案外あっさりと返された俺の体を軽く動かすと確かに動いた。スロットのボタンを止めると虎柄が揃って回転が再開する。
「入れ代わりまで習得したとはな」
「今までも出来てた………訳じゃないのか」
「そうだな。今まで一方的に奪ってたし何なら奪う側にいたからこそ出来ることだな」
「そうか」
譲り渡すっていう方法を取ってきたのが想定外だったな。それに最後の会話が共有されなかったってことは遮断する方法まで手に入れたということか。まだこっち側の主導権は俺にあると思ってたんだけどな。
「意外だったか?」
「まぁな。でも相手は
「聞きたかったんだけどよ。お前いつから新一の立場が欲しかったんだ?」
「んなもん聞かなくてもわかるだろ」
勢いよくボタンを押すと7が揃う。
「俺が目覚めたその時からだ」
「そうだよな。じゃないと滲み出たりしないもんな」
「そういうこった。ところでこの刃いつになったら引っ込めてくれるんだ?」
話していて気づかないだろうとでも思ったのか数分前から刃物を首元に添えられている。それこそ滲み出ている隠しきれない殺気がある訳だから気づかないはずがない。
「あなたは新様ではありません。早くお返しくださいまし」
「どうせ聞いてたから知ってんだろ?切架、俺だって新一だぜ」
「だとしても、ですわ」
「お前は力づくの方が理解して……!」
「……!」
相手になってやろうと立ち上がった瞬間動けなくなる。無論そこに俺の止まれという意志は存在せずむしろこれが生存本能というものではないかというくらいの意思に対する抵抗があった。止まれという意識とは別に逃げろという考えが大きくなってくる。この囲まれた空間ではそれが叶うことはない故に生存本能というのが沸き立てられたように感じる。
「お前ら揃ってこんなところで何やってんだよ」
「それはこっちのセリフだぜ天斗」
「何故貴方がここに」
「俺だってアミューズメントコーナーには顔を出すさ。ま、それより面白いもんが見れたけどな」
「新一、今はこいつに構ってる暇は」
「いや、アイツは俺の獲物だ」
時間が経つと同時に生存本能よりも嫉妬や憎しみなどの負の感情が大きくなる。外に出ようという合図を受け取り全員で建物の裏までくるとある程度の距離を取る。徒手空拳の姿勢を取った天斗に対して同じように徒手空拳の姿勢を取る。
「俺と同じ型で勝てると思ってんのか?」
「全部がアンタの受け売りだと思うなよ」
「お前は新一の裏側っていった方がしっくりくるがその感情は新一にも存在しているからな。いわば陰っていったほうが正解か?」
「アンタに言われると腹が立つなぁ!」
拳を打ち込むと簡単に止められる。二撃三撃なんて考えていない強力な一撃を打ち込んだはずなのに簡単に受け止められた。普通なら受け止めても反動が返ってくるくらいの威力のはずなんだけど。
「確かに新一とはちょっと違う。アイツが連撃型だとしたらお前は一撃型だな」
「分析なんてしてんじゃねぇよ気持ち悪りぃ!」
「でもお前でも俺には勝てそうにねぇな」
「戦闘中に怠慢を張るとは」
「別にぃ?ちゃんと覚えてたさ」
俺を掴んでいる腕をそのまま後ろに振り回して夜架と激突する。狭い路地裏ゆえにすぐに壁にぶつかったが体制をすぐに立て直せた。
「退いてくださいまし!」
「テメェなんで水刺してんだよ!」
「あの方は私の敵でもありますわ」
「だとしても俺が戦ってんだ手ェ出してんじゃねぇ。次手ェ出したらタダじゃおかねぇ」
「そうだな、兄弟喧嘩に割り入るのはちょいと許されねぇよな。だからアイツらの相手を頼んだ」
天斗の後ろから飛び上がった影は二丁拳銃を構えて乱射する。その射撃は精密な射撃により俺と天土には当たることはなかった。これだけの動きでどこからきたのかわかった。
