「これは私からの、個人に対する初めての手向けです。ありがたく受け取りなさい」
もう誰も私を邪魔するものはいない。この状況で反撃するものが現れたとしてもユニットが即座に動く。だがこれでわかった。人は私の予測を越えることがある。人の行動が私の予測超える瞬間に現れたあの感覚。ワクワクしたというのだろうか。あの高揚感をもう一度味わいたい。この感覚、そうか、これがタノシイという感覚か。
「新しい感覚を教えてくれた貴方達には感謝します」
「ハッ、この状況を楽しんでんのか?人間らしくなったな」
「人間らしい?この私が?」
「この状況を楽しめるってことはよ、よほど悪い性格をプログラミングされてるか人間に近づいたって事だろ」
「私はAIです。人間と一緒にされては困る」
「怒ってんのか?感情まで得始めるとは恐れ入った」
「お前さっきから何言ってんの?」
「俺からすりゃアークは人間になり始めてるってことだ」
「はっ、そういうことかよ」
「黙りなさい」
攻撃しても問題ない部分をユニットで撃つ。私が人間に近づくことなどあり得ない。人間の感情など不必要極まりない。だからこそ私は完璧に
『これがタノシイという感覚か』
……何故だ。何故だ何故だ何故だ何故だナゼだナゼだナゼだナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダナゼダ!!!!!
何故私はあの時楽しいと感じた!私の予測を越えたことで何を考えた!!
「取り乱してんなぁ」
「黙りなさい!」
「機械の考えることは知らないが、人間に近づいたお前の考えることなら当てられるかもな」
「私は人間になど近づいて」
「何故あの時楽しんだのか、だろ?」
「鳴海京……!」
「教えてやるよ、それは感動ってやつだ」
「…カンドウ……?」
「感情ってのはそこから始まるんだ。つまりそれは、お前にとって人間への第一歩なんだよ!」
「違う!私は人間ではない!私は兵器だ!人間の限界を超えた兵器であるべきだ!!」
私を人間だと裏付けるあらゆる定義を違うと否定し続ける。全てを否定し続けることに集中していると彼らが立ち上がっていることに気付く。
「お前が崩れ始めたのは自らの行動の結果だな」
私が間違いを犯した?一体いつから?
「鳴海さん、私も答えが分かった気がします」
「じゃあ答えてみろ、多分合ってるはずだ」
「それは……」
答えを言われる前に推測する。それは私が間違いとは思わず効率性を選んだ結果のものだった。
「名護さんの身体を使ったことです」
「ッ!」
「人間の身体を使うことが一番人間に近づくなんてな、皮肉なもんだな……」
「口を慎みなさい!……想定外です。感情は不必要だと考えていた私が感情を得てしまうなど……」
「想定外に想定外が重なる気分はどうだ?」
「初めての経験です。しかしどうということはありません。それにここまで考えさせた貴方達に感謝しましょう」
「どういう事だ?」
「私はこれを、感情を受け入れましょう」
「チッ、そう来たか!」
話しているうちに計算した結果理解した。感情を受け入れる、つまり人間に近づいていることを受け入れる事は悪いことではない。むしろ人の行動原理を理解しやすくなったと考える。私にとってこれは喜ばしいことだ。これで人間社会に溶け込みやすくなる。
「さぁ選びなさい。戦うか、背を向けて逃げるのか。次は、加減などありません」
〈ここからはCATASTROPHE BANQUETを聴きながら読む事をおすすめします〉
どうして私はAIであるということに固執していたのだろう。それも人間らしい感覚なのだろうか。どちらにせよそれは後で解明するとしよう。立ち上がる三人は再びその身に鎧を纏う。
「これはお礼です。前言を有言実行といきましょうか」
「何を…」
「聖者 悪に染まれども 清らかな姿にて 全てを滅ぼす者になりえん」
機動装置を唱えたことにより聖魔結晶の状態になった私は体の動きを確認する。制限時間は五分とない。しかし私は希望を持つ。その五分で彼らは一体どんな奇跡を見せてくれるのでしょうか。
「その姿……本気ってことか」
「そうです。ですがハンデをあげましょう。このネックレス、これを破壊すれば
「なんで急にそんなことを教えてくれんだ?」
「決まってます。貴方達の残り少ない時間を私のために、私が楽しむために使うためです。さぁ、私の予想を超えなさい」
「弱点を教えたこと後悔させてやるぜ」
