青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第九音 再開と歯車と気構えと

 あの日、新一に「何故笑ったフリをしているの?」と聞いた日からあまり話さなくなってしまった。話しても必要最低限のことと一緒にいるときに平然を装う為の時だけ。でもその間に私は答えを探していた。聞いた日に見に行ったポピパのライブを見て、彼女たちにどんな思いで弾いているのかを聞いた。もしかしたら答えが見つかるかもしれないと放課後は一人で練習した。それでも後もう少しというところで行き詰ってしまった。

 何度謳ってみたところではわからない、どうしたら誇りを取り戻せるのか。本当に暗闇に迷い込んでしまったようだ。それでももう一度歌おうとすると部屋の扉が開かれる。

 

「あ………」

「一人で練習ですか」

 

 紗夜だった。ギターケースを背負った彼女は一度ロビーに出て休憩しようと提案したのでそれに乗った。缶コーヒーを買って座ったけど話しかけて来なかった。そんな中私の声が溢れる。

 

「……まだ、取り戻せない。だから、歌いにきたの。でも、それも意味がないみたい」

「あなたは……あなたと私は、似ていると思います」

「似ている?」

「名護さんは私の背中を押してくれた。今度は私が名護さんの主人であるあなたの背中を押せるときかもしれません」

 

 紗夜は真剣な表情で話を続けたが思い詰めている様子はなかった。

 

「この問題について考えている時に自分の中の変化に気が付いたんです。きっと以前なら、ここまでバンドの問題に向き合わなかったかもしれない。それがなぜ、こんな風にあなたを説得したりバンドのことを考えるようになったのか」

 

 聞いていてかなり難しい問題だと思った。でも張り詰めた様子はなく、むしろ清々しいほどの表情だった。

 

「それは、私がRoseliaの氷川紗夜だから」

「Roseliaの……」

「そうしてくれたのは、あなたの執事が背中を押してくれたからです。妹と比べない私……自分の音楽を持つ、私…でもこれはあの人だけじゃなくてあなたもなんです」

「私も?」

「そうです。少しずつ、日菜を見返そうとしている私から、Roseliaのギタリストの私へと変わっていったんです。でもこれはあなたも同じ」

 

 紗夜はちゃんと前を見て成長していた。あのRoseliaの中で成長して言ったんだと思っているとおかしなことを言ってくる。

 

「私も………?」

「あなたもきっと……もう、お父様の影を置いかているだけの湊友希那ではないはず」

「あ………!」

「あなたは何者なのか。もう一度考えれば、答えは見えてくるはずです」

 

 会釈をして紗夜は自分の荷物を持って出て行った。けどあの子の言葉を真剣に考える。私が何者なのか……それは昔から変わっていない。

 その日は練習を切り上げてそれだけを考えることにした。答えを未完成な状態で導き出した私は翌日の放課後になってスタジオに向かう。皆がいる部屋を探し扉の前に立つ。今は怖がっている場合じゃないと踏み出すと皆が揃っていた。

 

「みんな……っ!」

「友希那さん!?」

「………!」

「みんな………」

 

 言葉が詰まる。正直何を言えば良いのかわからなくなっていた。でもここまで来た。リサは心配をしてくれているようだけど紗夜が制止する。そうだ、これは私がやらなきゃいけない問題だ。

 

「………SMSの失敗からずっと考えていた。なぜ、お客さんが離れていってしまったのか。昔の私たちと違うところはどこなのか。………昔に戻れば。昔のような音が取り戻せるんじゃないかと思ったけれど、それは間違いだった。

音をとり戻すこと、それはRoseliaとしての誇りを取り戻すこと。そう思ってずっと考えてきたけれど………わからなかった。………誇りを取り戻すまで、あなたたちに顔向けできないとそう思っていた。でも……私は……Roseliaの湊友希那だから……誇りを失おうが、惨めだろうが、私はRoseliaの湊友希那でいたい………!その為に、ここにいさせてほしい。私は……ここで歌を歌うことし……できないから……」

 

 やっと完成したように思える。自分の中で未完成だった私の気持ちを言葉にして伝えられたと思う。なんと言われようとも私は………

 

「……友希那……っ!」

「友希那さんは、惨めなんかじゃない!………そんなこと、あるわけない………っ!!」

 

