青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第六話 ゆく年くる年

「名護家の人と話したい?」

 

 数日前、突然京君が話があると言うので屋上に行くと変なことを言ってくる。年末だから忙しいだろうと連絡を取ると許可が降りて迎えがくることになった。1分と待たずにすぐに京君は名護家の車に乗ってこの場から消え去った。

 一体何をしに行ったのか、そんな事を考えながらも今年最後の日に僕はおせち料理を作っている。本日十二月三十一日、Roseliaの練習はなく自宅にいることは明らかだったこともあり今日作ることにしていた。当然ながら年末の買い物はすでに済ませていたため出かける用事も特にない。

 

「何をしているの?随分と豪勢だけど」

「おせち料理です。鮮度が命になるものも多いので大晦日に作ることが多いんですよ」

「あなたこんなのも作れるのね」

「これでもレシピを見ながらですよ。あまり作らない種類が多すぎて少し大変です」

 

 栗きんとんやなますは特に作らないものだ。普通に食べて美味しかったので暇な時があれば作りたいと思ったけど。

 

「お嬢様は何か御用が?」

「暇だから見に来ただけよ」

「でしたら味見でもして見ますか?大半が完成していますが数種類ほど重箱に入りきらなかったので」

「そう。じゃあ少しだけもらいましょうか」

 

 冷蔵庫から余が持ってある皿を取り出して箸と一緒に置いて作業に戻る。しばらく料理を続けているうちに置いた皿の方をチラリと見ると何も変わっていないことに気づいた。食べないのかと聞こうとするとずっと僕を見ている。あまりにも微動だにしないので目の前で手を振ると顔を少し遠ざける。

 

「何よ」

「食べないのですか?」

「食べさせなさいよ」

「あぁ、なるほど」

 

 箸でなますを摘んでお嬢様の口元に運ぶと小さな口を開いて中に運ぶ。しっかり噛んで味わっているのがわかる。食べ終わったのか次はなんだという顔をする。こう見ると食事を待っている猫にしか見えないのだがそういうときっと機嫌を損ねるだろうから黙っておこうと次のものを運ぶ。

 

「美味しいわ」

「恐縮です。もう少しで完成しますが本番は明日ですのでお待ちください」

「分かっているわ」

 

 満足したのかキッチンを出て自室の方へと戻っていった。残りの物を完成させて食器洗いまで済ませるとお昼ご飯の時間を少しすぎていた。しかし先ほどつまみ食い程度だが食べたせいかお嬢様が下に降りてきてはいなかった。念の為にと朝作っておいたおにぎりを取り出しインスタントの味噌汁と卵焼きを作ると降りてくる。

 

「お昼ご飯が出来たのね」

「今しがたですが。席についてください、今出しますので」

 

 軽く作り上げた昼食をテーブルの上に用意して食事を取る。インスタントが混じっているからか新鮮味があるような顔をしている。それでも橋は止まっていなかった。

 

「午後はどうするつもりなの?」

「旦那様を迎えに行きます。三時に駅に来るよう言われておりますので」

「そう、私も行こうかしら」

「畏まりました。では準備が出来ましたら声を掛けに伺いますのでお待ちください」

 

 分かったと言ったお嬢様は箸をおいてごちそうさまをした。僕もちょうど食べ終えたのでそのまま食器洗いをして準備をする。イクサシステムを見て、年末だし流石に出ないと考えたいところだが持っていっといた方がいいだろうかと手にする。ベルト部分が折り畳めるようになっているためそれを活用して上着の内ポケットにベルトをしまい込む。

 因みにこれができるようになったのは今年になってからだ。去年はコンパクトに出来なかったため上着の裏に隠すのもぎりぎりだった。準備を終えてお嬢様を呼び外に出る。

 外に出ると乾いた風が吹き抜けて上着を着ていても寒く感じられた。

 

「今日も寒いわね」

「カイロ使いますか?」

「もらおうかしら」

「薄い手袋を中に一枚入れますか?」

「一応もらっておこうかしら」

「温かいお茶もいりますか?」

「待って何でそこまで持っているの?」

 

 カバンから取り出していると制止の手を出される。何でって言われるとそれは状況に応じて行動できるようにとしか言いようがない。

 

「だとしてもお茶(それ)はおかしいでしょう」

「近くに自動販売機がなかった時大変ですし温度もすぐに緩くなってしまいますよ」

「あなたが持ち歩いても変わらないでしょ」

「魔法瓶に入れておりますので」

「あなたのカバンはどうなっているのよ」

 

 お嬢様は僕のコートを剥がすように後ろから捲る。飲み物を2本させる仕組みが付いている上に少し広いウエストポーチのためものは入りやすいのだ。それにコートの裏に常温品を入れておけば他にも入れられる。

 

「もはやド◯えもんじゃない」

「青い猫型ロボットとまではいけませんよ」

「それくらい万能ってことよ」

 

 そんなこんなで雑談をしながら駅まで向かうと時刻は14:50、約束の時間まであと十分と近づいていた。駅の改札口前にいるが多くの人が行き来している。この時期は地方と都心での人の行き来も多いため当然といえば当然だ。

