青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第四話 リバーシブルキャンペーン

 先日8時にロシアを出たため時差計算を込みで考えて現在の時刻は朝の8時。とりあえずバタバタしたことでまだ疲労があるだろうからと睡眠を取らせることにした。

 多分お昼まで寝ているだろうから買い物を今のうちに済ませようと外に出た。この時間だからあまり店は開いていないだろうが京君行きつけのあの店だけは開いていると向かうことにした。

 扉を開けば当然いるはず……と思ったがいるのは帽子を被った女性だけだった。どこかでみたことあるようなデザインだと思ったが偶然だろうと思うことにした。

 

「いらっしゃいませ。あ、おはようございます名護先輩」

「おはようございます羽沢さん。座ってもよろしいですか?」

「こちら、どうぞ」

 

 案内された席についてメニュー表をみる。朝だからか客も少なく静かに過ごせるカフェになってるようだ。

 

「今日はお一人なんですか?」

「まぁね。そういや京君はまだ来てないのかな?いつも来てそうなイメージだけど」

「え、えーっと、そのですね……」

 

 羽沢さんの歯切れが悪く時折先ほどの女性を見ていたので少し覗き込むと少しおかしいことに気づいた。服のサイズはあっているのに着ているのは全部男性ものなのだ。それに髪はうまくまとまっていない。

 

「あの人、もしかして……」

「……」ゴク

「京君の知り合い?親御さんとか?」

「いっいや、そういうわけではなくて……」

「ご本人様だよ」

 

 聞いたことのあるような無いような声を聞いて違和感を抱く。帽子で顔を隠したまま来たその人は僕の目の前に座るとゆっくり帽子をはずした。

 

「よぉ新一」

「えっと……どちら様ですか?」

「おい!この流れならどう考えても分かるだろ!!」

 

 ビックリした。突然座ってきて顔を晒したかと思えば綺麗な顔だったから。でもこの流れなら分かるってことは……

 

「いやいや、京君男だし」

「そうだよその京さんだよ」

「失礼何を言ってるのか少々分かりかねます」

「現実を受け入れろ」

「羽沢さんこの人疲れてる?」

「いえその……」

 

 トレーを抱えるように顔を半分隠す仕草から理解した。

 ガチのパターンだこれ。

 えっと確かこういう時は……

 

「どうしたの?話聞こうか?」

「Botみたいな解答やめろ」

「それで僕がいない間に何があったのさ」

 

 話を聞くと昨日の夕方のことだった。『反転』の記憶を持つドーパントに攻撃されたらしい。戦闘能力はそこまでなく調子に乗って戦っていたら不意を突かれたとのことだった。そして身体の異常に気付いたときには逃げられており現在に至る。

 

「なるほど、大体分かった」

「その台詞ホント便利だよな」

「羽沢さんはいつから知ってたの?」

「その時After growのメンバーも近くにいたんです。ですからその、もう一人被害者がいて」

「もう一人?」

「つぐみいる?」

 

 羽沢さんを探す声と共に扉から出てきたのは黒髪で赤メッシュの入った男の子だった。風貌が誰かに似ているなと思い見ていると驚いたのかすぐに扉の後ろに隠れてこちらを覗き込んでいる。

 

「羽沢さんの知り合い?」

「なんていうかですね……」

「あれは美竹だ」

「えっ!?」

 

 確かにあの特徴的な赤メッシュは蘭ちゃんと一緒だけどまさかもう一人の被害者ってあの子なの!?

 

「カッコよくなったなぁ……」

「なっ!」

「照れてんなぁ」

「ふふ、蘭ちゃん良かったね」

「ちょっとつぐみまでやめてよ!それはそうと鳴海先輩は空気とか読めないんですか?」

 

 蘭ちゃんは京君の胸ぐらを掴んで大きく揺さぶる。反省しないことを示しているのか舌を出して明後日の方向を見ている。

 

「二人とも生活に支障は?」

「「大アリ(です)」」

「それもそうだよね」

「違和感しかない」

「正直気になるっていうか」

「じゃあ早く事を片付けよう」

 

 立ち上がると何も注文していないことに気付き今度きた時にその分注文することを伝えて京君を連れ出す。

 倒せばどうにかなるだろうとは思うが念のため僕が止めをさすことになった。万が一戻らなかった時メモリさえ残っていればプロフェッサーに渡してどうにかしてもらう。幸か不幸かイクサシステムにはまたメモリブレイクの機能は取り入れられていない。

 

