天斗のロボットを倒してから1週間近くが経った。お嬢様達は次のライブを探しすぐに連取に取り掛かった。練習している姿も見ている、家でお嬢様と元の関係に戻っている………はずだった。正直な事を言おう、記憶がない。お嬢様に不意にキスをされてから部分部分の記憶しかないのだ。いつの間にか朝になっていて、いつの間にか学校で授業を受けていて、いつの間にかRoseliaの練習を見ていてというように記憶が飛んでいる。因みに今は屋上で昼食中だ。今日のメンバーは夜架ちゃんと京君だ。どしてその選出になったかも覚えていない。
「で、新一がここ最近壊れ始めたロボットのように固まりすぎてるんだが」
「動きづらくなった老翁とも言えますわ」
「二人ともしれっと酷いこと言うね?」
「なんだ今は動いてんのか」
「どう見ても生きてるでしょ」
「いや頭の話」
そっちかと理解しながら弁当を口に運ぶ。二人とも一応考えてはくれているのだろうか。
「大丈夫ですわ新様。もし中身が年老いてしまっても私は新様の事を愛しますわ」
「まだ若いはずだから大丈夫だよ」
「オイルが足りてないのか?」
「一回僕が人間であることを前提に戻そうか」
「そうだな。そんで新一の様子がおかしくなった原因ってのはおそらく湊にあるはずだ」
さすが名探偵そこまでは把握済みか。しかしあの現場は目撃していない限り知らないはずだし何よりも言う事をためらう自分がいると思う。だからその先は自分でどうにかしないといけないだろうと結論を出す。
「そう思った俺は弦巻家に行って町中の防犯カメラを調べさせて貰った」
は?
「っと、そこで見つけたのがこれだ。この時間は天斗と戦った記録がある。しかし俺達は別の敵を相手にしてたから行くことはできなかった」
どこからとりだしたのかパソコンを取り出してエンターキーを押すと記録映像が流された。そこにはバッチリ僕とお嬢様が重なっている部分が映っており。
「なんでここまで調べられてんの!?」
「安心しろって、モニタールームは完全に一人だったしカメラもなかった。だからプライバシーは守られているはずだぜ」
「違うそうじゃない!」
「湊様ずるいですわ!私だってまだでしたのに!」
「夜架ちゃんは黙ってて!?」
「騒ぐな。この様子を見るに不意打ちされたのは間違いない。お前みたいな奴が不意打ちファーストキッスされたんだ一週間くらい混乱しててもおかしくはない」
「すっごい冷静だね、むしろ落ち着いてる京君の方が怖くなってきたよ」
「で、なんでこうなった?事細かに説明してみろ」
ここは素直にしたがっておくべきかと判断して天斗ロボとの戦いを話した。名前を出したとたん夜架ちゃんの表情が変わったが話を続ける。説明を終えると京君は納得したようにうんうんと頷いていた。
「なるほど、わからん」
「あれだけ頷いてのに!?」
「星の数だけ人間がいるようにそれだけ恋愛の数があるってな」
「良いこと言ってる風にして誤魔化さないでよ」
「洗脳から始まる恋愛関係……鳴海様、これってアリなんでしょうか」
「アリなんじゃね?そのうち効かなくなってきたらr18洗脳も考えられるけど」
「その展開は新様にとって知らずに華を散らすシーンがありそうですね」
「……薄々思ってたけど新一って」
「当然そのあたりの知識は入れ込まれてませんわ。必要ありませんでしたもの」
「確かに然るときに教えないとなぁ……」
「だから私が手取り足取りぬっとりねっとり教えて差し上げましょうと……」
夜架ちゃんが身体を気持ち悪いくらいにうねうねさせている。話している内容は後半から意味がわからなくなっていた。でも一つだけ分かることがあり、夜架ちゃんは今までとんでもない企みをしていたということ、これだけはしっかり伝わってきた。
「まぁ何か起こってからじゃ遅いしな、ってか保健の授業は?」
「鳴海様、性教育はここでは2年生からになってますわ」
「ハハッ(高音)じゃあ仕方ねぇよな」
「その笑い方怒られるよ?」
「そうだな、じゃあ中学生レベルっつってもほぼ同じだが説明すっぞ」
