青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第五鏡 亀裂

 今日もお昼から練習。あこちゃんがこれから受験ということで今日はあこちゃんが欠席だ。賑やかにしてくれる子なので少し物寂しく感じるかと思いきやそうでもなかった。

 

「日程はいつにしますか?」

「何のですか……?」

「朝の件です」

 

 朝の件、一体何のことを言ってるのかがさっぱりわからなかった。覚えていないのかと聞かれてもそうとしか答えられない。

 

「本当ですか?朝早くにあなたから電話をしてきたっていうのに」

「えっ、電話ならアタシのところにも朝来たけど」

「電話って……」

 

 寝ぼけていたのかもしれないと電話アプリを開く。もしかしたらここに記録が残っているかもしれないと確認してみるとそこに発信記録はなかった。

 

「そんな、でも私のところには」

 

 紗夜さんのスマホには僕からの発信記録が残っていた。消去した可能性を考えるが何でそんな面倒なことをしなくちゃいけないんだ?

 

「今井さんはどうでしたか?」

「アタシは……ごめん、勘違いだったみたい」

「勘違い?」

「多分夢の中とこんがらがっちゃたんだと思う。ごめんごめん」

 

 手を合わせるリサは僕に何か合図を送ろうとしているがわかっているフリをして流した。

 

「しかし本当に覚えていないのですか?」

「はい、残念ながら」

「……わかりました。では私も忘れることにしましょう」

「話は終わったかしら。練習を始めるわよ」

 

 お嬢様が一度こちらを睨んできたため驚いたがすぐにもとに戻ってくれたので安心する。

 だとしてもどうして他者との記憶に違いがあるのだろうか。僕は朝起きたらいつも通りの行動を取っていたし電話もした記憶はない。なのに紗夜さんは覚えているし彼女のスマホに記録は残っている。

 考えていると部屋の外に誰かが立っていることに気付く。誰だろうかと警戒しつつ扉を開けるとサングラスをかけたスーツの男性が立っていた。

 

「どちら様でしょう」

『ボム』

「!?」

 

 質問の解答の代わりなのか姿を変えた男の人は爆発した。瞬時で直撃した僕はそのまま後ろに飛ばされる。あえて威力を下げられていたのか痛みがあるだけでまだ意識はあった。爆風に驚いたのか皆の演奏は止まる。

 

「何が起きたの!?」

「皆離れて!」

『名護新一を抹殺する』

「これって……もしかして」

「多分今日は園崎さんのとこの人」

 

 イクサナックルを掌に当ててベルトに装填する。次は確実を狙ったのか筒状の爆弾を投げてくる。見た目のほどの重さは内容にねげてくる姿からそれがなんなのかすぐに判断して誰もいない壁に向かって弾く。運が良かったのか幸いにも触れただけで爆発はせず壁の近くで爆発してくれた。

 

「さっきから爆発音がってナニコレー!?」

「まりなさん皆のことお願いします!」

「えっ新一君?どっから声が」

 

 ドーパントの腕を引っ張って空いた壁の穴に向かって放り投げる。そのまま殴ろうとすると小指くらい小さい爆弾をばら撒かれる。爆竹のように爆発するそれは装甲の関節部にダメージを強く与えてくる。近接でも爆弾を躊躇なく使えるということはと考えると答えは必然と出てくる。

 

「名護家元殲滅部隊副隊長、羽場 当麻(ハバ トウマ)さんですね」

「その通りだ。隊長には申し訳ないが貴方はここで死んでもらう」

「伊達さんのこと隊長って呼んでるんですね」

「俺にとってあの人は隊長以外あり得ない。でもその隊長を裏切った貴方は許さない」

「大人しくやられるわけにはいきません。それに………」

「………どうした?」

 

 言葉を言いかけた瞬間体はそのままなのに意識だけが引っ張られる感覚に襲われる。そして僕は意図していない言葉が重ねられた。

 

「遊びたりねぇからなぁ」

「フン、やはり貴方は死ぬべきだ。地獄に堕ちろ!」

 

 爆弾が大量に投げられる中僕の体は羽場さんに向かって一直線に走り続ける。どれだけ痛みを伴おうとも気にしないようにむしろそんなものが無いかのように。

 

