第一音 家族と理想と贖罪と
私はそのまま男の後ろをついていき、曲がり角で見失う。
あの小箱、あの人間も同じようなものを使っていたが噂に聞くガイアメモリと言われるものだろうか。ライフエナジーの研究をしている上であれが影響するかどうかサンプルを持ち帰りたかったのだが仕方ない。
踵を返そうとすると先ほどの曲がり角から殺気を感じる。咄嗟に回避するとそこには青い姿の人型生物がいた。
「さっきからつけて来てっけど何用だ?」
「バレていましたか。これは失礼」
「何用だって聞いてんの」
「そちらがお使いになられている小箱が少し気になりまして」
人型は興味があるようにへぇと答える。だが剣を下ろす様子は一切見せない。
「アンタ人じゃないよな?」
「はてさて」
「隠さなくていい。これに関しては予備のサンプルをくれてやる」
「いいのですか?」
「ただし条件がある」
剣をより突き付けるように突き出される。
「俺と戦え」
振り払われた剣を避け姿を変える。意外と面倒なことになりそうだ。しかも私が姿を変えた瞬間に攻撃に重さが増した。時々蠍野郎と聞こえるあたりまたアイツがやらかしたのだろう。こんなところで勝手に八つ当たりされるとは、全く面倒を起こしてくれるのが好きなようだ。
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いつものように執事の仕事をしていると部屋をノックする音が聞こえる。扉を開ければお嬢様が立っており髪を溶いてほしいとのことだった。リビングへ向かうというと私の部屋に来なさいと言われる。何か用事があるのかと思いつつお嬢様の部屋に入るとすぐに椅子に座った。
「それじゃあお願い」
「畏まりました」
ここ最近、1週間に一回くらいはお嬢様の髪を溶く習慣ができた。その際には軽い雑談をしている。でも時たま昔話をすることもある。
「ねぇ新一」
「なんでしょうか」
「家族のことを聞いてもいい?」
「構いませんがどうかしたんですか?」
「気になっただけよ」
昔話をする時は大体こういう言い訳をする。しかし僕からすればそんなことは別によかった。
「そうですね、この間は妹の話をしましたし本日はどうしますか?」
「あなたの父親の話を聞かせてちょうだい」
「父の話ですか、軽いところから話しましょう」
そうやって僕はお嬢様の髪を溶きながら父の話をした。子供の頃憧れの一つだった父の話を。
「真一が小さい頃はどんな仕事をしていたの?」
「バウンティーハンターらしいです」
「どういう職なの?」
「簡単に申しますと指名手配犯を捕まえる仕事です」
「親子揃ってとんでもない仕事ね」
確かに僕がやっていることと父がやっていることは大差無い。言い方を変えればどちらにしろ狩なのだから。でもそれで稼いでいたお金のおかげで生活して行けているのだからある意味感謝かもしれないけど。
「お父さんとの思い出とかはあるの?」
「そうですね………と言ってもやはり小さい頃遊んだ思い出ばかりですね」
「何をしていたの?」
「キャッチボールにアスレチック、あとはイクササイズですね」
「最後のなによ」
「父が考えたエクササイズのようなものです」
公園で急にやり出した時は意味がわからなかったけど後々考えると先頭の基礎訓練的な運動だった。あの人は一体何を考えていたんだろう。
「他には何かないの?」
「他ですか。目の前を走ってくる車をで片足で停めていましたね」
「あなたの父は化け物か何かなの?」
「ある意味そうかもしれませんね」
「否定しないのね………」
「したくてもできない時というのがあるんですよ」
幼少期、名護家に関係がなかった時でも父は基礎訓練について気づかせないように教え込んでいたと思われる。真面目が過ぎたからなのだろうか、そういうことを教えているといつも母さんに怒られていたような気がする。
「とても個性の強い父親だったのね」
「そうですね………」
「………やっぱり家族がいないのは辛いかしら」
「え?」
「気持ちはわかるわ。私ももうお母さんがいないもの」
お嬢様のお母様、奥方様は病死されている。それ故に数年は旦那様が男で一つで育てて来たんだろう。それでもお嬢様は空いた穴を埋めることはできなかったのだろうか。あまりそういうことを言わないお嬢様がこういうことを言うということはそれなりのダメージがあったというわけだろう。家族というのはどんな人にでもそれだけ大切な存在であるということだ。髪を溶く手を止められるとそのまま振り返らずにお嬢様は言った。
