「新一さんのことだよ。あの人まだ意識があるぜ!」
ほんの最後の一瞬だったが確認できたことを言うと二人の目が大きく開いた。
「本当ですか!?」
「何を根拠にそんなこと」
「信じられないかもしれないけど、撤退する時に一瞬だけ笑ったんだ。でもあれは多分嬉しいとかじゃなくて悲しい笑顔で……」
「それは本当なのですね!?」
「あぁ、俺が見たのはそれだ」
「良かった……」
一条さんは安堵すると俺を掴んでいた手が力が抜けたようにずり落ちていく。この人でもここまで動揺する事ってあるんだと呆気にとられる。しかし逆に京は呆れたようにため息をつく。
「全く、心配かけさせやがって」
「妙に落ち着いてんな」
「考えなしに使う訳じゃないだろうからな」
「信用してるんですね」
「まぁな」
タバコでも吸出しそうなくらいハードボイルドな感じがした。でもそうだよな、新一さんはきっと取り戻せることを考えてあれを使ったんだろう。きっと、俺たちのことも信じてくれてるはず……だったらちゃんと答えなきゃと俺たちは自分たちの体を休めるところへ向かった。
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私は名護家から奪った情報を基に私の責務を行っていた。世界の脅威を排除すること、それが私が生み出された理由。名護新一の戦闘データ及び脳波理論、エネルギー理論を基に作られた兵器である私は対象の脅威レベルを測り判断して対処する。活動エネルギーを考慮して休憩を挟みつつ今日は三件削除した。万全の状態なら五件は削除出来ただろう。しかし関東のみでこの量を可能としたのであれば一年あれば世界中の組織を排除することができる。
──しかし疑問が生まれる。その後私はどうなるのだろうか。今後発生を防ぐためにこのままこの体で生きていくのか、それとも私こそが世界の最後の脅威として処分されるのだろうか。
考えるのを中断する。体が空腹を訴えた。人間の体である以上仕方のないことだ。時刻は二十三時──湊家に帰宅するのは論外、コンビニエンスストアで済ませるのは栄養不足になり得る。この状況で正しい判断を見つけその場所に向かう。店の上に迷彩をかけたユニットを待機させて入店する。この時間となると客の数も少ない、ファミリーレストランと言えど活気もなくなる。店員の指示を受けて適当な席に座る。メニュー表を選び注文表に書いていく。
「あら、あなたは……」
声をかけてきた方を見るとロングヘヤーの金髪の女性がいた。名護新一の記憶を読み取り即座に照合する。
「白鷺さんですよね?」
「覚えていて下さったんですか?」
「当然です、忘れませんよ」
白鷺千聖──以前名護新一が羽沢珈琲店で遭遇したことがある。勿論悟られないように名護新一を演じる。相手は一般人、巻き込む必要性もなければ向こうも知る必要なしと判定する。
「嬉しいです。ご一緒してもよろしいですか?」
「構いませんよ。しかしよろしいのですか?いくらこの時間とはいえ、アイドルが男と二人でいるのは危険だと思われますが。この時間だからこそとも言えますが」
「あら、気にしてくださるんですか?お気遣い感謝します。ですが大丈夫です、その時はあなたを女の人ということにすればいいので」
「ご冗談を。あまりそういう発言は慎むべきですよ」
「失礼しました。ご迷惑ですね」
「いえ、作戦内容が敵方にバレてしまいますから。ですが幸いここにはその職業の方はいらっしゃいませんので大丈夫ですよ」
「何故そんなことが?」
「簡単ですよ、客数が少ない分特徴を観察しやすかっただけです」
人を見る際は様々な部分を見て推測する。隠している部分というのは動きに現れやすいのでその辺りも気をつけるととてもわかりやすい。
「なるほど……勉強になります」
「いえ、この程度。お食事は決めましたか?」
「え?」
「ご一緒するならここで頼んでしまいましょう。その方がきっと楽です」
「え、ええ、そうですね」
「普段の話し方で問題ありませんよ」
「わかったわ。名護君もいつも通りで構わないわよ」
「いえ、これが普段ですので」