『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 

 走りながらフェッスルを装填した僕の体はイクサナックルを構えて突貫する。猪突猛進という言葉そのもののように殴りに行く僕の体はどれだけ爆弾が直撃しようとも止まることが許されなかった。装甲にヒビが入っても欠けても進み続けもうゼロ距離まで来てドーパントの腹に右ストレートを打ち込んでいた。この距離でブロウくんファングを喰らえば当然爆発した。体からメモリが排出されそれを回収すると黒服さんたちが来た。

 

「本日もお疲れ様です名護様」

「回収品です」

「ありがとうございます。後処理はこちらでやっておきます」

 

 体が変身を解除するがいつまで経っても意識と体がリンクしない。体は勝手に動きまるで何かを始める準備をしている。そんな中遠くからお嬢様たちの声が聞こえてくる。

 

「このまま少し借りるぜ」

 

 発した声すら僕のものでは無いと今気付く。僕と似た声だが少し高揚感があるような声で気付く。まさか深次が僕の体を。

 

「お疲れ様新一」

「ありがとうございます。せっかくですから少し時間をいただいてもよろしいですか?」

「?構わないわよ」

 

 早く逃げて皆、これは僕じゃない!

 

「だってさ紗夜。今朝の約束、今やろうぜ」

「!さっきは覚えてないって」

「フリだよフリ。正直こんなところまで来るってなったら変身できるお前には少しぐらい戦い方を教えとかないとな」

「新一?なんだか口調が」

「友希那聞くの初めてなんだ」

「え、ええ………」

 

 深次は持っていたベルトを紗夜さんに向かって投げる。受け取った紗夜さんは躊躇いながらもそれを巻いて変身した。

 

「紗夜ちゃんも変身できるの!?」

「まりなさんこれにはちょっと深い訳があって」

「まぁそういうこった。紗夜、手加減抜きでいいからな」

「ですがそれでは名護さんが」

()も手加減で行く。だから遠慮すんな」

「………わかりました。せっかくの機会ですので遠慮なしにいきます」

 

 紗夜さんは僕に向かって拳を突き出してくる。もちろん止めるように声を出そうとしたが体は言うことを聞かずその拳を受け流す。そのまま攻撃は続くが軽々と避けては捌いていく。止めることができずまた止まらないこの戦いを見ている事しかできなかった。

 

「どうした紗夜、この程度じゃないだろう」

「ここまで本気でやってくれるのですね。でしたら攻撃してくるのもお願いできますか?」

「紗夜!?流石にそれは危ないから」

「攻撃を必ず当てられるというわけではありませんし避けることも訓練しておきたいのです」

「賢い判断だ。じゃあ早速いくぞ」

 

 いくぞと言った時には既に紗夜さんの後ろに回っており取り押さえる形になっていた。一切の手加減をしていない速さだった。現役の時と同じくらいのスピードを出している。

 

「おいおい、これくらいには反応してくれよ」

「はっ、速すぎです……」

「もうやめなさい新一!」

 

 お嬢様が僕の体を押しのけて紗夜さんは解放される。そのまま強制的に変身解除させられ中からは紗夜さんが出される。見た目に残る傷は残っていなさそうだが他にダメージがないか心配になった。

 

「やりすぎよ、それに何か変だわ。まるで」

「まるでいつもの俺じゃない(・・・・・)みたいってか」

「!」

「口調と態度が変わった程度でそう感じ取るとはうちの主人もレベルが下がったものだな」

「ちょっと新一それは言い過ぎだよ。それにこうやって新一が素を出してるところ友希那は初めて見たみたいだし仕方ないんじゃない?」

「それもそうか。なら仕方ないな、今回はリサに免じていつものに戻してやる。ただ、ちょっと俺が変わったからってそんなに驚くなよ」

 

 リサの説得のおかげもあってか僕の意識は体に呼び戻される。腕を回したり辺りを見回すと体が同じ反応をすることがわかって僕の体が戻ってきたことを理解する。

 その上で周りを見ると怪しげな目で見られる。無理もない、けどこのことを言ったところで信用してもらえるだろうか。

 

「新一、さっきのは何なの?」

「いえ、その」

「湊さん、その件ですが少し違和感があって」

「どういうこと?詳しく説明して」

「さっき組み伏せられた時なんだか名護さんに取り押さえられているという感覚がしませんでした。まるで別の誰かと相手をしているような」

「でもあれは新一だったわ。紛れもなく彼だったじゃない」

「ですがあの時の名護さんは確かに違う人みたいな」

 

