青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第六鏡 俺はお前で僕は君で

 その日の夜、夢の中で彼に会った。幸か不幸か眠る際に呼び掛けていたことが対話する場所を作ることに成功したのかもしれない。

 目の前の僕は余裕そうな顔をしている。僕達を分けるのは白と黒の境界線。そこから先は進めないし手を伸ばすことも出来ない。

 

「何の用だ?」

「言わなくても分かってるでしょ」

「はっ、やなこった」

「深次……!」

「俺の体でもあるんだ文句は無しだぜ」

 

 ケラケラと笑う深次を掴もうとするが見えない壁によって阻まれる。

 

「それにどうしてこんなことを俺がするのか、お前にならわかるはずだ」

「僕の体が欲しいからでしょ」

「正確には、俺の体を取り戻すため、だ」

「違う!これは僕の」

「いいや俺のでもある」

「!」

「俺達の魂は元々一つだった。それが分かれた場合何がメインになると思う?」

 

 分割された魂を決定するもの、その答えは言うのは簡単だ。

 

「元々の魂の裏表」

「正しくは光と闇だ」

「光と、闇………」

「裏表なんて混ざりに混ざってるもんだ。濁りはあれどそれをハッキリ分けているのは魂の光と闇、陰と陽。それが魂の分割」

「じゃあ僕は」

「光だろうな。そして俺は闇。分けられて仕舞えばその際に決定した主人格が表になり裏が表に出ることなどそうそうない」

「じゃあなんで」

「本来ならば片方の人格が大きく育ちやがて微小なりとも統合されて小さい方は消え去る。けれど俺達は共に同じ大きさに育った。そして機会は訪れた」

 

 その機会は僕自身も薄々わかっていた。きっとあの人が僕との真剣勝負を望みそのための手段を選ばなかった時だ。そしてその後に渡されたオルタナティブフェッスルが想定外の副作用を及ぼした。

 

「わかってんじゃねぇか。俺もわかってはいないがあのフェッスルにはパワーを引き出すために多少の精神汚染があったと考えられる」

「だからリバーシブルによってできた心の穴から闇の部分に干渉して君を呼び出してしまった」

「そういうこと。だから今俺達は確実に二つに分けられている」

「だからこそ僕は君に主導権を返してもらえるように呼びかけた」

「わかるぜ。一つの体に二つの魂は存在してはならない、いずれ何が起きるかわからないからな」

「そう、だからこれ以上表に出てこないでくれ」

「だが断る!」

「なっ!?」

 

 深次は右腕で薙ぎ払うように譲らないという姿勢を見せる。そう簡単に聞いてくれるはずもないことはわかっていた。それでも彼は僕だからわかってくれるという淡い期待をしていたのが間違いだった。

 

「言っただろ、“俺の体を取り戻すため”だって。元々俺とお前の魂は同じ、ならこの体はお前のではなく俺のだとも言える。それにやっと表に出れるんだ楽しくないわけないだろ」

「僕の体で何をする気だ」

「いちいち聞くなよめんどくせぇな。もう体を乗っ取る手段は決まっている。あとはその手順を踏んでいくだけだ」

 

 深次は後ろを向いて背を向けて歩く。さよならの合図をしながら歩く彼は嘲笑の笑みを浮かべながら暗闇の中へ消えていく。まるで次の機会を楽しみにしているように笑い続ける彼を見送るしかできなかった。

 夢から覚めれば既に朝の六時だった。深次が動いた形跡はなく今日は僕の意識からスタートらしい。体に問題がないことを確認していつも通りの作業を始める。現状彼に切り替わるのは僕の意識がなくなった時、そしてオルタナティブフェッスルを使用した時だ。前者に関してはどうしようもないところがあるが後者に関してはフェッスルを使わなければいいだけのこと。それなら変わる機会を減らすことが出来る。

 

「新一」

 

 呼びかける声に応じるとダイニングにお嬢様の姿があった。距離を測りかねているのかこっちにくる気配はない。そもそもこの時間に起きているのが珍しい人ではあるが。

 

「おはようございますお嬢様」

「お、おはよう。いつもの新一なのよね?」

 

 返答に困ってしまう。言うなれば彼も僕であり昨日皆の前で話していた彼は僕なのだからどっちが本性かこの方はきっとわからない。

 