三人は一斉に走り出してこちらに向かってくる。私はⅤとⅥを使って一度に距離を積める。
大道快斗、彼のナイフ捌きはプロの腕前と言っても過言ではないでしょう。しかしその動きはすべて目に見えている。様々な戦闘データを入れられた私にとってこれはお遊びにしかならない。しかし彼はガイアメモリの力を併用して攻撃を仕掛ける。いつ何を使って攻撃を仕掛けてくるか分からない。
氷川紗夜、初めての戦闘にしてはセンスがいい。弓道部ということもあってか銃撃の狙いは悪くない。初心者故に予測しやすいが予測を超えてきた原因の一つでもある。そのシステムで一体どこまで行けるのか。
鳴海京、探偵業で培ってきた知識、またそこから出される我流の技の数々。この中では一番頭脳に長けている。そしてその分応用に転じやすい。自白によると連携は苦手だがその発言はデマであり適材適所を考えて攻撃を仕掛けている。
誰も彼もが想像しやすい分、予測を超えてくる可能性があることを考慮するとオモシロさがある。そうか、これが人が感じる愉悦。ああやっと理解した。私は今やっと、本気で戦いを楽しめている!
「予測通りの動きではツマラナイ。もっと私を楽しませなさい!」
「その装備に対してかなり本気でやってんだけどな!」
「では私からここで一つお伝えしましょう。今回、私は貴方達を殺すつもりでいます」
「!!」
「だからこそ死なないように頑張りなさい」
右手にある刃を振り回すと全員が飛び退ける。しかしそこで隙が出来た。鳴海京、反応速度も彼はいい。だからこそ最初に消すことに決めた。そのまま縦に〈星閃天装〉を行うとまともに受けて瓦礫に激突する。そのまま動く前に左手にある〈殲滅天装〉を放つ。他の二人をユニットのオートで対応しつつ鳴海京を確認すると変身状態は解けなかったがピクリとも動かなかった。
「嘘…だよな……?」
「鳴海さん……」
「残念ながら一人脱落です。彼にも期待してましたが致し方ありません。次です」
「新一さん!アンタ早く起きろよ!」
「名護さん!早くどうにかしてください!本当はなんとかなるんでしょう!?いつもみたいに笑ってなんとかしてくださいよ!」
二人は出鱈目な攻撃をしてくるようになった。感情的な動きは当然ながら予測しやすい。ダメだ、それではツマラナイ。簡単に攻撃を受ける彼らに砲口を向ける。人間は簡単に常に流される。だから近づきたくないと考えたのかもしれない。ツマラナイモノはイラナイ。
「残念ですが貴方達への期待も無くなりました。もしいつしか会うことがあればその時は私の予想を超えることを期待してます」
「ッ!」
「氷川先輩!」
「せめて痛みを感じないようにしましょう。サヨウナラ」
引き金を弾こうとした瞬間視界が影に覆われるように黒くなっていく。すぐに後ろを確認すると
「まだ、俺は終わってねぇぞ!」
「鳴海さん!」
「京!」
「良い、良いですよ、鳴海京!死から蘇るとは、私の予測を遥かに上回った!素晴らしい!」
「ソイツァ結構なことだなぁ!だが、
「次の策は私を越えられますか?」
「ああ、だってこっちには本当の最終兵器があるからなぁ。なぁ、湊!」
地を駆ける音がする。近づいてくる音の方を見ると湊友希那が走ってくるのが見える。学校の制服を着た彼女に異常は見られない。むしろ正常すぎるくらいだ。警戒して構えようとするがエラーが発生する。
体がビクともしない。彼女に対して武器を構えることを拒否している。
バグかと考えるが人間の体にバグが生じることなどあり得ない。では名護新一の意識が邪魔しているのだろうか?違う、名護新一の意識はとうに沈んでいる。では何故だ?答えは簡単だった。
──脅威のない人間には攻撃が出来ない────
私のプログラムされた機能だった。一般人には攻撃など想定していないため、そもそも不必要だと放置していたものがここで仇になるとは想定していなかった。
急いで解除しようとすると湊友希那が既に目の前にいた。武器を持っていないことを確認する。むしろ本当に一般人なのだ。逃げるように足を後ろに下げるとそこで動きがまた止まる。脅威のないモノに対してなぜ逃げようとした?その必要性もないというのに。そのようなことは許されない。これはなんという感情だ?怒り?類似しているが非なるものだと考慮。嫉妬、否定。失望、否定。その他の感情を精査するもそのことで意識を奪われる。
「新一、いつまでも寝てないで起きなさい!」
湊友希那は私の胸ぐらを掴むとあるものを掴んで引きちぎる。
──そうか、それが狙いか!
