ガールズ&パンツァー サイレンがなる頃に‥‥ 作:ステルス兄貴
ガルパン映画版より、西住家に犬が飼われていることが確認できるのですが、名前は不明だったので、ヴィットマンと名付けました。
戦車道の第六十二回全国大会における母校の敗戦の責任から、周囲の人々からの虐めにより、西住みほは、重度の対人恐怖症を患って登校拒否児となってしまった。
そんな、妹のみほの療養の為、まほと父、西住常夫は、離島、夜美島へと向かった。
母のしほは、西住流の家元の他に戦車道連盟の理事も兼務しているので、離島へは同行しなかった。
(こんな時でも、西住流に戦車道か‥‥)
まほは、妹が虐めにあい、精神的に参って、重度の対人恐怖症を患っているのに、娘を放って戦車道だの西住流だの言っているそんな母親の姿を見て、胸糞悪い気分となった。
しかし、どのみち、みほは、母親に対して苦手意識をもっていたし、しほ自身もみほには失望している様子だった。
虐めにより精神的に参っている今のみほにとって、離島で療養する現状で、母親のしほの存在は正直邪魔でしかない。
その為、しほが夜美島へ一緒に来なかったのはみほにとっては結果オーライなことだったのかもしれないとまほはそう思っていた。
「どうした?学園艦が恋しくなったか?」
母親に対して不満感を持っていたまほに父、常夫は声をかける。
「い、いえ、そんなことは‥‥」
母に対する不満はあるが、母校に残してきた戦車道のチームメイトの事が心配でないと言うのは嘘になる。
「まほ‥‥お前の気持ちは分かるが、しばらくの辛抱だ」
「はい、分かっています。みほの為ですから」
「‥‥」
まほの返答を聞き、常夫はすまなそうな顔をする。
そんな、常夫を安心させるかの様に話題を振るまほ。
「そういえば、新しい家ってどんな家なんですか?」
この先、厄介になる新居がどんな家なのかを訊ねるまほ。
「立派な一軒家らしいよ。と言っても熊本の実家程じゃないけどな、でも、親子で暮らすには十分な広さで、家具の他に庭もついている」
「どんな所にせよ、みほが良くなってくれれば構いません」
「‥‥」
そう言ってまほは一階下のデッキを見る。
そこにはみほの姿があり、彼女は静かに海原を見ていた。
その姿は、あまりにも儚げで、消えてしまいそうだ。
ただ、その反面、絵画や写真のモチーフとしては、なかなか合いそうだ。
やがて、船は目的地である夜美島へと到着する。
離島である夜美島の唯一の交通手段はまほたちが乗ってきた連絡船かこの島の漁師たちの漁船のみで、連絡船には島民の為の生活物資が積まれていた。
港に到着すると、物資の卸し作業が始まり、港は人と荷物の往来が激しくなる。
そんな中、まほたちも島に降り立った。
「‥‥」
港湾労働者以外にこの島の漁師や漁業関係者である島民たちが、まほたちの事をジッと見ていた。
まほは島民たちの様子から自分たちはあまり歓迎されていないのではないかと思った。
しかし、まほが毅然とした態度でいれたのは、自分の腕をつかみ、背中に隠れているみほの存在があったからだ。
学校でのいじめで、みほは極端に人との接触を怖がり、今ではまほ以外と口を聞こうともしない。
父との会話も自分が仲介して行っているくらいだ。
島民たちの奇異な視線にさらされている中、港に一台のワゴン車が現れ、白衣を身に纏い、眼鏡をかけた一人の男が、運転席から降りてきた。
常夫がその白衣の人物の下へと駆け寄る。
「どうも、遠路はるばるようこそ」
「えっと、入江‥‥先生ですよね?」
「はい。夜美島診療所の入江京介です」
「西住常夫です。この度は、どうもお世話になります。まほ‥‥みほ、こちらは、お世話になる入江先生だ。‥‥みほの‥‥カウンセリングをしてくれる先生だよ」
「よろしく」
入江と言う医師が一礼する。
「‥‥お世話になります」
まほも入江に一礼する。
「ほら、みほも挨拶を‥‥」
まほは自分の背中に隠れているみほに挨拶するように促すが、みほはまほの背中に完全に隠れ、首を横に振る。
やはり、初対面とはいえ、人が怖いみたいだ。
「すみません。ある事情で、この子、対人恐怖症になってしまったみたいで‥‥」
まほは、入江にすまなそうに言う。
「いえ、気にしていませんよ」
入江は微笑みながら言う。
そして、常夫と向き合い、
