ちょっと短いですが切りの良いところなのでお許しくださいどうぞ!
「……名護家が襲撃されました──あの方によって」
信じられない話だった。なんでこの状況でそんなニュースが入ってくるのか。だがアイツは澄ました顔でこっちを見ている。
「何したんだお前!」
「ただ、私のものを取り戻しに行っただけですよ」
「は!?」
「状況を説明します、落ち着いてきいてください」
~数時間前~
名護家上層部は突然消失したARC UNITを回収するための算段を組み立てていた。過去に一度血が滲むような思いをして封じた戦略兵器が今再び飛び回っている。それを二度も封じ込めるとなるとかなり骨が折れるとそれぞれが思考を重ね話し合っていた。
しかしそんな余裕は無かった。消失から三十分後、ARCが向かったのは名護家だった。到着したARCは空から名護家庭に飛来する。当然迎撃体勢を整えた殲滅部隊がARCを囲むように現れる。
「あれはッ!」
「何やってんだよ、坊っちゃん!」
「私は貴方方の主人ではない。貴方方が造り上げた兵器ですよ」
「だからこそ言ってんだろ。その体から出てけ!」
「何方も同じことを言いますね。何も変わらないとわかっているだろうに」
ARCはユニットを一つ操ると砲撃によって庭の一部を抉る。範囲は狭いものの深く地下施設が見えるほどだった。ARCは別のユニットを穴の中に入れた。
「お喋りもそのあたりにしておきましょう。時間がありません」
「時間……?」
「いいぜぇ、けどその体は返して貰おうか!」
「諦めが悪いですね」
「悪ぃけど人間ってのは諦めが悪いんだよ!」
「隊長俺らも!」
「全力で取り押さえろ!間違っても殺すなよ。殺っちまった時はお前らが殺されるからな!」
特別に鍛え上げられた殲滅部隊。一般人よりも遥かに強く一個の軍隊よりも戦力のある兵隊達は五分も立たずに全滅した。他の暗殺部隊執行部隊など名護家の現勢力を挙げて戦うもARCの桁外れの力によって一掃される。
「いい時間稼ぎでした。これで私は完全になれる。最も使わせてくれないことが一番ですが」
「貴様……まさか……」
「あとは名護新一を完全に押さえ込めれば私の完全勝利というやつです」
「…待てよ……」
「諦めなさい、名護新一は私に負けます。ですが世界平和は私が必ず実現させますよ」
ARCは言葉を吐き捨てその場を飛び去る。その時の名護家の被害は奇跡、いやプログラムのせいだろう。重傷者はいたものの死者はゼロだった。
~現在~
「ということです」
「じゃあアイツはいつでも制限を解除できるってか?」
「そうです。あの方が本気を出した瞬間完全に止められなくなる」
「もう一つ見落としてますよ」
「なんだよ?」
「名護新一を取り戻す算段がなくなるということです」
俺達は息を飲んだ。そうだ、それだけの力があるってことはいつでも本気で攻防が出きるようになるってことだ。そうすれば俺達に勝ち目がない。でも諦めたくはなかった。
「もうやめにしましょう。今度こそ時間の無駄です」
「んなことで諦められるかよ!」
「私の中の名護新一も言ってます。これ以上争わないでくれと」
「ッ!ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
「やめろ快斗」
「あ!?いいのかよ!?」
「よかねぇ!けれどここは一度引くぞ」
「なんで!」
「大道様、私も賛成です。一度引きましょう。ARC約束しなさい。必ず新一様の身体を傷付けはしないと」
「いいでしょう。私にとってもこの身体は必要不可欠です」
腕を引っ張られて連れていかれる。どうして俺はこういう時に役立たずなのか。あの人は俺を救ってくれたのに。睨んだ瞬間、一瞬だけアイツの目が変わった。鉄のような冷たい視線が一瞬だけ人の温かさを持ったような目になった。
──確信した。まだ新一さんは取り込まれていない。だったらまだ何か出きる筈だと。