「そんでどの辺で戦ったの?」

「商店街だったな。そうそうちょうどこの路地に差し掛かったところだ」

 

 京君が指差した場所を黒い物体が横切って行った。物体はそのまま轟音を立てて壁に激突する。

 

「は?」

 

 声を漏らした僕達は煙の方を見てみると人型の何かが項垂れているのを見つける。それはよく見るとドーパントだということがわかり戦闘態勢をとろうとすると今度はブレードが飛んできてドーパントの顔の横に突き刺さる。

 

「一体どういう」

「チッ、外したか」

「その声は………!」

 

 飛んできた方向を見ると今度は青いドーパント、ナスカの姿がそこにあった。怒りを抑えきれないのか体全体で呼吸しているように肩が動いている。

 

「獅郎!?」

「京手ェ貸せ、アイツをぶっ殺す」

「何故皇が仲間を?」

「俺の体に変なことしやがってぶっ殺してやる!」

「あー、多分俺と同じパターンだ」

 

 皇はナスカの超高速を使ってドーパントに近付くと剣を抜き取り横凪にしようとするが脚を掴まれる。すると身体が青く光りその場に座り込んだ。

 

「何がどうなってやがんだ…!?」

「お前のメモリの機能であるステータス上昇を低下に反転させた。それを使っている限りは体力もないよ」

「ふざけやがって」

「京君あれ」

「ああ、予想以上にめんどくさいことになってきやがった。まさかそこまでリバーシブルさせるとはな」

「すみませんお待たせしました」

 

 快斗君が走ってこっちにやってくるが状況を理解出来ておらず簡潔に説明するとなるほどと相槌を打って変身した。そしてゾーンを展開してマントを脱いだ。

 

「つまり当たらなければどうということはないってことっすね!」

「そうなるけどいけそう?」

「任せとけって事っすよ。新一さんは特大のやつ決める準備しといてください」

 

 快斗君はゾーンの網の中に身を投げるとまるで神出鬼没を実態にしたように消えては現れ殴っては消えるを繰り返した。この調子ならいけそうだと確信を持つと合図が送られた。その瞬間に走り込んで網の中に入ると一瞬で敵の目の前に飛ばされる。当然そうするだろうと思い斬る準備はできていた。しかし剣を振り下ろせば予想とは違う結果が待っていた。

 

「この瞬間を待っていた!」

 

 僕たちの間に割って入ってきたのは宗方さんだった。生身のまま自前の日本刀でイクサカリバーを受け止めた。少なくとも高エネルギーを纏っているイクサカリバーを受け止めれば刀の方が負けるはずなのに何故か折れない上に弾き返される。

 

「なっ!?」

「今だ!」

「了解」

 

 無防備になった僕はドーパントに脚を掴まれた。そこから僕の意識は何かに飲み込まれていった。どこかで似たような感覚を覚えながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新一が弾き返され地面に仰向けに倒れてから数秒、ヤツは動かなかった。呼吸しているのはわかったが動く気配がなかった。

 

「何をひっくり返した!」

「私は彼と本気の勝負をしたい。だが一向に彼は来ないためこの機会を狙っていた。こいつの力さえあれば彼をその気にさせられる!」

「えーっとつまり?」

「彼は自分の使命を優先している。彼が考える正義と悪を変えればそれでいい」

「なるほどな、新一の忠誠という正の心を反転させて自己中心とした考えである悪へと変えたのか」

「まさかそんなことのために俺をを利用したのか?」

「ちょうどそこに貴様がいたからな」

「テンメェ!」

 

 獅郎が怒りに任せて殴りかかろうとしたが反転したステータスによって立ち上がることができなかった。その姿を見てドーパントは笑っているが日本刀を持った男は笑うことなくただ構えていただけだった。

 

「さあ目覚めるがいい名護新一。貴様の全力で俺と死合うのだ」

「っ………!」

 

 声に目が覚めたのか新一は起き上がった。しかし、首は項垂れ力が入っていない無気力感。まるで糸で操られている人形のように動かなかった。握りしめていたはずの剣もこぼれ落ちそうになるくらいに力が入っていないのを感じる。

 その場にいる全員がどうしたのだと疑問を抱いた瞬間、ソレ(・・)は消えた。そして次の聞こえてきたのは何かが爆発した様な轟音だった。何が起きたのだと音のした方を見ると男が刃が砕かれた刀を持って壁に背を合わせていた。

 

「ぐっ…は………」

「────」

 

