というわけで新年早々重い話を投げます、対戦よろしくお願いします!
あの事件から一週間が立った。日菜との関係も前より良くなっている。名護さんには感謝ばかりだ。
しかし気になることがあった。執行者、と言われていたことだ。一応配慮して回りに人がいない時に聞こうとしたがタイミングが悪かった。話しかけそうになったときもあったが他の人に呼び出されたりして話して貰えるタイミングが無かった。
──女子供でも殺したという話は本当だったか───
その言葉がずっと引っ掛かっている。今日は集まって練習ではなかったので名護さんとは会わなかったがやはり気になっていた。
「あ──」
帰路についていた私は人を見かけて声を漏らす。その人は名護さんの知り合い?でこの間の事に協力してくれた人だった。
「こんなところで奇遇ですね」
「この間はお世話になりました。えっと……」
「一条にございます。お気になさらなくて結構ですよ。調子は如何ですか?」
「おかげさまで上手くやっています」
「それはよかったです。では私はこの辺りで」
一条さんは一礼して私の横を通りすぎて行こうとした。けどその瞬間気づいてしまった。この人に聞けば、何か分かるのではないかと。気づいた時には声をかけてしまっていた。
「あの!」
「はい。どうかしましたか?」
「その、一条さんは名護さんの部下?だったのですよね?」
「その通りにございます」
「その事で…お聞きしたいことがあります」
「新一様のこと、ですか?」
「えぇ……どうしても聞きたいことなんです」
迷いながらも答えると一条さんは少し悩みながらも携帯をを取り出して何か操作してから応えてくれた。
「……畏まりました。少々長くなるかと思いますのであちらの店に行きましょうか」
そう言って指差したのは羽沢珈琲店だった。店の中に入ると端の席に座る。飲み物を注文して息を吐いていると向かい席にいる彼はスマホを素早い操作で画面をタップしてポケットの中にしまった。
「あの、今のは一体……」
「申し訳ございません、これでも妻帯者ですので。若い女の子といて誤解されないよう妻に連絡をですね」
「そういうことでしたか。失礼しました」
「お気になさらず。それで新一様の話、ですよね?」
「はい、実はあの時井坂という人が言っていたことが気になって……」
「と申されますと?」
私は一条さんにあの時にあった問答のことを全て伝えた。嘘かと思える話でさえこの人はしっかり聞いてくれた。全て話終えると彼は少し考える様子を見せながらも出てきた運ばれてきた珈琲を飲む。カチャンと綺麗に音を立てながらカップを置くとこちらに目を向けてきた。
「氷川様、正直なことを申し上げますとあまり踏みいるのはおすすめしません」
「なっ、何故ですか?」
「これはプライバシーに大きく関わります。そして何より新一様が言っていた通りです」
私に迷惑をかけたくない……その事だろうか。
「しかしそれでは彼に何も返すことは出来ません。あの時、聞いてしまったそれをちゃんと飲み込んでから彼に恩を返すことが一番だと私は考えます。だから聞かせてください」
「……それが貴女の今までを覆すものでもですか?」
「はい」
私がはっきり答えると数秒ほど見合ってから一条さんはふぅと息つきさっきよりも真剣な表情でこちらを見てきた。
「貴女のその眼差しに免じてお教えしましょう。けれどこれだけは約束していただきたい。この話を聞いても新一様から離れないでいてほしい」
「──当然です。私はあの人を受け入れ、その上で返したいのです」
「ありがとうございます」
一条さんは一度深々と頭を下げると顔を上げて話し始めた。とても悲しそうな声で。
「最初の方から話しましょうか。新一様は小学校に上がる頃から名護家に迎えられました。彼は最初、当主になることは想定されておらず執行者として育てられていました」
「それは、お兄さんが当主になる予定だったからですか?」
「!天斗様のこともご存知なのですね………そうです、本来はあの方が就く予定でしたから。そして新一様は当時神童と謳われた才で多くの技術を身につけていきました。そして八歳の時、初めて対象を殺しました」
「八歳って……そんな!」
