最後の言葉を残したかと思うとアークはその場に前から倒れた。地面につく前に受け止めると支えている部分以外のくっついていたバタバタと音を立てて板が外れた。まるで動かなくなった人形のように反応しないアークは機能を停止したのかしら?新一の身体を寝かせるように座り上半身を上げて声をかける。
「起きなさい新一」
「あとはコイツ次第だな、おーい起きろー」
「名護さん……」
「新一さん朝っすよ」
揺さぶりをかけると目をゆっくりと開ける。気が付いたのかこっちを見ると穏やかな顔になっていた。
「おはようございます、お嬢様」
「全く、いつまで寝てるのよ」
「申し訳ありません。長い夢を見ていたようです」
「ったく、大変だったぜ」
「三人にはとても迷惑をかけたよね。ごめんなさい」
「いえいえ、これで恩を返せたっつーか」
「私も同じです」
「それにしても紗夜さんが変身するなんて……予想外です。やっぱり人間って
その言葉を聞いた瞬間背中がゾクッとした。まさかこれはアークの演技なのかと考えたくらいだ。他の三人も構えている。でも新一のケロッとした顔を見ると安心した。大丈夫だ、この顔は新一だ。
「お前、本当に新一だよな?」
「うん、僕は僕だけど……あ、ごめん!この言い方だと勘違いしちゃうよね」
「ビビった~脅かさないで下さいよ新一さん!」
「あなたという人は……」
「アハハ、申し訳ないで」
新一の言葉が終わる前に彼を抱き締めた。正直話を聞いた時から不安だった。本当に彼は戻れるのか、新一は帰ってきてくれるのか。そればかりが頭の中にあった。
「いいのか氷川、風紀を乱してるぞ」
「今くらい良いでしょう。きっと、それほど心配だったんですよ」
「そうだな」
「でも新一さん少し目閉じてるぞ」
「「え?」」
新一の顔を見ると少しずつ目を閉じていっている。起きるように肩を揺らしても止まらなかった。
「申し訳ありませんお嬢様、体の方がいうことを聞いてくれないみたいです。少しだけ、お休みを……」
目を完全に閉じると糸が切れた人形のように体から力が抜けた。もう一度揺さぶっても起きることはなかった。
「やめとけやめとけ、どうせ疲れて寝てるだけだろ」
「そうなのか?」
「恐らくは。精神的には休んでいても身体はずっとアークによって動かされていましたから」
「確かに……」
「それでは新一様を運びましょう。何か異常がないか検査もしなければなりませんので」
「それじゃあ先輩を呼ぶっすか?」
「いえ、こちら側のミスもありますので名護家で検査しましょう。もうヘリも来てますし」
空を見ると重たい音が聞こえてくる。吹き飛ばはれるのではないかというくらいの風を放ちながら着陸したヘリから人と担架が出てくる。何やら騒がしくしながらも担架に乗せた新一をヘリの中に運び込む。
「私も行くわ」
「それはなりません」
「何故?彼の主人は私よ」
「当主より他の者は連れてくるなと言いつけられていますので」
「なっ」
「仕方ないよ友希那」
リサが肩を押さえてくれたお陰で冷静になった私はお願いだけした。一条さんは申し訳ないと謝罪してヘリに乗り込んで飛んでいった。せめて何もないことを願う私達は一度帰宅することにした。
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目覚ませば知ってる天井だった。身体を見ると病院着に着替えられおり、手にはそれぞれ別の手錠と鎖、足にも同じものが付けられていた。回りを見ると金属製の壁と天井で白い照明に照らされていた。仕方ない、あんなことをしていたんだからこれくらいの処置が当然といったところだろう。その他に異常がないか調べようとすると掠れた音声が聞こえてくる。
「あー、あー、聞こえているか?名護新一君」
「聞こえてますよ、開発主任」
「えー、とりあえず先に謝罪申し上げます(棒)いくら使えるものとはいえ危険なものを渡すように促してしまったことを反省しております(棒)」
「気の無い謝罪ほどイラつかせるものはありせんよ。ですがこれは僕が勝手に使ったので貴方が謝ることはありません」
「だってさ当主」
「しかし切り離したはずの君にここまでさせてしまった。その事について謝罪させて欲しい。すまなかった」
「いえ、こちらこそご迷惑をかけてしまい申し訳ありません。検査の方はどうでしたか?」
