ガールズ&パンツァー サイレンがなる頃に‥‥   作:ステルス兄貴

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3話

 

 

戦車道の全国大会の敗戦の責任から、周囲の人から虐めに遭い、重度の対人恐怖症を患ってしまったみほ。

そのみほの為、離島、夜美島へ療養に来たまほと常夫。

引っ越し当日、荷解きと新居の掃除をしていると、隣人であるレナが挨拶と共に手伝いに来てくれた。

洗い物が終わり、レナの事を父に紹介した後、掃除と荷解きがあらかた終わり、レナが帰った頃、まほは、みほを連れて、入江が居る島の診療所へ連れて行った。

診療所は島の商店街から少し離れた場所にあり、家から歩いて十五分くらいの場所にあった。

入江の診察では、診察室に二つの椅子があり、その椅子にまほとみほが座り、入江の問診に対して、まほがみほに伝え、みほの言葉をまほが入江に伝えることで診察を行って行く。

一通り、診察を終え、入江はカルテにボールペンを走らせ、診察の結果を書いている。

 

「では、今日はここまでにして、しばらく様子を見ましょう」

 

「はい、ありがとうございます。ほら、みほもお礼を言いなさい」

 

まほに促され、みほは無言のまま入江に一礼する。

 

「みほ、私は少し先生とお話をするから、待合室で待っていてくれ」

 

みほは肯くと診察室から出ていく。

 

「黒森峰の病院から、みほの事を聞いていると思いますが、みほ‥虐めで極度の対人恐怖症になってしまって、私以外に心を開かなくなってしまったんです」

 

「ええ、その件については聞いております」

 

「でも、今日の様子を見て、みほ‥先生の事は気に入ったみたいで、そこまで怯えた様子ではありませんでした」

 

港であった時は、入江の他に沢山の人が居たから、みほもきっと恥ずかしかったのだろう。

 

「そう‥ですか‥‥」

 

入江は少し引き攣った顔をしながら答える。

 

「先生」

 

「はい?」

 

「‥先生‥あの子、本当に良くなるんでしょうか?このまま、ずっと人付き合いが出来ない子のままで‥‥」

 

まほはみほの将来を案じた。

自分だって常日頃から、みほの傍に居られるわけではない。

それでもちょっと目を離すと、みほの事を心配してしまう。

少しでもみほの対人恐怖症が治ってくれればそこまでの心配や不安を抱くことはないのだが‥‥

そんなまほを入江がなだめる。

 

「西住さん、そう焦らないで‥ここは熊本でなければ、黒森峰の学園艦でもない‥‥ゆっくり治していこう‥‥島には島の時間が流れているんだから」

 

まほは少し落ち着きを取り戻すも、入江に、

 

「は、はい‥‥ただ、私、島の人たちとうまくやっていけるかどうか‥‥」

 

まほはみほの他にこの島での生活の不安も口にする。

確かにこうした離島暮らしは初めてなのだが、やはり気になるのは島民たちのあの視線‥‥

 

「ま、まぁ、こうした離島は閉鎖的なところもあるからね。私だって、この島に来たばかりの頃は、いろいろ不安はあったけど、今では普通に暮らしている。島での生活も時間が経てば慣れていくよ」

 

「‥だと、いいんですけど‥‥」

 

(入江先生も元は島の外の人だったんだ‥‥)

 

入江の言葉から、彼も島の島民ではなく、元は島の外の人間だったことが伺える。

 

「まぁ、何か困ったことがあったら、遠慮なく相談してください」

 

「はい、ありがとうございます」

 

まほが入江に礼を言って診察室を出る。

そして、待合室で待っている筈のみほに声をかける。

 

「みほ、帰ろう」

 

しかし、待合室にみほの姿はなかった。

 

「みほ?‥‥みほ!!どこにいるの!?」

 

まほは待合室の隅々を捜すもみほの姿はない。

もしかして、トイレに行ったのかと思い、トイレも探すが、やはりそこにみほの姿はない。

 

「みほ!!みほ!!‥‥一体何処に‥‥まさか、一人で外へ!?」

 

まほは急いで、外へと出る。

そして、商店街へとやって来た時、まほは周囲に人っ子一人いないことに気づく。

 

「なんで?‥‥どうして誰も居ないの‥‥?」

 

