〜とある森の奥にある古城の廊下にて〜
「よぉ、ビショップの旦那」
「ルーク貴様か………」
チェックメイトフォーの二柱であるルークとビショップが廊下にて出逢う。
ルークは先代のルークに勝負を挑み圧勝したことにより下克上を成して出世した。
それに対しビショップは欠員を埋めるためにキングが功績を見込んで役職を与えた。結果として様々な研究を行いファンガイアに多く貢献している。サバト──以前彼が花咲川高校で作り出したファンガイアの死骸のカケラを集めた巨大な化け物は彼の研究成果の一部である。
そしてこの二人、透けて見えるように仲が悪い。
「貴様が城にいるのは珍しいな」
「いや何、ちょいと休憩にな。あとしばらく俺この辺にいるから」
「そうか。キングの言いつけを守っていればそれでいい」
「へぇへぇそうでございやすね」
「まさか嫌だというわけではないだろうな」
ビショップはルークの鼻先に剣を突きつける。けれどルークは爪で触るように撫でると手の甲についている針の背をビショップの首に近づける。複数の赤い目には君の悪い笑みが浮かべられているようだった。
「俺はお前の言うことは聞かないって決めてんだ。臆病者のお前のな」
「喧嘩を売っているのか?」
「まさか」
針をどかすのを見ると互いに警戒心を高める。いつ襲いかかってくるかわからない、ましてビショップはルークの恐ろしさを知っている。だからこそ無駄な戦いとルークとの接触は避けたいのだ。
「アンタと戦うのはねぇな」
「は?」
「そんなわけだからじゃーなー」
スタスタと歩いて行くルークを見てビショップは心なしか少しばかり安堵する。もし今アイツと戦ったら今頃どうなっていたか、その恐怖が突然襲いかかってくる。目に見えるのは先日撃破された前のルークと今のルークの殺し合い。そのような目に会わなくて済んだのだと安心すると曲がり角を曲がる寸前にルークが戻って壁に寄りかかる。
「そういえばだけどよ」
「なんだ、まだあるのか」
「お前今面白いことやってんだろ。何やろうかは別だけど
「ッ、貴様に指図されることではないわ!」
平然を装っていたビショップが怒るとルークは茶化すように曲がり角に消えていった。ビショップは再び歩き出すと最近拾った小箱について考え始める。興味深いものを拾った上に人間を脅して手に入れた機械を使ったことにより、白騎士に精神的打撃を入れた事に多少慢心している彼は次の作戦をと考えていたのだ。
その先で先手を打っている者がいるとは知らずに。
〜とある森の奥にある古城の廊下にて 終〜
あの後家に戻って来た僕は静かに自室に戻る。時間も時間のためお嬢様を起こさないようと心がけていたが部屋に入ると不思議な光景に気づく。
隣の部屋にいるはずのお嬢様が何故か僕の部屋のベッドで寝ている。一体どういう状況なのか理解出来なかったが起こすわけにもいかないと思い着替えを持って部屋を出る。浴室で体を洗い着替えて戻っても景色は変わらなかった。致し方あるまいかと椅子に座る。
「何故僕の部屋に………?」
これと言って面白いものはない。普段からあまり人を入れないしお嬢様も夜中に困った時に訪れる以外入ることはそうそうない。
だからこそ疑問だった。いつもの作曲の時の瞑想状態で寝ている姿はまさに眠り姫のようだった。
近くに毒林檎でも転がせば白雪姫とそう変わらないだろう。そうしてみると布団を着ていないことに気づく。部屋は暖房がついていた(多分つけられた)ため寒くはないようだが念のため着せると顔が近づく。
──もし、僕の中に恋愛的な感情が残っていたら────
きっと、女の子に近づいただけでドキドキしたり誰かを目で追ってしまうなんてことがあったのだろう。
でもそんなものは要らないとあの日に捨てた。皆が取り戻すように努力してくれたけど僕はそれを捨ててしまった。悔いはない、この身は戦うためにあるとあの日に誓ったのだから。
結局翌朝まで僕は椅子に座っていた。無理に動かすわけにもいかず寝ずの番をするようにずっと見守っていた。静かに眠るこの人の顔は見飽きるものではなく、まるで人形のように綺麗だった。
僕のスマホのアラームが鳴る。時刻は五時半、普段お嬢様は起きないであろう時間だが目を覚まさせてしまったらしい。
「ん……」
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう……なんであなたが私の部屋に?」
