ガールズ&パンツァー サイレンがなる頃に‥‥ 作:ステルス兄貴
夜美島にて、停電とあの鉄塔での騒ぎが起きた翌朝、まほの姿は診療所のベッドの中にあり、腕には点滴の針がささり、チューブが伸び、パックの中の点滴液はポタ、ポタ、と静かに落ちており、彼女はスー、スーと静かに寝息を立てていた。
鉄塔から落ちたにもかかわらず、まほは奇跡的にも一命を取り留めていた。
ただ、顔や腕の彼方此方には擦り傷の様な傷があった。
ベッドで静かに眠っている彼女の寝顔を見る限り昨晩、あのような事があったなんて嘘みたいに思える。
そして、診察室には入江と常夫の姿があった。
当然、二人の顔は顔面蒼白で目からは赤い血を流している顔ではなく、普通の人間の顔だ。
「まさに間一髪でした‥‥島民の皆さんが用意したマットがなければ、西住さんは命を落としているところでした」
まほはあの鉄塔から落ちた時、下で島民たちが用意したマットの上に落下したことで、落命も骨折もすることなく、打撲と擦り傷のみで一命を取り留めたのだ。
「先生のおかげです。私は父親なのに、あの子の変化に気づいてやれなかった‥‥ハハハ、父親失格です」
常夫は自嘲めいた笑みを力なく浮かべる。
「しかし、なぜ急にあの子は『サイレンが聴こえる』などと言っていたのでしょう?」
この島に来る前、まほはみほの幻は見ていたが、一度もサイレンが鳴っているなんて、発したことはない。
それが、この島に来た途端、『サイレンが鳴っている』と言うようになった。
「おそらく、傷ついた西住さんの心が、彼女だけに聴かせていた幻聴だったのでしょう‥‥妹さんの幻と同じく‥‥三十五年前と同じです‥‥」
「三十五年前?それって、例の島民消失事件の‥‥?」
「はい。あの時もこの島にやってきた一人の男が、突然、『サイレンが鳴る』と言う幻聴と『島民が異形の者に変化した』と言う幻覚を見て、錯乱状態となり、島民を手にかけてしまったのです‥‥」
「それがあの集団失踪事件の真相ですか‥‥?」
「そう聞いています。それ以来、夜美島ではこう言われるようになったんです。『サイレンが鳴ったら外に出でてはならない』‥‥と‥‥」
「‥‥」
常夫は入江の口から語られる三十五年前の夜美島島民消失事件の真相を黙って聞いている。
そして、あの言葉‥‥『サイレンが鳴ったら外に出てはならない』‥‥の由来も‥‥
「あの言葉の意味は、『サイレンが聴こえている人間を外に出してはならない』‥と言うことだったんです。‥‥しかし、今回は死者を一人も出す事無く、未然に防ぐことが出来て良かったです」
入江の口調から三十五年前の惨劇と異なり、今回は一人も死人を出していないと言う。
と言うことは、鉄塔から落ちたあのホームレス風の男もみほ同様、まほが見ていた幻だったのかもしれない。
そして、あの納戸の壁にあった三十五年前の‥‥島民消失事件前に撮られた写真‥‥
そこに写し出されている島民の姿もまほが見た時と異なり、レナ、入江、前原ではなく、全くの別人物であった。
まほの島民たちは不老不死の化け物ではないか?と言う疑心暗鬼から、彼女には写真の島民たちの姿が、自分の知る島民たちの姿に見えただけだった。
「娘は治るのでしょうか?」
実際にまほの現状はかなりの重度である。
しほが、まほの離島行きを許可したのは元々、まほの療養だったからであり、みほが死んでしまった今では、残されたまほは、西住流の唯一の後継者‥‥何としてでも療養して、病気が治ってもらわなければならなかった。
そして、しほが来なかったのは、みほの自殺に対して、まほがしほに不信と不満を抱いていたからだ。
自分が行くことでまほの療養に支障をきたすのではないかと判断し、しほは夜美島には来なかった。
しほは、まほの為に理由をつけ敢えて島にはいかず泥を被ったのだ。
例え、嫌われても病気を治し、西住流を継いでくれさえすれば‥‥
それが、しほの‥西住流の家元としての思いであったが、一母親としては失格だったのかもしれない。
「妹さんが亡くなっている現実を受け入れることが出来るか、全ては今後の彼女次第です」
あの鉄塔で、まほは、みほが既に死んでいることを‥‥現実をまほは知った‥‥と言うよりも、思い出した。
しかし、その現実を知り、まほはまさかの自殺未遂をした。
現実を見てくれたのは良いが、今後もまたまほが自殺行為をしないか心配だ。
「そうですか‥‥」
「はい‥‥ですが、私も全力で治療に当たりますから‥‥」
「よろしくお願いします」
常夫は入江に深々と頭を下げ、診療所を後にした。
そして、入江は眠っているまほの様子を見に行くと、まほの荷物の中に一冊の古びた手帳を見つける。
「この手帳‥‥もしかして‥‥」
入江はその手帳を持って、診察室へと戻って行った‥‥
それから、どれくらいの時間が過ぎただろうか?