「新一、私の家族にならない?」
「…どういう意味でございましょうか」
「養子としてうちに来るということよ」
「なぜそのような事を」
「最近読んだのよ。養子縁組の話を。でもそれだけじゃなくて」
「もしかして逢坂さんのことですか?」
「ええ、改めて思ったのよ。私はあなたのために何かしてあげられているのかしらって」
どうやらあの時の逢坂さんの言葉はかなり響いていたらしい。でもあの時僕はそんなことはないと心の中で否定していた。何かしてあげるから主人なのではないと。
「大丈夫ですよ」
「?」
「お嬢様は僕の主人です。ご心配には及びません」
「どうして」
「こうやって普通の生活を送らせてもらっている事こそ僕にとっては幸せですので」
最後に一度だけ髪を溶かし一歩引くとお嬢様が振り返る。こんなこと言うのが想定外だったかのような顔をしている。
「お気遣いありがとうございます。そろそろ失礼させてもらいますね」
「新一」
「はい」
「養子の件、少しだけでいいから考えといてちょうだい」
「畏まりました。それではお休みなさいませお嬢様」
一礼して部屋を退出する。家族にならないか、か。正直今の僕には少し二が重すぎるような気がする。いつ尽きるか分からないこの命、家族になったらきっと今よりも深く悲しませてしまうかもしれない。だったら僕は選択を間違えてはいけないだろうと部屋に戻った。
翌日──放課後に敵が現れた。二箇所に出現しており片方はファンガイア、片方はドーパントだった。適材適所で行こうということになり僕は一人でファンガイアの方へ向かう。場所は少し離れた所にある森林公園。目的地に着くと教祖のような格好をした男性がいた。
「おや、今日は一人ですか」
アークの中で眠っている間に見たことのある顔だった。巨大ファンガイアを作り出す怪人、チェックメイトフォーの一角であるビショップだ。
「この間のような姿にはならないのですか?」
「ならないよ。それより何をしているの?」
「少し実験を行おうとしたのですが暴れてしまっていたので大人しくさせていたんですよ」
「暴れていた?」
ビショップの足元を見るとロボット兵のような者が踏まれていた。ファンガイア反応はこいつであの機械はセンサーに反応しなかったというわけか。
「興味深いものが手に入りましたので」
「へぇ、それは気になる」
「ならばお見せしましょう」
『メモリー』
機械を叩き起こして頚部に挿し込まれたそれは機械の中に吸い込まれていく。その代わりに機械はビデオカメラみたいな顔を上げて僕に向けて何かを放った。眩しい光に顔を隠すと光が収まるのと同時に顔を出す。すると目の前にいないはずの人がいた。
「新一」
「母、さん…?」
何度見直してもそこにいたのは死んだはずの母だった。嘘だと否定しながら後ずさると今度は何かにぶつかる。
「落ち着きなさい新一」
後ろを振り返れば今度は父親がいた。死んだ父達が生きているはずがない。前も後ろも塞がれた、なら横に逃げるしかないと方向を変えるとまた道を塞がれる。
「兄様っ」
今度は妹だった。もうやめてくれと涙が出始める。何この人達がこんなところに出てくるんだ。全部、全部僕が悪いんだ。あの時僕が何も出来なかったから、弱かったから父さん達は死んだんだ。きっと、呪いに来たに違いない。
「やめてくれ、なんで、なんで…!」
「どうしたの新一」
「来るな!」
「兄様?」
「僕が悪かった!僕がもっと強ければみんな救えたんだ!必ず仇は取るから!だからやめてくれ、こっちに来ないでくれ!」
いつの間にか変身解除されていた僕は囲む皆を説得するよう拒む。それでも皆歩みを止めることはできない。それぞれを見回すと父と母の間にある人が立っていた。見たくもないあの人の顔。そして一言言い放つ。
「お前が弱いから、家族を殺したんじゃねぇの?」
その瞬間膝から崩れ落ちる。わかっている事を言われ、挙げ句の果て死んだはずの家族達は何も言わず迫ってくる。
もう体は拒むのを諦めていた。いつか同じように苦しむのであれば今苦しもうと拒否すること辞めていた。三人は目の前まで来て立ち止まる。
──これで少しでも食材になるというのなら受け入れよう。そうだ、これは僕の罪の一つだ………
覚悟して受け入れようとした時、優しく包まれる感覚に襲われる。どういうことだと目を開けると母が抱きしめてくれていた。
「どう──して?」