「黒森峰の病院から報告は受けています‥‥娘さん、この島の療養で少しでも良くなってくれればいいのですが‥‥」
「私もそう願っています」
小声で話したつもりなのだろうが、二人の会話の内容はまほに聞こえていた。
(お父さんはあんなにもみほの事を思っているのに、あの女は‥‥)
母、しほに対する不満はますます募るばかりだった。
その後、入江が運転してきたワゴン車に乗り、新居へと向かうまほたち。
「御覧の通り、何もない島で、娯楽施設はなく、島民の皆さんは、主に漁業や農業で生計を立てています」
ワゴン車はこの島の唯一の商店街の中を走っていく。
入江の言う通り、コンビニもなければ、スーパーの類も無く、商店と言えば個人商店のみで、商品も魚の干物や果物、野菜、そして生活雑貨。
生活物資はそこで、購入するみたいだ。
しかし、この商店街を見る限り、この島の島民たちは、ほんとうに食べて、寝て、働いての生活だけをしているみたいだ。
そして、商店街に居た島民たちも物珍しいのか、ワゴン車を‥‥正確にはワゴン車に乗っているまほたちの事をジッと見ている。
「話には聞いていましたが、ほんとうに日本じゃないみたいですね」
助手席の常夫が入江に話しかける。
常夫は事前にみほの療養地であるこの島の事をある程度調べ、ここがみほの療養地としてふさわしいと判断したようだ。
確かに常夫の言う通り、建物の造りや装飾など、自分たちの知る日本文化とはややかけ離れているように見える。
「ああ、異人さんの影響みたいです。昔、この島に流れ着いた異人さんが、この島の開墾の祖となったみたいで‥‥戦時中は日本軍の基地があって、戦後、アメリカ軍がレーダー基地を作ろうとしたみたいです」
入り江が運転するワゴン車は商店街を出ると、
「あそこが、駐在所です。もっとも、この島じゃあ、犯罪なんて起きませんけどね」
入江は、『はっはっはっ』と笑いながら、駐在所の場所を教えると同時に夜美島は平和な島であると言う。
まほがチラッと駐在所を見ると、そこには一人の制服警官がおり、警官はこれまで出会って来た島民同様、ジッとこちらを見ていた。
そして、警官と目が合うと、気まずそうにまほは視線を逸らした。
「こちらが西住さんのお宅になります」
やがて、ワゴン車は目的地である夜美島の西住家に到着した。
まほたちは、ワゴン車から降り、新居である家を見る。
新居は長い間、手入れをされておらず、庭は草木が生い茂り、後で草取りをしなければならない。
玄関先には先に送っておいた荷物が届けられていた。
まほはみほの様子をチラッと見ると、みほは特に怯えた様子もなく、ジッと家を見ていた。
全く異なる環境に放り込まれることにより、みほが不安になっているのではないかと思っていたまほにとって、みほが怯えている様子がないことは、まずは一安心だった。
「では、のちほど、診療所でお待ちしております」
「どうもありがとうございました。今後もよろしくお願いします」
入江はワゴン車に乗り込み診療所へと戻っていく。
まほたちは玄関を開け、新居の中に入った。
家は広いが比較的薄暗くなんだか気味が悪い。
居間には大きな窓があるのだが、間取りの位置、庭に生えている木々のせいで、薄暗かった。
家の造りは古いのだが、意外にもしっかりとした造りとなっていたので、痛んだ様子はなかったが、長いこと人が住んでいなかったせいか、埃だらけなので、掃除は必須事項だった。
あちこちにあるクモの巣を取り払い、窓と言う窓は全て開けて換気をすると、心地よい風が入り込む。
次に拭き掃除をするため、まほは台所の蛇口を捻る。
最初は、水道管に詰まった錆の為、赤い水が出てきた。
まほにはそれが一瞬血の様に見えたが、家の状態を考えてみれば当然のことで、しばらく水を流していると、やがて水は赤い水から、透明な本来の水の色となる。
バケツに水を入れ、残されていた家具を拭くまほ。
居間のテーブルを拭き、埃を落とすのだが、テーブルには食器が置かれていた痕跡がくっきりと残っており、いくら拭いても落ちない。
そこへ、段ボールを持った常夫が通りかかる。
「ねぇ、お父さん、家具ぐらい新しいのにしない?」
「そうか?どこも壊れていないんだろう?それに一生此処に居る訳じゃないんだし」
「それはそうだけど‥‥」
