青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第四鏡 恋心

 新一が酷いことをやってアタシたちは家に返された。何が起きるか分からないという危険性からその後のことを知らされずに帰ったため気になっていた。

 目を覚ましたはいいものの寒すぎて布団から出る気になれなかったアタシは布団を着たままスマホを弄っていた。冬コーデらネイルの情報を探っていると誰かからチャットが送られてくる。それは誰でもない新一だった。家の外にいるんだけど少し話せないかなというメッセージを見て少しだけ待って貰えるようにお願いして準備する。

 いくら起きたばかりとはいえ好きな人にだらしない姿は見せたくない。十分で出来る限りの準備をして玄関を出る。真冬の朝は当然寒くて改めて意識が覚醒した。友希那の家の方を見ると門の壁に寄りかかってる新一の姿があった。

 

「おはようリサ」

「ごめん待たせちゃって、寒かったよね」

「リサと話せるって思ったらこんな寒さどうってことない」

 

 不意打ちの言葉にドキッとした。いきなりこういうこと言うんだから本当に心臓に良くない。今日という今日は言ってやらなくちゃ。

 

「新一そういうのはさもっと」

「それよりリサ、その格好だと寒いだろ」

 

 アタシの言葉を遮って着ていたコートを羽織らせてくる。

 

「だーかーらー!」

「ごめんごめん、俺のために短い時間でおしゃれしてきてくれたんだよな。でも風邪ひいて欲しくないからさ」

 

 恥ずかしい言葉を表情一つ変えずにつらつらと並べてくるせいで何も言えなくなった。それより新一がアタシがおしゃれしてくる理由をちゃんと分かってるというのが一番驚いた。

 

「もしかして偽物の新一?」

「流石にそれは酷くないか?って言っても仕方ないか。普段はもう少し言葉が丁寧だもんな」

「えっ」

「少しだけ気を休めたかったからリサを呼んだんだけど、やっぱ素を出すと駄目だな。ギャップが強すぎるってよく言われるし」

 

 言ってることの全てを理解できてる訳じゃなかった。けど今新一はアタシを頼ってくれてるというのは理解できた。しかも素を出せるってことは……。

 

「ごめん、今の忘れて。上品に出来てるかは分からないけど少なくとも今よりかは言葉遣いがマシだと思う」

「いいよそのままで。戻さなくていいって」

「でも気を遣わせちゃうし」

「いいって。それに素を出してくれるってことはそれだけ信用してくれてるってことでしょ?」

「え、まぁその……恥ずかしながら」

「それならいいよ、アタシも悪い気はしないし」

「じゃあ……お言葉に甘えて」

 

 やっと、新一に頼って貰えたと思う。その事がすごく嬉しかった。だから私はこの時違和感に気づけなかったと思う。

 

「それで朝早くにどうしたの?」

「ああそれなんだけどさ、そろそろ教えて貰おうかと思って」

「何を?」

「何をって、リサが言ったんじゃないか。好きになるって感情を教えてあげるって」

 

 それは夏に言った言葉。新一の正体を知ってアタシが導きだした新一の近くにいる方法。それを言われて顔が熱くなる。

 

「そっ、それはそうだけど」

「もしかしてまだ準備が出来てないのか?」

「えっと、あの」

「俺に手伝えることがあったら言ってくれ。なんでも手伝う。リサのためなら全力を尽くす」

 

 頭の中がキャパオーバーする。ずっと待っていた光景が目の前にあると考えるとそれだけで胸いっぱいなのに目の前に来て壁ドンまでされてもう言葉が出ないくらい切羽詰まっていた。真剣な顔つきももうあと少しでくっついてしまいそうなくらい近くてどうすればいいか分からなくなった。何も言えないでいると新一は身を引いてくれる。

 

「そんな顔を赤くしてどうした?可愛いやつだな」

「なっ」

「っと、そろそろ時間か。飯作らなきゃいけないから残念だけどここまでだな」

 

 そう言って離れると友希那の家に戻っていく。心臓の音が聴こえるんじゃないかってくらい近かったから正直離れてくれて嬉しい……いやもう少し味わっていたかったかもしれない。

 

「風邪引く前に家に入れよ」

「う、うん。じゃあ今日の練習の時にね」

 

 新一は軽く返事をして家の中に入った。アタシも家の中に入って部屋まで戻ると今までの緊張が解けたのかベッドに倒れ込むと同時に枕で顔を塞いだ。

 これ夢じゃないよね!?新一があんな風に攻めてくるなんていつもの爽やか系もいいんだけどちょっとワイルドな感じも良くてってそうじゃなくてでもかっこ良すぎてええどうしようどうしようあんなこと言っちゃったしなんなら新一もその気があるみたいだしでも待って友希那はいいの?この間からなんか妙に近かったりしてるけどそれはそれで何か問題があるんじゃないの!?