 

「どこ◯もドアとかあれば便利よね」

「知ってますかお嬢様。あれを使用するにあたってある議論がされているらしいですよ」

「どんなの?」

「どこで◯ドアを使用した人間は四次元に干渉するの原子レベルで移動前と移動後の場所で同じ存在を造られるわけですが果たしてそれは同じ人物なのか、という議論です」

「……難しすぎるわ」

「そうですね。この話は量子力学を勉強するととてもわかりやすいらしいです」

「それは日本語なの?」

「残念ながら日本語だよ、友希那」

 

 違う声が会話に入ってきたと思い改札の方を見ると旦那様の姿があった。一度お辞儀をするとすぐにあげるよう手を上げてきた。

 

「おかえりなさいませ」

「ああ、友希那も来たんだね」

「ええ、お帰りなさいお父さん」

「旦那様、お荷物をお預かりします」

「任せた。せっかくだ、少しカフェにでも寄って行こう」

 

 旦那様を先頭に歩き出した僕たちは駅近のデパートに向かった。三階に手頃なカフェがありテーブル席につくと近況報告をする。Roseliaのことやイクサシステムのこと、また日常的なことも。時々笑う旦那様を見て本人だと確信した。

 

「それでさっき二人は何で量子力学の話をしてたんだい?」

「お嬢様がど◯でも◯アがあったら便利だと仰っていたので」

「なるほど、でもそれなら似たような事を新一君がやっているぞ」

「そうなの?」

「新一君の使うイクサシステムは認証システムを通るとワープと同じ容量で装甲を粒子と化して送っているからね」

「あの金色の光の粒のこと?」

「そうです。あれも四次元と似たような感じです」

「詳しい事を話すと難しい話になるからまぁ簡単にデカメタルの親戚だとでも思っておいてくれ」

「わかったわ(?)」

 

 こういうことの説明をする時は大体デカメタルって言っておけば確かに便利だと思う。そこは感心する。ありがとう宇宙警察。

 

「しかし例のドーパントとやら、地球の記憶を使っていると言ったがまさかデカイ鳥まで出したり、ファンガイアに関しては君の……」

「はい、彼奴が現れた以上僕は」

「分かっている。そういう契約だからね、遠慮なくやってくるといい」

「お言葉痛み入ります」

「それに厄介なことになったか。同じ時期に君の兄……名護天斗まで姿を現すとは」

「迷惑これ以上極まりないところですがこちらもすぐに対処しますので」

「そちらは契約外だから本来の仕事を忘れないように」

「はっ」

 

 戦闘の報告の終わらせるとこれからの予定について話し合う。お正月中は少なくともこちらに滞在しているらしい。お嬢様の口からアークの件について話が出た時はどんなこと言われるのか少し不安だったがありのままを報告してくれた。きちんとありのまま報告された事で僕は二度目のお叱りを受けることになったのだが。

 

「全く、緊急の判断とはいえ君が敵に回ってどうするのだ」

「本当よ」

「ただでさえ世界最強の執行者と言われる君が敵に回っては太刀打ちできなくなるではないか」

「返す言葉もございません………」

「そういえばお父さん気になることがあるのだけど」

「なんだい友希那」

「どうしてお父さんは新一のベルトを」

 

 お嬢様が最後まで言い切る前に近くで爆発音が聞こえた。旦那様と目を合わせるとすぐに頷いたためカフェの窓から見下ろすと大きなツノの生えたステンドグラス模様の化け物が闊歩している。テラス席へと出る扉を通り抜けてイクサナックルを掌に合わせる。

 

『レ・デ・ィ』

「変身」

『フィ・ス・ト・オ・ン』

 

 柵を飛び越えると同時にイクサシステムを纏い三階から地上へと降りる。ストン、と足をつけて剣を構える。

 

「その命、神に返しなさい!」

「白騎士?何故ここに!」

「君たちが暴れているからだよ!」

 

 ファンガイアは大きな腕を振るって剣を防ぐ。弾き返されると今度は大きなツノで突進を仕掛けてくる。受け流そうとイクサカリバーを構えるとツノが複雑に広がっていることから剣を上手く流せないことに気づく。その形から見てどの生物がモデルかようやく分かった。

 

「もうクリスマスは終わったんだけど」

「トナカイじゃねぇよ!ヘラジカだ!」

「ほぼ変わんないように思えるけど?」

「違うかんな。赤い鼻とかねぇから」

「気にするとこそこなんだ………」

 

 スピンを決めるように腕を振り回してきたヘラジカのファンガイア。当たれば鎧が砕けそうと思いつつ今動いたら軌道を変えて確実にやられると考えた僕は狙う場所を探していた。正面から壊す事は不可能、足元を狙うにはかなりぎりぎりのところで避けなければいけないのでリスクが高い。上からだとあの硬いツノが邪魔をする。

 

「新一君、遅くなったがクリスマスプレゼントだ」

「旦那様?」

「それをベルトに装填するんだ」

 

 投げ渡されたフェッスルのようなものをベルトに差し込むと目の前で見た事のある長剣のようなものが模られた。

 