辺りを見回しても人の気配さえない。

さっき、入江の車で通った時はあんなにも沢山の人が居たのに、今はまるで廃墟になったみたいに誰も居ない。

しかし、今は島民の行方よりも居なくなったみほの捜索が優先だ。

 

「みほ!!」

 

まほは人の気配がない商店街を歩き回り、みほを捜す。

その最中、チラッと近くの屋台を見ると、テーブルには食べかけの料理や飲み物、そして灰皿には火が付いたままのタバコが放置されている。

ラジオも点けっぱなしの状態で、スピーカーからはDJの声が空しく辺りに響いている。

それはほんのついさっきまで人が居た形跡ばかりだ‥‥

 

「どうして‥‥?‥‥みほも居ないし、他の人も‥‥一体どうなっているんだ?」

 

まほはそのまま商店街を抜け、港につくがそこにもやはり誰も居ない。

 

「みほ‥‥一体何処に‥‥ま、まさか、森に行ったんじゃあ‥‥」

 

まほはお隣の住人であるレナが森の鉄塔の近くには野生動物や崖があり危険だと言っていたことを思い出した。

だが、レナが説明していたあの場にみほは居なかった。

もしかしたら、みほは森へ行ったのかもしれない。

森にある鉄塔はここからでも見えるし、みほはあの鉄塔が気になったのかもしれない。

 

「みほ!!」

 

まほは急いで鉄塔のある森の山道へと向かう。

レナが鉄塔近くは危険だと言っていたが、そんなの気にしていられない。

山道は少し登るとやや平坦になったが、生い茂る木々が増えて次第に森の中を彷徨っている感覚になってきた。

太陽はまだ頭上高く昇っていたが、森の中は随分と薄暗かった。

 

「みほ!!どこだ!?」

 

まほは森の中でみほの名前を叫びながらみほを捜す。

すると、不意に森の奥でガサっと、音がして何かが動く気配と一瞬、木々の間を横切る影が見えた。

 

「みほ?」

 

まほはそれを追うようにして更に茂みの奥へと入る。

しばらく進むと、そこには廃墟となった山小屋が姿を現した。

 

「みほ、そこにいるのか?」

 

まほはゆっくりと慎重な足取りで廃屋の中へと足を踏み入れる。

廃屋に入ったまほは、中の様子を見て、思わず足を止めた。

雑然とした部屋の中は、沢山のガラクタで溢れている。

それは廃屋と言うよりも物置にちかい。

そして、まほは壁に赤いペンキで書かれている落書きに目をやった。

 

「なんだ?これは‥‥?‥‥DOG‥‥LOVE‥‥犬が好き?」

 

まほは壁の落書きを見て、首を傾げるが、所詮はただの落書き‥‥

そんな落書きよりも今はみほの方が大事だ。

 

「みほ」

 

みほの名前を呼びながら、まほは廃屋の中を歩き回る。

すると、足元でジャリっと何かを踏んでまほは足を止める。

足元を見ると、そこには割れた鏡が散らばっていた。

そして、鏡の破片の他に古びた赤い表紙の手帳が落ちていた。

まほは不意にその手帳を拾い上げる。

手帳は途中で破り取られており、裏表紙がなかった。

もう一度、表に返すと、表紙には手書きの文字で、「1976年、取材メモ」と書かれていた。

まほは、太陽の光が差し込む場所まで移動して、手帳をパラパラとめくる。

中ほどのページに「サイレンの定義」と言う文字が並んでいる。

 

「サイレン?‥‥ここでもサイレンか‥‥」

 

レナの他にここでも、「サイレン」と言う単語出てきたことに益々意味が分からなくなる。

だが、サイレンが一体何なのか、この手帳にはもしかしたらその謎を解く答えかヒントが書かれているかもしれない。

まほはそう思い、ページをめくる。

 

・1819年、フランスの物理学者カニャール・ド・トゥールによって発明された穴の開いた円盤を回転させた音を出す装置。 

警報、時報、信号など用いる。

 

・ギリシャ神話で、上半身は女、下半身は最中の姿をした海の魔物。

美しい歌声でフナ人を惑わして遭難させていた人魚伝説のモデル、セイレーン。

 

まほはひたすらページをめくっていく。

その時、まほの手は小さく震えていた。

 

風が吹きサイレンが鳴る。

 

二度目のサイレンが島に鳴り響く。

 

次第に書かれている文字は、走り書きの様に乱れていく。

 

