青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第四音 相談と訪問と欠陥と

 あれから数日間、お嬢様と僕は必要最低限しか話さなかった。その数日間は天斗も見ることはなかった。けれど今日、晩御飯の片付けをしているとお嬢様が話しかけてくる。

 

「ねぇ、新一」

「何でしょうか」

「……私は、どうすればいいの?」

 

 意外、と言えばそうだがそうでもないと言われればそうでもない質問だった。

 

「どう、とは?」

「わからないの……」

「何がです?」

「SMSで何がダメだったか、私にはわからないの」

 

 きっと何度も考えていたのだろう。いつもより真剣に、そして何より辛く考えていたと思う。

 

「お嬢様……」

「安易に答えを求めてはいけないって分かってる。それでも聞きたいの。あなたは原因が分かってたの?」

 

 その期待には答えられなかった。僕も同じようにこの数日間考えたいたがどうやっても答えは見つけられなかったのだ。

 

「残念ですがお嬢様、ご期待には答えられかねます」

「……本当は分かってるんじゃないの?」

「いえ、申し訳ありませんが僕にも分からない状況となっております」

「…………」

「恐らくですが、此度はお嬢様達が見つけなければならないことなのかもしれません。僕も出来る限りサポートさせて頂きますが答えはお嬢様達で見つけるべきかと」

「そう……ね……」

 

 洗い物を終えた僕はコーヒーを入れてテーブルに持っていく。お嬢様の前に一つ置くとすぐに口をつけた。表情はまだ暗いものの少しはリフレッシュ出来たようだ。

 

「こっちにきなさい」

 

 目の前の席に着こうとすると隣に来いと椅子を引かれる。無下にも出来ず移動して座るとまっすぐこちらを見つめてくる。

 

「どうかしましたか?」

「いえ……少しね……」

 

 いつもと様子が違うのは重々分かっていた。だからこそ僕は平然を保っていようと努力した。僕まで不安を露にしたらそれこそ余計な刺激になるかもしれない。さっきはあんなことを言ったがそれでも平然を保とうとする。

 

「……苦いわね」

「いつも通りに作りましたが、お砂糖追加いたしましょうか」

「いいえ、今はこれくらいがちょうどいいかも」

 

 

 お嬢様はそのままコーヒーを飲み続ける。きっと苦く感じるのは今の現状がお嬢様にとって苦いものだからだろう。原因から対処できる方法を僕は持ち合わせていない。それでも頑張っているお嬢様を見ていると応援したくなった。

 

「なんで頭を撫でているのかしら」

「……っ!申し訳ございません。無意識のうちに……」

 

 乗せていた手をすぐに頭から外し謝罪する。顔を見やると少し複雑そうな顔をしていた。

 

「やめていいとは言ってないわ」

「は、はぁ………」

「もう少しだけ続けなさい」

 

 言われた通りすぐに再開する。でもなぜ続けろと言うのだろうか。きっとこの間までのお嬢様ならすぐに手を跳ね除けただろうに。

 

「随分と慣れた手つきね。他の人にも同じようにやっているのかしら」

「いえ、そのようなことは」

「前に切姫さんが自慢してたわよ」

「はぁ………」

「別に咎めているわけじゃないわ」

 

 お嬢様は意地悪するように笑う。パッと見るとSMS以前の余裕のある顔に見えた。それでもよく見ると無理に笑顔を作っっているのがわかった。しばらく続けているともういいと言われたので手をどける。 

 

「少しは気が楽になったわ、ありがとう」

「いえお役に立てるのであれば嬉しい限りです」

「お嬢様」

 

 部屋を出て行こうとする背中を見ていてふと止めてしまった。今僕にできる事は何かとそれしか考えていなかった。

 

「何?」

「僕は…何があってもお嬢様の味方です。この身が尽きるその時まで僕は貴女の味方でいます故、どうかご安心を」

「………ありがとう」

 

 一度目を丸くしたお嬢様はフッと笑い部屋を出ていった。今に思えばわかる。きっとどこかに拠り所が欲しかったのだろう。責任を感じやすく、好きなことには周りが見えなくなるくらい一途な性格だからか吐き出せるところを見つけられなかった。今回こそ少ししか履かなかったがそれでも少しは楽に慣れたのだろう。

 でもこれはきっと僕じゃ解決できない案件だ。だからこそ頑張ってもらうためにも僕はできる限りの事を尽くそうと、残りのコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 

 

 翌日、学校で授業を受けた僕達はお昼休みを迎えた。冬の屋上は寒いもののブルーシートと軽い毛布を持ってきているせいで外で食べている。しかしそこにリサの姿はなく僕とお嬢様、京君、夜架ちゃんの姿しかなかった。

 

「あら?今井さんは?」

「アイツは今日は別の連中と食べるらしいぜ」

「そうなんですのね」

「早くくわねぇと俺がその卵焼きもらうぜ」

「鳴海さんいつも卵焼きばかり取りますわ!」

「うまいんだから仕方ねぇだろ。それに取ったモン勝ちだ」

「二人とも仲良くね」

 

