青薔薇の歌姫と白き聖騎士   作:OSTO文明

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第八鏡 狂気の所在

 心臓部を一突きにして彼はガラスとなって砕け散った。降り注ぐガラス片はまるで悲しみの雨のように僕達に降り注いだ。

 無抵抗の彼を引き裂いた感覚が同時に来る。やったのは新一()じゃない。でもやったのは深次()だ。だからどう言い訳しても逃れることはできない。

 

「新一、なんでこんな」

 

 リサが怖いものを見るかのような目で僕を見る。新一に意思は無かったと否定したいけどやったのは深次だ。どう返事をすればいいのかわからない。

 

「仕方ないじゃん、離そうとした瞬間、反撃が来るのが見えちゃったんだから………」

 

 違う。そんなそぶりは一切無かった。反撃出来ないどころか話した瞬間安心したような声が漏れていた。コイツもしかして最初からその瞬間を狙って!

 

「今井ソイツから離れろ!」

「京?」

「離れてください今井さん」

 

 変身したままの京君が僕に向かって銃口を向けている。紗夜さんも牽制する姿勢だ。お嬢様とりんりんは何も言わないが睨み付けるように僕を見ている。この状態の僕なら全員が僕のことを敵だと思っても何も間違っていない。

 

「皆なんでそんな、って快斗!?」

「すんません姐さん、でもこれが一番なんすよ」

 

 気付いた時には京君達がいるところにリサと快斗君の姿があった。安全なところに逃してくれたのだろう。京君の指示だろうか、正しい判断で助かる。

 

「なんで新一のことをそうやって責めるの!?今の人だって新一は殺したくなかったんだよ!?」

「どんな事情があったかは知らねぇよ。けどそれがもし本当だったとしたらあれは新一か?」

「何を言ってるんだ京君。僕は僕だよ」

「そうか?俺の知ってる新一なら殺したくもない奴を殺した時、変な言い訳はしないはずなんだがな」

 

 京君の推理に深次が一瞬だけ舌打ちをしたような気がした。僕は彼でも彼自身の特徴が出てしまっていたということだろうか。もしわかってるんだとしたらそのまま撃って欲しい。そうすれば少しくらい隙が出来るはず。

 

「待ってよ!なんで少し違うだけでそうやって否定するの!もしかしたら新一の中で信じられる人だったのかもしれないじゃん!」

「どけ今井ソイツは新一じゃねぇ」

「リサ………」

「姐さんの言うことも分かりますけど今回はそれが通じないんすよ」

「なんで、なんでそんなことばっかり言うの!?紗夜もそっち側だし友希那だって新一の主人だったらもう少し理解してあげてもいいんじゃないの!?」

「………」

 

 リサが京君の前に立って攻撃させないようにしている。僕を信じたいという気持ちが伝わってくる。それでもこの僕を信用してはいけない。そう思うと嗤う声が聞こえてくる。まるで今までのことが全てドラマを見てきたかのように、視聴者となって全て見終わった観客かのように嗤う声が。

 

「リサ、もういい……」

「でも新一これじゃあ」

「いいつってんだろ」

 

 一度低くした声を出すとリサは恐れるように退く。変身解除した深次は一度髪をかき上げるようにしながら再び戻してセットする。

 

「礼は言っておかないとな。今までありがとう」

「えっ、どういうこと…?」

「面白いものを見させてもらった。少しばかり鬱陶しくも感じたがまぁ悪くなかったぞ」

「急にどうしたの新一。嘘だよね、そんなこと」

「まだわかんないのか、お前は利用されてただけだ。俺が面白いものを見るためにな。恋は盲目と言ったか、これだから盲信する奴らは面白いんだ。他人に執着している奴は自分がやることを正義だと正しいだのと感違いして好き勝手行動する。まるでバカの」

「それ以上喋らないで」

 

 聴いているだけで腹の立つ言葉をつらつらと重ねる深次を止めたのはお嬢様だった。膝から崩れ落ちるリサを紗夜さんが抱き締めている横で僕を睨み付ける。あれは本気で怒っている目だ。

 

「新一の体でそれ以上好き勝手に喋るのは許さないわよ」

「おっと?お嬢それはないぜ、俺だって新一なんだか、ら……」

 

 お嬢様は京君から銃を奪って僕に向ける。一度重さに持っていかれそうになったが両手で支え直して再度僕を狙う。

 

「やめとけってお嬢。それ重いしそんな持ち方して撃ったらあんたがやられる」

「喋らないでと言ったはずよ」

「それにあんたは俺を撃てない」

「本当かどうか試してみましょうか?」

 

