青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第十音 進化と呪いと新ステージと

 燐子と紗夜によって私たちは本来帰るはずの方向とは反対の大回りする道へと走っていた。私たちが背を向けた瞬間彼らの間から発せられる悍ましいものを感じた。普通に生きていたら感じることのないだろうドロドロとした何か。いろんな感情が入り混じったような黒いヘドロのような感じ。きっとこれから先忘れることはないと思う。けどそれだけ新一から出ていたなんていうのが信じられなかった。

 

「ここまで走れば大丈夫でしょう」

「ハァ……ハァ………疲れた〜」

「皆さん……無事……ですか………?」

「それよりさ、友希那たちはあの人の事知ってるの?」

 

 紗夜と燐子と目が合う。本人がいない前で話していいのだろうかと一瞬躊躇うが紗夜が話を切り出した。

 

「私は、会うのは初めてですが以前から知っていました」

「私は……幼い頃から………」

「この間、学校の屋上に来たわ」

 

 全員から驚きの目で見られたが二人はすぐに状況を受け入れたのか切り替えて話し始めた。新一の知り合いだから、とかでは片付けられなさそうに思えるが。

 

「あの人は言っていた通り新一さんの実のお兄さんです。そして目の敵にしている……」

「なんで?お兄ちゃんなら仲良くしないと」

「あの人は………普通じゃないの………」

「燐子それどういうこと?」

 

 事情を簡単に私たちが説明できる範囲ですると二人の顔は青ざめていった。いくらなんでも人のやる事じゃないと、もしかしたら私たちも殺されていたのではないかと。だから燐子と紗夜の判断は正しかったのではないかと。でも私は思った。それで新一はどうなるのか。私たちを守るとはいえ勝てるかもわからない相手に殺意を抱き、ましてはあんなドス黒い何かを発していた彼がちゃんと帰ってこれるのか心配になった。

 

「とりあえず私たちは家に帰りましょう。湊さんも名護さんの帰りを、って湊さん!?」

 

 気がつけば皆から離れてきた道を戻ろうとしていた。でもきっとこれは私のやらなくてはいけない事だと思う。彼と向き合うために、私ができる最初の一歩。

 

「彼を迎えにいってくるわ」

「無茶言わないでください!」

「私は、今度こそちゃんと伝えなきゃいけない」

 

 静止させる声を振り切り私は新一の元へと走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 もう、安全な所まで逃げただろうか。イクサナックルを掌に当ててベルトに装填する。天斗は手を頭の後ろで組んで余裕の上場を浮かべている。

 

「じゃ、ボチボチ始めましょうかっと」

「手加減はしない。今回こそ」

「おっとそうはいかないぜ。今日の本題はお前にプレゼントだ」

「何?」

「俺のデータの五分の一を搭載したロボットを用意した。これに勝てなきゃ俺にはまず勝てねぇよ」

 

 指を鳴らすと目の前に虚像が浮かび上がってくる。突然現れたそれは完全に人型をしている。腕の部分は剣になっていて近接特化の人形兵だと言うのがわかる。しかしアイツをモデルにしたのなら隠し球が一個や二個ではないのは明白。

 

「いいだろう。早急にスクラップにして貴様の頭蓋を砕きにいってやる」

「我が弟ながら口が悪いねぇ」

 

 イクサカリバーを取り出し数秒間対象を観察すると僕が動き出すと同時に人形が揺れる。初激を防がれた。だがそれは想定内だ、だから次の一撃を用意していた。そのはずなのに僕が次に見たのは誰もいない空間だった。足元を取られバランスを崩すとそのまま蹴り飛ばされる。壁に激突した僕は瓦礫がパラパラ落ちるのを見ながら天斗達の方を見る。人形は無傷、天斗に関してはヤンキーみたいな座り方をして高みの見物をしている。

 

「スクラップにすんじゃなかったのか?」

「ちっ………」

「舌打ちは悲しいぜ。だがこの程度にも勝てないんじゃお前はやっぱり失敗作だということだな」

「黙れ、貴様の人形など壊してやる」

「無理だ。針が止まったままのお前に勝てる術はない」

 

 針が止まった、つまり僕の時間が止まっているということを言っているのだろう。腹が立つ。そもそも貴様があのようなことをしなければそんなこともなかっただろうに。

 だがそれがどうした。恨んではいるが逆に安心もある。戦場に邪魔な感情はいらない上にそのお陰で貴様を殺すことを決意できる。それに僕も立ち止まっている暇はない。

 

