カズを迎え入れ、職員室へ入る
くるみちゃんにはカズと話があるから見張りを交代すると伝えたが
「いや、いい。元々アタシの仕事だしな」
と断られてしまった
「んで、なんか情報集めてきてくれたんだろ? お前の事だし」
俺・カズ・くるみちゃんの三人でテーブルを囲みながらカズに問いかける
どうせコイツが早々に合流しなかったって事は、情報なり物資なりを集めてたんだろう
「モチのロン、そこまでって程じゃねえけど外の情報と物資を集めてきた。物資はこれを除けば車ん中だけどな」
そう言いながらカズは自信たっぷりに、背負っていたリュックを開ける。中身は殆ど保存食の類だった
「ナイス、正直こっちも食糧事情はそう芳しくないから外からの食糧はありがたいわ。物資っつー事は工具類とかもか?」
「釘とかそこら辺の、バリケードに必要そうなもんならそこそこ持ってきてるぜ?」
カズは校庭を親指で指しながら、笑って答える
思った以上に必要そうな物を集めてきてくれたらしい
これなら、しばらくは外に出なくても大丈夫か?
「で、外の状況の方は? 生存者はどんくらい居る?」
「生きてる奴はここ数日で目に見えて減ったなー、一昨日辺りはちらほら街中で人を見たけど今日なんざ殆ど見ねーの。まぁ人目避けてたっつーのもあんだろうけどさ」
予想以上に、随分と人は減っているらしい。どちらかと言えば都合はいい方か
生存者が減っていれば外に急いで物資を取りに行く必要もない
「どっちかっつーとアレだ、ガラの悪い奴をちらほら見た事の方が問題だわ。まぁ防犯ブザー近くに投げ込んでおいたから始末できたとは思うけど」
……やっぱり治安の悪化の方が問題か。それにしても、防犯ブザー?
「防犯ブザー? アイツら音に反応すんのか?」
「あぁ、するする。音と光の方にわんさか寄ってくのな、アイツら。何度か検証したからある程度確実性はあるぜ?」
一回夜中に出た時頭にライト付けてて死にかけたわ、とカズはけらけらと笑う
音に、光。となると夜に行動するのにもリスクを伴うのか
「オッケー、ある程度は把握した。そんでこっちの状況なんだが──」
「……成程、確かに同様のものはこっちでも確認してた。家に帰ってるっつーのは強ち間違いじゃないかもな」
こちらの状況を凡そ共有し終え、奴らの習性の話へと戻る
どうやらコイツも同じ様なモノを見てきたらしい
「俺達が通ってた小学校あっただろ? 目と鼻の先にあっから何んとなしに観察してたら、朝にわらわらと学校の中に集まりだして夕方になったら出てってたんだわ」
見た目小学生くらいの奴らがな、とカズは付け加える
小学校に小学生が集まり、この高校には同年代くらいの奴らが集まる
朝には集まり、夕方あるいは夜には帰る
それじゃあ、まるで
「……生前の行動をなぞってるとでも?」
「そう、それなんだよなー。この学校には小学生の奴らとか来てないんだろ?」
確かに、見た事はない
ただ探索不足なだけかもしれないが、少なくとも屋上や窓から観察していた分には、見た事がない
……この予測が正しいとするのなら、ある程度奴らの習性が見えてきたかもしれない
「ま、何はともあれこっちは平和そうで何よりだわ」
「なんだかんだ設備があって安定してるしなー、……それで、さっきからずっと黙りっぱなしですけど大丈夫ですか? くるみちゃん」
この部屋に入ってから、彼女はずっと黙ったままだ
視界の端でカズが物凄く驚いたような顔をしているが、無視だ無視
「……いや、大丈夫。本当に仲いいんだな、お前ら」
「え? まぁ、なんだかんだと昔からの付き合いですからね」
「……そっか」
くるみちゃんはどこか悲しそうだ。……なんでだ?