「ごめんなさい、変なことを聞いてしまって」

「無理もありません」

「あなたは本当はどう思っているの?」

「どう、とは?」

「執事の仕事を本当はやりたくないとか」

「そのようなことはありません。昨日も申しましたがむしろ楽しくさせてもらっている方です。ですからお気になさることはありません」

「………」

「ささ、身支度を済ませましょう。朝ご飯ももうすぐできますよ」

「分かったわ」

 

 お嬢様は納得しきったわけではないようだが頷いて部屋を出ていく。少しは不安を拭えるといいのだが。今日は午後から練習のためそれまでにリサと話しておくべきだろう。スマホを取り出してメッセージを送り余裕のある時間を聞き出す。朝早いため返信はすぐに帰ってこないだろうと思った矢先通知音が聞こえる。指定された時間に動けるためすぐに了解と返事を返す。そして出来上がった朝食を食卓に並べるとお嬢様が戻ってくる。

 

「ちょうど今並べたところです」

「ジャストタイミングだったわけね」

「そうですね。では」

「「いただきます」」

 

 朝食を黙々と食べ始めるお嬢様はチラチラと僕の方を見ている。

 

「お嬢様」

「?どうかしたの?むぐ」

「そんなに見られると少々食べづらく感じます」

「ごめんなさい、そんなつもりはなかったわ」

「いえ、仕方ないことだと思います」

 

 早く解決しないとお嬢様の心にも良くないな。腹の底で何を考えているかわからない彼を止めさせるための手段を取るしかないがその手段すらわかっていないためどう動くべきか悩んでいる。食べ終わった食器を片付けて洗い物を済ませると今日の予定を確認する。すると呼び鈴の音が聞こえ出迎えるとリサが立っていた。

 

「どうしたのリサ、予定より少し早いけど」

「うん……少し早めに会いたくて………」

 

 目を逸らす彼女を見て後ろを見るとお嬢様がいる。状況を理解して断りを入れてから玄関の扉を閉めると僕の意識だけ後ろに下がる。まだ引き金を引くようなことはしていないはず。

 ──残念だったな、侵食はもう進んでんだ。考えてなかったのかバカめ。

 まさかこうなるとは思いもしていなかった。思ったよりも体の乗っ取り方を熟知しているらしく僕の意識は簡単に閉じ込められた。裏側にいればそりゃあいくらでも方法を探すよな。

 

「待たせたなリサ」

「ううんこっちこそごめんね、早くに来ちゃって」

「いいんだ。俺もお前と早く話がしたかった」

 

 そういって深次はリサの手を引いて連れていく。バイクに乗せて元々いく予定だった羽沢珈琲店へと連れていくとすぐに席を取って注文する。まるで女性の扱いになれているような迅速な対応は僕が今まで任務で使うスキルをフルで使っているようだった。

 

「早速本題に入るんだけどいいか?」

「大丈夫だよ」

「昨日のあれは流石に良くない。確かにお嬢との生活が絶対大変じゃないって言ったら嘘になるがそれでもお前とお嬢の仲なんだ、俺のことで亀裂を産みたくない」

「ごめん……」

「俺のために必死に庇ってくれようとしたのは嬉しいよ。ありがとうな」

「うん……」

 

 まるで躾けられている子犬のように嬉しそうにするリサを見てこんなにも気づかないものかと驚いた。きっとリサの中でこれが僕の素だと完全に思い込んでいるかのように思えるくらい態度が丸わかりだった。

 

「分かってくれたんなら嬉しいよ。さ、デザートか何か頼みな」

「え、朝ごはん食べたばっかだよ」

「逆に食ったからだろ。朝からデザート食っちゃいけないなんてルールはないしな」

 

 それもそっかと満面の笑みを浮かべたリサはメニュー表に目を通す。その間に僕の意識は引き戻されるように体の感覚を取り戻した。深次を呼び出そうと心の中で声をかけるが一切の反応がなかった。どうやら都合のいい動きをしているらしい。

 

「新一は食べないの?」

「えっと、ほら、お腹いっぱいだからさ」

「ふーん、そっかぁ」

 

 じゃあどうしようかと再び目を通すリサを見て一息つく。深次(この男)、全くもって面倒な状況を作り上げるのが得意のようだ。となると彼の目的は僕の信頼を失うこと?だとしたら事情をわかっていない人達からも理解をされず自分を崩壊させるだけだ。となるとなんだろうか。

 頭を抱えていると錠前がなる。思ったよりも近い場所なので走って移動しようと立ち上がるとリサがこっちを見てくる。

 

