青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第三鏡 俺の名は

 目を開けると黒い景色が見えてくる。でも辺りを見回すと爪先の辺りから僕の方には白い世界が広がっていた。まるで世界が白と黒で真っ二つにされたように綺麗に線引きされている。この間見た景色とは全くもって違う。線から先に入ろうとすると見えない壁に阻まれる。

 

「無理だ」

 

 知らない誰かの声、でも聞いたことのあるような声が聞こえてきた。

 

「俺とお前は似て異なる存在」

 

 聞こえてくる声は大きくなってくる。それと同時に目の前に歩いてくる誰かのシルエットが見えてくる。

 

「俺とお前は同じ肉体。それでも中身は違う」

 

 やがて見えてきたシルエットは光が入り姿がしっかりと見えてくる。それはまるで鏡を見ているようだった。

 

「さて、その答えは?」

 

 訳の分からない質問。不思議と答えを知っているような気がした。

 

「君は僕で僕は君だから?」

「その通り」

 

 目の前の影が光によって消えるとその正体が露わになる。信じられなかった。鏡を見ているという言葉がそっくりそのまま使えるように、今目の前に見えているものは僕の姿をした何かだった。

 

「君は………一体誰なんだ」

「俺は、名護深次(シンジ)だ」

 

 悪魔のような顔を見せたそいつは僕と似たような名前をしていた。でも違和感がないくらい納得していて、それが逆に違和感に感じて。僕は理解と整理ができないまま目を覚ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 あの後すぐに弦巻さんの家の人が来て新一が拘束された。同じ車に乗って私達もついていくと弦巻さんの家に連れていかれる。そのまま研究室のような場所に行き新一はドームのような白い機械の中に入れられた。

 

「これは何をしているの?」

「脳の検査だ。あの異常な新一はもしかしたら脳に異常が発生している可能性が高い」

「どうして?」

 

 京は答えるのを少し渋っていた。きっと前から知ってたんだと思う。

 

「アイツは改造手術を受けてる。その過程で失ったものがあるなら逆に無意識に発生してしまったものもあるはずだ。それが検査で引っ掛かってくれればいいんだが」

「そうならない可能性もあるの?」

「なんせ人の心は複雑怪奇。引っ掛からなければ答えは決まってても対処が面倒になる」

「分かってたら対処しやすいのね」

「まぁな。でも脳だからどちらにせよ面倒なことにはなるだろうな」

 

 ビーという重たい音がして扉の上にあった検査中という赤いランプは消えた。部屋の中から新一は出てきたが椅子に縛り付けられ手錠を嵌められる。あの人工知能の件もあってか警戒されているのがよくわかる。

 

「さて質問だ、お前は誰だ?」

「名護新一だけど」

「さっきの戦闘の記憶は?」

「えっと、確か亀のファンガイアの甲羅を剥がすために黒いフェッスルを使った……」

「その先は?」

「…覚えてない」

 

 あんなことをしていたのに覚えていないのはおかしい。あんなにも狂気に満ちていた新一は一体なんだったのか。それを突きとめるために記録されていた映像を見せるが見たことないものを見る顔で見ている。

 

「これを僕が?」

「ああ、そうだ。もし隠していることがあるなら素直に吐け」

「本当に記憶がないんだ。アークの時とは違って夢を見ていたわけでもない

 

 真剣な目つきをしていることは言わなくてもわかっていてた。そのおかげか京も諦めたようにため息をつく。けれど何もわからないままだった。一度新一を放置して部屋を出ると京は壁にもたれかかって帽子で顔を隠す。

 

「どうしたの?」

「ありゃ俺には手をつけらんねぇ」

「精神的な問題だから?」

「その通りだ。本人が解決する以外手段はない」

「そう………」

「解離性記憶障害、もしくは解離性人格障害ってところだろうな」

「何それ?」

「当事者が強いストレスを受けることにより記憶の一部が欠損してしまうこと、それが乖離性記憶障害。そして同じように強いストレスによって新しい人格が形成されてしまうこと、それが解離性人格障害だ。」

「つまりストレスが関係してるってこと?」

「だな、ここ最近何か強いストレスを感じることがあったか?」

 

