事になっちゃう気がする」

 その言葉は、アタシが考えていた事と同じものだと気づいて

「だから、葵くんの事をもっと知らなきゃいけないと思う。葵くんに友達だって、思って貰えるように」

 

 

 

 ──静寂が、部屋を包む

 正直、驚いた。由紀がこんな事を考えていたなんて思いもしなかった

 数秒ほどの沈黙の後、白井が観念したかの様に口を開く

「……わかりました。ここまで言われてその思いを無下にするのは、あまりにも不誠実でしょう」

 由紀の顔がパアッと明るくなり、目を輝かせる

 

「貴女が歩み寄ろうとしてくれた様に、僕もまた歩み寄る努力をしましょう」

正直女性ばかりで居辛かったのも事実ですし、と付け足すように白井は呟く

「じゃあ!」

「ええ、改めてよろしくお願いします。丈槍さん」

 二人が握手を交わす

「やった! それじゃあわたしの事、由紀って呼んで? くるみちゃんみたいにさ」

 

 その言葉に固まった白井は、物凄く複雑そうな顔をしている

 ……なにやら、面白い展開になってきた

「……由紀さん」

「由・紀! あとそのよそよそしい言葉遣いも禁止!」

 白井が、由紀に圧されている

 珍しい光景だ。見ていてとても面白い

「……由紀ちゃん。言葉遣いに関しては努力します」

「……まぁ今はそれでいっか!」

 

 笑顔の由紀に、複雑な表情を浮かべる白井。どうやら相当恥ずかしいらしい

 その様を思わずニヤニヤしながら眺めていると、その事に気が付いたのかこちらを半ば睨む様に見てくる

「……恵飛須沢さん、なんですかその顔は」

「んー? いや、面白いなと思って? あとアタシの事はくるみちゃんって呼んでくれないのか?」

 由紀の時と同じような表情を返され、それをアタシはまたニヤニヤしながら眺める

 

「……くるみちゃん」

「はい、よくできました」

 手を軽くぱちぱちと叩きからかう様に言葉を口にする

 白井は机に突っ伏せ、呪詛の様な言葉を吐き始めた

 どうやら相当精神にダメージを負ったらしい

 

「それじゃあ、わたしはもう寝るねー! くるみちゃんも行こっ!」

 由紀は目的を果たしたらしく、もう寝るらしい

 だが、私の目的はまだ終わってない

「悪ぃ由紀、先に行っててくれ。アタシはまだ眠くないからさ」

「……そっか、じゃあおやすみ! また明日!」

 突っ伏したままの白井の、おやすみなさい由紀ちゃん。という言葉を聞きながら由紀は部屋から出ていく

 

 

「……それで、()()()()()()はまだ眠れないんですか? こんな状態でよければ話し相手にはなりますけど」

 くるみちゃんの部分をやたら強調してくる。……随分と根に持ってるな?

「やたら根に持ってるなー?」

「そりゃそうですよ、そもそも僕他人と関わるの得意じゃないですし好きじゃないですし。胃に穴が開きそうです」

 いつかはやらなきゃいけない事だと解ってたんですけどねー、と突っ伏したまま白井は呟く

 そんな白井を見ながら、アタシはここに来た目的を果たすために、口を開く

「それで、ここに残ったのは白井に聞きたいことがあってさ」

「聞きたいこと? わかる範囲でならお答えしますけど」

 

 アタシの為にも、めぐねえの為にも、なによりアタシ達がコイツと生きていく為にも。聞かなきゃならない

 小さく息を吸い、決意を固める

「……なんであの時、あんなに楽しそうだったんだ?」

「あの時……?」

 思い当たる節がないらしい白井は、首を捻っている

 ……本当に、素だったのか

「その……あれだよ、三階を制圧した時とか購買部に行く時とか。アイツらを殺してる時に随分と楽しそうだっただろ?」

「え、あの時笑ったりしてました?」

恥ずかしいなー、と白井はからからと笑う

「なんで、そんなに平気で居られるんだ? アイツらの中にはお前のクラスメイトや友達だって居たかもしれないのに」

「え? あぁなんだ、そんな事ですか」

 

 そんな事? そんな事だって?

 一緒に過ごしていたクラスメイトや友達を殺す事を、そんな事だって?

「別に僕は他人が生きてようが死んでようが気にしないですからね、それに友人なんてそれこそアイツくらいしか居なかったですし」

 確かに返り血とか中身が色々見えかけるのは中々気持ち悪いですけどねー、と笑う

「まぁなんだかんだとそこそこ楽しんでたのは事実ですかねぇ、ゾンビ物とかのゲームも割と好きでしたし」

 

 

「……じゃあ、なんであの日めぐねえや由紀を助けたんだ? 助ける理由なんてなかっただろ」

「ん? まぁ補修で残ってるのを知ってて見殺しにするのも後味が悪かったので。カズの奴から女性には優しくしろって言われてますしねー」

 だらけながら、なんて事もない様に白井は話す

 クラスメートや同じ学校の人間を躊躇いなく殺す癖して、アタシ達の事はやたらと気にかけてくれるのはつまりは典軸の奴のおかげなのだろう

 ……いい事か悪い事かはともかくとして、コイツの事は少し知る事が出来た

 

「……そっか、ありがとな。じゃあアタシももう寝るよ」

「はいはい、おやすみなさい。くるみちゃん」

「おうおやすみ、葵」

 そう告げ、資料室へと戻って布団に潜る

 

 

 アイツの考えを、少しは知ることが出来た。こうやって少しずつ、アイツの事を知っていけばいい

 一緒に生きていく内に、少しずつ知っていけばいい

 決意を胸に、瞼を閉じる


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