第一鏡 内より覆い被さるもの
お正月、Roseliaは元日を避けて二日目に初詣に行く事になっていた。元日は家族と過ごすためあえて二日目に。
僕は当然湊家にいるわけで、主人は正月くらい休みたいと食事時以外は部屋に籠るように。なお僕も自由にしていていいと指示される。それは肉体面だけでなく昨日と同じように精神的にもということらしい。
一方お嬢様は珍しくリビングのソファに座っている。座っていても特になにもしていないのだが。
「お嬢様、どうかしたんですか?」
「どうして?」
「ぼーっとしてるように見えましたので」
「そうね。テレビを見ていても特に面白いものもないし正直やることがないわ」
正月はやることが少ないがゆえに鈍りが酷くなると聞いたがそういうことだったのかと理解する。
「お昼ご飯はなに?」
「おせち料理になります」
「夜は?」
「おせち料理の残りと……その内容によりますね」
そう、と一言だけ残してお嬢様はテレビ番組を変えた。全員起きるのが遅かったためお昼ご飯も自然と少し遅くなる。その時間まで僕の部屋にいようと自室へと戻った。何もやることなんだよなと思った矢先目に写ってきたのは机の上にあった三つのフェッスルだった。
一つは狼の顔を模した青いフェッスル。これは昨日使った偽・星閃天装を出すためのフェッスル。威力とかはそのままだがアークに接続しないで使えるのはかなりいいところだ。両手剣ということもあって少し重いがその分ダメージは強い。
もう一つは形容し難い形の緑色のフェッスル。家に帰ってきてから渡されたがこれは偽・殲滅天装を喚び出せるということだ。固定砲台となるがおそらくサバトと戦う時に使うことになるだろう。
最後の一つは拳のようなデザインがされている黒いフェッスルだ。正面から見ると人の顔があるようにも思える。これはさっきの武器とは違いイクサシステムの鎧が変わるらしい。パワー型となり現状のバランス重視した形より防御力が下がる代わりにパワーが上がる。きっとこれから現れる敵に柔軟に対応するために作られたのだろう。
それを持ったままベッドの上に行き天井に向けながら改めて考える。可能であるならば今年の内に園崎さん達の暴動を抑えたい。彼らがああなったのはきっと僕にも責任がある。だからこそ僕がやらなきゃいけないことでもある。そう考えた時僕のスマホが鳴る。
「はい名護です」
『あけましておめでとうございます新一様』
「一条さんですか、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
『こちらこそよろしくお願いします』
「今ご自宅ですか?」
『いえ、今はドイツ……ヴァンハイム家にいます』
国際電話かと思いつつ状況を察する。
「奥さんの実家に帰省中ですね」
『はい。今、年を越して落ち着いてきたところです』
「奥さんの元にいなくてもいいんですか?」
『妻は今寝ておりますので。意外と夜に弱いんです』
「なるほど。お電話ありがとうございます。今年の目標は決まりましたか?」
『無病息災家内平穏、ですね』
「ハハ、普段の一条さんとは思えない感じですね」
『それは言わないでください。私とて違和感がありますから』
その後少し話した後に電話を終わらせるとちょうどいい時間になっていたのでお昼ご飯を用意しにリビングに降りると食事を待っている二人がいた。急いで用意を済ませると座るように指示される。
「二人とも、改めて明けましておめでとう」
「「明けましておめでとう(ございます)」」
「お正月の子供たちと言ったらこういうものが欲しいだろう?」
旦那様は僕とお嬢様にそれぞれ色の違う小さい封筒を渡してきた。表には僕達の名前が、裏には旦那様の名前が書かれている。
「お年玉だ」
「えっ」
「今年は去年と変わらないわね」
「進級しただけだからね」
「だ、旦那様、二年も連続して貰ってよいのですか?」
「お年玉を貰えるのは子供の特権だからね。と言っても普段の君からすれば少ないかもしれないが」
「いえ、大切に使わせていただきます」
身分的な都合上貰えるとは思いもしなかった。去年は押しきられたが今年は何故か跳ね返す気などしなかった。感銘を受けながら見ているとお嬢様がこっちを見ていることに気づく。