サイレンの鳴る島 犬を恐れる島民 サイレンは鉄塔か? などと言う言葉だけがページにデカデカと書かれている。

 

「サイレン、サイレン、サイレン‥‥一体、サイレンってなんなんだ!?」

 

ここに記されているサイレンというモノが、自分が知るサイレン‥‥

救急車やパトカー、消防車に備え付けられているサイレンとは異なるモノと感じるまほ。

そして、最後のページには‥‥

 

 

8月2日、深夜、大停電、のち、三度目のサイレンで島民に変化

 

と書かれていた。

 

「島民に変化?どういう事だ?」

 

まほが手帳に書かれた言葉の意味が理解できずにいると、

 

「そこで何をしている!?」

 

不意に背後から声がして、まほは反射的に手に持っていた手帳をポケットの中に入れ、背後を振り向く。

そこにはまるでホームレスのような出で立ちの男がいた。

まほはその男の異様な風貌に思わず後ずさる。

 

「サイレンだ‥‥」

 

すると、男はそう呟きながら、まほに近づいてくる。

 

「サイレンが鳴ったら、絶対に家の外に出てはならない!!」

 

男はまほの腕をつかむと、レナが言っていたことと同じことを叫ぶ。

 

「サイレンが鳴ったら、絶対に家の外に出てはならない!!」

 

男の異常な様子にまほも段々と恐怖を感じ、

 

「いや、放して!!‥‥放せ!!」

 

まほは男の腕を振りほどき、廃屋から逃げていく。

逃げる最中、時折後ろを振り返り、男が追ってきていないかを確認する。

しかし、男はまほの後を追ってくる気配はなかった。

 

「ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥ハァ‥‥」

 

男が追ってこないことを確認し、立ち止まり、息を整える。

息を整えていると、森の奥から何か金属が軋むような音がしてきた。

途切れ途切れに聞こえてくるその音にまるで導かれるかの様に音がする方へと歩いていくと、森を抜け、広い草原にたどり着いた。

草原の真ん中には巨大な電波塔のような鉄塔が聳え立っていた。

 

(これが、レナさんの言っていた鉄塔‥‥)

 

まほは、眼前に聳え立つ鉄塔こそレナが言っていた鉄塔で、その鉄塔は確かにレナが言っていたように、朽ち果ててボロボロの状態‥‥

台風か強い風が吹けば倒れてしまうかもしれない。

そして鉄塔にはワイヤーの様なモノが沢山絡まっており、風が吹くたびにワイヤーと鉄塔の鉄骨が当たって金属がこすれるような音がしていたのだ。

まほが鉄塔を見上げていると、鉄塔の近くから笑い声が聞こえてきた。

 

「みほ?」

 

まほにとって、それは聞き慣れた声であり、最近では聞くことのなかった声だった。

小走りで声がする方へと向かうと、鉄塔の真下にはみほがまほに背を向けて座っており、みほの前には赤い服を着た見慣れない少女がしゃがみ込んでおり、二人は何やら楽しそうに話していた。

この前の全国大会から、みほの笑っている声も顔もまほは見たことがなかった。

自分がどんなに声をかけてもみほは、必要最低限の事しか言わないし、笑みも浮かべてくれない。

そのみほが、あの少女の前では、以前の様に明るく振る舞っている。

それが嬉しいように思えつつ、突然見ず知らずの少女にそれが出来たことにあの少女には嫉妬めいたものが、まほの体の中で疼く。

 

「みほ、こんなところに居たのか!?ちゃんと待合室で待っていないとダメじゃない!!」

 

みほが見つかったことで、まほはみほに声をかける。

すると、まほの声に気づいた少女がスッと立ち上がる。

フードのように頭まですっぽりと包んだ赤い服を着た少女は寂しそうな表情で、まほをジッと見ていた。

 

「‥‥」

 

まほは、少女の不思議なまなざしに不思議な力を感じ、何も言えずに固まったまま立ち尽くしていた。

少女がどこの誰なのか?

みほとどんなことを話していたのか?

