【完結】狂気に憧れて   作:おこめ大統領

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Social influence

=社会的影響力


2. Social influence

「あ、占いのおじさんだ」

 

 商談終わりに茶屋でくつろいでいると、顔見知りの少年に絡まれてしまった。絡まれた、といってもそんな物騒なものではない。私はこの町で少しばかり有名人なため、街に出るとこうして話しかけられることはよくあるのだ。

 

 その中でもこの少年はえらく私に懐いているようで、見かけるたびに満開の笑顔を浮かべながら駆けてくる。

 

「私はおじさんじゃないぞ。ほら、顔に皴一つないじゃないか」

 

 少年に弁解するも、少年の返答の前に店の奥から「あら、皴だらけの私はおばさんだってかい」と冗談めいた小言を言われてしまった。つい苦笑いを浮かべる私を見て少年は大いに笑った。

 

「昼間からこんなところで何してるの? 暇なの?」

 

「お、煽るね。だけど残念でした。お仕事帰りだよ」

 

 そう、仕事帰り。

 

 私の職業は、大きく言えば占い師だ。

 

 両親に勘当され家を追い出された私は、何とか食いつないでいかなくてはいけないと思い、路上で手相占いをして生計を立てていた。ちなみに占いの内容は、こいしちゃんと無縁塚に遊びに行ったときに拾った『手相占いのすべて』という鉄鍋くらい重い本を参考にしている。いなくなった後も僕を支えてくれるこいしちゃんは流石と言わざるを得ない。

 

 その後は風水や占星術なんかも勉強して、今では幻想郷きっての占い師として、個人だけでなくいくつかの商店でも相談役なんかを務めている。本当はもう少し手広くやっているのだが、それはさして重要なことではない。重要なのは、現在の私はそれなりの小金持ちだということだ。そして、今日の仕事は私を使ってくれている店を代表して、卸先と話をつけてくることだ。占い師の口がうまいのは世の常だ。

 

 私は少年と少しばかり雑談に花を咲かせることにした。子供の意見は非常に興味深い。頭の足りないことをいうこともあるが、だからこそユニークな視点から意見を言うこともある。しばらくすると、話題は私の占いのことになっていった。

 

「ねえ、今日の僕の運勢はどう? もしいい感じだったら妖怪の山まで遊びに行こうと思ってさ」

 

「妖怪の山か……。なんでまたそんな危ないところに?」

 

 少年の唐突な願望に、私は目をぱちくりとさせてしまった。いくらまだ明るいとはいえ、子供が妖怪の山に行くなんてただ事じゃない。大人でさえ、滅多なことがないと行かない。破滅願望でもあるのだろうか。

 

「あー、いや……、別に大したことじゃないんだけど。ちょっとね」

 

 少年は目を泳がしながら、言葉を絞り出す。怪しすぎる。何かを隠そうとしていることは明白だ。占いどうこう以前に、子供が一人で妖怪の山に行くことは大人として止める義務がある。正直、少年がどうなろうが私にはあまり関係ないが、ぜひとも事情を聞き出したほうがよいだろう。だが、相手が一度隠そうとした情報を引き出すにはそれなりの手順を踏まなければいならない。

 私は面倒な気持ちを心の奥にしまい込み、柔らかな笑みを浮かべて、少年に語り掛ける。

 

「そうか。妖怪の山に行こうなんて、君は勇気があるね。僕には真似できないな。一体どんな事情を抱えていたらできるんだい。ぜひとも教えてくれないかな?」

 

 少し芝居がかりすぎただろうか。いや、子供に対してはこれくらい大げさでも問題ないだろう。それに私には彼から一定の信頼を勝ち得ている。なんとかなるだろう。

 

「うーん、誰にも言わないでね。実はね、前に遊んだ女の子を最近見かけないから探しているんだけど、どうも見つからなくてさ。多分妖怪だと思うから妖怪の山まで行ったら会えるかなと思って……」

 

 恐る恐るといった調子で小さな声で話をしてくれたその内容に、私は度肝を抜かれてしまった。ここで少年に掴みかかって詳細を問いたださなかったことをほめてほしいくらいだ。

 

 私の胸を打つ鼓動が少しばかり早くなったように感じた。その女の子についてもっと聞きたい。もしかしたら、この10年全くつかめなかったあの少女の手掛かりになるかもしれない。はやる気持ちを抑え、私は落ち着いた声で再度口を開く。

 

「なるほど。君はまたその女の子と一緒に遊びたいんだね」

 

 少年は少し時間を置き、恥ずかしそうにこくりと頷いた。

 

 少年はその女の子との思い出を語ってくれた。ある日急に現れた銀髪の少女。無邪気に遊び、駆けまわった。

 

 そしてまたある日、唐突にいなくなった。

 

 その内容は、まさに自分が体験した夏の思い出と酷似していた。

 

「名前はたしか、古明地こいし、だったかな」

 

 滲むような暑さが、消えたような気がした。

 

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