ガールズ&パンツァー サイレンがなる頃に‥‥ 作:ステルス兄貴
重度の対人恐怖症を患ってしまったみほの療養の為、父と共に離島、夜美島に来たまほ。
しかし、ある日の夜、突如島中が停電となり、その直後、どこからともなくサイレンの様な音が鳴り響く。
サイレンが鳴った夜、父である常夫は家には戻らず、翌日心配になったまほは、捜しに出る。
そして、森の中に佇む礼拝堂の地下で倒れていた常夫を発見する。
診療所の医師、入江と島の駐在警官の前原と共に改めて礼拝堂の地下へと向かうと、そこに常夫の姿はなく、その後、何事もなかったかのように常夫は家に戻っていた。
しかし、常夫の様子は明らかに自分の知る父とは異なる存在に見えた。
それはまほだけではなく、飼い犬であるヴィットマンも常夫に向かって飛び掛からんばかりの勢いで吠えている。
翌朝、ヴィットマンの姿がいつの間にか消えていた。
まほが捜してもどこにも見つからない。
常夫や周辺の人に聞いても『知らない』 『見ていない』と言う。
午後、みほの診察の為、診療所に行き、入江にまほは、この島に来てから何度も耳にした『サイレン』について訊ねた。
全てはあのサイレンが鳴った夜‥‥常夫が変になったのもヴィットマンが行方不明になったのも全部あのサイレンが原因だとまほはそう推測していた。
しかし、入江からサイレンに対する明確な答えは得られなかった。
その日、夕食の準備が終わった後、まほはみほを呼びに行くが、みほの姿がない。
みほを捜している中、まほは常夫の部屋で集団失踪に関する資料を見つけ、それに目を通した。
そこにはロアノーク島の集団失踪、マリー・セレスト号の乗員失踪の事が書かれていた。
まほは、更にその書類に目を通す。
続くページにはロアノーク島やマリー・セレスト号の他に世界中で起きた集団失踪事件の事例が書かれていた。
ノーフォーク連隊集団失踪事件(1915年)
第一次世界大戦中の1915年8月28日、連合国軍は、同盟国軍側であるオスマン帝国の首都イスタンブールを制圧すべく、ガリポリ半島に軍を展開して、イギリス陸軍のノーフォーク連隊三百余名もサル・ベイ丘の第60号丘陵の占拠を目指し歩みを進めていた。
以下はオーストラリア及びニュージランドの連合部隊、通称アンザック軍団が目撃した奇妙な出来事である。
その日は快晴であったが、丘の上には複数の奇妙な雲の塊が漂っていた。
不思議なことにその雲はどれも形が似ており、風に流されることもなく一箇所に固まっていた。
丘の上へと行軍を続けるノーフォーク連隊の将兵たちは次々に雲の中へと消えていき、やがて最後の一人も雲の中に姿を消した。
およそ一時間後、雲は空に流され消えた‥‥
当然、丘にはノーフォーク連隊が展開している筈であった。
ところが雲が去り、アンザック軍団が目撃したのは、無人の丘陵地帯だったのである。
ノーフォーク連隊の誰一人として雲から出てきていない以上、彼らはそこに居なければならなかった。
だが、彼らはそこに居なかった‥‥。
やがて戦争は終結し、イギリス側はオスマン帝国に対しノーフォーク連隊の将兵たちの返還を要求した。
イギリス政府は、消息を絶ったノーフォーク連隊の将兵たちはオスマン帝国軍の襲撃を受け、多数が捕虜にされたと考えていたからである。
だが、オスマン帝国は、そのような部隊との交戦記録は無いとしてイギリスの要求を否定した。
一部始終を目撃していたアンザック軍団の将兵たちも、当時いかなる戦闘行為も行われなかったと署名つきで証言、オスマン帝国の見解を裏付けた。
結局ノーフォーク連隊の将兵たちは全員が『行方不明』として処理された。
あの時、彼らに一体何が起こったのかは今日でも不明である。
そしてノーフォーク連隊の将兵たちは現在も行方不明のままである。
イヌイット村、村人集団失踪事件 (1930年)
1930年11月、カナダの猟師、ジョー・ラベルは、チャーチルから500マイル北方に位置する アンジクニ湖近くのイヌイット村を訪れた。
この村には多数のイヌイットが暮らしており、ジョーは彼らとは良い付き合いであった。
ところがその日、ラベルの目に飛び込んできたのは、誰一人として存在しない無人の村であったのである。
彼が村を調べてみると、手のつけられていない食べ物、縫い物の途中で放棄された針や布などが見つかり、飼われていた七匹の犬が餓死していた。
何か村に急な異変が起き、村人たちは慌てて 村を放棄したのだろうか?