「愛を知らぬ哀しき人よ、なぜお前は力を求める」

「それは僕が皆の命を守るためだ」

「はい残念、それじゃあお前は進めません。嬢ちゃん達の時計の針は動いたのに残念だなぁ。ま、仕方ないか。所詮失敗作だし」

 

 人形の猛攻が始まった。剣撃はなんとか防ぐことが出来るもスピードが追いつかない。このままじゃ反撃に出ることも叶わない。しかし防いでいるうちに気づく。このスピードなら制限解除すれば追いつく上にパワーで押し潰す事もできる。でもアレをすれば確実に僕の体は勝手にダメージを受ける。その状態で一人になれば天斗に隙をつかれて殺されるに違いない。フィードバックが襲ってきても問題がないようにするには時間内に奴を殺すまでいかなきゃいけない。

 それでもヤツを殺せるのならと声に出そうとした瞬間走ってくる音が聞こえる。その方向に気を取られると人形の回転斬りをもろに食らう。一度変身解除させられた僕は近くに駆け寄ってくる人に目を向ける。すると一度意識が固まった。

 

「新一!」

「………………」

「大丈夫なの?」

 

 上半身を起き上がらせるのを手伝ってくれるがそれには感謝しつつも別のものが込み上がってくる。

 

「貴女は………貴女はこんなところで何をやっているんですか!」

「!」

「巻き込みたくないから逃げるように言ったのにわざわざ戻ってきて、何をしているんですか!」

「そ、それは」

「僕は貴女を死なせないように、危険な目にあわないようにさせるために戦っているんですよ。本当は貴女みたいな普通の人がこんな化け物供を知らなくてもいい世界でなければならないのに」

 

 早く立ち上がり彼女を避難させようと動こうとすると何を思ったのか顔をしっかり掴まれる。しかし楊梅色の瞳はしっかりと僕を見据えて逸らすようなことはなかった。

 

「聞きなさい。私はあなたの事を化け物だなんて微塵も思っていないわ」

「なっ」

「あの時私はあなたの過去の話を聞いた話をしたわね。あの時言えなかった続きを話すわ。だけど私は、あなたを見る目を変える事はないわ。例え多くの人を殺そうとも多くの人を救った。どれだけ人間からかけ離れていてもそれでも私からすればあなたは名護新一だということに変わらない。だから安心しなさい。私はあなたを見捨てるようなことはしない!」

「お嬢、様………」

「ハハハ、お前の主人、おかしいんじゃねぇの?」

 

 たった一人笑う男の方を見ると人形は強く叩かれ腹を抱えて笑っていた。確かに言っていることはおかしい。普通の人間ならこんなこと考えない。なんなら恐れて距離を取ってもおかしくはない。けれど何故だ?この人は何か違う。

 

「この執事にしてこの主人ありってか。笑わせてくれる」

「何がおかしいのかしら。私は私のやりたい事をやっているだけよ」

「それがおかしいってことだよ!こんな化け物、忌み嫌われ誰にも理解されないのが末路だ。その絶望をより深くさせようとするなんて信じられねぇぜ」

「それはあなたがそう思っているだけでしょう?私は一生この人から離れないわ。たとえ何があってもこの人の側にいる、そう決めたの」

 

 ──それは無理だ。いずれこの人は僕から離れる。そうでなくても僕が近くにいることすら本来許されることではない。なのに、なのになんでこの人はそこまで言い切ろうとするんだ。

 

「新一、私たちの時計の針は再び動き出した。だからあなたの時計の針ももう動いていいはずよ」

「駄目ですよお嬢様。方法がわかっていても僕には動かす術はない。それにこれ以上求めてしまうのは、僕に許されることではないと」

「それは誰が決めたの?」

「っ!」

「誰も進む事を止める権利はないわ。それに進める方法はある」

「えっ………」

「一人で出来ないなら二人で進めばいいじゃない。だから命令(・・)するわ」

 

 この状況で命令?いやまさか、命令で動かそうと考えているわけではないだろう。そんなことを考える程の頭ではないはず。だとしたらどうやって動かすつもりだ?どちらにせよ、無理な気もするが。だけど、ここは一つお嬢様を信じてみよう。きっとこの目に嘘はないと信じさせてくれる。そんな気がしたから。

 

「私を好きになりなさい」

「………」

「ぷっ、ハハハハハ!本当にどうかしてやがる。そんなんで動くはずないだろ!」

「理由なんて考えなくていいわ。とにかく私を好きでいようと考えなさい」

「それで解決には」

「これは命令よ。忠誠を誓うのなら言う事を聞きなさい」

 