「あなたは何も悪くないじゃない。あれは事故だったんだから」
「でも、でも」
「でもじゃないの。あなたは子供なんだからできないことがあってもおかしくないもの」
「だからって………僕が強ければあの場から皆を助けて、すぐに病院に行くことだって」
「兄様は頑張ってくださいました」
「希璃乃だって……あの時僕を庇わなければ………」
「あれは私がしたかったことだからいいんです」
「新一、お前は十分に頑張った。もう、背負うのはやめろ」
父さんが頭にポンと手を乗せると涙が出てくる。僕が今までして来たことが認められたのだと思う。贖罪が終わったんじゃないかと思う。
「母さん、僕もう疲れたよ」
「そうよね。もう、ゆっくり休んでいいわよ」
そのまま暫く僕はこの空間から離れたくないと思った。誰にも邪魔されず、ずっとこのまま時が止まればいいのにとさえ────
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俺たちはドーパントを倒してすぐに新一さんの元へと向かった。意外と手ぬるかった事を怪しげに感じながらもバイクを走らせると現場に到着する。すると異様な光景が目に入ってくる。あの新一さんが近くに敵がいるのに変身もせずに地面に座ったまま動かなくなっていた。
「何がどうなってんだ……」
「おや、貴方達も来ましたか」
「お前はこの間の」
「それはともかく、貴方達にも良い夢を見せてあげましょう」
頭にカメラを付けた機械がこっちに向かってフラッシュを炊くと視界が真っ白になった。視界が元に戻るといつの間にか変身が解除させられていた。
「一体どういうカラクリだぁ?」
「快斗君」
後ろから声がすると思い振り返ると制服姿の花音さんがいた。
「へ?なんでこんなところに花音さんが?」
「かーいと君っ」
別の方向を見ると今度はライブ衣装の花音さんがいた。いつ分身の術を覚えたんだろ。早く避難させようと近づくとまた名前を呼ばれるので後ろを振り向くと今度は三人に分身していた。しかも今度はナース服、警官服、白衣とバリエーションが豊かだった。どういう事だと混乱しているともっと数が増えていく。もちろんバリエーションも同様だ。混乱しながらでもちゃんと理解していることがあった。
「花音さんが、花音さんがいっぱいだ〜!」
普段から俺を癒してくれる花音さんがバリエーション豊かで分身してまで俺の周りにたくさんいる。ここが俺のオールブルーなのだろうか。夢ならばいっそ覚めるなと舞い上がっていた。
「おい馬鹿さっさと目ぇ覚ませ」
この場に似つかわしくない声が聞こえる。邪魔すんじゃねぇと言いかけた瞬間ビンタされる。されどその瞬間周りの景色がさっきの状態に戻る。
「チッ、良い夢だったのに」
「バカ言ってんじゃねぇ」
「何故白い方は理解できますが骸の方は何故……」
「悪りぃな。俺の相棒はもう死んでんだ、それを受け入れてちゃんと前を見ている」
「なるほど。けれどまだ受け入れきれていない人がいるみたいですよ」
ビショップが指差す方を見ると新一さんが空を見上げたまままだ座っていた。まさか新一さんが見ているものって。
「死んだ家族に受け入れられた彼はどんな気分なんでしょうかね」
「テメェさっきの俺たちといい何を見せてやがる!」
「この機械は、その人の理想とする夢を見せるらしいですよ。あくまで借り物ですが」
「待てよ、その人の見たいものってどうやってわかったんだ?」
「それは勿論、このメモリーメモリですよ」
「“記憶”のメモリか。あとはフラッシュを炊いた時に範囲以内にいる相手の記憶と連動するようにしたのか」
「鋭い考察力ですね。ですが余興はここまでにしましょうか」
機械が腕の形をガチャガチャと変形させると大砲みたいな形になる。
「まさか我々を一番の敵がこんな形で死ぬなんて」
「新一、逃げろ!」
「新一さん!」
すぐに助けに行こうとするとビショップが目の前に立つ。ここから先は行かせないと姿を変えて襲い掛かってくる。チェックメイトフォー、敵の幹部というだけあって圧倒的な力を感じる。こっちは急いで新一さんの元へ行かないと危ないっていうのに。砲撃の準備が整いそうなのに二人相手に余裕で戦っている奴のせいで前に進めない。砲撃準備が整うと俺たちを薙ぎ払う。
「さぁ白騎士よ、貴方の最後はここになる!」
「やめろぉぉぉ!」
「新一さん!」
放たれた砲撃は真っ直ぐ新一さんの元へ向かい、防がれることのなかった砲弾は新一さんの目の前で爆発した。