「もしかして行くの?」

「ごめんリサ、後で戻ってくるからお支払いは任せて」

「待ってアタシも行く!」

 

 珈琲店を出て行くと爆発が聞こえてくる。錠前を再確認しながら走ると敵の数がわかる。ファンガイアが二体いて既に快斗君が戦っている。圭君の反応はあるかを確認するとかなり離れたところで点滅して変身だけしているのが分かった。しかし場所が一向に変わらないことに気づいた僕は何があったのか不安になるが今は近い方からやろうと変身して形と心を共に切り替える。

 

「快斗君おまたせ」

「すんません突然で申し訳ないんですけどこういう状況はどうすればいいですか?」

「何があったの?」

「来た時からこうなってるんすよ。仲間割れなのかそもそも敵なのか」

 

 状況を見るとエビみたいなファンガイアが蛙っぽいファンガイアを攻撃していた。蛙っぽい方は思うようにいかないのか反撃できないでいる。確かにこれは今までにないケースだと判断するがどうして攻撃しにいかないか聞くと正直悩んだらしい。それはそうかと仕切り直して蛙の方を僕で預かってエビっぽい方を倒すようにお願いした。

 

「了解っす。本当にやっちまっていいんすね?」

「どっちにしろ人を襲っていたんだ。そうでもないと錠前はならないからいいよ」

「オッケーっす」

 

 ナイフを投げたかと思えばすぐに別のナイフを取り出してエビっぽいファンガイアを攻撃しに行った快斗君から視線を外して蛙の方に刃もセットで向ける。

 

「ま、待て、俺は何していない!」

「人に危害を加えたのは間違い無いでしょう」

「そ、それは申し訳ないと思っている。けど俺は」

「俺は?」

「ここ十年間ライフエナジーを吸っていない!」

 

 信じられる言葉ではなかった。ファンガイアが人のライフエナジーを吸わない?十年も吸っていないだと?そんな情報聞いたこともない。

 

「どういうことですか?」

「俺が人を攻撃しちまったのは雑音のせいなんだ」

「雑音?」

「俺は耳が過敏でな、しばらくあの音が聞こえなくなってからは工事の音でさえストレスになってしまうようになったんだ」

 

 刃をより近づけると両手を上げて降参のポーズをとる。このファンガイアは人の文化が好きだが過敏すぎる耳に優しかったのはその時に録音した音楽らしい。聞けばそれは家の中にあるらしく探して見つけだされれば症状も落ち着くらしい。

 

「その話、信用してもいいのですか?」

「信じてくれ。もし裏切るような真似をすれば容赦なく殺せばいい」

「………わかりました。ではその捜索品、僕も手伝っていいですか?」

「信じてくれるのか!?」

「早く見つければ貴方が人を襲うリスクも減るというものです。ただ、時間にも限界がありますのですぐに見つけましょう」

「ありがとうございます!!」

 

 いつの間にか人型へと姿を変えていたファンガイアは土下座していた頭を上げた。僕も変身を解除するとリサが走り寄ってくる。ことの一部始終を説明すると手伝ってくれるというのでファンガイアの人に聞いてみると協力してもらう形になった。エビを倒してきた快斗君は報告もあって一度戻るとのことだったのでついでに京君のことも確認を取ってもらえるようにお願いしてみた。

 その足取りで探しに行こうとするついでに色々と確認することにした。

 

「ちなみに僕の二つ名を知ってますか?ファンガイア業界では結構有名なようですが」

「えっと、白………なんて言われてんだ?」

「白騎士です。その様子だと本当にライフエナジーを吸ってないようですね」

「なんでわかんの?」

「僕の異名を知らないこととしばらく戦ってない感じがしたからかな」

「そこまでして信じてくれるのか、本当に助かる」

「因みに雑にならない音楽ってどういうものなんですか?」

「クラシック系の音楽だな。ロックとかエレキというものを使っている音楽は耳がおかしくなってしまいそうな気がする」

「なるほど。それでなんでライフエナジーを吸わなかったんですか、十年間も」

「十年前、ある男と約束したんだ。俺にも心があるなら化け物みたいなことしていないで音楽を聞いてろってな」

「それは人間ですか?」

「ああ、確か名前は……名護啓介だったか」

 

 人の生を聞いて思考が固まる。その名前の人物は既にこの世におらず僕の肉親の一人でもあったからだ。

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