「さすがに慣れは残っているな」
「異常は無し、オールクリア。あとは機能を確認するためのテストだね」
「では今からやってしまいましょう」
「いいのかい?」
「本来の職務に戻らねばなりませんので」
「切り替えも早いな。しかし早く戻せるように言われているからね、特別用意させて貰った」
前の方にある扉が静かに開くと九人人が入ってくる。どれも見たことのある顔、しかも部隊長クラスだ。それぞれが構えを取る。
「知っての通り部隊長を九人集めた。それ全てを峰打ちでもなんでも戦闘不能にすれば勝ちとする。判定はこちらでさせて貰う」
「畏まりました。皆々様よろしくお願いします」
今回は私情無しということなのか全員黙って頷くとすぐに接近してきた。手足をある程度拘束されている事からあまり動けないが素手でやり合うなら問題ない。鎖を上手く使いつつ一人一人倒していく。十分過ぎる頃には全員の判定はノックアウトだった。十分動けることから問題ないと判断されて拘束は解除された。
送りの車を用意するから少し待ってくれと着替えを渡された僕は別の部屋で身なりを整える。部屋を出て指定の場所へ向かうと後ろから走ってくる音が聞こえる。
「新様──────!!!」
「夜架ちゃんおすわり」
「はいっ!」
「よし良い子良い子」
躾けられた犬のように座る彼女の頭を撫でる。何用か聞くと迎えに上がったとのことだった。ありがとうと感謝しつつ車の場所まで案内してもらい、車に乗った。そのついでにここ数日の学校の話を聞いた。軽く授業について触れておかないと遅れた時大変な目に遭う。
「とまぁ新様が休まれた分の授業の進み具合になっておりますわ」
「報告ありがとう。あまり進んでいないようで助かった」
「わからない所があったらいってくださいまし。授業に出てないことや教科書に書いてないことも教え」
「ねぇ夜架ちゃん、窓から放り出されるのと縛られるのどっちがいい?」
「縛られる方がご褒美に決まってますわ」
「よし、橋本さん窓開けて。この痴女を窓からフライハイさせたいから」
「主、ポイ捨ては良くないぞ」
運転しているのは橋本さんと知っていたからやってくれるかと思ったがそうでもないらしい。確かにポイ捨てしたらその辺の人が可哀想だ。環境汚染にもなりかねないしちゃんと分別しないとね(?)
「それで新様、体調は本当によろしいのですか?」
「うん、問題ないよ」
「本当に良かったです。あのまま二度と戻って来なかったらどうしようかと、心配で心配で」
「……本当にごめん」
「主よ、無茶だけはしないでくれ」
「橋本さん……」
「前にも言ったが俺達は名護の家以前に主の味方だ。いつでも力になる」
「ありがとう…ございます……」
それからは無言のまま車は進んでいった。湊家の前に着いたのは月が真上に上がる頃、二人に礼を言って見送り僕は玄関のドアを開けた。すると腕を組んでお嬢様が立っていた。顔を見るにご立腹のようだ。
「何か言うことは?」
「はっ、名護新一、ただいま帰宅にございます。数日間のご無礼誠に」
「そんなことはいいわ」
「……」
「帰ってきたなら言うことは一つでしょう」
「……ただいまです」
「おかえりなさい」
返事をしてくれたお嬢様の顔は爽やかな笑顔だった。そのまま上がるように促されると早くご飯を作るようにと催促された。結構な時間故にあまりお腹に負担をかけないものを作りその日の終わりを迎えた。
翌日の昼時、僕は校舎の屋上で正座をさせられていた。
「新一さん何したんですか?」
「いや〜ちょっとね〜、ほら、巴たちはご飯食べてきなよ」
「は、はい」
After growの皆が怪しげな視線を送ってきたがそれを気にしている余裕はなかった。目の前には顔にガーゼを貼った京君が立っている。
「おう新一、何か言うことはあるか?」
「この度は勝手な判断で周囲にご迷惑をかけたこと、危険に晒したことをお詫び申し上げます」
「わかってんじゃねぇか。まぁでも、あれがなきゃ俺達はあの時に全滅だ。だから俺は責めるつもりはない」
少し不満げだけど許してくれるらしい。そのことに安心するがその代わりにといいつつその場に座り込んだ京君は身を寄せてきた。
「だけど聞かせてくれ、アークに操られている時お前は意識はあったのか?」