 悶えて五分くらいしてやっと落ち着いた。とりあえず新一の身辺常用を確認しつつ作戦を考えることにしよう。そんでもって今日の練習の時に色々と探るべきだと判断したアタシは練習の時間まで半分くらい新一の頭の中を支配されていた。

 そんなこともあったため少し早めに出てスタジオで待っていた。アタシよりも紗夜が早くきてくれていたお陰で気を紛らわせてくれたけど二人が揃ってきた瞬間に朝の光景がフラッシュバックした。

 

「皆おはよう練習を始めるわよ。各自自主練習はしていたわね」

「あこお正月もドラム叩いてました!」

「私も……やりました……」

「右に同じです」

「あっ、アタシもやってきたよ!」

「なら最初から通しましょうか」

 

 今年最初の練習が始まった。時々新一の方を見るけど朝とは違いいつもの真一と変わらなかった。その違和感のせいかうまく集中できておらず何回か練習を止めてしまった。そんなアタシを見越したのか一度休憩を入れてくれた友希那には感謝している。休み時間だから新一たちが雑談しているのを見かけてベースの練習をするふりをして聞き耳を立てた。

 

「そーいえばねー、この前ひーちゃんが今年こそいい人見つけるんだーって言ってたの」

「上原さん?」

「うん。アフターグロウのみんなが遊びにきてね」

「そっか、巴さんもafter growだもんね」

「おねーちゃんのドラムはかっこいいんだよ!」

「年末のライブも見たけどすごいよね」

「新兄はひーちゃんみたいな願い事はないの?」

 

 あこの突然の質問に目を丸くする新一。あこナイスよくやった。

 

「藪から棒だね。どうして?」

「ほら、初詣行ったけど聞いてなかったから」

「なるほど」

「私も…気になる……」

「大したことは願ってないけど、お嬢様の無病息災かな」

「えっ自分のことじゃないの?」

「僕は別にいいかな。正直今の生活に満足しちゃってるし」

「でも、こういうのって大体………」

「んー、自分に対して願うことってそんなになかったから。去年のはあくまでオーバーヒートらしいし、病気にはなってないから」

「そっかぁ。恋人が欲しいとかはいいの?」

 

 恋人、その言葉が出た瞬間より一層耳を立てた。この質問の答え方によっては朝のことを問いただす必要がある。

 

「今井さん?」

「どうしたの紗夜」

「いえ、なんでも……」

「それで新兄どうなの?」

「いらないって言い方するとアレだけど必要はないかな」

 

 ──どういうこと?いや待てよ、隠しておきたいから今は仄めかしている可能性がある。もう少し聞いてみよう。

 

「京ちんはなんか欲しいって呟いていたよ?」

「多分ほら、料理とか作ってくれるからってことじゃない?僕はそういうことは出来るしそれにお嬢様のことを好きでいろって命令があるし」

「湊さんどういうことですか!?」

「どうってそういうことよ」

「その命令は不純です!彼の恋愛の自由を奪っているではありませんか。そんなの良くありません!」

「そこは風紀がとかではないんですね」

「そ、そうです風紀的にも良くありません!」

「取ってつけましたね………」

「それにそんな命令まるで呪いじゃないですか」

 

 呪い、新一が言っていたことが本当ならその通りだと思う。新一の本心はそこにあるわけじゃないから友希那は新一を縛り付けていることになる。だから朝の発言があったのかな。

 

「まぁでもあの時はそれが一番の解決法でしたから」

「名護さんまでそっち側なんですか!?」

「いやそうじゃなくてですね、呪いのような縛りがあったからあの状況を打開出来たわけでして」

「そっちの役割は私だけで間に合ってますから!」

「紗夜?話が噛み合っていない気がするのだけど。あと時間が過ぎているから練習を再開するわよ」

 