撤退した俺達は弦巻家に戻ってブリーフィングルームに入る。高城さんが既に色々と情報集めていたのかテーブルのモニターが準備されていた。
「二人ともお疲れ様。この人は?」
「初めまして、新一様の知り合いの一条です」
「ああなるほど、お疲れ様です。後程情報を頂いてもいいかな?今まで見てきた人の意見も欲しい」
「畏まりました。協力できることなら是非」
一条さんと高城さんは握手して席に着く。それから机のモニターにさっきまでの戦闘の写真が映された。
「これが先程確認した名護君の姿だ。本人曰く禁忌だそうだ。名称は『ARtifact Clear UNIT』名護家最大にして最強の戦略殲滅兵装。あんな武装のどこにエネルギーが詰まってるのか知りたいところだよ」
「あの兵器は大気の熱や電気を吸収してエネルギーに変換します。コストが掛かったのであの一機しかありませんがそれでも自分で自給自足できるシステムです」
「だがデメリットは脳内にチップが無いと脳の許容範囲を越えてオーバーロードすることによる廃人化」
「でも新一さんは頭の中にそれがあるから兵器として成り立ってるって事か」
そういうことだと高城さんが指パッチンしてくる。エネルギーを自分で作って使えるってことは俺でも分かる。かなりヤバイ。威力とか考えるとすぐに理解できるけど、簡単に言うと戦車が無限の弾持って燃料無しに動けるってことでしょ?もうヤバいって。
「ついでにアレについても聞けるかな?ARCが見せた技と名護君の使った技を」
「〈星閃天装〉はⅧを軸として二つのユニットを組み合わせた長剣です。見て頂いたとおり近くの光や熱エネルギーを変換しそれを収束して刃にして解き放つ。レンジと威力は言わずもがなです」
「あんなん当たったら体が真っ二つだな」
「もう一つは?」
「〈殲滅天装〉はⅧを矢にし三つのユニットを組み合わせた巨大な弓形の兵装です。元々高出力レーザーを撃てるⅡを基軸としてそこにⅧを狙い所に合わせて引っ張り放つとトリガーとなりより強力な高出力レーザーを放ちます」
「それが例の東京壊滅に繋がるのか」
「なんだって?」
「最大出力を出すと東京壊滅は免れないってさ」
なんてこったと頭を押さえている。無理もない、俺も最初聞いた時開いた口が暫く閉じなかったから。現状確認されている武装は相手にしたらヤバい。その一言だけで片付きそうなくらい危険だった。そしてどうしてこんな状況になったのか、新一さんがARCを使用できるのかについてさらっと復習する。
「しかし、よくこんなものを開発したな、名護家は」
「……」
「すぐに対処出来るところはほぼ無いだろう。これが防衛手段として一機のみの開発だから良かったものの、軍事生産されていたら日本は世界から敵視されていたぞ」
「そうですね。流石に常軌を逸している気がします。いくら防衛のためとはいえ……その為に我々は各部隊に別れて訓練されているのですから」
「君が言いたいのはそこじゃないだろう?」
一条さんの目が大きく開かれる。確かに今の言葉は裏があるように感じた。けどそれは別のことに対する込み上げてくる怒りを抑え込むように聞こえた。
「まぁちゃんと考えれば分かるけど、こんな非人道的な開発、普通ならあってはならないし、誰かに止められる筈なんだよね」
「それもそうだな。普通人間の頭の中にチップを入れて戦略兵器を作ろうとはしない」
「じゃあ新一さんの家がそこまで追い詰められてたってことか?」
「いやー、そんなことないでしょ。だって日本の裏防衛機関だよ?他国にも技術提供してるからパトロンは問題はない筈。となると大体答えは出てくる」
「……絶対的な力を持っておくってことっすか?」
「That light!という答えが出たんだけどどうかな、名護家の優秀な側近さん?」
一条さんは目をそらすように戸惑いながらもしっかりとこっちを見て話した。
