(フェスの話題から……今日が初めての練習。あの子達、ちゃんと課題をクリアできているかしら……)
私は今日、練習前に楽器屋に来ていた。特に用事はないがギターの張り替え用のコードを見に来ていた。しばらく見ていると店員さんに声をかけられた。
「あっ、紗夜ちゃんいらっしゃい。この間のライブすごかったらしいね!ほら、記事載ってるよ!メンバーの皆、もう知ってる?」
「ああ……確かに、カメラを持った方が何人かいらしてましたね。……!?」
「そうそう、……って、紗夜ちゃん? どうしたの?この写真写り、そんなに悪くないと思うけど……」
「……いえ、そこの……ボスター……」
レジ前に貼られていたポスターには私にとって
「ああ、これね! Pastel*Palettesっていって、なんかこの前デビューしたバンド?グループ?って言えばいいのかなアイドルだかバンドだかわかんないけど、なんか結構面白いんだよね。……ん? そういえばこのギターの子、紗夜ちゃんに……」
「わ……たし……練習がありますから……これで!」
「……紗夜ちゃん?」
私は事実から逃げるように楽器屋から走っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「でねっ、その時もりんりんが、あこを攻撃から守ってくれて……りんりんはカッコイイんだよっ。ゲームでも!」
「ははっ☆あこの向こう見ずはリアルもゲームも変わらずなんだね~」
初のライブが終わり、あれからしばらくの日が経過した。今は休み時間。リサ、あこちゃん、りんりんの三人は雑談で盛り上がっていた。一方お嬢様と僕は離れたところで休憩しており、紗夜さんはずっと俯いていた。
「ゲ、ゲームの話は……そ、それに……あこちゃんを……守ってくれるなら……お姉さんの方が……」
「あーっ! 巴ね、アタシ仲いいよ?燐子も知ってるんだ。確かにあれは男前だ♪」
休憩の時間を少し過ぎてしまっているが、三人は気づくこと無く話している。こういう時、いつもは紗夜さんが最初に辞めさせるはずなのだが俯いたまま動こうとしない。何かあったのだろうか?声をかけようとすると僕より先にお嬢様が動いた。
「 紗夜、どうかしたの?」
「……えっ。私がなにか?」
「こういう時いつもなら、私より先にあなたが、音楽以外の話をやめさせると思って」
「それに俯いてばっかりですし、一体どうしたんですか?」
普段と違う様子の紗夜さんの様子を気にかけていると遠くから三人の話し声が聞こえてくる。こっちの雰囲気とは真逆だった。
「おねーちゃんのドラムはこう、ど---んって!ばーーーーん!」
「あははっ! いっつもその説明だよね!『ど---ん! ばーん!!』」
「……わた……しは………」
『……ん? そういえばこのギターの子、紗夜ちゃんに……』
(あれは……間違いなく、日菜だった。……しかも、ギター……!なんでよりによって、私の唯一!)
「紗夜?コンデイションが良くないなら今日は帰……」
「い、いえ……大丈夫……!ただ少し、この休憩が終わるまで、頭を冷やさせ……」
「つい最近まで一緒にお風呂入ってたんでしよー?」
「……!そう……なの……!」
「えっ?そうだよ?みんなそうじゃないの?」
「いや~どうかな~?アタシには妹いないからなぁ…… わたしも……いないから」
「ふんっ。ふたりともおねーちゃんがいないからわかんないんだよっ。おねーちゃんってのはね、ずーっと、一番カッコイイ、妹のあこがれなのっ…っ!」
「ちょっとちょっと友希那力ッコイイはどこ行っちやったの?」
「一番カッコイイのはおねーちゃんだけど、超超超カッコイイのは友希那さ……」
「……っ。いい加減にしてよ!」
「「「「「!!」」」」」
突如紗夜さんが大声を上げた。その声は練習の時とかとは全く違い、憎悪が混じり合っているかのような声だった。だが、その声には悲鳴のような物が入っているかのようにも捉えられた。全員が驚いた。普段は落ち着いていて、冷静さを欠かさない紗夜さんが急に怒りをあらわにしたのだ。それから紗夜さんの激怒の言葉は続いた。
「お姉ちゃんお姉ちゃんってなんなのよ!憧れられる方かどれだけ負担に感じてるか……わかってないくせに!!!!なんでも真似して!自分の意思はないの!?姉がすることかすべてなら自分なんて要らないじゃない!」
「……紗夜……それってもしかして、ヒナのこと……」
「……日菜?」
「一一っ! !……私……」
リサの言葉を聞いた瞬間、制御できてなかった紗夜さんは落ち着き、少しばかり青ざめたような顔色になった。その姿を見てあこちゃんは怯えるように声を出す。
「あ……あこ……前にも……言われたのに……」
『違わない。じゃあ答えてみて。お姉さんではないあなた自身にとってのカッコイイって、何なのかしら?』
「紗夜さん…ご……、ごめん…なさい……」
「……紗夜………」
「あ、あの、そこら辺にして練習に戻りませんか?時間も無いですし」
(紗夜も何か、邪な理由で音楽をやっているというの……?)