だが、湖の近くでカヤック(ボート)が打ち捨てられたままであったため、湖を越えたのではないのは 明らかである。
しかも、ライフルまでもが放置されているのは妙であった。
狩猟を行うイヌイットにとってライフルは生活必需品であり、それを残して旅に出ることなど有り得ない。
やがて警察隊が調査に訪れると、さらに奇妙な点に出くわした。
なんと、村にある墓が掘り起こされており、土の中に埋葬されていた筈の死体が全て消えていたのである。
食器に残っていた穀粒の形状から、村からは村人たちはおろか、埋葬された死体までもが姿を消したのはおよそ二ヶ月前であることが判明した。
失踪の原因は今も不明で、村人たちは現在も行方不明である。
人気アーティスト失踪事件(1970年代)
大西洋にあるバミューダトライアングル‥‥そこでは、これまで多くの船舶や航空機が消失した魔の海域として有名だ。
そして、日本でも同じグループ名のアーティストがかつて存在しており、そのアーティストたちも謎の失踪をしていた。
アーティストのグループ名は『バミューダ3(スリー)』。
彼らは1970年代を中心に活躍したアフロヘアーの三つ子アイドルグループだった。
長男レッド(アイドル名)と次男グリーン(アイドル名)がボーカルを務め、三男イエロー(アイドル名)はタンバリンを担当。
当時のアイドルにしては珍しいソウルフルな歌唱力とルックスで異彩を放っていたが、三枚目のシングルである『恋の三角海域SOS』が爆発的なミリオンセラーとなり、一躍人気アイドルの仲間入りをした。
しかし、『恋の三角海域SOS』が好セールスを記録する中、はじめに長男レッド(アイドル名)が行方不明になり、続いて次男グリーン(アイドル名)が歌番組収録中に忽然と姿を消すという怪事件がバミューダ3を襲った。
『恋の三角海域SOS』の歌詞になぞらえた見立て殺人ではないかと報道され、世間を騒然とさせたニュースとなったが、三男イエロー(アイドル名)は楽屋で意識を失い倒れているところを発見され事無きを得た。
しかしタンバリンのみでは活動は無理という事務所判断により人気絶頂のまま解散した。
「なんで、お父さんがこんなモノを‥‥」
自分が知る限り、父はこんなオカルトやミステリーに関してそこまで興味があるとは思えなかった。
それが何故、こんな書類を持っていたのかまほには理解できなかった。
そして、最後のページ‥‥
そこには、夜美島集団失踪事件と書かれた項目があった。
「夜美島‥集団失踪事件‥‥?この島でも、集団失踪事件が‥‥」
まほは、震える手で、書類を握りしめ、夜美島集団失踪事件の項目に目をやる。
1976年、夜美島である嵐の夜、海底ケーブルが謎の断線が起き島は停電となる。
島に来た救助隊は、島民の安否を確認するため、島中を捜索するが島には島民の姿がどこにもない。
民家の中を捜索すると、ついさっきまで、人が居た形跡があった。
捜索の結果、救助隊は一人の男を発見した。
身分証から、その男は東京在住のフリーのカメラマン兼ジャーナリストの富竹ジロウ氏と判明。
彼が何の目的で、この島に来たのかは不明であったが、彼は救助に来た人たちに、
「サイレンが鳴ったら、外に出てはならない」
と、喚き散らしたらしい。
大規模な捜索の結果、結局この島で見つかったのはこの富竹だけで、他の島民の行方は知れず、捜索は打ち切られた。
その時の島民たちは現在も行方不明のままであり、救助された富竹も夜美島から救助された時、精神疾患を患っており、まともに事情聴取できる状態ではなく、救助から数ヶ月後に自殺した。
唯一の生存者である富竹が自殺したことから、夜美島集団失踪事件の真相は謎のままとなった。
(もしかして、あの手帳‥‥)
夜美島集団失踪事件の項目を見たまほは、富竹の職業とこの島で集団失踪事件が起きた1976年と言う年代から、あの廃屋に落ちていた手帳は富竹が残した手帳なのではないかと思った。
さらにこの夜美島には人魚伝説なるモノがあった。
元々この夜美島は江戸時代の頃、疫病患者の隔離島であった。
その島に住む‥‥病気で隔離された一人の青年がある日、浜辺を散歩していると、一匹の人魚と出会った。
そして、青年は人魚に、