 新一はダルそうに首を回して俺らを見る。するとまた姿を消して今度はドーパントを空に上げた。地面に降りてくる寸前に回し蹴りを決めて男と反対側の壁の方へとドーパントを吹っ飛ばす。土煙が晴れないまま今度は飛び蹴りを食らわせる。速度のせいか土煙は晴れて二つの形がしっかり見える。ドーパントは壁に完全にめり込んでおり抜け出すのは難しそうだった。

 

「あれ、本当に新一さんなのか?」

「わからねぇ。けど今言えるのは」

「少なくともアイツは今、正気じゃねぇだろうな」

 

 状況を理解しているのか獅郎が俺と同じ考えを言った。けれどそれで間違いないと思った。あそこにいるのは多分、《朱雪の執行者》と呼ばれていた新一と変わりない存在だろう。

 

「お前かぁ」

「ひっ」

「たっぷり礼をしてやるよ」

 

 新一はドーパントの腹に右足を置いて胸部に向かってイクサカリバーの銃を撃ち始めた。普段の戦闘中なら確実に倒せる方法だから問題ないのだが今はどう考えても残虐な行為にしか見えなかった。

 

「嘘だろ……」

「狂気に染まってんなありゃあ」

 

 痛みに耐えきれなくなったドーパントは悲鳴をあげる。まるで拷問を受けているような悲鳴だった。撃ちながら笑っていた新一はため息をついて空いている方の手でドーパントの口を塞いで銃をゼロ距離へと近づける。

 

「うるせぇな黙れよ」

「!」

「言ったろ?たっぷり礼をしてやるってよ」

 

 そのまますぐに銃を撃った新一はイクサカリバーを変形させて刃をドーパントの心臓部に勢いつけて刺す。脚を退けるとすぐに剣を引き抜いて血を払うように剣を振り下ろすとドーパントはすぐに爆発した。

 その姿を見た俺達はすぐに戦闘体勢を構える。次は俺達がやられるかもしれないそんな恐怖も体の中にあった。しかし新一はドーパントから排出されたメモリを見つけると踏みつけて壊した。まだ身体が戻っていないため必要だと考えていたがメモリが壊れた瞬間視界が白くなった。

 ゆっくりと目を開くと景色は変わっていなかったが体の違和感が消えた気がした。すぐに触って確認すると変身が解けているが身体が元に戻っていることに気づく。

 

「京君!」

「新一……?」

「よかったねちゃんと戻れたみたい」

「お、おう」

「お前の何かされてたのか?」

「まぁなって俺のことはいい。新一お前」

「どうかしたの?」

「どうかしたって……お前!」

 

 変身を解いた新一は何を言っているのかわからないとでも言いたそうな顔をしている。本当に何も知らないという顔だ。言う気が失せた俺は一言だけ謝って辺りを見回した。獅郎の姿はなく俺たち3人だけがここにいた。刀の男も消えていた。とりあえず羽沢珈琲店に戻ることになった俺達は一列に並んで歩いている。

 

「なぁさっきのことだけど」

「新一には言うな。無自覚の可能性もあるしアイツらの言っていたことが本当だとしてもあくまで裏だからな。これからは出ることもそうそうないだろ」

「それもそっか」

「何の話?」

「お前がロシアで何してきたのかっていう予想」

「その話?ちなみに二人はどんな予想?」

「俺はロシアの異聞帯を攻略してきたってことに一票」

「あー、俺はロシアの雪山で殴り合いっすかね」

「二人ともすごいストーリーを期待しているようだけどそんな展開はなかったよ」

 

 今は普通に喋っているが後遺症のこととかも気になる。一応メモリの破片は回収してきたが警戒だけはしておかないとまずいだろう。少なくともあの時の新一は敵を倒そうとしていたのではなく弄んでいたと思われる。

 

「時に新一、聞きたいことがあるんだが」

「何?白い怪人と雪山で殴り合ったことはないしでっかいマンモスと戦ったこともないよ」

「異聞帯とグロンギの話じゃない。お前って拷問はやったことあんのか?」

「えー、したことはあるけどあんまり好きじゃないかな。汚れるしどっちかっていうと尋問の方が得意だったし」

「そ、そうか………」

「汚れるのが嫌だって先に言うあたり新一さんって感じがしますよね」

「そう?」

 

 一応拷問をやったことあるという経験はあるらしい。でもこの様子からして楽しんでいるわけでもない。むしろ楽しんでいたらおかしい方なのかもしれないが。それらも考慮して気をつけた方がいいのかもしれないと胸にしまって店に戻った。

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