 燐子の突然の大きな声に驚く。燐子は話すのが苦手だ、だけど今はそんなことが考えられないほど声を出してくれている。

 

「友希那さんは……そうやって……Roseliaのことをずっと……考えて……一人で悩んで……誇りを取り戻そうとして……そうやって一人で悩み抜いた友希那さんが……惨めなわけ、ない……!でも……『わたし達』は『Roselia』です……!わからないなら……一緒に……探せばいい……!」

「Roseliaの湊友希那でありたいって気持ち……そこに友希那の『誇り』はあるんだよ……!」

「あなたは一度だって誇りを失ってなんかない。ずっと、誇りを持ち続けていたからこそ、こうして悩み続けたんです」

「あ、あこ!Roseliaのことやっぱり誰よりもカッコイイバンドだって思ってます!Roseliaがカッコイイバンドでいるために、この5人の誰が抜けてもダメだって思います!!」

 

 次々と掛けられる言葉に驚かされる。皆真剣に考えていた。私と同じように考えていて、受け入れてくれようとしている。その事実を知って涙が出てくる。

 

「……ごめんなさい……こんな私を……もう一度受け入れてくれて……」

「ううん、友希那。アタシ達だって、ずっと『Roselia』を見てこなかったのは同じことなんだよ」

「わたし達は……今……ようやく『Roselia』になれたんです」

「うん……うん……っ!あこ、Roseliaが大好きです」

 

 皆が涙目になりながら良かった良かったと言わんばかりの空気が流れている。そんな中ため息のように吐いた紗夜は呆れるような、でもどこか嬉しそうな顔でドアの方に声を話しかける。

 

「さっきの宇田川さんの発言を少しだけ訂正しなくてはですね。ねぇ、名護さん?」

「あっ、そうだった!」

 

 紗夜の発言に一番驚いたのはあこだったが全員が驚きながらドアを見ると静かに開かれる。開いた扉の奥から出てきたのは清々しい顔の新一だった。

 

「空気を壊すようなこと言わないでくださいよ紗夜さん」

「新一……」

「あなただって、Roseliaの一員でしょう?」

「最近あまり出れていなかったので忘れられがちですし、そんな風に思ってもらっても良いのかと思いますけどね」

 

 苦笑いをしながらも楽しそうに話している。最近のいざこざで思い出す余裕もなかったが彼もRoseliaのメンバーだ。つまり紗夜が言いたいのは──

 

「この5人ではなく、この6人よ」

「新兄もいてこそですもんね!」

「そうだよ!新一だって頑張ってくれてたじゃん!」

「でも僕は皆に何もしてあげられてないよ。今回なんか特に………」

「いいえ、あなたは私に安易に答えないようにしたわ。それは、私に自分で気づかせる為にでしょう?」

「それはそうですけど………」

「名護さんは隠しているつもりでしょうけど、皆さんそれぞれに声をかけていたのを知っているのよ」

「あれ、バレてました?」

「そうやって隠れながら皆のサポートに回っていたのだから立派にRoseliaのマネージャーをやっているじゃない」

 

 本人はそのつもりはないと思う。ずっと別のことを考えている様子だったし余裕が出来た一瞬のことでしかやっていないつもりなのだろう。それでも私たちには十分だった。考えられる時間とこうして皆と一緒にRoseliaを挿し会できるのだから。

 

「では改めて、この6人でRoseliaです」

「そうね。やっと、止まった時計の針を進められるわね」

 

 その言葉を言ってあることに気付く。まだだ──まだすすめられない人がいる。『私たち』の針は進められてもあの人の時計の針は止まったままだ。でも不思議と動かすことができないとは思えない。きっと今の私なら彼の時計を動かすことが出来る。そう思えてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから数日間天斗の動きは無かった。その代わりお嬢様は放課後になるとどこかに行くようになった。遅く帰ってくるわけでもなく俯いているわけでもないので問題は無いだろうと判断していた。実際、最初の一回だけ念のためにと後をつけさせてもらったがライブハウスに自主練しに行っただけだった。

 僕の方もファンガイアが出ては倒しドーパントが出ては倒し、家に戻っては家事をする日々が続く。前の日々より物足りなさを感じている。

 そんな中紗夜さんからメッセージ入る。今からスタジオに顔を出しに来てほしいという内容だったため特に問題もないなと考えた僕はバイクに乗ってスタジオに向かった。指定された部屋を覗き込むとお嬢様達がいる。