 新一との記憶を探るが今日まで特になかったと考える。負けるということもなかったし年末もいつもの調子に見えたしそもそもほとんど一緒に行動しているから事件があったら私が基本的に近くにいるからすぐに気づくはずだ。

 

「なかったと思うわ」

「そうか」

 

 何かぶつぶつと言い始めた京を放って私は再び部屋の中に入る。新一は座ったまま寝ていて枷を解こうとした形跡などはなかった。どうしてこんなことになってしまっているのかと思いながら新一をずっと見ているとまるで悪夢から目覚めたように目を開く。

 

「どうしたの」

「お嬢様……いえ、なんでもありません」

 

 いつも通りの笑顔を見せる新一を疑うことが出来なかった。現状危険性がないことを確認された結果今日は解放されることになった。

 これ以上検査しても精神障害の場合無闇に手を出すことが出来ないと言っていたため多分新一地震がどうにかするしかないのだろう。とりあえず今日は安静にと言われた直後、錠前が鳴る。すぐに現場へと行った新一を追いかけるように黒服の人にお願いする。そのままついていくと今度はファンガイアとは違う化け物の姿があった。

 

「足がめっちゃ体についてんな」

「ムカデがモチーフかな?」

「だとは思うんすけどなんかきしょいっすね」

「新一、今度は大丈夫そうか?」

「多分大丈夫」

「百パーじゃないことだけ知っといて良かったわ。もし異常をきたしたらすぐに戦線離脱、いいな?」

「お言葉に甘えさせてもらうよ」

「じゃあさっさと潰しますか!」

 

 連携をうまく取りながら三人が戦っているが敵も素早い動きで避けたり攻撃している。今の所いつもの新一と変わったところはなくまるでさっきまで見ていたのが嘘だったかのようにも思える。敵を完全に囲んだ三人は順番に技を出してドーパントを爆発させた。その後の動きは手慣れているようでスムーズだった。そのまま撤退するかと思えば彼らは動かなかった。どうしたのだろうと物陰に隠れて様子を伺っていると話し声が聞こえてくる。

 

「二人とも、話しておきたいことがあるんだ」

「なんだ?」

「もしかして口調が変わった時のことですか?」

「多分、そのこと。その時の記憶がないからなんとも言えないけど」

「とりあえず言ってみろ」

「信じられないかもしれないけど、僕の中にもう一つに人格がある」

 

 もう一つの人格、つまり京の言っていた乖離性人格障害ということ?

 

「まじっすか?」

「僕もさっきもう一人の僕に言われたばっかりだからなんとも言えないけど」

「話したのか?」

「さっき夢の中でね。僕は彼で彼は僕だって」

「厄介だな。他に何か言ってたか?」

「名前を言ってた」

「名前?」

「“俺は、名護深次だ”って」

 

 深次、それがもう一人の新一の名前。それは京の言ってた改造手術されたことから何か関係しているのかしら。だとしても私に一体何が出来るのかしら。この前とは訳が違う。物理的に治せるわけでもないし解決手段がしっかりわかっているわけでもない。

 

「湊、そこにいるのはわかってる」

「バレてたの?」

 

 新一たちがこっちをしっかり見ているので彼らの元に近づいた。どうやら状況について話し始めた時から気づいていたらしくわざと聞こえる声で話していたらしい。なら最初から隠れる必要なかったのではという意見もあったがそれは流された。

 外も寒いので私たちはまた弦巻家へと戻る。連れて行かれた場所はさっきとは違い大きて拾いがそれ以外何もない部屋だった。

 

「それで新一、今は変われるのか?」

「ごめんそれは無理みたい。呼びかけてみても出てきてもらえないんだ」

「じゃあ今コンタクトを取れるのは夢の中だけってことですか?」

「そうだね」

「深次ってのが出てくるのを待つか新一がコンタクトを取れるまで無闇には動けないな」

 

 動けない以上特に何かできるわけではないので今日は解散になった。二人揃って弦巻さんのおおうちの人に送ってもらうと家の前でお父さんが待っていた。

 

「随分と帰りが遅かったね」

「申し訳ございません旦那様」

「いや、無事に帰ってきたのならそれでいい」

 

 お父さんはご飯を早く作るようにだけお願いして家の中に入って行った。普段は優しいお父さんが何か苦虫を潰したような顔をしていたのが珍しいと思った。新一は驚きもせず家の中に入り自身の仕事に取り掛かった。その姿は普段と変わりなくいつもの新一の姿そのものだった。