「貴女の血肉をほんの少しだけ分けてはくれませんか?私は重い病を患っており、毎日苦しい日々を送っています。私をこの苦しみから解放してくれませんか?」
と、頼んだ。
人魚の血肉は不老不死の薬と信じられていた。
青年の話を聞いた人魚は、その青年を哀れに思い、青年に血肉の一部を分けてあげた。
しかし、それを見ていた島民たちが、次々と人魚に襲い掛かった。
人魚を取り囲み、人魚の肉体に噛みつき、人魚の血肉を貪る。
やげて、海は浜辺で食い殺され、流れた人魚の血で海は赤くなる。
しばらくすると、海から人魚の鳴き声が聞こえてきた。
その声を聞いた島民たちは苦しみ、次々と人魚の血で赤くなった海へと入っていき、夜美島から人が消えた‥‥。
それから夜美島では人魚に近づいてはならないと言う言い伝えが出来た。
昔話の最後のページには血に染まった様な赤い衣をまとった人魚の姿が描かれていた。
その姿は、あの森で、みほと出会っていたあの少女の姿に似ていた。
書類に一通り、目を通したまほは書類を手に持ったまま、部屋に戻り、手帳を取り出して、ページをめくる。
「サイレンの鳴る島」
「犬を恐れる島民」
「大停電の後、三度目のサイレンで島民に変化」
犬の部分は兎も角、「サイレンが鳴る島」 「大停電」 この二つは合っている。
更に富竹の手帳にはサイレンの由来が書かれていた。
「セイレーン‥‥不老不死‥‥サイレン‥‥」
まほはポツリと呟く。
手帳と赤い衣の少女が描かれている書類を見比べる。
書類に描かれている赤い衣の少女は、まるで自分の事を見つめ返してくるかの様に見えた。
そして、みほの事を思い出す。
家の中に居ないみほ、サイレン、そして赤い衣の少女‥‥
「まさかっ!?」
まほは、嫌な予感がして、家を飛び出す。
暗くなった森の中、恐怖や不安があったはずなのに、まほは躊躇することなく、あの鉄塔の下へと走る。
「みほ!!」
夜の闇の中、吹き付ける風が容赦なく、まほの頬を叩く。
「みほ!!」
まほは夢中でみほの名前を叫びながら、鉄塔の下に向かう。
そして、まほが予感した通り、みほは鉄塔の下に居た。
ただ、みほのすぐ傍にはあの赤い衣の少女も一緒に‥‥
少女は両手を広げ、まるでみほをどこかへ導くかの様な仕草でみほと対峙している。
そこで、まほがやってきたことに気づいたみほは、まほの方へと振り返る。
「みほ!!こっちに来て!!ソイツからすぐに離れて!!早く!!」
みほはまっすぐまほの事をジッと見ている。
そして赤い衣の少女もみほ同様、無言のまま、ジッとまほを見ている。
みほがまほの方へ一歩歩み出ると、少女は不敵な笑みを浮かべる。
それは邪悪女神の様な怪しい微笑みだった。
まほにとって、それは、
「今日は、返してあげる」
と、言われているみたいに不快な気分にさせる。
その瞬間、
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
突如、辺りにサイレンが鳴り響く。
まほたちが夜美島に来てから、二度目のサイレンだ。
サイレンの音を聞き、まほは思わず耳を塞ぐ。
そして、みほはまるで糸が切れた人形の様に倒れる。
「みほ!!」
サイレンの不快な音が鳴り響く中、まほは我慢してみほの下へと駆け寄る。
赤い衣の少女は、それを確認したかのように、踵を返して何処かへと去って行った。
「みほ!!大丈夫!?みほ!! みほ!!」
まほは、みほの身体を抱き起こし、何度もみほの名前を呼ぶ。
しかし、みほは目を覚まさない。
このままここで夜を明かすわけにはいかない。
まほはあのサイレンが鳴り響く中、みほをおんぶして家を目指す。
風は吹き抜け、追い立てるかのように鳴り続けるサイレン。
言い知れぬ恐怖を感じる中、まほは歩みを止めることなく森の中を進んで行く。
今のまほには背中のみほだけが、心の支えになっていた。
そんな中、まほは以前森の中で迷い込んだあの廃墟を見つけた。
ここから家まではまだ距離があるし、この暗さと風、鳴り響く謎のサイレン。
このままでは、道に迷い、一晩中森の中を彷徨うかもしれない。
まだ目を覚まさないみほの事が心配なまほは、嫌な胸騒ぎがしたが、屋根のある所に避難した方がいいと判断したまほは、再びあの廃墟に足を踏み入れた。
廃墟の中に入ると、まほは背中からみほを降ろし、床に横たえる。