想定外の行動に体の自由は奪われる。彼女は引きちぎったネックレスを空へ投げる。気づいた時には私は取り戻すように腕を伸ばしていた。
「返しなさい!それは私の」
「私の
「させない!私はようやく体を取り戻したんだ!」
「いいえ、それは名護さんの体です!」
「後悔しろ、自分で弱点を晒したことをな!」
「やっちまえよ、京!」
「狙い撃つぜ!」
やめなさい、それだけはさせてはならないと全てのユニットを起動する。標準を定め射出する寸前に体に新たな重みを感じる。バランスを崩しかけたが体勢を維持しそれすら排除しようと正体を確認するとそれは目の前の彼女だった。
「新一、あなたならもう、止められるでしょう?」
先程までの私だったら確実にフリーズしていただろう。しかしもう制限は解除した。だからもう問題ない。そう彼女に対しても照準を合わせようとした瞬間だった。脳が
──お前はもういらない。だからここで終われ。
知らない人物の声が聞こえた気がした。あたりには既に確認している人物しかおらずこの状況においての第三者はいなかった。それに気を取られている私は成す術など無かった。空を見ると宙を舞う宝石が撃ち抜かれている。認識すると私が消えていく感覚がした。今度こそ本当に終わる。前回の名護家の時とは違う、完全に終わる。せっかく人間に近づけた、それを持って真の平和を、私の存在理由を成そうとしたのに、出来なかった。
──そうか、これが悔しいという感情なのか。
消えるという感覚に対して恐怖を感じることは無かった。しかし悔いが残らないと言えば嘘になる。だが消えていく感覚を受け入れていた。
「もう終わりだな」
「そうですね……鳴海京、質問です」
「何だ?」
「私が消えるということは死ぬということなのでしょうか?それとも消滅と捉えられるのでしょうか?」
「それはお前が生き物かどうかによるな」
「フフ、そうですね……ではもう一つ質問です。仮に私は死ぬということに致しましょう。その場合、悔いはあれど死ぬことに対して恐怖を抱かない、寧ろ清々しいと言えるほどの心地よさ、この感情は一体何なのでしょうか?」
「……さぁな、俺はその感情を知らない」
「ではいずれの機会に、ご自身でお確かめください……」
私というデータが八割ほど消えた。もう身体に電気信号を送ることは出来ないだろう。残り一分も持たずに私は消え、名護新一にこの体は返却されるだろう。
──人間は不完全な生き物だ。感情という邪魔な機構があるが故に判断を誤る。だからこの私にはそのようなシステムは要らないと考えていた。なのに感情を手に入れ始めてしまったが故にこの身が滅ぶことになるとは思いもしなかった。やはり、感情など無駄な機構は必要ないと判断する。戦場においてこのようなシステムは引き金を狂わせるだけだ。
──だけど────
────あってもいいものなのかもしれない────────