 これが戦いの時になるとまるで理性を持った壊れている人間のように暴れているなんて信じられなかった。

 

「お嬢様どうかしましたか?」

「今はなんともないの?」

「はい。特にこれといって変わったところは」

「もし何か変になったりしたらすぐに言いなさい」

 

 その言葉だけ残して私は自室に戻った。今年のお正月はなんだか複雑な気分で終わりそうだ。ご飯が完成するまでもう少しかかりそうだったのを思い出し電話をかける。相手は当然この状況について知ってそうな人だ。

 

『この電話は現在』

「モアイになりたいかしら」

『うおびっくりした湊かよ。新一かと思ったじゃねぇか』

「京がふざけた時はこう言えって言われたのよ」

『えぇ……そんで何か用か?』

「新一が言っていた深次って人の件よ」

『何故俺に電話をかけてきた』

「あなた、探偵なんでしょ?何か知っているなら言いなさい。知らなければ調べてきなさい」

『おいおい俺はタダ働きなんて』

「普段新一にお弁当を作ってもらってるでしょ」

『何故お前が偉そうなんだ……』

 

 多少強引な手を使うことになったがこれくらいでもしないと私はきっと答えを聞くことができない。だから職権濫用するしかないと踏んでこれをかけた。でも京なら何か言い返してきそうだなという不安もある。

 

『まぁそれくらいのことしか話せなくてもいいならな』

「いいの?」

『お前にしては頭回した方なんじゃないのか?』

「新一にお願いして今度モアイにしてらもうわね」

『すまん俺が悪かった』

「それでわかっていることは?」

『名護深次、そいつのことはデータには記載されていなかった。しかし俺らがみた現象と同じようなことをしているのがあいつの行動記録に記載されていた』

「なんて書いてあったの?」

『“あの新一様がまるで戦闘を愉しんでいるような顔だった”、“必要以上に追い込む姿はまるで狩をしている獣”とかだな。印象ピッタリ一致だな』

 

 報告されていたデータを聞いて納得がいくような気がした。この間ふと気になって戦うことは好きか嫌いかを聞いたらできれば戦いたくないと言っていた。何より敵を嘲笑うような奴は嫌いだし必要以上に殺しに行きたくないとも答えていた。そんな彼と別の印象を持つ彼は別の存在とも思える。

 

『少なくとも深次がいる時に聞き出さなくてはいけないことがある』

「目的と理由ね」

『ああ。あいつが落ち着かない限り面倒なことが起きそうだ』

「具体的には?」

『具体的か………もしそいつが悪い奴だった場合、新一が絶望的な状況を見るかもしれない』

「絶望的?」

『ああ、その辺は俺にも想像がつかないがきっと新一が絶望する状況を作り上げる可能性がある』

 

 その言葉を聞いてより危機感を持った。深次が一体何を考えているのかわからない以上こっちも手の出しようがないが逆に防ぎようもないということ。恐怖心を抱いた私はすぐにキッチンの方へと走る。

 そこには食卓を用意し鍋を運んでいる新一の姿があった。

 

「どうしたんですかそんなに慌てて」

「な、なんでもないわ」

「もう出来ますから待っててください」

 

 新一はエプロンを片づけてお父さんを呼びにいく。部屋の扉が閉められると私は引き戻されたように感覚が戻る。携帯をそっと耳に当てると京の声が聞こえた。

 

『大丈夫か?』

「…問題ないわ」

『とにかくだ。深次が出た時は俺たちがどうにかする。だから任せとけ』

「わかったわ」

 

 プツンと切れた電話から京の声が聞こえなくなった。その代わりに扉が開いてお父さんと新一が出てくる。食宅に着くと食事をしようと声をかけられ椅子に座る。それからも新一の様子はいつもと一切変わりなく私は気がつけば新一の姿を追っていた。彼との距離は変わっていないはずなのに何故か遠くに置かれているような不思議な感じがしてならなかった。

 結局寝るまで新一のことばかり考えていたがずっと寝れず、やっと寝られたのは日付を越してからだった。だが私が抱いていた恐怖心は後に本物になることをこの時の私は知ることすらなかった。

 

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