「逆ですお嬢様、お嬢様が僕の部屋にいたんです」
寝ぼけながらも辺りを見回している。状況に気づいたのか完全に意識を覚醒させたようだ。
「そういえば昨日来たわね」
「何故来たんです?」
「……なんとなくだったかしら」
「……はぁ…………」
お嬢様でもそんな理由があるのかと人間なのだからそれもあるかと処理する。起きたのを確認したし朝食を作りに行こうとすると呼び止められた。
「待って」
「何用ですか?」
「あなたの過去、全部聞いたわ」
一度、言葉を疑った。頭の中で繰り返すが言葉が変わることなく事実を伝えてくる。
「……誰から聞いたのですか?」
「一条さんって人から聞いたわ」
なら不用意に喋ったわけではないだろう。あの人なりに考えがあって話したはず、だとしたらこう言葉を述べるべきだろうか。
「だけど私は」
「ならばお嬢様、この化け物の扱い方をどうか間違えぬようお願い致します」
「!そんなつもりは」
「朝食の準備がありますので一度失礼します」
お嬢様を背に部屋を出て行く。そうだ、きっとこれが正しい。僕の正体を知ってしまったならもう何も知らない頃の名護新一としては見れないはず。なら僕は僕らしくあるべきだと振る舞うとしよう。
──────────────────
──だけど私はあなたと今までのように接したい────
そう言いたかったのにあの人は何かを取り繕うように出ていってしまった。やはり言ってはならないことだったのだろうか。でも知ったからにはちゃんと向き合わなきゃ失礼だと思った。だからこそ正面から話そうと思ったんだ。
いつまでも口が下手だということに気付いた。やっと新一に対しての答えが見つかったと思ったのに遠ざかってしまった。これじゃあ何も解決できない。
──結局、何も変わって変わっていなかった。Roseliaに入って変われていたと思った。それがあの結果だ。何がダメなのかもわからず、新一には何もしてあげられない。
「……まだここにいたんですね」
「あ………」
「食事の用意が出来ました。ゆっくりでいいですから支度を済ませてからおいでください」
荷物だけ回収されて扉をパタンと閉められる。その後は朝支度を済ませて下に降りるといつも通りの朝ごはんが待っていた。彼の作るご飯は美味しいはずなのに味がしないくらいおかしな感じがした。新一は今日の予定を話してくれるなど場を和ませようとしてくれたが無理をしているのが伝わる。
学校でも同じだった。休み時間は京ととりとめない話をしている姿はいつも通りだったのに違和感にしか思えなかった。授業が始まれば真面目な生徒同然黒板の文字を移したり何かメモしている。それすらも何故か違和感に感じた。
「湊さん」
「は、はい」
「授業中によそ見してはいけませんよ」
「す、すみません」
流石に授業中まで彼のことを見るのは不味かった。それでも授業の内容など入ってこず彼のことばかりが頭の中を支配していた。
本来ならばここにいることなく怪物退治や名護家を引き継いでいたのならばいろんなところで仕事をしていたのだろう。それすら捨てて家族のために復讐をしようとしている。でもそれって家族のためなの?それとも自分のため?それに私の近くにいるよりも名護家にいた方が………。
「湊さん!」
「!」
「今度はボーッとして。授業に集中できないのであれば課題を」
「いえ、そんなこと」
「すみません先生、湊さん体調が悪いようです」
私を庇うように声を出したのは新一だった。
「どうして名護さんがそんなことを知っているんですか?」
「朝登校してる時に偶然会いまして、その時から体調がすぐれないようでしたので」
「そうなの。湊さん、そういうことは無理せず休んだり誰かに相談してください」
「じゃあ新一お前保健室まで連れてってやれよ」
「僕?保健委員に頼んだ方が………」
「そりゃあそうだろうけど倒れた時にさっさと担ぎ込めるのはお前くらいだろ」
「確かにそうかもしれないけど」
「じゃあ名護さん、湊さんを保健室まで連れていって」
「わかりました」
新一が私の席に近づいてくる。なんの取り止めもない顔で声をかけてくる。正直なんて言われたかはその時覚えていない。けどこれだけは確信を持った。
今の彼の顔は、確実に作り物だと。
