青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第六音 新一と名護家と王の座と

 これはかつて名護新一が第十六代目名護家当主になる前の話です。第十五代目当主名護不比等、先代であり新一様の祖父であったあの方は執行舞台に所属させた新一様より任務の報告を受けておりました。

 

「失礼します。名護新一及び一条始、馳せ参じました」

「うむ、任務御苦労であった」

「ありがたきお言葉。報告をさせて戴きます」

 

 私情と仕事をはっきりと分ける新一様は年齢が一桁なのにも関わらず同じ年齢の子供のような様子を見せませんでした。それはまるで仕事をする社会人と何ら変わらないと言っても過言ではないでしょう。

 

「全て確認した。下がっていい」

「畏まりました。失礼します」

「一条は残れ、話す事がある」

「畏まりました」

 

 黙って部屋を出て行った新一様をその場で見送り先代の方へ振り返ると楽にしろと合図された私は多少の緊張を解きました。その場での先代は立場を守りつつも心配をしていたのを覚えています。

 

「残らせて悪いな」

「滅相もございません」

「…今回の任務、お前を同行させたがどうだった?」

「………新一様のことでいらっしゃいますか?」

「ああ、現場のあの子のことを聞かせてくれ。多少報告書と被っても構わん」

「畏まりました。敷地に入り次第、新一様は予定通りの行動を開始しました。警備隊の撃破、施設の破壊、データの破壊、そして被験体の処分全ての任務を行いました。もちろん生存者の安全を優先、また未実験の被害者の非難を行いました。敵主力部隊も一人で掃討、幹部クラスは二人、そして敵将の首を取りました」

「………」

「また保護した人達のメンタルケアなども「それはもういい」失礼しました」

「あの子は………容赦なかったんだな」

 

 その顔はまるで哀しいものを見るような顔でした。先代はその時まで実の孫である新一様を人として心配していたのでしょう。

 

「おっしゃる通りにございます。討った敵には全て情けを捨てていました」

「なぁ一条」

「はっ」

「お前から見てあの子はどう見える………」

「突然言われますと返答に困りますね………」

「儂はお前を幼い頃から育ててきた。他の保護した者たちとは違いダントツで成績を残していたお前からはどう見える?」

「そう…ですね。やはりとてつもない存在だと思います。新一様は今回の事でもそうですが、人を殺すことに躊躇いを持たないと考えています。また、ここにきてからまだ三年だというのに現段階で教えられる技術は全て全て習得、更にはオリジナルも作り出すという異形。恐れ多いですがあの方は普通ではないと考えられます」

「お前もそう考えるか………お前、人を殺す時最初は躊躇っていたよな?」

「存じ上げられている通りにございます」

「儂も躊躇ったわ………慣れるのに半年もかかったのにのぉ。あの子が初めて殺したのは一年前か」

「はい。当主様が罪人を連れてこられ、新一様に刃をお与えになりました」

「あの子はあの時聞いておったの、『お爺様、この方は罪人なのですか』と」

「はい。当主様が『そうだ。殺せるか?』と聞いた瞬間にあの方は刃を振るわれましたね」

 

 無垢の瞳には迷いは無く瞬きをする間に刃は左から右へと動いていた。数秒経てば首はずり落ちる、そんな光景を見せられてその場の空気は凍りついていました。

 

「飛び血がか掛からなかったな。あの時は流石の儂でも冷や汗をかいたわい。もうここまで出来ているのかとな」

「私もです………あんなに幼い方がどうしてあそこまで出来るのでしょうか」

「それはもはや天賦としか言いようがないな。あの子は…何も知らなければただの優しい子だったのにな」

「ですがそうさせたのは」

「わかっておる、この儂のせいだ」

 

 名護家の因果、いえ、呪いのようなものが彼の人生を大きく変えてしまったのでしょう。もしこんな呪いがなければ今頃平和に暮らしていたのかもしれません。ですが彼は呪いに巻き込まれた上に内に秘める才能を開花させ後に最強と言われる存在になりました。

 

「御無礼、失礼しました」

「気にするな。この書類、お前も目を通しておけ」

「はっ………『DXS計画』…でございますか?」

 