「まさか……」

「さっきの話だが、一応記録は見させてもらっている。もちろんそれはフェイクだが性能はそのままの状態で出せる最大だ」

『《偽・星閃天装(フェイク・サンダルフォン)》』

 

 アークの使用した武装の一つである星閃天装が目の前に現れた。形も見た目もそっくりのため本物があるのではないかと疑ったがフェイクということからレプリカだとわかる。それでも現状を打開するには十分だと思えた。剣の柄を両手で掴みその場で跳んで大きく振りかぶる。回転するファンガイアに対して脳天に叩き込むとヒビ割れてステンドグラスの雨が降り注ぐ。偽・星閃天装を地に突き刺して変身を解除すると目の前の長剣も粒子と化して消えた。

 

「流石というべきか、すぐに使いこなしたね」

「もう見る事はないと思っていたのですが」

「そうね、見た瞬間ゾッとしたわ」

「ええ、僕も少し……」

「使いこなしているあなたにもね」

「えぇ………」

「とりあえず撃破確認はした。これからどうするんだい?」

「旦那様のお買い物がない限りはこのまま帰宅になります」

「わかった。友希那は何かないかい?」

「大丈夫よ」

「そしたら帰ろうか。新一君、荷物を頼んでもいいかい?」

「かしこまりました」

 

 そのまま僕達は帰路についた。道中でお嬢様が何か言いかけていたことを思い出し何を聞こうとしていたのか聞いたが忘れてしまったと答えられたのでおそらく他愛のないことだったのだろうと考える。

 家に着いた僕たちは各自自分のやるべきことを行った。当然僕のやることは食事の準備だが。そのまま時間は過ぎていき夜七時、夕食の時間になった。年越しそばを用意して夜ご飯を食べ始める。味に満足いったのかとても美味しそうな表情をしていた。

 

「野菜のかき揚げと海老天か」

「昨年食べたいとおっしゃっていたので」

「よく覚えているわね」

「従者の喜ぶことを覚えておくのは執事の務めです」

「今年の残り少ない時間は無礼講といこうじゃないか」

「よろしいのですか?」

「ああ、君がやっと普通の生活に馴染めてきたことだしな」

「無礼講?」

「上下関係を取り払って楽しくしましょうということです」

 

 なるほど納得した様子を見せたお嬢様は蕎麦を啜る。全員が蕎麦を食べ終わったところでメインの料理を出そうと立ち上がるとお嬢様も立ち上がって食器を片付け始めた。そのまま洗い場に置くと何を持ってけばいいのかと聞いてくる。

 

「お嬢様、僕が持っていきますから座ってお待ちを」

「無礼講なんでしょ。私も手伝うわ」

「ですが」

「まだ遠慮しているのね、お父さん」

「新一君、無礼講だ。今日は執事ではなくただの男子高校生になりなさい」

「──かしこまりました。ではお嬢様、お願いします」

「お嬢様も禁止よ」

「ではなんと」

「もう伝えてあるわ」

 

 もう伝えてある。その言葉を聞いてまさかとは思ったがどうやらその認識で間違いなさそうだ。しばらく考えたが状況が変わらないよりかはマシだろうと妥協した。

 

「友希那さん………」

「及第点ね。それでどれを運べばいいの?」

「これとこれをお願いします」

「分かったわ」

 

 きっと、本来は許される事はないはずの呼び方。この人はそう呼ぶように言ってくれているが僕という存在はきっと許さないだろう。だから今だけは主人達の好意に甘えることにした。きっとこの一度きりだろうと思いながら。

 旦那様のお酒を注いだり楽しい晩餐を過ごしたが時間が過ぎるにつれて皆お腹が満たされ洗い物をしている。無礼講というのを上手く利用しているのかお嬢様が隣で皿拭きをしてくれている。

 

「今年はどうでしたか、おj………友希那さん」

「色々とあり過ぎて昨日のようだわ。でもやっぱり」

「?」

「あなたに、少し歩み寄られたと思うの」

「………」

「来年もよろしく、私の執事」

「無礼講はいいのですか?」

「今だけよ」

「畏まりました。お嬢様」

 

 皿拭きを終わらせリビングのソファに座ると鐘の音が聞こえる。きっと除夜の鐘だ。もう年を越したのだと考えると一瞬だと感じる。

 

「新一君、友希那」

「ええ」

「はい」

「「「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」」」

 

 こうして僕達は新年を迎えた。新しい年、波乱渦巻く新年を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鳴海様、ご満足いただけましたか?」

「ああ、忙しい時に悪かったな。何日も泊まり込んじまって」

「サポートさせていただくのに力は惜しみません。探し物とやらは見つかりましたか?」

「まぁな」

「では町までお送りさせていただきます。私はこれまでですので、良いお年を」

「ありがとうな。良い年を」

 

 俺は名護家の車に乗せられて山道を下っていく。

 ──まさか本当にあったとはな。念の為とは考えたがもしかしたらあり得るかもしれない。俺には些細な状態でしか出ていないがあくまで状況が状況だ。あいつはどうなってるか分からないぞ。もしもう一度アイツがああなったら、誰が止めるんだ?

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