「普通なら出来ないでしょう。ですが環境が一つ違うだけで人は幼子でさえここまで変えてしまうのです。そして何より当時の新一様は“罪人を始末しただけ”という認識だったみたいです」
話を一度止めスマホを操作すると写真を見せてくる。おそらく仕事中の名護さんだろう。本当に小学生くらいの見た目なのに刃を持っている。
「それから間も無く現場に出るようになり九歳になる頃には既に二つ名が付けられていました。白い服なのに返り血が目立たないいや、もはや付いていないに等しい白き執行者」
「それがスノー・クリムゾン」
「はい、“朱雪の執行者”スノー・クリムゾンにございます。その期間は一年近くと思われました。一年立つ頃に当主に任命されました。しかし自ら赴き任務に身を投じることを辞めませんでした。敵からは“その姿を見た者は殺される”なんて言われていたくらいには恐ろしい存在でした。実際的に回したくないほど強かったですし」
苦笑いしながらも楽しそうに話している。名護さんが当主だった頃は彼にとっても良いものだったのだろうか。それでも名護さんはどうだったのだろう。部下の人たちとの関係は悪くなかった、けど仕事に身を投じていた時は一体何を感じていたのだろうか。やりたくないこと、だったら立場を利用して逃げればいいはずだ。けれどそれをしなかった。なら何故?なぜそんな事を?苦しくなかったのだろうか?
「考えてますね、新一様が戦場に身を投じた理由といったところでしょうか?」
「何故分かったんですか?」
「職業柄ですかね。それと、新一様は別に苦しくなかったわけではないと思いますよ」
「え?」
「全ては人々が平和に暮らすため、普通ではない不幸にあわせないようするため、とかだったりするのかもしれません。そもそも名護家はそれを理念として動いている組織。もしかしたらそれは家族の為かもしれませんし、自分の為かもしれない。真相は本人に聞かねば分かりませぬが」
「あの、質問いいですか?」
「構いませんよ。答えられる限りなら」
「名護さんがその、女の人を殺すのはまだわかります。それが仕事の都合上なら。しかし子供を殺したというのは本当なのですか?どうしても、それだけは信じられません」
わざと避けていたのだろうか、それに気づいたかと小声で呟いているのが聞こえる。一度こちらを見遣ってから考えている。それほど触れてはいけないブラックボックスなのだろうか
「ここからは本当に良い話ではありませんがそれでもよろしいですか?」
「………はい」
「彼はある日、人体実験をしている組織を叩くために赴きました。研究データの破壊、研究員の捕縛、被害者の救出そして所長を追い詰めるまでは順調でした。
ですがそこからです。当時の彼、僅か九歳という幼さで選ぶにはあまりに残酷すぎる選択を迫られたのです。その施設では人間をどこまで制御出来る化け物に出来るかの実験でした」
「そんな、それじゃあ人の尊厳を冒涜しているじゃないですか!」
「ええ、だからこそ我々が赴いたのです。勿論その中に私もいました。話を戻しますが、新一様は最後の被害者である四人の子供を救出し外に出ようとした時、まだ殺していなかった所長が言ったんです。『他の奴らはまだだったが、そいつらはもう最新型の化け物の種を植えてある、と。それは主人である俺達が言うことを聞かせない限り暴れ回るだろうと。でももしかしたら助ける方法があるかもしれない。だが逆に助からずに破壊の尽くす限り暴れ回るかもしれない。ならばという選択を迫られたときです。その子供たちは新一様に言いました。私達を殺してくれと」
「………ッ」
「おそらく必死に別の方法を考えたと思われます。あの頃は純粋な上に優し過ぎましたから。ですが彼はあの子らを殺し、帰ってきて一人の時に泣いていました。救えなかったと、何故何も悪いことをしていない無垢な子供が死なねばならないのかと」
「なぜそれを」
「任務から施設から出てきた時に様子がおかしいのが疑えましたので跡をつけたのです。その後でしたね、彼の方が当主の座に就いたのは。おそらく彼はあの時の思いを未だに引きずって仕事をしていると思います。忘れられない…いや、忘れてはならないのだと戒めて」