 紗夜さんの感覚がもし本当にあったとしたらそれは正解だ。あれは深次であって僕じゃない、けどそれを証明する方法は今はない。りんりんは何か考えてくれているようだったけど現状を説明することが難しい。

 

「でもリサは何か知っているみたいね」

「そ、それはその」

「今井さんはあれが名護さんだと思いますか?」

「それは、新一が実際戦ってたわけだしそう思っても仕方ないというか。でも紗夜の言っていることもわかるよ。アタシだってあんな新一見たら違う人なんじゃないかって疑っちゃうもん」

「やはりそうですよね」

「だけど友希那の言う通り新一がやってた可能性だってあるじゃん」

「この人に限ってそれが」

「それに、もしかしたら普段ストレスが溜まっててこういうところでしか発散できなかったのかもしれないし」

 

 ストレスを溜めたとしてもそこまで変わることはないと言い切れない。何せ人はストレスで病気にかかるものだし精神崩壊をしてもおかしくはない生き物だからだ。でも今回に関してはもう一人の僕、深次が行ったことだから半分正解で半分間違っているとしか言いようがない。

 

「どんなことがストレスになってるの?」

「い、いえ、ストレスだなんてそんな」

「感じていないということはないと思いますが」

「戦っていること、とか……?」

「でもそれは自分がやるべきことだって言ってたわ」

「人は、無意識下でストレスを溜めることも……あるみたいです………」

「そうだよ、きっと燐子の言う通りだよ。新一だって人間だし………それに二人分の生活を普段からしてるわけだし」

 

 二人分………?もしかして気づいているのか?

 

「どういうことリサ」

「新一は友希那の分の生活も支えてんだよ?そしたら自然とストレスも溜まってるんじゃないかな」

「そう……なの?」

「そのようなことは」

「友希那だってさ、新一に無理言ってたりしたんじゃないの?」

「そんなこと」

「でもさ、実際」

「リサ、それ以上はダメだよ」

 

 これ以上は二人の仲が引き裂かれてしまいそうな気がして辞めさせる。流石に言いすぎたことに気づいたのか気まずい顔をする二人を見て頭を下げる。

 

「元はと言えば僕のせいです。ごめんなさい」

「……帰るわよ」

 

 誰も何も言えずその場は解散になった。家に着いて玄関の鍵を閉めるとお嬢様が寄りかかってきた。顔を隠すように僕の胸に埋めながら何かを言いたそうにしている。

 

「………ごめんなさい」

「お嬢様?」

「私のせいで、あなたがあんな風に」

「違いますお嬢様」

 

 彼女の肩を掴んで引き剥がし目を合わせる。泣きかけているような目は潤んでいてきっと帰ってきている時に自分を責めていたことを感じさせる。

 

「お嬢様は何も悪くありません」

「またそうやってあなたは」

「此度の件、本当にお嬢様は関係ないのです。ストレスが溜まっている、それは否定できないことかもしれませんが少なくともお嬢様が僕に与えたことなどありません」

「だけど」

「お嬢様の生活を支えていて僕が苦に思ったことはありません。勿論お嬢様が戦場に出てきた時は困りましたが。しかし普段の生活において感じたことはありません。本来一人で生活しているはずの僕が料理のアレンジをしたり洗濯物の爽快感を覚えたりなど、きっとお嬢様と暮らしていなければ得られなかったことだと思います。ですからそのことに感謝をしていて苦に感じたことなんてないんです」

「それでも無意識に溜まってるって」

「それは人間誰しも気づかないことなんてありますよ。ですが今回はそうではないのです」

 

 そう、もっと根本的なところにある。だからこの方が気にすることなんて何一つないのだ。だからこそ今は安心させなければいけない。

 

「きっとリサは心配しすぎただけなんだと思います。僕からも話しておきますので今度二人で話してみてください」

「わかったわ。でも、もう少しだけこうさせて……」

 

 今度は僕のことを抱きしめてくる。ここまでのことは初めてだ。普段はあれだけ凛々しく自分を律しようとしているお嬢様がこんなにも乱すの初めて見た。きっとずっと一緒だった幼馴染にあんな風に言われたのが初めてだったからだろう。喧嘩をするような仲ではないと思うけどこんなことで引き裂かれてたまるものか。

 こうなれば僕も正面から立ち向かわなければと決意した。どうにかしなければ被害を受けるのは僕の周りの人だと。

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