「どうかしましたか?」
「いくら入ってたの?」
「二人とも同じだよ」
「そうなのね」
「さぁお昼にしよう」
それからはおせちを食べて、また夕飯まで時間を潰してご飯を軽く作っておせちの残りと組み合わせて食べて寝るだけだった。久しぶりの休日だったかもしれないと思い就寝した。
翌日、昼に近くの神社にてRoseliaの全員が集合した。それぞれ私服で防寒具を着ていた。お参りを済ませて各自でおみくじを引いたりお守りを買ったりと少しだけ別行動をとることになった。
「お嬢様はいかがなさいますか?」
「おみくじでも引きに行きましょうか」
「あたしも行くから三人で行こうよ」
「それじゃあ行きましょう」
最初におみくじを見て思ったのは最近の神社は小さいお守りも一緒に入っているおみくじもあるのだということだ。去年は来てもおみくじを引くことは無かった為そのまま素通りして帰った。
「新一はどうだった〜?」
「末吉だね」
「もしかして今年の運そんなにない?」
「もしかしたらね。そういうリサは?」
「あたし大吉〜」
「強運だね」
「えへへ〜友希那は?」
「凶だったわ」
その言葉を聞いた瞬間僕達は固まった。凶って本当にあったんだということとまさかこの人が引くことになるとは思いもしていなかった。
「見間違いでは」
「ないわ」
「お守り買ってく?」
「そんなに悪いの?」
「お嬢様、凶はおみくじの中で2番目に悪いところです」
「一番じゃないのね」
「悪い方だから取らなくいいんだよ!?」
少し残念そうにしているお嬢様におみくじを結んでくるように言うと素直に結びに行った。どうやら結び方とかはわかっているようだ。しかし凶が出たとなればより一層警戒していく必要があるだろう。何が起きるかわからないからこそお嬢様自身にも気を付けてもらう必要もあるのだが。
やがて全員集合して神社の階段を降りて近くの公園に移動して一度休むことにした。
「二日でもかなり多いですね」
「お正月が三日間なのって日本だけみたいですよ」
「そーなの!?あこお正月が三日間ないとやだな」
「慣れちゃってるからね。あ、甘酒配ってるみたい。あたし貰ってくるよ」
「僕もいくよ」
二人で人数分の甘酒をもらってくる。アルコールが1%も入っていないため子供でも飲めるらしい。飲んだことがないため少し興味が湧いてきた。配り終えた後皆で飲もうとするとなぜ四人ほどこちらを見てくる。
「どうしたの皆?」
「いえ、その………」
「お酒………大丈夫………?」
「甘酒って1%未満なんでしょ?じゃなきゃもらえないわけだけど」
「それはそうだけど……」
「あなた本当に覚えてないのね」
なんのことだかさっぱりだったがそのまま気にせず飲むと意外と美味しい事に気付いた。あこちゃんも美味しいとすぐに飲み干していた。さっきの四人は混乱している様子を見せたためまさか酔っているのかと思ったが甘酒に口はつけていないため何か考えているのだろうということにした。
そのままこれからの予定を軽く雑談程度に話して全員でデパートに行こうと決まった時だった。近くから悲鳴が聞こえその方を見ると白熊のような大きな爪を持ったファンガイアが人に襲いかかっていた。すぐに行こうとするもお嬢様の元を離れていいのかと一瞬迷う。
「友希那の事は任せて!」
「リサありがとう!」
「いつもならすぐ行くのに何かあったんですか?」
「それがさ、友希那おみくじで凶を引いたんだよね」
「本当ですか…!?」
「友希那さんすごーい!」
「だから名護さんは心配していたんですね」
変身を済ませてイクサカリバーを変形させて撃つと爪で防がれる。そのまま接近して剣を振りかざすと横から強い衝撃を受ける。突進してきたそれは目の前の個体とは別の色をした同じタイプのファンガイア。受け身を取って体勢を立て直すと二体同時に攻めてきた。
「お正月なんだからさ、大人しくしてて欲しいんだけど」
「年始だからこそ勢いあげてくべきだろ!」
「あっそ!」
剣を色違いに向かって投げて白い方にイクサナックルをぶつけるように構える。白い方と拳がぶつかった時直感的に競り負ける気がした。どうにかしなければと考えた瞬間黒いフェッスルが頭をよぎる。しかしそれを装填すると同時に空いてる方の爪で攻撃される。