うっすらと目を開けたまほの耳に、
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
あのサイレンの音が聞こえた‥‥
すると、まほはまるで夢遊病患者の様にベッドから起き上がった‥‥
一方、診察室でまほが廃墟で見つけた手帳を調べていた入江は、最後のページを見た後、おもむろに机の引き出しを開く。
そこには、失われていた手帳の続きがあり、入江はその手帳を見る。
そして、合わせてみると、まほが持っていた手帳と入江が引き出しから出した手帳はピッタリと合う。
まほが持っていた手帳と入江が持っていた手帳は同じモノだった。
入江が持っていた手帳の最初のページには、
『四度目のサイレンで奴らを皆殺し』
と、書かれていた。
「四度目のサイレンで奴らを皆殺し‥‥ま、まさか‥‥」
すると、入江はこの言葉の意味を瞬時に理解した。
「っ!?」
その直後、自分の背後に人の気配を感じ、振り返る。
すると、そこには、血走った目に殺意で満ちた表情で、刃物を振り上げているまほの姿があった‥‥
ザシュッ!!
そして、診察室に刃物で肉を刺すような鈍い音がした‥‥
「皆殺し‥‥奴らを‥‥皆殺し‥‥奴らを‥‥」
それからすぐに、虚ろな目と足取りで何度も同じセリフを言い続けるまほが診療室から出てくる。
彼女の顔や服には赤い血が付着していた。
しかし、これはまほの血ではなかった。
彼女はそのまま診療所を後にして、島の商店街へとフラフラした足取りで向かった。
まほが去った診察室では、鮮血で白衣を染めた物言わぬ入江の姿があり、机にはあの手帳の他に、二つのカルテが置いたままとなっていた。
各カルテの患者の名前の部分には、『西住まほ』 『西住みほ』の名前が記されていたが、みほのカルテには名前のみが記載されているだけで、その他の項目は全て空欄となっていた。
反対にまほのカルテにはびっしりと診察結果が書かれており、病名の部分には、『解離性障害 (急性ストレス障害の疑いあり)』と明記されていた。
まほが見えていたみほが幻だったように、みほの診察だと思っていた診察が、実はまほの診察であり、みほのカルテはまほの目を誤魔化すためのカムフラージュであった。
まほが診療所を後にしてから、しばらくして、島の彼方此方からは島民の悲鳴や叫ぶ声が聞こえてきた‥‥
島の彼方此方で、島民の悲鳴と叫び声が聞こえる中、あの鉄塔がある草原にみほと楽しそうに語り合っていた赤い衣をまとった少女の姿があり、
「~~♪~~~♪~~♪~♪~~~♪~」
島民たちの悲鳴と叫び声を遠巻きで聞きながら、『巫秘抄歌』を歌っていた‥‥
彼女の目に映る世界‥‥
それは、彼女にしか見えない奇妙な世界だったのかもしれません‥‥
「‥‥なんだ?これは?」
「あ、ははは‥‥」
まほは不機嫌そうな声と共に原稿用紙から視線を移す。
彼女の隣には乾いた笑みを浮かべるみほの姿があり、まほの視線の先には一人の人物が居た。
「いやぁ~ハハハハハ‥‥」
まほの目の前にはもじゃもじゃのくせ毛をした女子高生が居り、みほ同様乾いた笑みを浮かべていた。
彼女の名前は秋山優花里‥‥
大洗女子学園に通う二年生で、戦車道における大洗チームメイトであり、みほが車長を務めているⅣ号の装填手をしている。
「実は、先日、あるホラー映画のDVDを見て、その内容に姉上殿を置き換えて小説を書いてみました」
秋山は何故、この小説を書いたのか、その理由をまほに言う。
そして、黒森峰に通っている筈のまほが大洗に居る理由‥‥
それは先日、大洗女子学園が戦車道の大学選抜チームと試合をしたのだが、この時まほはエリカたち、一部の黒森峰の戦車道チームと共に大洗女子学園に短期留学として、みほたちと共に大学選抜チームと試合をしたのだ。
