とある男の書斎、机の上のデスクランプの灯りに照らされながら書類に目を通す。そこに貼られる写真は名護家元十六代当主名護新一の顔写真である。今読まれている資料は彼に関する情報が記載された紙媒体である。彼が行ってきた仕事、立ち振る舞い、現在発見時の状況など事細かに書かれている。しかし現在の日常生活に関する情報はそこまで無かった。
「私の実験史上、最大の失敗作」
かつてこの男は名護新一に手を加え、人の領域を逸脱させようとしていた。最終的に実験は取り消しになり無かったことにされた、と記録に記載してある。しかしその実験の余韻は未だに残っている。だがそのデータ自体はあまり集められていない。それもそうだ。名護新一のデータを集め始めた頃、まだ二割にも満たない状態で彼は名護家を去った。そんな彼を野放しにすることは出来なかった。彼はこちらが動けば彼奴がやってくることを重々承知している。故に既に準備は済ませていた。あとは決行を待つだけ。
「消えてもらおういや、君たち風に言うのであれば、世界の脅威は排除しよう。我々の力を持って」
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「待った!」
「それ二回目だよ、次はないからね」
学校の昼休み、僕達は教室でチェスを打っていた。僕の机の上でやっているのだがご飯を食べてからすぐやっているので既に十分が経過していた。とられたコマの数はお互い同じで強さも同じレベル。しかし数手前から京君が待ったをかけてくる。互いにチェックをかけられる状況を作っているが実際はあまり動いていない。もはや戦っているのは盤上ではなく頭の中のようだ。
「よし、ここを動かすか」
「へぇ、その手で来たんだ。これは意外だ」
「名護君が押されている?」
「さすが探偵さんね!」
「どうする新一」
「うーん、だったら僕はこうかな」
「なっ!?」
「どういう状況なの!?」
「私たちにはさっぱりわからないけど何が起きてるの?」
「えっとだな。簡単にいうと新一は俺が来ないと予測した手を打ってきたんだ。しかもそれは下手すれば後三手で新一が負ける」
「そんな自殺行為を!?」
「京君、申し訳ないけどそのあと三手に賭けるよ」
んな馬鹿なと驚きながら必死に盤面を見ている。正直勝利の方程式は成り立っているのだ。京君が抜け道に気づかなければこの試合に勝てる。一応そうなった場合の対策を練っていると予鈴が鳴る。
「あ、鳴っちゃった」
「てことは勝負つかず?」
「だな。しかしここまで追い詰められるとは」
「でももう気づいてたでしょ、抜け道に」
「まぁな。鳴った瞬間気づいたからなんか負けた感じするけど」
「そっか。じゃあまた今度だね」
チェスのコマを片付けていると錠前が鳴り響く。授業をサボるのはあまり気が引けるがそういうことも言ってられない。お嬢様に一言だけ伝えて僕と京君は校舎を出て行った。示す場所を見てみると意外とすぐ近くのビル街だった。ちょうどのタイミングで快斗君とも合流する。
「ちょうどっすね」
「だな。今回の目標は…なんだあれ?」
一体はドーパントだったのだがそれ以外にこの間の機械兵らしきものが二体で銃火器を使っている。とりあえず止めようと全員変身してそれぞれについた。偶然なのか僕の相手はドーパントになった。ところどころ燃えているのを見る限り最初に会ったマグマのドーパントだろう。真っ直ぐ飛んでくる拳を避けるとその手から赤い飛沫が飛んでくる。なんとか寸でのところで回避したがそれが落ちた先はジュウと音を立てながら溶けていた。これは僕の相手に向いていないと即座に判断する。
「どちらかでいい僕と交代して。コイツメモリの力じゃないと対抗できない!」
「了解っす、俺代わります!」
快斗君とバトンタッチするように入れ替わり今度は機械兵の相手をする。試しに一振りしてみると装甲に当たるがこの間より硬いことに気づく。呆気に取られていると手に持っていた武器を収納して代わりに手からブレードを出して斬りかかってくる。それだけで分かった。コイツは進化、いや改良されている。
「こんなやつ初めて見たんだが!」