「…あったよ、干渉することは出来なかったけど。わかりやすく言うなら夢を見ていた感じかな」
「夢か、なら戦っている時のことは?」
「覚えてる。だから本当に危険に晒してしまったことは申し訳ないと思ってる」
「それはいい。だがアークはお前は完全に沈めるって言ってたんだ。それはどういう意味だったんだ?」
「わかってはいるだろうけど確実に表に出さないことじゃないかな?意識を塗りつぶすとはいってたけど僕の記憶は残ってるし、多分、体の主導権を渡さないってことだと思う」
「やっぱか。けど本当にヒヤヒヤしたぜ。あの時湊が行ってなかったらどうなってたことか」
「その辺は感謝してもしきれないよ。本当にありがとうございます」
「でもあのアークって本当に人工知能なの?最後の方は人間に見えたけど」
「人工知能っていうのは普通のコンピューターとは違って学習スピードが速いんだ。その上人の思考領域を上回るから普通に超えることは難しいの」
「それで人間の感情を学んだから一瞬で人間っぽくなったってこと?」
「そういうことだ。やつも受け入れ難かったみたいだがな」
「難しくてよくわからないけど、彼も人間になりたかったのかしら」
「さぁ?いずれにせよ死人に口なしだ」
「真相は闇の底ってことだよね」
「じゃ、飯にすんぞ」
「僕は解放されるの?」
「俺は許す。けど放課後氷川にたっぷり言われるだろうからそれは覚悟しとけ」
「は、はい……」
その言葉通り放課後羽沢珈琲店に呼び出された僕は貸切状態の店で絞られる。貸切状態になっていたのは京君のせいだと羽沢さんは言っていた。この状況を甘んじて受け入れつつもその説教は一時間に渡った。途中からの他の人の冷ややかな目線が特に痛かった。
「言いたいことは以上です。何か言いたいことはありますか?」
「誠に、申し訳ありませんでした」
「はい、以後気をつけるように」
「はい……」
正座を解くように言われた僕は椅子に座る。正座に慣れていて本当によかった、たぶん後で痺れるだろうけど。紅茶を一杯貰って一息つく。
「それにしても……本当に氷川さんが戦ったなんて……」
「あこ、ちょっとだけ見たかったかもです」
「初めて使ったにしてはプロみたいな動きだったけど」
「ホントだよね~いつ特訓してたの?」
そのあたりは僕も気になっていたところだ。昼間に聞いたがベルトは名護家が直してくれたらしい。しかしあのシステムは初心者をプロ並みに動けるようなシステムは搭載されていない。
「それがその……一条さんに心持ちを教えられただけで……」
「……え?」
「常に落ち着いて相手の動きを見るようにと教えられただけなんです」
「えっ、じゃあ紗夜さんは練習せずにやったってことなんですか!?」
「はい」
「もしかしてそういう才能?」
「それはちょっと勘弁願いたいですね……」
「ハハハ」
聞いているうちに面白すぎてつい笑ってしまった。皆から奇異な目で見られるがそれも気にならないくらい面白くて笑いが止まらなかった。
「何を笑ってるんですか?」
「いえその、紗夜さんが戦えたのは訳があるんです」
「訳ってなんすか?」
「一条さんは、あの人は教えるのが上手なんですよ。むしろ上手すぎるというか」
「ただ心構えを言われただけなんだよ……?」
「昔からなんだけど一つ言えば初歩は全て勝手に体に流れ込んでくるというか、それくらいあの人の教える力ってすごいの」
「これが本当のモンスターティーチャーか」
「いやそうじゃないでしょ!」
「多分教える才能に長けてるんだと思う。僕も色々と教えられたから」
皆が苦笑いしている中僕は笑いが止まらなかった。やっぱあの人は面白いや。忠実なところが目立つはずなのにそれ以外も凄すぎてツッコミどころ満載なのが本当に面白い。
けど少しだけ解せないところがあった。そんな一条さんでも必ず攻撃してくると思ったのに一切攻撃してこなかった。むしろ彼だけが攻撃してこなかった。解放されたのちに電話して聞いてみるとどうしても傷つけたくなかったということだ。意識は別でも体は僕のものだったからかどうしても抵抗が生まれたらしい。そのことについて話し終えると電話を切る。
今回のことは完全に僕の落ち度だった。皆が協力してくれたおかげで戻って来れたけど今後は迷惑をかけないようにしていきたい。しかしこの時僕は忘れていた。あの時アークが