 極秘と書かれた書類を開くと小さい文字がびっしりと埋め尽くされており内容はあまりにも残酷なものでした。

 

「ああ、儂からあの子へのせめてもの手向けだ。『DXS計画』、正式名称『デウス・エクス・マキナ計画』。その名の通り神に近い存在を作り上げる計画だ」

「で、ですがこの計画では新一様の感情が…!」

「それが狙いだ。感情さえなくして仕舞えば今後仕事に支障をきたさなくなる。今は何もなくともこれから何が起きるかわからない。だから今のうちに予防線を貼っておくのだ」

「…このこと…新一様には………」

「伝えてはおらん……知らぬ方が良いこともあるからな」

「ですが、あの方は……」

「必要な決断の時、感情があった方が厄介なのだ。かつての儂がそうだったようにな」

 

 先代の過去に何があったかは知らされていませんでした。それから先代は新一様を危険な兵器を扱うような態度で対応されました。慎重かつ冷酷に、まるでそれは人ではないように新一様に指示を放ちました。その時の新一様は「厳しくなっただけ」「そもそもそういう組織だから大丈夫」と私に話すように自分に言い聞かせていたんだと思います。

 DXS計画が開始されると新一様はガラリと人が変わりました。第一段階としてまずは最新兵器とのコンタクトを取れるように脳にチップを入れる手術がありました。また同時に身体能力の底上げ、通常の人間の力量を超える肉体改造の実験も行われました。おかげで新一様は通常の人間より嗜好の領域が広がり、任務では様々な事態にAIの協力を得ることで解決されてきました。けれどアークの暴走により新一様が乗っ取られ、かろうじて取り押さえた我々はアークを凍結封印しました。その時さえ周りに与えた被害に自責の念を感じていたでしょう。

 そして計画の第二段階、新一様の感情を無くす実験が行われました。先代の指示通り一才の感情を無くし完全な生物兵器となりました。機械的な計算や言動からは感情の温かみを感じ取れず仲間に対しても冷酷無比な態度を取られました。

 

「新一様」

「一条さん、次の任務はいつですか?体は万全です」

「少しお休みになられた方が。そうです、そろそろハロウィーンですよ。今年は何が貰えますかね」

「結構です。この組織に娯楽は必要ありません」

「新一、苺大福を買ってきたのだがどうする」

「計算された食事を摂っていますので不要な物はいりません」

 

 自信を優先するよりも他者を優先し何よりも他の人の笑顔を大切にしていた人が優しさのカケラも無い話し方をするのを見て他の人達に怒りが募りました。その結果数週間以内にデモが起こり、「新一様の感情を返せ」と多くの者が言って聞きませんでした。それにより考え直した先代は再生医療を新一様にもたらしました。ですが治すのは感情だけで他の部分はそのままです。アルターエゴシステムという電子機器を用いて新一様の脳をいじり、数日かけることで感情を取り戻しました。安らぎ、穏やか、楽しい、喜び、哀れ、不安、恐怖、怒り、驚き、デジタル、中立の感情を取り戻すことに成功しましたがいくらやっても好きという感情だけは完全には取り戻せませんでした。物事に対しての好き嫌いはあれど人に対しての好きは家族や友人のみ程度で止まり、恋愛モノのストーリーをかなりの量見せてもわからないというばかりでした。

 

「新一様、これではまだ完全に戻れたわけではありません」

「ですが問題はありません、お気遣い感謝します。この仕事についている以上あまり必要ないかもしれませんしね」

 

 笑って受け流す新一様を見て全員納得するとそれ以降触れないようになりました。一部の者はアプローチを続けましたが変化はありませんでした。

 やがて時は経ち、ある日新一様が任務より帰ってきた時、事件は起きました。実の兄であり、名護家次代当主を予定していた名護天斗による反乱──わずか一人で名護家の半数を死傷者に変えました。彼のおかげで二度と現場復帰できなくなった者も少なからずいます。またその事件により新一様の就任が決定しました。同時に先代の死期も近づいており、寿命でなくなる寸前名護家の権限を新一様に譲渡されました。