「……ARCを作り出すよう命じたのは先代の当主、新一様の祖父です」
「え……」
なんで?その一言が俺の頭の中に浮かんだ。あまりにも信じがたい事実が聞こえると空気は重たくなった。
「いやいやいや、普通じーちゃんなら孫を可愛がるもんじゃねぇの?なんでそんなもん持たせてるの?」
「不比等様は……本来新一様を執行者に仕立て上げる予定でした。まだ就任なさっている頃に作るように指示を出されました」
「じゃあ名護の執行者ってのは皆あんな風になるのか?」
「いえ、それには別の理由がありまして」
「やめたまえ二人とも、彼を攻めてもなにもでない。何より当主命令となると逆らえないのは快斗も分かってるだろう?」
「それは、そうっすけど……」
無意に責め立ててごめんなさいと謝ると一条さんは大丈夫と答えた。しかしだからといって新一さんがやられたことは許されることじゃなかった。
「話を戻そう。それで先代が名護君に施した物はなんだったんだい?」
「手術が二回行われました。一つは脳内にチップを入れる手術。もう一つは感情をなくす手術です」
「感情をなくす?」
「えぇ、純粋すぎた新一様がいつか人を殺したという罪悪感に苛まされないようにするためと。ですがそれはあまりに酷すぎると後から苦情を入れられある程度修復しました」
「それじゃあまるで完全に治ってないみたいだな」
「人の心をいじったのです。完全に治る方が奇跡といえるのかもしれません」
「それじゃあ治ってない部分ってのは?」
「……感情です」
「でも普通に感情表現出来てるような……」
「いえ、治らなかったのは感情の一部である恋情です」
「あん?」
「新一様は他の感情は取り戻されましたが恋情だけは取り戻せませんでした。勿論手術後にテストを定期的に行いましたが全部の項目でそこだけは入りませんでした。本人が支障がないから大丈夫だと言ったためテストは終りましたが回りから不安の声もありました」
「人間らしくないからか?」
一条さんは頷くと話を続けた。でも俺の中で納得がいった。あれだけ近くに女子がいても平気、というか気付かないのは仕事柄だけじゃないこと。ボケてるのかと思ってたけど本当に気付いてなかったんだ。
「まぁとりあえずこの話はこのあたりにしておこう。問題はこっからだ」
「そうだね、何せ相手は戦略殲滅兵装。まともにやって勝てる筈がない」
「しかし不意打ちなどが効く相手ではありません」
「じゃあ正面から戦えって?」
「そうなりますね……」
「まぁ戦い方については私の方で考えておくから君達はとりあえず休みたまえ。心身ともにね」
解散の意を伝えられた俺たちは部屋を出て長い廊下を歩く。何か話すかと思えば沈黙だった。それはそうだ、一番やりそうにない人物がとんでもないことをやってこんな状況を作ってる。
──いや、逆に危険性とかを全部知ってたからこそあの判断が出来たんだろう。俺が使ったとしても多分後先考えなかったと思う。こういうところもあるからあの人は尊敬されてるんだろうな。
「んじゃ、俺は帰るわ」
「了解、またな」
「おう」
「……お二人はいつもそのような感じですか?」
「んまぁこんな感じだわな」
「っすね、特にこれと言って会話するかって言われると」
「新一様がいたせいかそのように見られなかったので」
「あー、そうだな。何かと仲介してるような気はする」
確かにそれはそうだと頷くと京はトーンを変えて話を続けた。
「でも俺はコイツを信用してる。あれだけ殺りあって分かった。コイツは馬鹿だがちゃんと考えられる。だから今回のことは一つ二つ言えばわかるってな」
「なんか癪にさわるけどそういうことっす」
「アンタだって新一のこと信じてるだろ?まだ諦め」
「あ!思い出した!」
「んだよ人が良いこと言おうとしてるのに」
「新一さんのことだよ。あの人まだ意識があるぜ!」