 片目を瞑って照準を僕に向けようとしている。あの銃ならセーフティはないはず………

 ──何やってんだ僕は!お嬢様にそんなことさせて言い訳ないだろう。急いで身体の主導権を取り戻そうとする僕の意識が届く前に深次は変身解除する。ベルトを外して地面に置いた状態で腕を広げて見せた。

 

これでもか?(・・・・・・)

「っ………!」

「とはいえお嬢がそこまで本気なんだ。一回くらい返したっていい」

「本当?」

「ああ本当だ。これに関しては嘘じゃない」

 

 お嬢様が銃を下すとその重さに釣られて膝をつく。それと同時に深次は足でベルトを引っ掛けて手に戻した。

 

「よっこらせっと」

「嘘じゃないって言ったじゃないですか!」

「別に嘘はついてないぜ」

「でも……」

「今変わるとは一言も言ってないよな?」

「性根の腐った野郎だな」

「それも名護新一の一部だぜ」

「新君は…そんな人じゃない!」

 

 大きな声を出したりんりんは泣き目になりながらより一層睨みつけてくる。どれだけ僕が声を出そうとしても出せない中彼女達はそれは僕じゃないと否定してくる。本当は違う、皆には見せていないだけで僕も気付いていなかっただけで本当はそういう部分もあるかもしれなかったんだ。それが深次になったというだけで根本的な部分は変わりはしないんだ。

 

「もしかしたら、新君にも人を騙すような性格の悪い部分もあるのかもしれない………貶して陥れたりすることも……それでも新君は人に優しくすることの、できる人だから!」

「燐子……」

「白金さん……」

「例えあなたが新君と同じだったとしても……新君と一緒にしないで!」

 

 聞こえて来る怒号は今までに聞いたことのないもので、もう一人の僕を知ったとしても新一()を受け入れようとする姿勢が伝わってくる。それでも僕を完全に受け入れたことにはならない。深次は僕だから、だからこそ彼をもひっくるめて僕が僕であることを証明しなくちゃいけないのだ。

 

「時間が近いな」

「………?」

「ま、確かに一緒には出来ねぇよな。少なくともコイツの腹の中を聞きださねぇうちはな」

「どういうこと?」

「今日はここで解散にしよう。俺は街で遊んでくる。捕まえたきゃ捕まえてみろ」

 

 深次は気が変わったのか楽しそうな声でその場を去った。しばらくしてもお嬢様達が追いかけないことを見るにリサのメンタルケアをしていることだろう。戻れた時どう謝るべきだろうか。

 

「その考え方じゃまだまだだなぁ」

 

 ──元はと言えば君のせいで

 

「でも俺はお前だぜ?言葉に出してんだからわかるだろ」

 

 ──僕と君が同じだったとしても、それでも

 

「ま、今は少し俺に体を貸しとけ」

 

 深次が止まったのはゲームセンターの前だった。そのまま入るとゲームセンターの中にある筐体を眺めて気になった物に手をつけていった。今の彼の意識と感覚は繋がっており見ているものや触っているものなどの感覚も伝わってくる。だから彼が遊んでいる感覚が伝わってきて、居心地の悪さが薄れるくらい楽しく感じた。

 

「この銃玩具だからか反応悪いな」

 

 ──あくまで遊具だからじゃないの?

 

「せっかくゾンビを殺せるゲームだってのに面白くねぇな」

 

 コントローラーを筐体に片づけ今度は和太鼓のゲームを見つけるとそっちに歩いていく。クレーンゲームの方も個人としては気になったが先に音ゲーと言われる種類に興味を示したようだ。

 

「あれ、名護先輩じゃないっすか」

「巴か。アフターグロウの連中もいるってことは遊びにでも来てたか」

「名護先輩ですよね?なんか口調が違うような……」

「間違ってないぜ」

「あ、もしかしてイメチェンですか?結構斬新っていうか」

「そんなところだな」

 

 羽沢さんが疑問を抱き始めたが上原さんが勘違いしたのか皆を丸く収めようとしている。そんな中青葉さんの後ろに隠れていた蘭ちゃんが怪しいと疑胃の目を向けてくる。正直疑っててくれても問題はないのだが深次も僕なわけだから反応に困らせると思う。

 

「そういえば一人でいるなんて珍しいですね」

「たまには、な」

「せっかくなんで一緒に遊びません?これやろうとしてたんですよね?」

「じゃあ後輩の誘いに乗ってやりますか」

 