「どんな事情があるか知らないけど、Roseliaに私情を持ち込まないで。それに紗夜。あなたは今日、演奏にも集中できていなかった。帰ってちょうだい」
「 !……返す言葉もないわ。お先に失礼します。迷惑をかけて、ごめんなさい」
紗夜さんはその言葉だけを残して早々に片付けを済ませて出ていってしまった。その様子を見た三人はとても困惑していた。
「あ……どうしよう? あこ、たぶん紗夜さんの嫌なこと、言っちゃったんだよね?」
「うちの学校に、紗夜の双子の妹がいるんだよ。氷川日菜。聞いたことない?」
「あ、ずっとテストで1位って有名な人……」
「休憩時間は終わりよ。何度も言うけど、Roseliaに私情は禁止。これ以上話したいなら、あなた達にも帰ってもらう」
「「あ……はい…」」
「お嬢様」
「…何かしら?」
「申し訳ないのですが、時間ですので僕は一度抜けます」
「そう、行くのなら早く行きなさい。練習の邪魔にならないうちに」
「ありがとうございます、それでは」
(でも……こんなことを言っている私こそ一番……)
気になることもあるが、事実スーパーのタイムセールまでに間に合うために時間に余裕を持って出るのにはちょうど良い時間だった。僕も荷物を持って紗夜さんを追いかけるように部屋の外に出る。circleの前において置いたイクサリオンに乗って外を移動することにした。
「うおっ、何ぶつかって来てんだよ、お嬢ちゃん」
「すみません、前を見てませんでした。それでは」
「おい待てよ」
考え事をしながら歩いていた私は知らない男の人にぶつかってしまった。悪気はないが、ぶつかってしまったために謝罪の言葉を送る。しかし何故か止められてしまった。正直今は誰とも関わりたくない気分だから手早く済ませたい。
「私、急いでますので」
「それで謝ってるとでも思ってんのか?」
「すみません、急いでるので」
「ちょっとこいよ」
「ちょっ、離してください!」
「おっと、無駄な抵抗はしない方が良いぜ。こいつのナイフがついうっかり……な?」
「……解りました」
知らない男の人たちに人気のない路地裏まで連れて来られました。ナイフで脅すなんて、何を考えているのでしょうか。だけど、今は一人になりたいから早く終わらせて欲しい。
「それで、何の御用ですか?手短にお願いします」
「なにって、ちょっと遊んで貰うだけさ」
「別に悪いようにはしないよ、終わったらちゃ~んと返してあげるからさ」
その言葉を聞いてすぐに解った。この人達は危険な人たちだと、関わってはいけないと。だからすぐに断ることにする。
「すみません、そういうのはお断りしてるので」
「んだよ、これで許してやろうと思ったのによぉ、少し痛めつけ無きゃ駄目か!」
その男が指を鳴らした瞬間、私の両腕は動かせないくらい強く捕まれてしまいました。その状態で目の前の男が勢いをつけて拳を突き出してきた。動けないこの状態では何も出来ないので諦めるしかありません。それを受け入れようとしたとき、目の前に影が現れました。
「なっ!?」
「すみません、お嬢さん。お待たせしました」
目の前でその言葉を発した人はcircleにいるはずだった名護さんだった。何も関係のない彼がなぜこんな所にいるのか理解出来ない。私が疑問に包まれていると、拳を突き出した男が名護さんに怒りの声をぶつけていた。
「テメェ、何してんだゴラァ!」
「え、何って、拳を掴んでるだけですよ」
「誰の許可を得て触ってんだゴラァ!」