「んじゃ、夜の内に車の物資回収しちまうか。カズ、行くぞ」
「おうよー」
物資を回収するなら奴らの数が少ない夜の内にしておいた方がいい
そう考え、シャベルを持ち椅子から腰を上げる
「……アタシも行く」
「え? いや、でも……危ないですよ? 明かりを使うとはいえ、周り真っ暗ですし」
念の為懐中電灯を持っていくが、辺りは真っ暗だ
もし、死角から出てきた奴らにくるみちゃんが噛まれました。なんて由紀ちゃん達にどう説明すればいいか
「それは葵達だって一緒だろ? ……それに、葵は一人でやろうとしすぎだ。たまにはアタシ達を頼ってくれ」
どこか寂しそうな顔をしながら、彼女はそう言って譲らない
カズの方を見やり、無言で助けを求める
「……まあ、人手が増える分にはいいんじゃね?」
──結局、三人で物資の回収をする流れになった
正直彼女を危険に晒すのにはあまり賛成できなかったが、彼女の意思は固く、説得はできなかった
周囲を警戒しながら、中央のバリケードを乗り越える
「夜には殆ど居ないとは言っても、全く居ないわけじゃない。三人で死角をカバーしながら行くぞ」
小声で語るカズの言葉に、頷く
この階段が玄関ホールまで一番近く、車が玄関のすぐ近くに停められているとはいっても、油断はできない
「ところで、物資ってどんくらいあるんだ?」
階段を駆け下りながら、奴らに反応されない様小声でカズに問いかける
「んあ? あー、トランクと後部座席に一杯。このメンバーで運べば三往復くらいじゃね?」
……予想していたよりも、随分と多かった
嬉しい事には嬉しいが、三往復もするのかと少しげんなりする
階段を降り切り、玄関ホールへと辿り着く
背後を警戒しているとカズが立ち止まり、口を開く
「……ストップ。ライト消せ」
その言葉を聞き、ライトを消す
奴らだろうか
「玄関に視認二つ。両廊下は……今の所なし。葵、行けるか?」
「オッケー。くるみちゃんは廊下側の警戒をお願いします」
くるみちゃんが頷くのを確認し、カズに目配せをして同時に駆け出す
奴らがやっと気づいた様だが、もう遅い
シャベルを振り抜くと同時に、カズも手にしていた長柄のバールを頭に叩きつける
頭から血を吹き出し、奴らは床へと倒れる
廊下を警戒しているくるみちゃん側も、特に何事もなさそうだ
「……よし、排除完了。玄関外にも姿は無し」
カズの言葉を聞き、ライトを点ける。目的の車はすぐそこだ
くるみちゃんに手招きをしながら、扉を開け外へと出る
「……うわ、随分と集めてきたな」
くるみちゃんが思わずそう漏らす程、物資の量は多かった
軽自動車とは言えトランクと後部座席に殆ど満載。本当に三往復で足りるのだろうか
「んじゃカズ、念のため警戒頼む」
「あいよー、でもなるべくさっさとしてくれ」
くるみちゃんと共に物資をリュックへと詰め、あるいは既にリュックへと入っていた荷物を背負う
「ふんっ!」
気合の入った掛け声に反応して隣を見ると、くるみちゃんがリュックを背負っていた
荷物満杯のリュックを、二つも同時に
「えぇ……?」
思わず声を漏らす。周りを警戒していたカズも、信じられない物を見た様な目をしている
「え、くるみちゃんそれ大丈夫なんですか? 動けないとかないですよね?」
「全然問題なし! ほら、見張り代わるから典軸も早くしろー」
彼女は何てこともないかの様にカズに声をかけ、見張りを交代する
その声に反応したカズは、既に物資が満杯になっていたリュックを一つ背負い、バールを構え直す
「んじゃ戻るか。奴らと遭遇するのは無いとは思うが一応警戒してけよー」
カズの声に、二人で頷く
行き際に玄関の奴らを倒したおかげか、帰り際に奴らと出会う事もなく安全圏へと到達する
その後、往復時にも一,二度光に引き寄せられた奴らに遭遇する程度で、大した問題はなく物資の運搬は完了した
「あー、終わった終わった! 葵も恵飛須沢も、ありがとな!」
一先ず物資を全て生徒会室へと運び終える
物資の確認は、明日全員起きてからすればいいだろう
「おう、カズもお疲れ。仮眠取るなら俺の布団使っていいぞ」
「そーするわ。流石に寝ないと明日に響きそうでなー」
背伸びと欠伸をしながら、カズは立ち上がる
「女性陣から離れた奴が俺の布団だから、まぁ朝までなら使え。明日からは流石に自分の見つけて使えよ?」
おうよー、と言いながらカズは教室から出ていく
生徒会室に残ったのは、二人だけになった
「……それで、くるみちゃんも仮眠取りに行っていいですよ? 大した時間はないですけど、ここからは僕が引き受けるので」
無駄だとは思いつつも、彼女に声をかける
二人で見張りをするくらいなら、少しの時間でも睡眠を取ってもらった方が幾分かマシだろう
「……いや、いい。さっきも言ったけど、今日の見張りはアタシの役目だ」
「……そうですか」
やはりそう言って、彼女は譲らない
部屋を出る為、扉に手をかける
「電気、消しておきますよ?」
頷く彼女を確認して電気を消し、部屋を出る
……職員室で時間でも潰そうか
Side:恵飛須沢胡桃
電気が消え、月の光だけが部屋を照らしている
そんな中で昨日の夜の由紀の言葉を、思い出す
葵に対して言っていた言葉だ
(なんていうか……葵君、私たちに対してよそよそしい気がするんだよ。気を使っているっていうか、距離を取ってるっていうか、壁を作っているっていうか……)
やっぱり、アイツとアタシ達の間には、まだまだ壁があるんだろう
アイツと典軸のやりとりを見ていて、それを確信した
アイツは、一人で無理をしすぎるきらいがある
……いや、正確にはアタシ達に無茶をさせるのを許容できないのだろうか
典軸に対しては即座に巻き込んでいく辺り、その事が伺える
一緒に生活しているとは言え、まともに会話をし始めてから数日のアタシ達と、幼い頃からの関係である典軸とを比べるのがおかしいのかもしれない
そもそもアイツとアタシ達は性別も違っていて、同じ男の典軸と比べるのがおかしいのかもしれない
それでもアタシも由紀も、……恐らくりーさんも、出会ったばかりだけどアイツの事は友達だと思っていて
「少しくらいは、頼ってくれねえかなぁ……」
呟くように口から漏れる言葉
その言葉は闇に消え、届かない