そして、入口の戸を閉めて、近くにあった棒をつっかえ棒として戸に噛ませる。
戸を閉めて、まほがみほの様子を見ると、みほは苦しそうで、息遣いも荒い。
額に手を置いてみると、みほは熱があるようで、熱かった。
まほは少し離れたところに毛布があるのを見つけ、駆け寄ってその毛布を拾う。
すると、壁の落書きが鏡越しに映っていることに気づく。
鏡越しに壁に書かれた『DOG』と『LIVE』は、『GOD』 『EVIL』と読むことが出来た。
「GOD‥‥EVIL‥‥っ!?」
そこでまほは気づいた。
「狗は神、生者は悪‥‥」
あの礼拝堂にあったレリーフの言葉通りだった。
まほが唖然としていると、背後から男の声がした。
「変わらぬ者こそは、果て無き命を授かりし‥‥この世の理、越ゆる者」
まほは反射的に振り返る。
すると、そこにはいつの間に来たのか、あの時、この廃墟で出会ったあのホームレス風の男が立っていた。
男はブツブツと訳の分からない言葉を言いながらゆっくりとまほに近づいてくる。
まほは、ホームレス風の男の姿を見て、緊張と恐怖で呼吸が自然と荒くなる。
この廃墟に入った時、この中には誰もいなかった筈だ。
それに唯一の出入り口の戸にはついさっき、自分がつっかえ棒をして、開けられた形跡はない。
となると、この男は自分たちがこの廃墟に入る前から居ることになる。
やはり、この廃墟は、この男の住処だったのだろうか?
嫌な予感が当たってしまった事にまほは自らの判断に迂闊さを覚える。
まほは逃げようとするが、男の動きはまほよりも速く、まほの前に立ち塞がる。
「サイレンが鳴っている!!外に出るな!!奴らに襲われてもいいのか!?」
男はまほの両肩を掴みそう叫ぶ。
その時、サイレンの音がより一層高まり、廃墟全体が揺すられているかのようにガタガタと音をたて始めた。
「き、来た‥‥奴らだ‥‥奴らが来た!!」
男が血走った目で叫ぶ。
廃屋の外から何か大勢の気配と低い唸り声の様なモノがこの廃墟に迫ってきている。
それは決して、野生動物などではない。
あの時‥‥常夫を捜しに行った時、礼拝堂の近くで、自分の背後から迫ってきたあの気配と似ている‥‥いや、あの時感じた得体の知れない気配そのものだった。
しかもあの時と異なり、今回はその気配の主は一体や二体ではない。
まほは身をすくめて、所々壊れている壁の隙間から外の様子を窺う。
暗闇の筈の外から怪しい光が差し込み、その光を遮るように、ちらちらと何かが外を蠢いている。
まほは、たまらず、その場に蹲る。
その瞬間、壁に空いていた穴の向こう側に異様な何かの目が現れ、まほはソレと目が合ってしまった。
「キャーッ!!」
壁の向こう側にあった血走った真っ赤な目にまほは思わず、悲鳴をあげる。
気が付くと、その異様な目は既にこの廃墟全体を取り囲んでいた。
廃墟にはガリガリと壁に爪を立てるような音が響き、屋根の上にも何かが動き回っているような気配もある。
まほは、床で横になっているみほの下に駆け寄り、彼女の身体を思いっ切り抱きしめる。
自分は廃墟の周りに居る得体の知れない気配の奴らに殺されるかもしれない。
しかし、みほだけは何としてでも守らなければならない。
その一心で、まほはみほを抱きしめたのだ。
やがて、奥の方からガシャンと窓ガラスを割る音がした。
奴らが入り込んできたのかもしれない。
まほは音がした方を振り向き、息を呑む。
「逃げろ!!」
男がそう叫ぶ。
「えっ?」
「此処に居たら、やられるぞ!!」
「で、でも‥‥」
まほが口ごもると、男は声を荒げる。
「いいから逃げろ!!サイレンを止めるんだ!!奴らに取り込まれる前に!!」
すると、男の背後から異様な風体をした人型なのだが、完全に人とは言えない異形の何かが、男の頭を鷲掴みにして、外へと引きずり出していった。
まほは慌てて男の後を追うが、あっという間に外に居た異形の集団に男は連れていかれてしまった。
「いやーっ!!」
次は自分とみほかもしれない。
そう思い、まほはみほの上に覆いかぶさるようにして蹲る。
しかし、いつまで経っても自分が外へ引きずられることもなく、目を恐る恐るあけてみると、サイレンの音は止まっており、廃墟を囲んでいた得体の知れない気配は消えており、今度は不気味なくらいの静寂だけが残されていた。