「この間の事件の時に似たようなのと戦ったけどそいつらよりグレードアップしてるよ!」
「こいつら中身は?」
「ないよ!本当にロボット兵!」
「おーしわかった、遠慮なく鉄クズにしてやんよ!」
そう言って京君は拳を構えて一回転するともう一体の機械兵をぶっ飛ばした。吹っ飛んでいく機械兵に対してもう一度同じようにすると今度は位置を移動してもないのに機械兵が爆発した。
「うーし、まず一体!」
「何したの今?」
「鉄砕拳の2回連続版。そもそもこれ、鉄みたいに硬いやつを砕く拳法だから」
「だから鉄砕拳ね」
「元はパキケファロサウルスの頭の硬さらしいぞ」
「それは新しい情報をどうも!」
ブレードを受け止めつつ確実に当てられる隙を探す。僕は素手で京君みたいな火力は出せない。だからこそ一瞬のうちに必殺技を撃てるようにしなければいけない。イクサナックルで撃とうとすると一発一発にリロードがかかってしまう。ならば攻撃を出来ないようにしてトドメを指さねばならない。周りに使えるものがあるかを確認するとちょうどいいものを持っていた。
「京君それ貸して!」
「いいぜ、やってみろ!」
京君から投げれられたスカルマグナムを受け取り、イクサカリバーをガンモードにして機械兵に向かって連射する。一つの武器ならば片方の腕で防げたのだろうがそれを阻止するように両方の肩を一気に狙う。片方が重い音を立てて落ちた時、残っている方の腕も切り落とそうと距離を詰める。目の前に銃口を向けられ驚くがしゃがみ込みながら回転をして腕を切り落とす。体が元の姿勢に戻った時、機械兵の両腕は無くなっていた。貰ったマグナムを顔面にくっ付けて撃ち込むと機能停止したようにガシャンと後ろに倒れ込んだ。
「なんとかなったね」
「それにしては慣れてる感じもあったけどな」
「咄嗟に判断ができただけだよ。まだ冷静でいられた」
「そいつはスゲェ。アイツの方も終わったみたいだ…ぜ?」
何故疑問形か。その答えは聞くまでも無かった。快斗君の方からした爆発の中から出てきたのはファンガイアだったからだ。さっきまでドーパントを相手にしていたはずだと戦闘体制をとると早いスピードで迫ってくる。いつの間にかすぐそこにいた怪物は僕を掴んで壁にぶつける。
「カハッ」
「新一!」
「新一さん!」
「ヤッパ、ニンゲンガツクッタモノジャダメダ。オレタチファンガイアノホウガツヨイ!」
「放、しな……さい!」
手に握っていたイクサカリバーを振るうと自然と手が離れた。首を掴まれていたせいで少し呼吸が苦しいが他は特に何もないようだ。すぐに体制を元に戻して陣形を組む。
「大丈夫っすか?」
「うん、なんとか」
「新一、俺たちがアイツを捕まえるからその一瞬で決めろ」
「わかった」
指示通りにイクサナックルを準備する。確かにこの状況じゃ僕が足手まといになる可能性がある。だったら固定砲台として役割を全うした方がいいだろう。フェッスルだけベルトに挿し込んで待機させておく。京君は体術で快斗君は様々なメモリを行使して動きを止めようとしている。最終的に二人が動きを止めた時、ブロウクンファングを放つとファンガイアはその場で砕け散った。
僕は変身を解除するとその場で崩れる。二人が変身を解除してやってきたおかげで地に手をつかずに済んだ。
「おい大丈夫か」
「ちょっと疲れちゃっただけだから大丈夫」
「そういう人って大抵大丈夫じゃないんすよね、知ってます」
「とりあえず少し休むか」
「ありがとう」
一度地面に座ろうとすると乾いた音と高らかな笑い声が聞こえてくる。どこだとみんなして周りを見るとモニターがついているにビル電源が入る音がした。映像にはサングラスを掛けた老人が社長椅子に座って膝を組んで座っている。
『中々面白いものを見させてもらったよ』
「あ?誰だお前」
『これは失礼、二人には自己紹介が必要だね』
「二人?お前一人忘れてないか?」
『いいや、二人だよ』
「快斗、お前影消されてんぞ」
「いや京だろ」
『どっちも、いや全員確認しているとも。勿論君のこともね』
老人が画面から指を指してくる。真ん中を示しているということは僕のことだろう。当然だ。なぜなら僕が彼を知っているように彼も僕のことを知っている。たった5年近くの付き合いと言えどその間とてもお世話になった人だ。