 話を扉の外から聞いているとお互いに分かりあう事が出来たらしい。これで元の生活に戻れるんだなと思い踵を返そうとすると紗夜さんの声が聞こえてくる。いつから気づいていたんだろうか。

 それからしばらく話し解決すると皆で帰ることになった。ただしこのままテンポ良く帰れることはなかった。

 

「明日からまた頑張るぞー!」

「あこ気合い入ってんね〜アタシも頑張るぞ〜⭐︎」

「そうね、私も頑張るわ」

「本調子に戻られて何よりです」

「そうだな、俺としても楽しめそうだ」

 

 僕達の目の前に黒いコートを着た人物が現れる。日本刀を持っていること、さらには特徴的な雰囲気は絶対的に忘れない。よくも気分を害してくれたものだ。

 

「あの人誰?」

「初めましてだな嬢ちゃん達」

 

 近づいて来る牽制するように皆の前に出る。お嬢様とりんりんはわかっているようだが残りの三人は状況を理解していなかった。

 

「何しているんですか名護さん?」

「おっと、どっちの名護さんだ?」

「どっちって……よく見るとあの人、新一に似てない?」

「似てないよ」

「昔はよく言われたもんだよな。まぁ血が繋がっているんだから当たり前と言っちゃあ当たり前だけどよ」

「どういうこと……?」

 

 イクサナックルを取り出し攻撃の意思を見せる。それでも怯むことはなく話を続けてくる。

 

「そんじゃあ自己紹介するか。俺の名は名護天斗、お前らの知ってる名護新一の実の兄だ」

「お兄さん!?」

「新兄お兄ちゃんいたの!?」

「まさかあなたが………」

「そこの嬢ちゃんは知ってたのか。別にいんだけども」

「何をしに来た」

 

 余裕の笑みを浮かべながら近くの柵に腰をかけた。癪に触るように刀を同じように柵に立てかける。早く帰ってくれと思いつつ皆を逃す方法を模索する。

 

「仲睦まじき声が聞こえてきたからな。ちょいと挨拶に来たんだよ」

「それだけじゃないだろう」

「まぁな。答えあわせというかそんなところ」

「答え合わせ?」

 

 疑問を持つと携帯が鳴る。スマホを見ると霧切という文字が記載されていた。天斗の方を見るとどうぞと言わんばかりに掌を見せていた。対象から目を離さず電話に出ると霧切さんの声が聞こえてくる。

 

「もしもし」

『こちら霧切だ。今大丈夫かね』

「問題ありません」

『ここ数日名護家の者で行方不明者が出ている。何か知っているかね?』

「僕の知っている方ですか?」

『ああ、八名ほどな。連絡すら途絶えている。最悪の場合殺されていることを想定しているが』

「名前は?」

 

 霧切さんから続々と名前を出されるが全員知っている名前だった。もしかしたらと思い途中からスピーカーモードにしていたら途中で天斗が拳で掌を叩く。

 

「そういえばそういう名前だったっけかアイツ」

「何?」

「最近あったんだけどツマンねぇから殺しちゃったぜ⭐︎」

『なっ、まさかそこにいるのは』

「久しぶりだな霧切さん。今の名護家の当主はアンタがやってんのか」

 

 ケラケラと笑う天斗は霧切さんを嗤う。携帯から怒りが籠ったような声が聞こえ、救援という言葉が聞こえた瞬間手に持っていたスマホが弾かれた。急な刺激により少しばかり痺れる感覚があったが皆を庇うように腕を広げる。

 

「せっかく遊びに来たんだ。邪魔はさせねぇよ」

「皆、反対側帰るんだ。それくらいは許すはず」

「いいぜぇ弱い奴がいても邪魔だしな」

「でも新一は?それにお兄さんなんでしょ!?」

「その話は今度しようか。とにかく今は逃げて。紗夜さん、りんりん、お願い」

「……わかりました」

「新君も……気をつけてね……!」

 

 二人が皆を連れて行くと僕と天斗の二人になる。当然のように変身した僕は天斗に対して刃を向ける。生かしていてはいけない、かといって簡単に勝てる相手でもない。でも、だからこそこの男は僕の手で殺さなきゃいけないんだ。

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