 その後アフターグロウの皆としばらく遊びいろんな筐体を体験した。クレーンゲームは中々難しくコツを覚えるのに苦労したができるようになると簡単に取れるようになった。それぞれが欲しいものを取ってあげると練習の時間になりそうとかで皆と別れることになった。深次はそのまま別の場所に移動しようとすると背中に何かを突き立てられる。

 

「その感じだとアイツらみたいに遊んでくれないのか」

「いいや、遊んでやる。新一はゲームセンターを知らないようだからな」

「京、今の俺は深次だぜ」

「そんなことは知ったこっちゃねぇ。ついてこい」

 

 言われるがままついて行くとジャラジャラとメダルの音が聞こえてくるコーナーに連れてこられる。その中でスロットと言われる機械が並んでいる席に座らせられるとその隣で彼はレバーを叩いてボタンを押す作業を繰り返す。その流れを見て深次も真似をする。

 

「お前は名護新一の一部、それで間違いは無いんだよな?」

「ああ、名護新一と名護深次は同一人物だ。あくまでニアイコールだがな」

「それはお前らの人格が分離しているからか?それとも元々別々の存在だったからか?」

「前者だな。元々魂は一つで……って、その質問をしてくるってこたぁもう大体分かってんだろ。お前の推理ってやつを聞かせてくれよ」

「新一が人体実験──二回目の精神の方の実験の治療を受けた日以降、それまで見られなかった戦闘を愉しんでいるという記録や獣のような戦い方という記録がある。それはつまり一度失われた感情を奇跡的に取り戻した際に生まれてしまった新一の欠けた部分いや副産物、それがお前だろ」

 

 777を揃えた京君のスロットマシーンから大当たりの音が流れてくる。そのままレバーを押してボタンを押していく姿はまるでこっちの反応を見るまでもなく確信しているようだった。

 

「流石北の名探偵。その通り俺は新一の手術の時に生まれた存在、あいつの本来持つ闇の部分だ」

「闇……負の感情か?」

「近いな。負の感情という言い方も間違っちゃいないがどちらかといえば悪だろうな。新一が考える悪逆とした行為、それをやってみたいと考える人格部分だ」

「確かに悪っていった方が納得しやすいな。そのことについて新一は知ってんのか?」

「理解はしているみたいだぜ。一応アイツとの思考はリンクしているからこっちが拒絶しない限り思考は共有されている」

「今の会話も聞こえてんのか?」

「話したいか?別に構わねぇけど条件がある」

「何だ」

「この場から俺の体が離れないこと、それが絶対条件だ。ここを離れればすぐに主導権を奪って俺は逃げる」

「その方がお前にとって好都合なのにか?」

「逆に動かない方が都合がいい」

「いいぜ、その条件飲んでやるよ」

 

 大当たりの時間が終わったのか京君が筐体から手を離すと深次は指を慣らして僕に主導権を渡してくれる。手の感覚を確認するとしっかり僕の思う通りに動いてくれる。回っているスロットを止めると虎のイラストが三つ並ぶ。

 

「その感じだと本当に入れ替わったみたいだな」

「う、うん」

「レバーを倒してみろ」

 

 言われた通りにするともう一度スロットが回り始める。右側にはreplayの文字が書かれている。さっきと違う動きでスロットが回り始めたことからやり直しになったのだと推測する。

 

「なんか久しぶりに感じるな」

「僕も、なんだか体が僕のものじゃないみたい」

「面白いなそれ」

「………京君はさ、なんで深次をここに連れてきたの?」

「あの状況なら外で話すよりここで話したほうが逃げられないって考えたからだ。あとは俺が久しぶりにスロットやりたくなっただけ」

「…ありがとう」

「礼なんざ言わなくていい。それより深次はお前に取ってどんな存在だ」

 

 言葉に戸惑った。確かに行為は悪逆そのものがあったけどなんであの後にきたのがここなのかを僕なりに考えるとなんとなく答えが見えてきて悪というには違うように感じた。

 

「本当の僕なんじゃないかな」

「………」

「勿論主人格は僕だけど、きっと僕のやりたいことを素直に言えるのは彼だと思う。そういう素直さには僕がない。多分さっき京君が言っていた副産物とは違って、彼は本来僕が持っているはずのものを持っていてくれてるんだと思う」

「そうか。それじゃあ質問を変えよう。これからどうしたい(・・・・・・・・・)?」

「それは────────」

 

 本心を伝えると京君は納得した様子で何か考え込むように回るスロットを見つめていた。これは僕の問題で僕達で解決しなければいけない。そう思い今度は体の主導権を深次に譲り渡した。

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