そのまま木に押し付けられた僕は変身解除させられる。
「お前、白騎士だよな?」
「っ……」
「聞いたぜ、白騎士は何かを守ってるって。それってあの女共だろ?一人ひとり目の前で殺してやるよ」
「!」
「そんで絶望しながら死んでけ」
僕の首を掴んでいるのと反対の手で合図したのか色違いのファンガイアがお嬢様達の元へと近づいていく。
早く逃げてくれと思った矢先お嬢様は捕まえられて爪を首に添えられる。
「やめろ」
「なんか言ったか?」
「やめてくれ」
「ん~?」
「あの人を殺さないでくれ」
「じゃあやっぱり当たりだな!」
嬉々とした声を出したファンガイアはそのまま殺せと指示をした。お嬢様を捕らえているファンガイアはその大きな爪を振りかぶって切り裂こうとしていた。
「やめろぉぉぉ!!!」
──叶うなら、もしこの状況を変えられるというなら、なんでもいい。誰か、誰か助けてくれ。悪魔でもなんでもいいから。誰か、誰か────
『じゃあその体、ちょっと貸せよ』
ドクンと体が反応し、誰かもわからない声が聞こえると視界は黒に染まった。
────────────────
まさかこんなことになるとは思ってなかった。爪が降りてくるのがわかった時にはもう死を覚悟していた。
なのに今私は地面にちゃんと座っている。遠くを見ればファンガイアが二体重なっている。痛いと言っているあたりまだ生きているらしい。
二体いるということはと新一の方を見るとふらついているように新一は立っていた。けど何だか雰囲気は違う。まるで違う誰かがそこにいるように。
『レ・デ・ィ』
「変、身」
『フィ・ス・ト・オ・ン オ・ル・タ・ナ・テ・ィ・ブ』
変身した新一はいつもの白い鎧ではなく黒く禍々しいオーラを纏った鎧を身につけていた。立ち姿も荒々しさを感じるような、まるで不良になったかのようだった。
「し、白騎士なのか?」
「誰のこと言ってるか知らねぇけどヨォ」
「新一……?」
次の言葉を聞いた瞬間現実を疑った。それが別人だと確信を持つくらいに。
「その命、俺が狩ってやる」
次の瞬間新一の姿がなくなる代わりに大きな音が聞こえてきた。ファンガイアの方を見ると私を殺そうとしてきた方の姿が見当たらなかった。音のした方向を見ると数メートル先で新一がファンガイアの体を拳で貫いていた。その手を抜くとファンガイアはガラス片に代わってそこにあった木は倒れた。
「えっ、あれ新兄だよね………?」
「ちょっとやばくない?」
「いや、あの感じ、新一さんではありません」
「新君………」
皆が本物かどうか話していると白い方のファンガイアが逃げようとしていた。それを黒い新一は逃そうとせず近づいては踵落としで地面に叩きつけた。ピクピクと反応するファンガイアに対して嘲笑うように踏み躙っているその姿はまるで悪魔だった。
「や、やめっ」
「やめねぇよ。ほら、まだ壊れんなよ」
踏み躙っていた足を退けて頭を掴んで化け物の巨大な体を持ち上げたかと思うとまた勢いをつけて地面に叩きつけた。まるで水の中に顔を出し入れさせているみたいに持ち上げては沈めて、さらにはそのまま引き摺って空へと放り投げた。
「飽きた」
落ちてくる化け物を剣を上に突き出してガラス片へと変える。降り注ぐガラスの雨がいつもなら少しだけ綺麗に見えるのに今はそう思えなかった。あの黒い新一が悪魔のようにしか思えないいや、悪魔の方がまだ優しいのかもしれないと思える。
戦いが終わったからかこっちにやってくるが思わず身構えると歩を止める。すると新一は顔を抑えて嗤い始めた。
「何がおかしいの?」
「いや何、
「あいつ……?」
「おっと、そろそろ時間か」
「待って………どういう………」
「また今度な。どうせコイツは
新一(?)がベルトを外すといつもの新一が現れる。だけど意識がないのか力が抜けたように倒れ込んだ。意識がちゃんとあるのかを確認すると呼吸する音が聞こえたので皆で頑張って連れて帰ることにした。
けどその間皆が新一に対して少し恐怖を感じていたのは考えなくても伝わってきた。あの時話していた新一は少なくとも新一ではない。けど全くの他人というわけでもないように感じた。