 相変わらずお嬢様はあまり喋らないがそれでも談笑を交わした。少なくとも学校にいるこの時間は平和でいられる。たまに出ることもあるが学校には二、三ヶ月の頻度でしか出ない。それも大抵が兵隊レベルなのであまり気にもしていないところは若干あったりする。

 

「そういや新一、イヴがまたお前に会いたいってよ」

「あー、そういえば最近は羽沢珈琲店に行ってなかったね」

「イヴ?どなたですか?」

「自称新一の弟子」

「新様流石に仮面を被りすぎでは?」

「夜架ちゃん、僕が悪い使い方してるように見える?」

「そんな事はないと思いますけれど………」

「けど?」

「もしナンパとかなら是非私にもしてくださいまし」

「するわけないしそんなことしたくもないね」

「ほーら切姫、そんなこと言ってふざけてると新一のうまい卵焼きなくなるぜ?」

 

 最後の一個と思わしき卵焼きを箸で掴もうとすると京君が横から奪い去っていく。今日はピクニック用のような入れ物に入れてきたが二人が大半を食べてしまった。夜架ちゃんが必死に抗議しているのを見て皆で笑っているのも束の間だった。

 

「じゃあそれ、俺にくれね?」

「あぁん?やるわけねぇ………」

 

 京君の真正面に座るお嬢様の後ろから気配がすると思い視線を移すとその場が凍りついた。何故こんなところに存在しないはずの人が(・・・・・・・・・・)いるのか。京君はすぐさま卵焼きを投げて夜架ちゃんはお嬢様を回収して離れた場所に着いた。

 

「食べ物を粗末にすんじゃねぇよ………美味いなこれ」

「貴様に褒められたところでちっとも嬉しくない」

「そりゃあ悲しいぜ」

「第一お前、どうやってここまで入ってきやがった」

「こう、ヒョヒョっとな」

「そんなんでわかるわけねぇだろバーカ」

「新様!」

 

 声を出した夜架ちゃんの方を見るとお嬢様を庇うようにして戦闘態勢に入っていた。まるで悪夢でも見ているかのような顔をしている。やっぱりあそこにいた人間にとってコイツは忘れられない存在だということだ。

 

「おっ、夜架ちゃん久しぶり!しばらく見ない間にいい女になったな♪」

「その口を閉じてくださいまし。あなたのような穢らわしい人にそのようなこと言われたくもありませんわ!」

「反抗的な女は嫌いじゃない。けど新一を崇拝してるってのは気にくわねぇな。わかってるだろ?ソイツは人としては欠陥品だって」

「欠陥品…?」

「それでもこの方は新様です。私が愛している新様ですわ。だからあなたに侮辱される謂れはない!」

 

 持っていたナイフを構えて飛びかかり刺そうとすると片手だけで止められる。反応速度といい力量といいやはり桁違いなのがはっきりわかる。

 

「ははっ!バカだな。それがお前を傷つける1番の原因だろ!」

「カハッ」

「人としての欠陥品、コイツは恋情という愛を失った。唯一力になり得た家族愛は死に果て、部下や友人に対する愛などコイツには何も影響を与えられらない。そんなヤツはなぁ、無意識に周りを傷つけるただのクズなんだよ!」

「どういう………こと?」

 

 声がする方向を見ると動かずにその場にいたお嬢様がいた。逃げる方が得策だというのに何故動かなかったのか。だがそれを考えている暇はないと避難させようとすると見知らぬナイフが足元に刺さる。

 

「お前、新一の主人だったっけか」

「…そうよ」

「………そうかそうか。なるほどな。コイツァ面白いこったなぁ」

「何を笑っている」

「いやいや、こっちの話だ。それはそうとお前に二つのことを教えてやる。まず新一はな、人を好きになることは今後一切無い。それも病的なまでにな」

「………何故?」

「そいつぁアイツに聞け。それとこれはお前の話だ。この間のライブ見させてもらったぜ」

「!」

「っ、それ以上言うな!」

「お前らのライブ、さいっこうにつまらなかった(・・・・・・・)」ぜ

 

 お嬢様の表情は一気に暗くなる。絶対に許すまいと変身しようとする前に煙幕を敷かれる。急いで煙を払い辺りを見回したが奴の姿はどこにもなかった。すぐにお嬢様の元へ向かい安全を確認する。幸い目立った怪我はなさそうだ。

 

「無事ですか!?」

「……新一」

「怪我や何か違和感などは」

「あの人の言っていたことは本当なの………?」

「お嬢様…?」

「ごめんなさい、少し一人にさせて」

 

 お嬢様は僕達を避けるように校舎へと戻っていった。やはりさっきの言葉が聞いたのだろう。早々に仕留めておけばこのようなことには……そう考えていると今度は夜架ちゃんが声をかけてきた。

 