それから名護新一の皮を被り続けながら会話を続けた。日常的な趣味のことや先ほどの人間観察についての話など職業人としての会話が多く感じられた。やがて注文したものがテーブルに並べられる。その量を見たのか白鷺千智は目を丸くしていた。
「その量を今から食べるの?」
「栄養はきちんと摂らねばなりません。どのような時も」
「でもこの時間よ」
「その分もきちんと考慮しています」
私の方に並べられる料理はリブステーキ、海鮮サラダ、カリカリポテトなどといった料理である。ライスを入れて七皿程度だがそれでも驚いているらしい。対する彼女はケーキを一つ頼んでいた程度だった。むしろそちらの方が心配だったが問題ないというので食事を始めた。結局それから話したことも先ほどと大して変わらず会計時に私が支払って店を出た。勿論お金は名護新一の財布から出した。体の所有権は今私にあるのだから私の金と言っても過言ではない。礼を言われその場で解散となった。
すぐにユニットを使えば消化器官に影響を及ぼすと考え少しばかりウォーキングをすることにした。夜も深くなり始めるこの時間にであるている者などそうそういない。むしろこの時間に出歩いている者のの半分は犯罪者かもしれないと冗談を挟もうとすると背の低い女の姿が見えた。水色に近い色のボブカット、記憶の照合は倉田ましろだ。後を追いかけると一人公園のブランコに座りため息をついていた。少しだけその様子を伺うことにする。
「今日も学校の小テストだめだった……このままじゃダメだよね。新一さんと約束したもん、私の希望のために頑張るって」
名護新一との約束…あの言葉か。サポートに入ろうとも考えたが必要ないと判断し引き返そうとすると足元に落ちていた小枝を踏む。パキという音がすると倉田ましろがこちらを見る。既にバレただろうと考え姿を見せた。しかして彼女の理想を壊すわけにはいかないとペルソナをつける。
「こんばんは」
「し、新一さん!?」
倉田ましろは慌ててブランコから飛び降り地に足をつける。この子にとって名護新一はある種物語の王子様だと推測される。ならばそのように演じなければならない。
「奇遇だね、こんなところで会うなんて。でも女の子一人がこの時間に出歩くなんて感心しないな」
「ご、ごめんなさい……」
「ううん、大丈夫だよ。さぁ帰ろうか、送ってあげるから」
「そ、そんな悪いですよ」
「大丈夫、僕は問題ないから」
手を差し出すと周りをキョロキョロと見てから私の手を取った。顔は赤く目を逸らしたまま何も喋らず送り届けた。おそらく予想通りだろう。声をかけた時の目線や体の情報が物語っていた。
この男はいつもこうやって勘違いさせてしまう。だからある意味人類の脅威と言っても過言ではないしかし現状は私が体を操っているため、私が完全独立できるようになったら対処する。出なければような心理的な部分もだがこの男は武力としても個人でいる限り脅威となる可能性が高い。
だからこそ最後に仕留めるのはこの男になるだろう。
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「名護さんが帰宅していない!?」
学校での昼休み、私は湊さんから連絡を受けていた。衝撃的なニュースで驚きを隠せなかった。
『ええ、紗夜と燐子は見ていないかしら』
「見てない……です…」
「私も見ていません。鳴海さんには聞いたんですか?」
『聞いたのだけれど何も話してくれないのよ』
「心配ですね……名護さんのことですから問題はないかもしれませんが……分かりました。見つけたら引き留めておきます」
『ありがとう。それじゃあまた』
電話を切ると白金さんが狼狽えている。とりあえず知ってそうな人に話を聞きに行こうとすると反対側から声をかけられる。
「紗夜ちゃん」
「白鷺さん、どうかしましたか?」
「今、名護くんの名前が聞こえたから何かあったのかしらって」
「名護さんを知ってるんですか?」
「ええ、二度話したことがある程度だけど」
「そう……なんですね……」
「昨日会ったわよ」
「本当ですか!?」
驚いた、こんなにも近くに知ってる人がいるとは思いもしなかった。
「え、ええ……」
「どこであったんですか?」
「ファミレスよ、時間は夜の11時くらいだったかしら」
「そんな時間にいったい何を……」