 結局その時のちゃんとした答えはわからず練習は集中することができなかった。次の練習の日程を決めて解散すると三人になる。アタシの頭の中はまだちゃんと整理できておらず二人と何かを話していたが覚えていない。今日は結局新一のことばかり考えていて何をするも集中できていなかった。

 翌日、同じ時間に起きたアタシはスマホをいじっていた。すると今日はチャットではなく電話がかかってくる。

 

「も、もしもし?」

『おはようリサ』

「し、新一!?どうしたの?」

『少し話し相手が欲しくてさ。もしかして寝てたか?』

「いや起きてたけど」

『ならよかった』

 

 ケラケラと笑う声を聞いてきっと今は素を出しているのだと確信する。気になったアタシは昨日のことを質問する。

 

『あれか?呪いみたいな命令を受けたのは本当だ』

「やっぱりそうなんだ……」

『でもそれだけじゃやっぱりわからない。だからこそリサにお願いしたかったんだ』

「!」

『唯一教えてくれるって言ってたからな』

 

 恥ずかしい言葉をなんの躊躇いもなくペラペラとしゃべる新一に恥ずかしくなって何も言えなくなってしまった。

 

『でもリサ悪いな』

「え、何が?」

『何か手伝えることはないかって思ったんだがこれっぽっちも見当がつかない』

「それはアタシがどうにかするよ」

『すまねぇな……』

「ううん、大丈夫。アタシに任せといて」

『おう。こっちももう少し時間(・・)がかかりそうだから助かる』

「時間?」

『おっと、そろそろお嬢が起きるころだ』

「そっか。お仕事だもんね」

『ああ。そうだ、昨日言い忘れたがこのことは誰も言わないでくれ』

「アタシに素を出してるってこと?」

『ああ、それを知った時お嬢が何を言い出すかわからない』

「じゃあアタシたちだけの秘密ってことだね」

 

 肯定する言葉を残した新一はすぐに電話を切った。きっと友希那が声をかけてきたか友希那のお父さんに呼ばれたかな。

 それにしても二人だけの秘密、か。なんかそう考えただけでテンション上がってきちゃった。きっと他の人にはないアタシたちだけの秘密。それはアタシに取ってとても大きなものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来コイツが起床するのは午前六時。それなら一時間前に起きてある程度状況を把握及び行動すればいい。昨日といい今日といいリサが起きていたのは俺にとって好都合だった。アイツの好意は既に気づいていた。だから利用するならちょうどいい役柄を羽織ればいい。

 昨日のうちにある程度把握したから今日はもう一人にちょっかいかけてみるか。起きていなかったとしたらそれはそれで面倒だけどどうにかできるだろ。電話をかけてみるとそいつは素直に電話に出た。

 

『もしもし』

「もしもし紗夜か?」

『名護さん……ですよね?』

「そうだ。この話し方は初めてだったな」

『意外です。そんな話し方もするのですね』

「ちょっとだけな。それよりお前に頼みたいことがあるんだけどいいか?」

 

 不審にも思われたが内容を話すと快く受け入れてくれた。この手のお願いなら氷川にお願いするのが一番だと踏んで正解だったな。まぁアイツがそういう願望を抱いていたのも薄々気づいてはいたしそろそろ覚えさせてやってもいいだろうとは思ったしな。

 名護新一の記憶は当然ながら俺も把握している。そして何故コイツがそれに気づけないのかも俺は知っている。その理由は俺であり俺たちの魂が関係している。この真実を知った時アイツはどう対処に出るか。それすら確信を持っている。俺たちの立場が逆でもきっと同じだ。

 だがもうそろそろ一度あのフェッスルを挿し込んだイクサにならないと正直きついかもな。現状決まった時間しか行動できない。もう少し行動可能時間を広げないと俺の理想は叶わないな。ま、またファンガイアが出てくれば自然とそうなるだろう。

 そろそろ交代の時間がやってくる。状態を元に戻しておかないと何か勘付かれる可能性もあるから記録になる物は消去しておく。さて、もう少しだ。もう少しで理想を叶えられると考えながら俺は眠りにつく。次に起きるのはきっと俺じゃない。だからこそ期待している。コイツの中から俺は全て見通せるから。

 

 

 

 

 

「………時間だ。早く起きて仕事しなきゃ」

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