試合目的は大洗女子学園の廃校阻止‥‥
第六十三回全国戦車道大会で優勝した大洗女子学園であったが、元々参加したのはこの時、既に大洗女子学園は廃校が検討されており、生徒会が廃校阻止の為、戦車道を復活させて、全国大会に優勝したら、廃校を取り消せと言って、文部科学省の学園艦の責任者と取引をして、黒森峰から転校してきたみほを隊長にして見事、全国大会で優勝したのだ。
しかし、文科省の学園艦担当者は、その時の約束事を破り、今度は大学選抜チームと試合して勝てば正式に廃校を止めると言ってきたのだ。
そもそも、第六十三回全国戦車道大会の前、大洗女学園生徒会長の角谷杏が文部科学省の役人と取引した際、書面で交わした訳ではなく、口約束しただけで、官僚・役人お得意の『記憶にございません』で逃げようとした。
しかし、完全に大洗の戦意を削ぐ為、役人はある提案をした。
それは大洗女子学園の戦車道チームと大学選抜チームと戦車道の試合をして、勝ったら今度こそ正式に廃校を取り消すと言うことになったのだ。
だが、対戦相手は日本に数ある大学から選抜されたエリートチーム‥‥学生と言う括りでは、まさに日本一の実力者たちだ。
いくら大洗女子学園が今年の全国大会で優勝したからと言っても簡単に勝てる相手ではなかった。
そんな中、まほを始めとする各高校の隊長たちが仲間を引き連れて、大洗女子学園に短期留学と言う形で大洗に転校し、大学選抜チームと戦ってくれたのだ。
結果は大洗女子学園の勝利で、大洗はようやく廃校の危機を回避したのだが、まほたちにはまだ短期留学の期間が残っていたので、こうして大洗の学生艦に居るのだ。
そんな中、秋山はあるホラー映画を元ネタにした小説を書き、それをモデルにしたまほに見せていた。
「モデルにするにしても、まずは本人に許可を取るモノではないか?」
秋山の書いた小説はどうやら、まほのお気に召さなかったみたいだ。
「す、すみません」
「それに私はこんなに弱虫ではないぞ!!」
小説に登場した自分と本物の自分の違いを指摘するまほ。
「は、はぁ~‥‥」
「えっ?でも、お姉ちゃん昔は‥‥」
「ん?」 (ギロッ)
「あっ、いや、なんでもない‥‥」
みほが、まほの過去の一部を暴露使用となった時、まほはギロッとみほを睨みつけ、黙らせる。
「でも、お姉ちゃんは主人公で描かれているからいいじゃん。私なんて、死に役だよ。出ていても、お姉ちゃんが見ていた妄想だし‥‥」
みほ自身もちょっと、自分の役に不満があったのか、口をとがらせながら言う。
「‥‥コホン、そもそも、設定自体がおかしいだろう‥‥」
「は、はぁ~‥‥」
と、まほは秋山の小説にダメ出しをする。
「いくら幻覚・幻聴で錯乱したとはいえ、一人の男が島民全員を殺す事なんてできるのか?それも救助隊が来る前に死体まで処理して‥‥大体、私ですら、丸腰の状態で大の大人数百人を相手に出来るか!!」
まほは、小説内で起きた夜美島集団失踪事‥の真相‥‥精神異常を起こした一人の男が夜美島の島民を皆殺しにして、嵐の中、救助隊が来るまで間に島民の死体を全て処理することが出来るのか?と問い、更にまほ自身も、いくらなんでも丸腰の状態で島民全員を皆殺しにするのは不可能だと言う。
「そ、そこはフィクションですし‥‥」
秋山はフィクションなのだから、その辺の設定は無視してもいいのではないか?と言う。
「とにかく、これは没だ」
「えぇー!!せっかく苦労して書きましたのに~‥‥!!それにまだ、色んな方々からの感想や意見もまだ聞いておりませんのに~‥‥!!」
秋山は、苦労して書いたモノなので、西住姉妹以外の人たちにも見てもらい、感想を聞きたいと思っていたのに、まほに没収されてしまった。