男は手を勢いよく振って名護さんとの距離を取った。そのあとすぐに私の腕を掴んでいた男を彼は振り払った。そして名護さんは男達に背を向けて話し始めた。
「ああ、それは申し訳ございません。ですが、女性に手を出す輩にそんな許可がいりますか?」
「黙って聞いてりゃ良い御身分だな、坊主」
「ガキは帰ってゲームしてろや!」
「それはそれは、凄く
「ごちゃごちゃうるせぇぞ!」
「あぁ、そうだ。
名護さんは男の人の言葉をまるで受け流すかのように聞かず、むしろ挑発のような言葉を送っていました。こんな状況で何をしているのでしょうか。全く理解できません。
「だからうっせぇんだよ!」
「暴力はいけませんよ。紗夜さん、少し下がってて下さい」
「ですが、」
「気にしなくて大丈夫ですよ、怪我人は出しませんから」
「坊主、テメェ舐めたこと言ってくれんじゃねぇか、オラァ!」
名護さんに対して男の人がまた暴力を振るっています。ですが、名護さんはそれを余裕の笑みを浮かべて避けています。彼は普通の高校生ではないのでしょうか?
「そんなことあるわけないじゃないですか」
「テメェ、避けてんじゃねぇよ!」
「避けるの駄目なんですか、じゃあ
その言葉と同時に彼は突き出される拳を弾いて男の人に拳を当てて無力化しました。おそらく本人は強くやっていないと思われます。だって、見てて
「お、お前本当に…人間か……?」
「よく見てみて下さいよ。言わなくても分かるでしょう?あなたと同じ人間の顔をしてるじゃないですか」
私にはその顔が見えませんでしたがその顔を見た男の人達は恐怖に怯えるような顔をして、この裏路地から怯えるように逃げ去ってしまいました。その姿を見た名護さんは私の元にゆっくりと歩み寄ってきました。
「名護さん……ありがとうございます」
「……後をつけてきて正解でしたね」
「え?」
「なんかいやな予感がしたから紗夜さんのあとをつけてきたんです。そしたらこの通り…です」
「……すみません、迷惑をかけました。それでは私は帰りますので」
時間を取られた分早く帰ろうとすると、名護さんに止められてしまった。
「待ってください」
「なんですか?」
「せっかくですし、送って行きますよ」
「そんなことまでして貰うなんて」
「また、こんな目にあうのもいやでしょう?」
「……」
「それに、話したいこともありますし」
「……解りました」
それから私は名護さんに家まで送って貰うことになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あこは今日紗夜さんが言ってたことを考えながら帰ってきた。考えないようにしようなんてこれっぽっちも思えなかった。
「……ただいま……」
「!どうしたあこ? 今日練習だったんだろ?いつも大はしゃぎで帰って……」
「あこって、おねーちゃんの負担なの?」
「……何があった?ほら、おいで」
「おねーちゃん、あこがおねーちゃんの真似したり、おねーちゃんのことカッコイイって思うの嫌……?」
「……バカだなあこ。アタシはあこのこと、一度もそんな風に思ったことないさ」
私は名護さんにバイクで送って貰うことになりました。……私はこれからどうすれば良いんでしょうか。唯一のものをまねされて、そしてそんなことで集中力も欠けて……一体どうすれば……
次回 「突然の誘い」
……お楽しみに………
壁の色を変えるとしたら?
-
色分け
-
上塗り