 意味を考える事をやめその場で跪き命令に従う姿勢を見せる。お嬢様を好きであろうとする、それが何故進められる理由になるのだろうか。

 

「いい?私を好きになる理由は考えてはだめ、好きになっていいはずがないと考えるのもだめ、あなたはただ私を好きであろうとすればいい。それ以外に考えるのは禁止」

「お嬢様、それではまるで」

「いいわよ。命令というよりむしろ、呪い(・・)って考える方が面白いかもしれないわ」

 

 お嬢様の考えていることはわからないかった。けれどそれが一番自分の中で納得しやすいとも思えた。だから僕は今、目も前の敵を潰さねばならないこと、お嬢様を好きであること(・・・・・・・・・・・)しか考えなかった。

 

「で、芝居は終わったか?」

「芝居かどうかは今からわかるわ。ねぇ新一」

「お嬢様、ご命令を」

「そうね。とりあえずあの人形を壊してしまいなさい」

「御意」

「やるこたぁ結局変わらねぇなぁ!」

 

〈ここからはNeo-aspectを聴きながら読むのをお勧めします〉

 

 天斗は人形に迎え撃つように指示を出した。当然あの人形はさっきのようにスピードは早い。制限解除をしなければ追いつくことは少しばかり難しいだろう。

 だが今考えていることはそれを超えることではなかった。疲弊しているはずの感覚がお嬢様がくる前よりも遥かにクリアに感じる。難しいことはない、ただ、こうやって迎え撃てばいいんだと剣を振り下ろすと後ろから何かが落ちる音がした。後ろを振り返ってみると人形の右肘から下がなくなっており足元を見れば刃のついた腕が一本落ちていた。

 

「………」

「お嬢様、これは……」

「あなたがやったのよ。大丈夫、考えることは変えなくていいわ。それにあなたが言ったのよ、『化け物の扱い方をどうか間違えぬようお願い致します』って」

「……まさか」

「無論化け物扱った覚えはないわ。私は、私の執事に指示しただけだもの」

「(まさかこの短時間で新一を本当に動かそうとしている?そんな馬鹿なこと出来んのかよあの女)………面白れぇ」

「こんなところで立ち止まっていられないはずよ。だからあなたは今やるべき事をやりなさい」

 

 そうだ、こんな所で止まっている余裕はない。例え時計の針が止められていようともそんなことを気にしている場合ではない。あの人は今僕に指示を出している、ならそれを実行するのが執事としての僕の仕事だ。

 

「畏まりました」

「とんでもねぇ連中だなぁお前ら!」

 

 片腕を振り回してくる人形に見て確実に倒す方法を計算する。きっとお嬢様が来ないままであれば焦っていたと思われる。けれど今は違う、思考までスッキリしているせいで相手の動きはスローモーションに見えるほどだ。人形の左腕を躱すと次は足を振り上げてくる。先端部位を見るとナイフが突き出ているのが見えた。振り上げた足を掴み宙へと投げる。

 

「決めてしまいなさい新一!」

「仰せのままに」

 

 落下する人形目掛けて跳び目の前まで近づいた瞬間に踵落としで地面にぶつける。そのまま自由落下の勢いに乗って落ちる僕は剣を下に突き刺すようにして落ちていく。

 

「私たちも始めるわよ、新しいステージを!!」

「ハァァァァァ!!!」

 

 突き刺された人形は機能を失い動かなくなる。地面に辿りついた時にすぐにその場から離れると人形は爆発した。次はヤツだと辺り一帯を見回すと姿はなかった。どこだと探そうとすると声だけがその場に木霊する。

 

「面白くなってきた。よかったな新一、また遊ぼうぜ」

「貴様の首は必ず獲る。それまで首を洗って待っておけ」

「……終わったの?」

「此度の戦闘は終わったと考えて問題ないでしょう」

 

 変身を解除して後ろを振り向くとお嬢様の顔で視界がいっぱいになる。そしてすぐに口を塞がれる。柔らかく温かい感触。まさかと考えるがお嬢様の目が零距離と言っていいほど近くにあることから考えれば答えは一つしかなかった。十秒ほどしてようやく離れるとお嬢様の吐息が口に当たる。そうだ、やっぱり僕の口を塞いでいたのはお嬢様の唇────

 

「よくやったわね。これはご褒美よ」

「………な、何故」

「言ったでしょう。新しいステージを始めるって」

 

 そしてお嬢様は不敵な笑みを浮かべた。

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