確かに常夫の言う通り、自分たちはみほの療養の為にこの島にやってきただけで、この島に永住する訳ではない。
次にまほは、バケツを持ち、廊下に出ると廊下や家の通路を拭き始める。
すると、みほは積まれた段ボールの陰に膝を抱えて座っている。
「ん?どうした?みほ」
「‥‥」
まほはみほに声をかけるが、みほは何も答えず、ただジッと膝を抱えて座っているだけ‥‥
「はぁ~‥‥掃除は私とお父さんでやるから、みほは自分の荷物だけでも、整理しておきなさい」
そう言ってまほは再び拭き掃除を始める。
この家の通路は入り組んでいる造りになっており、まるで回廊みたいだった。
まほは四つん這いになりながら雑巾がけをしていくと、目の前に大きなヤスデが居た。
「ひっぃ!!」
その姿を見たまほは思わずバケツを倒してしまった。
「あぁ~‥‥やってしまった‥‥」
まほは倒れたバケツを起こし、通路に出来た水たまりを拭き始める。
その時、まほはあるモノを見つけた‥‥
それは壁に出来たシミで、どす黒い何かが壁にかかって出来たモノだった。
まほは雑巾でそのシミを拭くが一向にその汚れは落ちない。
「頑固な汚れだな‥‥」
まほは、そのシミを触る。
「ん?‥‥これ‥‥まさか‥‥血?」
それは錯覚だったかもしれないが、この壁のどす黒いシミは飛沫血痕に見えた。
その時、庭先で、飼い犬であるヴィットマンの吠える声が聞こえ、まほは顔を上げた。
この犬は元々まほが熊本の実家で飼っていた犬なので、まほが離島に行くならと、まほが連れてきたのだ。
まほはその足で玄関口へと向かう。
「ヴィットマン、どうした?」
まほが玄関口を開けると、そこには見慣れない若い一人の女性が立っており、ヴィットマンはその女性に向かって吠えていた。
「えっと‥‥何か御用でしょうか?」
まほは恐る恐る女性に訊ねる。
すると、女性は貼り付けたかの様な笑みを浮かべ、
「あっ、私、隣に住んでいる竜宮レナと言います」
若い女性はまほに自己紹介をした後、
「さっき、入江先生の車があったんで‥‥先生から、今度お隣に引っ越してくる人が居るので、よろしくしてあげてと言われていたので‥‥」
レナの話を聞き、事態を理解したまほ。
「お引越し、大変でしょう?なにか手伝いましょうか?」
レナは手伝うことを買って出てくれた。
確かにまほと常夫の二人だけは荷解きと掃除は大変だ。
みほには自分の分の荷物だけは解くように言ったが、それ以外は多分できないだろう。
そこで、まほは、
「‥‥すみませんが、いいですか?」
「ええ、かまわないわよ」
まほはレナを家の中に招き入れた。
拭き掃除はさっきあらかた終わっており、常夫は段ボールから荷物を出している。
まほとレナは台所にて、食器の洗い物をしていた。
「わざわざすみません。手伝ってもらって‥‥」
まほは改めてレナにお礼を言う。
「いいのよ、お隣さんなんだし‥でも、なんでこんな辺鄙なところに引越しなんてしたの?」
レナはまほに引っ越して来た理由を訊ねてきた。
「療養なんです‥‥妹の‥‥」
「そう、大変ね‥‥島で何かわからないことがあったら、なんでも聞いてね」
「はい、ありがとうございます」
「前はどこに居たの?」
「黒森峰の学園艦と熊本の実家を行ったり来たりしていました」
「そう‥‥学園艦から来たのなら、分かるかもしれないけど、こういう島でも近所付き合いは大切なのよ」
「はい」
「あと、夜はあまり外に出歩かない方が良いわ。野生動物や崖とかもあって危ないし‥‥特に、森にある鉄塔近くには野生動物も多いし、鉄塔自体が古いものだから、倒れてくるかもしれないわ」
「は、はい」
「それと‥‥」
レナは真剣な顔でまほを見つめる。
「それと?」
「‥‥サイレンが鳴ったら外に出ちゃダメよ‥‥絶対に‥‥」
「サイレン?なんですか?それ?」
「大したことじゃないの‥‥島に伝わる迷信と言うか、決まり事なのよ。ほら、こういう世間から隔離されたようなところだと、その地域や島独特の決まり事みたいなローカル・ルールみたいなものがあるじゃない?」
「は、はぁ‥‥」
島の規則?をまほに伝えた後、レナはテキパキと洗い物を続ける。
まほはレナの言うサイレンと言う単語に引っ掛かりながらも、「郷に入っては郷に従え」と言う言葉通り、とりあえず従うことにした。