「新様、あの方はやはり」

「うん、名護天斗。危険度SSSの執行対象だ」

「消息不明で片付けられていましたがやはり生きていたのですね」

「ごめん、全て僕の落ち度だ」

「新様は何も悪くありません!むしろ私はあの方に虫唾が走りました。すぐに捜索に」

「その必要はない」

「何故ですか!」

「君一人で行っても危険な目にしか会わない」

「ですが………」

「それが事実だと思う」

「………そうですわね」

「だからこそお願いだ。<夜剣>としての君に依頼する。名護天斗生存の件を名護家に報告してくれ。必要とあれば情報提供もする」

「…!畏まりました。名に誓いその依頼を遂行してみせます」

 

 跪いた夜架ちゃんにお願いしてすぐに行ってもらう。午後の授業分は教員に代わりに報告しておくとして京君にも怪我がないか確認する。幸いにも戦ってはいないため怪我を負うようなことはなかった。それでも心の傷を抉られたものはいる。午後の授業は講義を聞きながらも天斗への対策のことばかり頭の中で練っていた。そのことばかり考えているとチャイムがなり放課後になっていることを知らされる。

 

「湊さん、今日はどうしますか?」

「当番の仕事があるの。先に帰ってていいわ」

「わかりました」

 

 そのままカバンを持って教室の外に出ると電話が鳴る。かけてきたのは人の名前を見てすぐに電話に出るが知り合いと電話しているように見せる。そのまま屋上に行き物陰に隠れる。

 

「お待たせしました」

『こちらこそ先に連絡を入れておくべきだったな』

「いいえ、ある程度予測してましたので」

『ではそのことについて聞かせてもらおうか』

 

 僕は今日現れたことや数日前にあったことをそのまま報告した。自分が見た事細かなことまで説明する。霧切さんの頷くような返事もトーンが低くなっていき怒りを感じているのがわかる。

 

「以上です」

『情報提供感謝する。すぐに討伐隊を編成し名護天斗を処罰する』

「その件ですが発見次第僕にも連絡をお願いします」

『……これは名護家が指定した脅威だ。君には関係ないだろう』

「身内の不始末は僕がケリを付けます。それに貴方方では彼奴には勝てない」

『…随分と言ってくれるじゃないか』

「失礼。されどそれは事実かと」

『そうだな。しかしこちらも生半可な武力を入れるつもりはない』

「だからこそですよ。僕は名護家に依頼します」

『何?』

「“名護天斗発見時即時名護新一に報告することを条件に名護新一は名護天斗討伐に協力する”という契約を提案します」

『………正気か?』

「正気も何も、彼奴はこの手で葬り去る。それが尻拭いというものでしょう」

『………了解した。後日再度連絡する』

「お待ちしています」

 

 電話を切った僕は空を見上げた。冬の空はすでに夕日がさしかかっており水色の空にオレンジ色が入り混じっていた。少し話すのに時間がかかりすぎていただろうか。階段を降りていくとお嬢様が帰ったのかがふと気になった。その足で教室にいくとお嬢様の姿は見当たらず、その代わりにギャルの集団があった。

 

「あっれ、名護っちじゃん」

「何してんのー?」

「…忘れ物を取りに来ただけです」

「名護君でもそんなことあんのー?」

「人間ですから」

「ナニソレちょーウケる」

 

 自分の机を見て何もないことを確認する。するとギャルの集団は僕の席に近づいてきた。快斗君よりも服装は乱れリサよりもギャル感の強い感じの彼女達は何を考えているかわからない。

 

「何か御用ですか?」

「ぶっちゃけ気になってたんだけどさ、名護っちと湊ってどういう関係なの?」

「ただのクラスメイトですよ」

「うっそ信じらんなーい」

「ただのクラスメイトが一緒にご飯食べたりしないっしょ」

「ではお友達ですかね」

「隠さなくていいって。好きなんじゃないの?」

「…誰をです?」

「湊のことに決まってるでしょー?」

 

 何を言い出すかと思えばそういうことか。確かに多少目立ちはするがそういうふうに見えていたとは。これじゃあ僕だけじゃなくてお嬢様の学生生活にまで危害が及そうだ。

 

「そんなことありませんよ」

「それこそ信じらんないんですけどー?」

「嘘ではありませんよ。恋とかしたことないので」

「じゃあまだ童貞なの?」

「どう…てい?」

「ヤッたことないのかってことだよー」

 

 ヤッた………この状況だとおそらく性交渉のことだろうか。ギャルのヤッたヤッてないはそういうことだと京君がこの間教えてくれた。正直、呆れた。そんなことを聞いてどうするのか。

 

「ありませんよ」

「ホラ、やっぱないじゃん!」

「まぁそうだよねー」

「じゃあちょうどいいんじゃないの?」

「何がです?」

「今からさ、ヤンない?」

「まさかとは思いますがここでですか?」

「そのまさかだよー」

「ちょーっと童貞には刺激強いかもしんないけどアタシ達ちゃんと気持ち良くしてあげるからさ」

「そうですね………」

「およ?意外と乗り気?」

「じゃあオッケーってこと?」

「見た目に反して意外だね〜」

 

 わいわいと盛り上がっている彼女たちを見て僕は心底呆れた。なんの生産性もないこの会話で少なくとも十分は消えただろう。だが彼女たちは僕の知らないものを提供しようとしてくれている。その上で僕は決意した。

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