『私は園崎琉兵衛。君たちの言うミュージアムメモリを最初に作り出した人物だ』
「!?」
「じゃあお前が園崎の………!」
「そして新一さんの……」
『ああ、元部下であり現トップだとも。勿論新しく作った園崎家としてのね。会社としてはミュージアムだが』
「やめてください園崎さん。このようなことをしても」
『私が世界を手に入れようとする理由、君にならわかるはずだがね』
「ッ!」
あの人は僕に良いものもくれた。そして悪いもの。それらは当然あの人の中では自分を満たすための行為の一つでしかない。勿論素体がなければ増やすしかない、そのための効率の良い方法。
「──実験台を手に入れるため、ですか」
「「!!」」
『その通り。この窮屈な世の中では簡単には手に入らないからね。だからこそ私がこの世界を手に入れる』
「世界を自分だけの箱庭に、ってか」
「面白くなさそうだなそれ」
『ハッハッハ、若い者にはまだわからないだろう。この理想の素晴らしさが』
園崎さんは愉快そうに笑うとまた笑顔を作る。この人はいつだって笑っている。見るもの全てが愉快なのかと疑うほどいつも笑っていたくらいだ。
『さて、余興はここまでにしようか』
「余興?」
『ああ、鳴海君と大道君は逃げたほうがいい』
「なんで俺たちだけなんだよ」
「何企んでやがる」
『我々の理念としては、
「新一が……?」
愉快に笑うその顔は何かを楽しみにしている、期待を持っている表情だった。名護家の理念を振りかざす、それはつまり彼らも世界に貢献しようとしていること。しかしその対象をわざわざ僕達に話す理由、そして僕を名指しした理由。その答えは自然と出てくる。
「そうか、そういうことですか……!」
『気づいたようだね』
「えっ、どいういうことっすか?」
「はっ、そういうことかよクソ野郎が」
「え!?まさか真面目にそういうこと!?」
「その通りだよ。名護家の理念でもあるあの言葉、つまり執行対象は
『ご明察。流石だね。褒美として最後のパーティーへ招待しよう。そしてさよならだ、私の失敗作』
最後に低くした声が聞こえたと同時に映像はプツンと切れた。
──いつかはこうなるとわかっていた運命。しかして今来るとは想定外だった。来るには早すぎるが理には適っている。メモリの弱点を知っていなくても組織の弱点を把握しているだろうという僕は彼らにとって脅威でしかない。ならば早い段階で手を打っておくほかあるまい。
「新一さん、失敗作って」
「今はそんなこと気にしている余裕がないかも」
「あんな物作る連中だ、何が来るかもわからないもんな」
「その通り。だから彼の忠告通り君達は逃げてもいいよ」
「馬鹿なこと言わないでくださいよ。そんなことしたら俺が首刎ねられますって」
「お前に関してはガチで洒落にならないもんな。当然俺も行かせてもらうぜ」
二人がベルトのバックルを持って僕に見せつけてきた。本当に死ぬかもしれない戦場でこんなに頼もしい仲間は久しぶりだ。協力に感謝するとお礼を言おうとした瞬間、異変が彼らを襲う。
目の前で二人の動きが硬直する。何をしているのかと思いきや二人は力が抜けたようにその場で倒れた。
「どうしたの二人とも!」
「わ、悪りぃ新一」
「何が起きたの!?」
「わからないっすけど、なんか、体が思うように……」
まるで痺れているかのように体が小刻みに震えている。手を伸ばそうとしてもなかなか動かない。何が原因か探ろうとすると数メートル離れたところに緑色の怪物が現れた。その怪物の手には注射器のようなものが添えられていた。
「貴様が二人を!」
「油断したお前たちが悪い」
「殺気すらなかった、どういうつもりだ」
「俺を殺すのはお前じゃない。二人には生きて動けないままお前の死を見てもらう。ただそれだけだ」
「おま、え……」
「さぁショウの始まりだ。名護新一、お前の墓場はここになる」
緑の怪物は景色に溶け込むように姿を消して見えなくなる。二人を何処かに運ぼうと辺りを見回すと後ろの方から息の揃えられた足音と空を切る重い音が聞こえてきた。