そもそも、他の人と言ってもホラーが苦手なⅣ号の操縦士である冷泉麻子は絶対に見ないだろう。
「この小説のデータは?」
「自宅のパソコンにあります!!」
「破棄しろ!!いいな?」
ギロッとまほは秋山を睨む。
まほは、更に秋山がパソコン内に保存していた小説のデータも削除しろと言う。
彼女がここまでこの小説を亡きモノに使用としているのは、例え小説内の人物とは言え、自分の怖がっている場面を他の人に見られるのが恥ずかしいのだろう。
その他に、みほが死んでいると言う設定も許容できないのかもしれない。
「は、はいっ!!了解であります!!」
まほの眼光にビビった秋山は大人しく従った。
「これはこちらで破棄しておく」
そして、出来上がった小説の方はまほが持って行った。
その夜‥‥
「な、なぁ、みほ」
「ん?なに?お姉ちゃん」
まほは、大洗にいる時、みほのアパートに同居していた。
「その‥‥今日は一緒に寝てもいいだろうか?」
大洗にいる時、普段まほは、みほのアパートの部屋に下宿させてもらっており、寝る時、みほはベッド、まほは布団で寝ているのだが、今日に限って、まほはみほと同じベッドで寝たいと言う。
「‥‥お姉ちゃん‥‥もしかして、怖いの?」
みほは首を傾げ、まほに訊ねる。
「そ、そんな訳がないだろう!!ただ、みほと離れ離れに生活をしている訳だし、丁度良い機会だから、姉妹の絆を‥だな‥‥」
必死に取り繕っているが、長年まほと時間を共にしてきたみほには、まほが怖がっているのだと分かっていた。
例え、小説でも、ホラーモノを読んだのだから‥‥
「はいはい、そう言うことにしてあげるから」
「なっ!?ほ、本当だぞ!!私はたかが、みほのチームメイトが書いたホラー小説ごときに‥‥」
「分かったからもう寝よう。明日も早いんだし」
「う、うむ‥‥」
こうしてこの夜、まほはみほと同じベッドで寝ることにした。
そして、深夜零時‥‥
まほは何故か寝付けず、中途半端な時間に目が覚めてしまった。
「‥‥ん?今は‥‥夜中の十二時か‥‥変な時間に目が覚めてしまったな‥‥」
携帯で現在時刻を確認した後、ふと隣を見ると、みほの姿がない。
「あれ?みほ?‥‥トイレか?」
トイレにでもいったのか?
まほが、そう思っていると、外から、
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
ウウウウウウウウウウウウウウ~
サイレンの様な音が聞こえてきた‥‥
「ん?サイレン?‥‥だと‥‥?」
まほが慌てて起きて、カーテンをめくると、周りは赤い海が広がり、サイレンの様な音はその赤い海の彼方から鳴っていた‥‥
まるで、大洗の学園艦を惑わせるセイレーンの鳴き声みたいに赤い海が広がる暗闇の夜にその音は鳴り響いた‥‥
「赤い海‥‥サイレン‥‥そ、そんなバカな‥‥」
まほは唖然としながら、外の光景を見ていると、
「お姉ちゃん?」
「みほ?‥‥みほ、あのサイレンは一体何なんだ?大洗じゃあ、夜中にサイレンを鳴らすのか?」
みほの声がした。
まほがみほの声がした方へ視線を向けると、
「っ!?」
「ドウシタノ?オネエチャン‥‥?」
みほの顔は蒼白で、目からは赤い血を流していた。
「いやぁぁぁぁぁー!!」
まほの悲鳴が辺りに響く‥‥
サイレン‥‥それは、その大きな音で人々へ警告を知らせる装置であるが、秋山が書き、まほに見せたサイレンが取り扱われているこの小説は、これ自体がもしかすると、奇妙な世界への警告だったのかもしれません‥‥
SIRENのキャッチコピーは、『どうあがいても絶望』
そして、SIREN2のキャッチコピーは、『逃げ場なんてないよ』
サイレンに魅了されてしまったまほは、まさにこの二つのキャッチコピーそのものな状態となってしまいました。