「彼は知らないけど私は仕事で遅くなったから夜ご飯を食べに行っただけよ。そしたらいたのよ」
「何かしてませんでしたか?」
「特になにもしてなかったわ。夜ご飯を奢ってくれたのだけれど彼は食べてる量が凄かったわね……」
「どれくらい食べてたんですか?」
「テーブル一つ埋め尽くせるくらいよ。夜遅くに食べれるとは思いもしないのだけれど」
その話を聞いて異変に気づいた。名護さんは規則正しく生きてるような人だからそんなことはしないと思っていた。しかし白鷺さんの話を聞いているうちに他の異変にも気づく。まるで自分の経歴を少しだけ見せているかのような話し方、その技術の提供。少しずついつもと違うことに気づく。
「白鷺さんから見てどうでしたか?」
「名護くんのこと?そうね……この間の印象とは違うように思えたわ。やっぱり話し方もうそうだし表情の作り方がなんだかロボットみたいだったわ」
「あれ、先輩方こんなとこで何やってんすか?」
謎が深まる中やってきたのは大道さんだった。いつもみたいに制服を着崩してこっちに向かってくる。少し問い詰めたいところだが今は先に別のことを聞きたくなった。
「良いところに来ました。服装については後でシバきますが聞きたいことがあります。名護さんのこと、何か知ってませんか?」
「えぇ……どっちに転んでも俺シバかれんのか……」
「その様子だと知ってますね?」
「いえ、知らないっすよ。何かあったんすか?」
湊さんからの連絡と、白鷺さんの話をすると顎に手を当てて考え込む仕草を見せる。いつも以上に真剣な表情に私は確信をもって質問する。
「大道さん本当は何か知ってますね?」
「えっ、いや、さっき言ったじゃないですか、何も知らないって」
「だったら何故そんなに考えているのか教えてくれませんか?」
「それはほら、新一さんのことだから大丈夫だろうけど何してんのかなーって」
「快斗、大人しく吐きなさい」
「いやだから、知らないって」
「快斗、私の言うことが聞けないのかしら?」
白鷺さんが笑顔を見せると大道さんは縮こまってしまった。まるで躾られた犬のようだ。彼はふぅとため息を吐いてから諦めたように話し始めた。
「実は新一さん、とんでもないことをやらかしちゃってですね……」
「とんでもないこと?」
「まぁその辺は置いといて、そんでそれの責任を取るために一人で今何とかしてるんです」
「いつ戻ってくるとかって……」
「言われてないっすよ、けど大丈夫だと思うっす」
「根拠はあるんですか?」
「そりゃあ俺たちが、ちょっと待ってください」
話の途中で電話が鳴ったのか大道さんがスマホを耳に当てた。だけど名護さんがそこまで責任を取らねばならないことっていうのはいったいなんなんだろう。一般人に怪我をさせた?でもその程度?もっと他に……と考えていると大道さんが急に窓の方に近付いた。
「先輩、あれっすね。目標確認しました、迎撃します」
「どうかしたの?」
「ちょっと今から仕事っす。出来ればこの部屋から出てこないで下さい」
スマホをポケットにしまうと代わりにバックルを取り出して腰に着けた。懐からメモリを取り出してスイッチを押す。
『エターナル』
「変身」
『エターナル』
白い姿に変わりマントを付けた大道さんは窓を開けて飛び出していく。
「ちょっと快斗!?」
「ハハハッ、これくらい大丈夫っすよ!」
空中で綺麗に身を捻らせて着地する。そのまままっすぐ進む先にはファンガイアと言われる化け物がいた。大道さんはなんの躊躇もなくファンガイアに向かって走り出す。
「なんなのあれ!」
「白鷺さんは知らないんですか?」
「知らないわよ、逆になんで知ってるのよ」
「あれはですね……話せば長く……なります……」
「あんなの見てよく平気でいられるわね……」
「慣れですね」
まさか私以外に学校で現れるなんて思いもしなかったがこれが現実なんだと受け入れる。
「彼が使っているのはナイフ?」
「みたいですね、でもあんなにヒラヒラしたマントを着けてよくあそこまで動けますね」
「よく弦巻さんたちと一緒にいますし……あれくらい余裕かも……しれません……」
「「確かに……」」
不思議と納得がいくとファンガイアはステンドガラスのような色をして砕け散った。だがまだ事は片付いてなかった。