訊ねることは沢山あったはずなのに、まほは何も言えなかった。

そして、先程まで少女と楽しそうに話していたみほも笑顔をまほに向けることなく、普段通りの無表情の顔を向けてくる。

 

(なんで‥‥?どうして、そんな顔をするんだ?みほ‥‥さっきまで、笑っていたのに‥‥)

 

まほとしては、やはり先ほどまで笑っていたのに、自分には笑顔を向けてくれないみほに空しさを感じるまほ。

やがて、少女はクルっと踵を返し、何処かへと行ってしまう。

まほは少女に声をかけることも、追いかけることもなく、ただ呆然として彼女の背中を見ているだけだった。

 

「‥‥みほ、帰るよ」

 

少女が去り、まほは、みほの手を引いて、自宅へと戻った。

 

夜美島に来た初日から、いろんなことがあった。

しかし、大勢の島民と比べ、廃屋であったあの男と先程の少女は、島の島民とはちょっと異なる印象を受けた。

まほは、帰り道、どうやって戻ってきたのか覚えていない。

色んなことがまほの頭の中でグルグルと渦巻いており、思考がまとまらない。

気づくとまほたちは森を抜け、所々に民家がある所まで来ていた。

先程の商店街とは異なり、人の声も聞こえる。

耳を澄ませると、それは人の歌声に聴こえる。

まほは恐る恐る声がする方へ向かうと、みほはまほに手を引かれるまま後をついてくる。

やがて、目の間に現れたのは古びた円形の建物だった。

とりたて大きいと言う訳ではないが、この島では大きな建物の部類に入る。

窓に施されている細工は洋風で、周囲の風景とのギャップはあった。

歌声はその建物の中から聴こえてくる。

まほは意を決し、入り口のドアを開けて、中を覗き込んだ。

建物の中は高い天井が吹き抜けになっており、広いホールみたいな造りだった。

ドアを開けると、更に歌声は大きくなっていく。

目を凝らし、薄暗い明るい奥を見つめた。

ホールの明かりはゆらりとうごめいていた。

壁の一角に祭壇の様にこしらえたテーブルがあり、そこには沢山のろうそくが立てられいる。

明かりの正体はそのろうそくの炎だった。

これらの要素からここは教会か集会所の様な建物なのだろう。

そして、まほはホールの中央に大勢の人たちがおり、陶酔したように歌い、踊っている姿を見つけ、息を呑む。

多くの島民たちが恍惚の表情をしており、その光景はクラブ活動やお祭りの催し物の練習というよりは何かの儀式みたいに見えた。

ここに沢山の人が居るから、あの商店街には人の気配がなかったのだろうか?

まほが更に驚いたのが、人垣の真ん中にまるで熱で浮かれたかの様に激しく舞い踊るレナの姿があったことだった。

思わず声が漏れそうになるのをまほは、必死にこらえ、レナたちの様子を窺っていた。

やがて、ホールに居る人たちが歌っている歌詞が聞き取れるようになってきて、まほは物陰に身を潜めながら、彼らが歌っている歌声に耳を傾けた。

彼らの歌声は何度も繰り返され、その異様な宴は一向に終わる気配がなかった。

これ以上此処に居ると、覗き見しているのがバレそうだったので、そっとその場から立ち去った。

夜も更け、まほはみほと一緒にお皿を洗っていると、昼間に聞いたあの異様な歌の歌詞が聴こえ、まほは思わず体をビクッと震わせる。

 

「~~♪~~~♪~~♪~♪~~~♪~」

 

気づくと隣に居るみほがあの歌を口ずさんでいたのだ。

無表情であの不気味な歌を歌われると、不気味だ。

 

「みほ、あんな不気味な歌を歌うのは止めなさい!!」

 

まほは、みほに口調を強めて、あの不気味な歌を止めるように言う。

すると、みほは無言のまま、まほをジッと見てくる。

 

「ん?どうかしたのか?」

 

そこへ、常夫が台所へとやってきて声をかけてきた。

 

「別に‥‥」

 

「そうか‥‥?」

 

常夫は何か言いたげであったがそれ以上は言わなかった。

 

「‥‥ねぇ、お父さん」

 

「ん?」

 

「この島‥‥」

 

「島がどうかしたのか?」

 

「あっ、うん‥‥なんでもない」

 

まほは、昼間に見た島民たちのあの異様な光景を口に出そうとしたが、その言葉を飲み込んだ。

この島に来たのは、自分の為ではなく、みほの為に来たのだ。

自分の島民や島に対する偏見で父親やみほに心配させる訳にはいかなかった。

みほの治療が済むまで自分一人が我慢すればいい‥‥

この島にずっと住むわけではないのだから‥‥

まほはこの時、そう思っていた。

 




島民が歌っていた歌はSIREN2の『巫秘抄歌』をイメージしてください。
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