その後昼休みが終わるまで基礎的な知識を教えられた。双方に間違いがあってはならないということが十分に伝わってきたためちゃんと覚えられたと思う。だがここで今までの記憶を振り返ると引っかかる記憶が所々出てくる。
「京君質問」
「いいぞ言ってみろ」
「ハロウィンの時に夜架ちゃんが痴女みたいな格好でベッドに潜り込んでいたんだけどこれは?」
「そいつは根っからの痴女だ。ついでに言えば住居不法侵入罪だな」
「公然わいせつ罪にもなるよね?」
「そうだな」
「じゃあこの子は………」
「犯罪のリスクを背負ってでも新一と不純異性交遊をしたかったと考えて問題なし。お前が訴えれば豚箱行きだ」
なんでこの子はそんな事をしたんだ。
「そりゃあ勿論」
「私のQOLを満たすためですわ。新様にあのまま襲っていただければ既成事実も作れますし都合のいい吐口としても使ってもらえる。その上世継ぎに困ったときは」
「京君警察って110番だよね?」
「通報してもこいつならすぐに戻ってきそうだけどな」
それもそうかとスマホをしまい他の記憶について質問する。
「以前逢坂さんがやってきたのは?」
「あーそれ?そういやあの人いくつ?」
「確か今年で二十歳になりますわ」
「バッチリ未成年誘拐罪だな。あとNTRしようとしてたがあれも犯罪だ」
「それを楽しもうとしてた京君は?」
「俺は身内同士でそういうドロドロ展開をして欲しいだけであって知らない奴にやられるのは嫌いだ」
「どうでもいい性癖情報ありがとう」
「時に鳴海様、私新一様に対しては根っからのドMなんですが」
「真顔で言うな。あとお前の言いたいことはわかったからあとで答えを出してやる」
「感謝します」
二人揃ってなんの会話をしているのかを聞くとこれからお前が開くかもしれない扉だと言われ教室に戻った。すごく複雑な気分になったがまぁいいかと僕も教室に戻る。学校でのお嬢様の行動は普段と変わらない。だから学校生活は対して使用はないがさっきまで少しずつ記憶が欠けている状態だ。何かが変わっててもおかしくないと思ったが放課後になるまで特に変わった動きはなかった。
怪しげにしていながらも放課後練習がないためまっすぐ帰路についている。リサは今日バイトがあるからといない。お嬢様の事を見ながら考えていると銀色の髪がふわっと揺れる。
「あまり見られると恥ずかしいのだけど」
「申し訳ございません」
「いいわ別に、やっと調子が戻ってきたようだし」
「ど、どういう意味ですか?」
「ここ最近ずっとぼーっとしてたわよ。心ここに在らずといったところかしら」
その原因は間違いなく貴女だと思いますけどね。と言ってもおそらく自覚はないだろうから言っても無駄だろうか。
「また忙しくなるのだからもっとしっかりしていなさい」
「もしかしてもう次の………」
「昨日話したけど覚えてないの?」
ええ、全く。誰かのおかげで一切覚えておりませんとも。
「仕方ないわね。次のライブを今月中に行う。年末にライブを開催するからそれまでに開けた分を埋め合わせなきゃいけないのよ」
「なるほど」
「思い出したかしら?」
「一切記憶にございませんでしたのでアップデートしておきますね」
「病院に連れて行くべきかしら」
そんなことはないと言うと冗談だと笑った。随分と心が晴れたことがわかる。Roseliaが復活したあの日から(僕の記憶が所々がない)今日まで仲間同士助け合ってきたんだろう。
家に着くとすぐに自室へと向かっていった。僕は冷蔵庫の中身を確認しに台所へ向かう。記憶がない時はどうやって作っていたのか、そもそもちゃんと買い足していたのかを確認すると食材がほとんどなかった。どうやら今日買い足しに行かなければならないらしい。だがその前に確認しに行こうと二階へ上がりお嬢様の部屋のドアをノックする。
「お嬢様、よろしいでしょうか」
「いいわよ」
許可が貰えたため扉を開くとスカートを下ろしたお嬢様の姿があった。まだシャツは着ていて太ももから上の部分は見えていない。その状況を確認するとすぐに扉を閉めた。
「申し訳ございませんでした」
「何故閉めるの?」
ガチャリと扉が開かれるとさっきと変わらない姿のお嬢様の姿があった。すぐにドアノブに手をかけて扉を閉めようとするがお嬢様も対抗するように扉を開こうとする。