話が終わってやっと気づいた。あの人は私たちのような幸せが普通にある世界とは別の世界にいたことを。そしてあの知らない人にさえ向ける優しさは昔からのものだった。私が道を踏み外した時もちゃんと見ていてくれたのは今まで見た人たちのような悪に堕とさないようにする為だったのだ。人に話したり道を戻してあげようとするたびに自分が一番苦しい思いをしているはずなのに。どこまで優しいのだろうか。
「……すみません、こんな話をさせてしまって。貴方にも苦しい思いをさせてしまいました」
「いえ、そんなことありません。それにこれは新一様の制服についていたカメラからの情報ですので本人の情報は声色でしか分かりません。ですがこの話は内密にお願いします。新一様に傷ついて欲しくありませんので」
「分かってます、改めましてありがとうございました」
「こちらこそ、新一様をよろしくお願いします」
「はい…!」
彼のことを少しだけだが知れることが出来た。おそらくRoseliaの中で知っているのは私だけ。他の人よりも彼に近づけたのだろうか。それにこれで少しは恩返しのやり方も考えられるようになっただろう。
一条さんは飲んでいたコーヒーを置くとクスクスと小さく笑っている。何かおかしいところでもあったのか、静観していると失礼と言いつつまだ笑っていた。
「貴女がいれば新一様も将来は安定ですね」
「なっ、何を言ってるんですか!」
「冗談ですよ…フフ」
「そんな冗談………」
「ですが、貴方のような方が彼の方の近くにいてくださって少し楽になりました。彼の方は、常に無茶をしています。時々でいいですのでどうか気にかけてあげてください」
一条さんは一礼するとカウンターに行ってお金を払っている。急いで自分の分を出そうとすると今回は出さなくていいと言った。だが申し訳ないと告げるとでは出世払いというやつでと言われて店を出て行ってしまった。もう一度お礼を言おうと急いで追いかけると既にその姿は店の外に無かった。幻覚でも見ていたのかというくらい気配がない。仕方ないので私は荷物を取りに戻りそのまま帰宅した。
「新一様……ようやく、普通の幸せを手に入れられるのですね」
『もし?始様、今どこにいらっしゃるの?』
「ソニア様ですか。失礼、少し野暮用で」
『また仕事を手伝っていたのですね!先程の連絡ではすぐに終わるとおっしゃっていたのに!全く、今日は頑張って鍋を作りましたのよ。急いで帰ってきてくださいまし!』
「畏まりました。疾く、帰宅しますね」
『というより、いつになったら敬語を外していただけますの?』
「ハハ、面目ございません」
『ほらまた!もう夫婦なんですからいい加g』ピッ
「…長年の癖は早々抜けられませんね………」
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お兄ちゃん、わたしたちを殺して?
バケモノになるくらいならニンゲンのまま死にたいな。
僕たち死んだら天国に行けるかな?
──勿論だよ。皆良い子だからね。
じゃあ俺から殺してくれ。先に行って天国があるか見てくるよ。
じゃあ私たちはすぐに追いかけるね
目の前の子供は一人ずつ死んでいく。僕の振るった刃で次々と倒れる。顔は苦しんでいるものではなく安らかだった。最後の子に刃を突きつける。
──苦しい思いをさせてごめんなさい。バイバイお兄ちゃん、ありがとう。
最後の言葉を聞き終えると同時に目を覚ます。周りを見るとここは湊家の僕の部屋だった。時刻は午後二時半、どうやら小一時間昼寝をしてしまっていたらしい。しかしこの時間にあの子達の夢を見るとは奇妙なものだ。いつもなら、と言っても夢に出てくるのはたまにだが、夜に見るはず……基本寝るのは夜だから当たり前か。
────あの子達はちゃんと天国に行けるだろうか。きっと生まれ変わっているか天国で平和に暮らせているに違いない。どうせだったら死んだ時に幸せな顔を見に行きたいものだ。しかしてその夢は叶うことはないだろう。
「だって僕の行先は、普通の地獄よりも深い暗い闇の底だから──」
今年はネオアスペクトまでいくつもりですがこの章全体が終わるのは春になるかもしれません………