今まで見てきてなんで気付かなかったのか分からなかった。でも今だけははっきりとわかった。階段の踊り場についた時にやっと意識が戻ったような感覚がくる。新一は振り返って話しかけてくる。
「体調は大丈夫ですか?いくら暖房をつけているとはいえ布団を着ないで寝ると風邪になりかねませんよ」
「ええ、大丈夫よ、ちょっとボーッとしてただけ」
「なら良かったです。ですが念のため保健室で休んでおきましょうか」
いつの間にか着いた保健室の扉を開けて中に入ると誰もいなかった。ベッドで誰か寝ているのかと思ったがそうでもないようだ。彼は慣れた手つきでベッドを用意すると寝るように促してくる。言われた通りにすると新一は椅子を近くに持ってきて座る。
「教室に戻らないの?」
「湊さんが眠りにつくまではここにいようかと」
「それだと授業をサボることになるんじゃない?」
「それもそうかもしれませんね」
クスリと笑う新一は何かを隠す為の顔に見える。たとえ本当の感情が入っていたとしてもどうしても今日はそうに思えそうになかった。
私は昔から人と話すのが下手だ。素直な感想を述べると意図しないことで言い争いになってしまうこともある。だからこんなことも言ってしまったのだろう。
「どうして笑ったフリをするの?」
「………?」
「笑っているように見えるのだけど、どうしても本音を隠しているようにしか思えないのよ」
「…なるほど、仰りたいことはわかりました」
新一は立ち上がるとまるでピエロの面をつけたような顔をする。でもそこからは怒りや笑いなどではなく別の何かを感じた。
「これは僕の癖です。人にはいつも笑顔を向けていようという」
「なんでそんなこと」
「その方が色々と好都合だからです」
「でもそれじゃあ」
「知ってますか?ピエロが何故いつも笑っているかを」
そう言って顔を近づけてきた新一はよく顔を見せてくれる。けれど瞳には何も写っていないくらい暗く濁っているように見えた。その上で顔を見てみると、まるで壊れた人形のように思える。
「自分の感情を隠す為だそうですよ」
すぐに顔を遠ざけると扉が開く音が聞こえた。カーテンを開かれるとそこには保健室の先生の姿があった。二人は何かを話すと新一は先に戻っていますとだけ言い残して帰っていった。入れ替わるように入ってきた先生は私に体調はどうかと聞いてくる。その後少しの間寝かせてくれるといいうので今はそれに甘えることにした。けど私は次の鐘が鳴るまでずっと寝付けず鐘が鳴れば部屋を出ていった。
扉を開けると京とリサの姿が出てくる。
「友希那、大丈夫?」
「問題ないわ」
「新一からは特に問題ないとしか言われてないが無理すんなよ」
「ええ、ありがとう」
そのまま通り過ぎようとすると聞いたことのある音が京のポケットから聞こえてきた。ポッケに手を入れるとそのまま錠前らしきものを取り出す。
「京もそれを持っていたのね」
「そりゃあライダーだからな、ちょっと出るぜ。はいはい」
『俺だ』
「快斗?」
『リサさんがいるってことは友希那先輩もいるんすか?』
「いるわよ。どうかしたの?」
『あー、新一さんは?』
「今は席を外してる。そんでどうした」
『天斗っつう奴がきた』
「何?」
天斗、名前が本当にその通りなら何故花咲川に現れたのかしら。新一ならこっちにいるのに。
『白金先輩に会いに来たみたいなんだけど俺が見た時にはほぼゼロ距離にいた』
「そうか、白金は天斗が敵だってこと知らないもんな」
『そんで手紙一枚を渡して帰ってった』
「手紙?」
『新一さんに渡してほしいって言ってたらしい』
「なんで新一に渡さなかったの?」
「そりゃあアイツが………」
言葉の途中で息詰まる。そのまま言えばいいのにと思ったが京が首を横に振る。そういえばリサたちは新一のお兄さんのことを知らないということに気づく。むやみにしゃべって言い訳でもなさそうね。
『とりあえず新一さんに渡すか』
「それが一番だな」
『じゃあ白金先輩、新一さんと会って渡すようにお願いします』
『わっ、私…!?』
「今回は諸事情で俺達が渡すわけにはいかねぇんだ。だから頼んだ」
『サポートは任せてください』
燐子が承諾するとその後数分くらい喋ってから錠前を閉じた。すぐにチャイムが鳴って教室に行ったがやはり授業内容は頭に入らなかった。
結局、放課後に手紙のやり取りが行われるらしいが私は呼ばれることなく帰路に着いた。