「何故着替えが終わってないのに部屋に招き入れようとしたのですか!?」
「別に問題ないと思ったからよ」
「問題しかありません!そのような姿を見せるものではありません。それに僕が犯罪者になってしまいます」
「ならないわよ私が許可しているんだから」
当事者が許可しているのならば問題にはならない、それもそうかと納得しそうになったがそうじゃないだろうと弱まりかけた手に力を戻した。
「とりあえず一度服を着てください」
「話があるんじゃないの?」
「服をきてからでも間に合います!」
そうしてなんとか部屋に戻ったお嬢様は数分後きちんと私服に着替えて僕を部屋に招き入れた。話す内容だけで言えば入り口で話し合えばいいものをわざわざ招き入れたのだ、あちらからも何かコンタクトがあるのだろうか。
「それで用件は?」
「昨日の夜ご飯は何を食べましたか?」
「昨日はカルボナーラとコーンスープだったわ」
意外とちゃんとした料理を作っていたらしい。ぼーっとしていてもちゃんと料理を作っているってある意味危険な気もするけどまぁよくやったと言うべきだろうか。ならばあとは今日の夜ご飯をどうするかと考えようとするがその前にお嬢様の話は何か聞き返す。
「………あなたの時間を動かしたかった」
「え?」
「私はあなたが望んでいることが正しいことなのかはわからないわ。けれどそれをしたとしてもあなたはきっと止まったままの時間を過ごすと思ったの。だから本当に止まってしまう前に動かさないとって思った」
「……僕は、元よりそれを成すために、その目的のためにこの仕事に就きました。けれど今それと共にあるのはお嬢様や皆を守りたいという願いです」
「そう、ならよかったわ。けれど一つだけいただけないわね」
「何か気に触るようなことでも」
「私を好きでいなければならないのだから、第一を“私”にしなさい」
そういったお嬢様は立ち上がって部屋を出ていく。第一をお嬢様でいること、あの日僕に授けた命令に添って行動、発言をしなさいということだろうか。未だわからない感情をあの人は僕の中に作り出そうとしている。
「買い物に行くんでしょう。行かないの?」
「伝えましたっけ」
「あなたが昨日のご飯を聞いてくるということはそういうことでしょう?私もついていくわ」
「ゆっくり休まれていても良いのですよ」
「今は買い物に行きたい気分なのよ」
部屋を出て財布と鞄を持ってすぐに家を出る。まさかお嬢様がついてくるとは思いもしていなかった。当然この光景など今まで見たことはなかった。だからこそ何故こんな心境になっているか理解できなかった。
外はもう夕日も姿をほぼ隠しており深い青が空を埋め尽くすほどだった。暦は十二月、冬に入り始めたこの月は寒さを強く感じさせる。寒いくらいがちょうどいいと思っていても世間の目があるから一応防寒具はつけている。
「寒いわね………」
「季節的な寒波が近づいてきているそうです」
「手袋、置いてきてしまったわね………」
「よろしければ僕のを使ってください」
「それじゃああなたが寒いわ」
「いえ、慣れているものですから」
「じゃあこうしましよう」
一度止まるように指示を受けて右手の手袋を渡すよう言われ渡すとお嬢様は自分の右手にそれを装着した。半分半分なら痛み分けというわけかと思ったが直後に僕の右手はお嬢様の左手で繋がれる。
「これは?」
「空いてる方の手は手袋があるから大丈夫でしょう」
「何故繋いでいるのでしょうか」
「こうすれば、お互い温かいでしょ」
確かに人肌を感じるくらいに温かい。しかし握ってみるとお嬢様の手が意外と小さいことに気づく。見た目からして華奢だと言うことはわかっていたがこれほど小さいとは思ってもいなかった。だけど不思議と悪くないと感じる自分がいた。
「悪くないわねこういうのも」
「そうですね」
「今日の晩御飯は何にするつもりなの?」
「そうですね、今日はピーマンの肉詰めなどいかがでしょう」
「苦いのは嫌よ」
「ハハッ、おまかせくださいませお嬢様」
そのまま僕達は商店街へと足を運んで行った。未だ見せる夕暮れの光で手を繋いでいる二人の影が伸びていることも知らずに。