 

「お前が…我々の悲願を成すのだ………」

「その任、承りました」

「最後くらい……孫の顔を見せてくれ………」

「………お祖父様」

「なんだ…」

「安らかにお休みくださいませ」

 

 先代が亡くなるとすぐに全員を集め、就任の報告を始めました。

 

「皆の者、心して聞け。私が名護家第十六代目当主名護新一である。我々の悲願は変わらず、貴様らは我が配下となる。その剣、その弾、貴様らの血液の一滴まで使わせてもらうぞ!」

 

 その場の全員が新一様に平伏し新たな王が誕生しました。あの方は名護家をまとめるだけでなく自ら任務に向かいました。通常当主は様々な国との会談や情報整理、統制を行う筈ですがそこに自ら任務に行くことも加えました。その時の年齢は十、とてもまだ子供なのに現実は厳しいものでした。それからは新一様が以前説明された通りです。事件が起こり復讐を果たそうと名護家を出ていき、今はお嬢様の執事をやっておられます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういう……事だったの……」

 

 彼が欠陥品と言われてたことが分かった。そして今日別れ際に言っていた「普通の人間でいたい」という言葉の意味がやっと分かった。

 でも同時に寄せてきた嫌な感情の波。主人として彼にとって休める場所を作ろうとして作れていなかったのだ。

 

「新一様はきっと、お嬢様や他の人に知られるのを恐れていたのだと思います。知られてしまえば自分はここにいられなくなると考えて」

「そんなこと」

「では仮に、私は人体実験を繰り返して改造された人間ですと言われてすぐに受け入れられますか?」

「っ……」

 

 そんなのは嘘だと拒む自分がいた。つまりそういうことだったのだろう。事実に対する壁が必ず存在すると彼は知っていた、だから話したくなかったんだ。

 

「新一様は、あの手術の後も前のようにご自身より他人を優先していました。だから真実を伏せたのもあると思います 」

「じゃあ結局私は、あの人に何も……」

「そのようなことはないと思います」

「え?」

「あの方が異常に他人に優しいのは常日頃のことですがお嬢様には特に甘いと考えます」

 

 私には特に甘い?どういうこと?

 

「仕事かもしれないと最初は思いましたが度を越える時もたまにあります。その点はおそらく本人は気付いていないでしょう」

「……?」

「話が逸れましたね。以上が新一様が貴女様のもとに現れる前、そして新一様が欠陥品と呼ばれる元となった話です」

 

 これで天斗という人が言っていたことが分かった。けれど余計分からなくなった。私が彼にしてあげられることは何もないかと思うほどに。現状Roseliaのことさえちゃんと出来てない私は新一のことに手をつけてる余裕がない筈なのに何も見えていなかった。見えていないのになんでこんなことをしてしまったのだろうか。

 私の思考が詰まっていくなか一条さんは私を見つめてくる。

 

「お嬢様、お願いがあります」

「何かしら」

「どうか新一様から離れないでいてください」

「…!」

「新一様は今の生活にとても満足しておられます。それはきっとお嬢様やRoseliaの皆様がいらっしゃられるからかと思います。最近、あの頃よりもきちんとした笑顔が多くなったようにも思えるのです。貴女様ならきっと、新一様の止まっている時間を進められるかもしれない。無理に関われとは言いません。どうか新一様を捨てるような真似だけは絶対にしないでほしいというだけです」

 

 初めてこの人が感情的になるのを見た気がする。それほど新一を大事にしていることが伝わってくる。

 

「これはとても私情を挟んだ願いになります。ですがどうか」

「わかっているわ。だから安心しなさい」

「!………はっ、ありがたきお言葉」

 

 その後一条さんは洗い物までやって帰っていった。さっきの言葉に最後まで感謝を述べていたが正直にいうとそこまで余裕を持てる自信が持てなかった。Roseliaのこと、新一のことでどうするべきなのか悩みに悩んだ私はその足でお風呂に入った。それでも悩みは乗ったままで結局寝るまでどちらを優先するかは選べなかった。この時私は忘れていた。話の中にあった新一の過去で大事なことを。

 

 

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