=マキャベリ的自己中心性
今日はどこに遊びに行こうか。
高鳴る胸と高揚した気分を引き連れて、僕はいつもの木の下へと向かう。なんてことのないただの木でさえ、あの子のことを思うとまるで天国のように素敵な場所に思えてくる。
あの子とは川で水切りもしたし、森で鬼ごっこもした。無縁塚まで行って肝試しもしたし、迷いの竹林でかくれんぼをして、そのまま竹林から出られなくなってしまったなんてこともあった。
あの時、僕は恥ずかしながらあの子の前で泣いてしまったが、あの子は「任せて!」と自信気に僕を励ましてくれた。歩くたびにあたりが暗くなっていったが、あの子がいてくれたおかげで僕は怖くなかった。
何事にも物怖じせず自分自身に純粋であり続けるその姿は、誰よりも英雄的だった。
そんなことを考えていると、僕は心臓の鼓動が早くなっているのを感じた。指先まで行き届いた血が全身を温めている。きっと他の人が見聞きしたら、僕が彼女のことを好きなのだと思うかもしれない。
でもそれは違う。
まだうまく言うことはできないが、これは愛よりも憧れのほうが近い気がする。
僕も、君みたいになれるかな。
いつの間にかいつもの木の下についていた。どうやらまだ来ていないようだ。いつも僕より先にいるあの子がいないことを少し不思議に思ったが、僕は気にせずそのまま待ち続けた。
「こいしちゃん、まだかなぁ」
彼女は、現れなかった。
ツクツクボウシの鳴き声と風鈴の音が、あのひと夏の出来事を思い出させてくれる。
彼女と最後にあってからもう10年は経っただろうか。
あの日以降、私はこいしちゃんを探し続けたが、一向に見つかる気配はなかった。村の人は誰一人こいしちゃんのことを知らず、挙句の果てには「妖怪に騙されてたんじゃないか?」「食べられなくてよかったじゃないか」とまで言われる始末だった。
それでも私は懸命に彼女を探した。一度でも二人で行ったところはすべて訪れ、地面さえもひっくり返した。行っていない場所も可能な限り探した。
妖怪の山や地底は危険なため行けていないが、それでも幻想郷の半分以上の場所は探しただろう。その期間、私の帰宅は遅く、帰らない日すらあったので、両親にはいやに不審がられていた。
それでも見つからないとわかると私は志向を変えた。騒ぎでも起きれば向こうから現れるのではないかと考え、家の古い倉庫に火をつけたのだ。
もちろんけが人などは出さないように細心の注意は払った。結果、倉庫は半焼。近所の人には犯人が私だとはばれなかったが、両親にはばれていたようで、めでたく私は勘当されてしまった。
「旦那様。そろそろお時間ですが、出発しなくて大丈夫ですか?」
思い出の住人となっていた私を、お手伝いさんの声が現実に戻してくれた。今日は大事な商談の日だ。もちろん、忘れてなどいない。ただ、ちょっと頭の隅に追いやっていただけだ。机の上に乱雑に広げてあった紙をまとめ、玄関へと向かう。
革のブーツに足を通し、かかとをトントンと鳴らす。いまだにこれには慣れない。少し前までブーツなんて履いたことがなかったから当然だが。
いってきますと、声をかけて私は霧雨店へと足を運んだ。
狂ったような暑さが生み出した陽炎を、子供の頃のように楽しめなくなったことを悔やむばかりである。