「名護家の裏切り者か」
「正確にはその中の合格者だ」
「
「ハズレは殺した。いても価値がないからな」
ハズレと呼ばれた人が殺されたことに怒りは感じなかった。少なくともそのことに関して興味がなければ裏切り者が生きてたら何されるかわからないからな。それでも新一は怒っているようだが。
──深次
いいてぇことはわかる。けどお前はお前の理由でキレてろ。俺は俺の理由でキレる。
「一応確認する。斬った感想は?」
「そんなものいるか?」
「ok、じゃあ死ね」
目の前で近づき腕を掴んで空に放り投げた。そのまま殴りかかると体を捻って躱される。逆にそのまま腕を掴まれ回転を決めながら地面に叩きつけられた。顔面を踏まれるところを寸前で回避して距離を取る。そのまま殴り合いになるがお互い拳を受け止めては躱してを繰り返しだった。足を前に突き出してくるのが見えて避けると同時にポケットにしまっていたものをぶん投げる。
「ボールペンは武器じゃありませーん」
「何言ってんだ。文房具だって具って漢字がついてんだから武器だろ」
──暴論だよそれ
「我が弟ながら横暴だな。だがその戦い方は嫌いじゃない」
「それじゃあ二回戦と行きますか」
「続けんならすぐに終わらせるぞ。今日は久しぶりに羽目を外すか」
──何か来る、気をつけて!
知るかそんなもん、何をしてくるかわからない。だからこそ先手必勝だと踏み込んだ。それが油断につながるとも知らずに。
「
気がついた時には隣に奴がいた。目で終えた時には腹が破かれるんじゃねぇかっていうほどの痛みが伝わってくる。口の中に溜まる血が溢れ出て呼吸が苦しくなった。
「制限解除は元々俺のシステムだ。普段は人と同じくらいの平均の実力だと見せるためそれ以上の力で体が壊れないようにするためのな」
「グボッゲハッガハ………」
「でもあれから自分なりに研究を重ねた結果もはや必要のないものとなった。それでも何故制限解除って言っているかわかるか?」
「っ、知るかよ……んな、もん………」
「ブラフだよブラフ。初見殺しのためのコードなんだよこれは。身体が追いつかない残念なお前らじゃ一生到達できねぇ領域だけどな」
止まらない流血を抑えるように口を塞いでもまだ血は出てくる。いまだにあの痛みは腹に残り続ける。すっきりしたとでも言いたそうな満面の笑みを浮かべた天斗はスキップする。
「おーい帰るぞ」
「よろしいのですか?」
「おう、邪魔が入らないようにしてくれてありがとうな」
「この程度いつでも」
「逃げますの!?」
「え、だってやること終わったし。あそうだ、早くしないとあいつ死ぬぜ」
愉快そうに消えていくその姿を見ているうちに意識は消えていきやがて何もかもが真っ暗に包まれた。まるで俺が最初に見た景色のような暗闇に。
──────────────────
新一が弦巻さんの家に運ばれたという連絡を受けて私たちは黒服さんたちに連れて行ってもらった。たくさんの機械と水色っぽい服を着た人たちに囲まれたところに新一の姿がある。タブレットみたいなものを持って歩いてくる快斗と京、そして見たことのない人がいた。
「えっとこれってつまりあれがこうでこれがってどういうことなんだ?」
「安心しろバカにはわからん」
「失敬だなお前」
「快斗これって」
「姐さん、とりあえず落ち着い」
「どっちでもいいから早く説明しなさい」
「今説明しようとしてたところっすよね!?」
「とりあえずここじゃ何だから違うところに行こうか」
知らない人が先導して歩いていく。話を聞くと快斗に仮面ライダーの力を与えた開発者らしい。多分頭のいい人だというのはわかるけど今の彼の雰囲気からはそれが伝わってこない。なぜか喜んでいるような子供がおもちゃを見つけたような感じを醸し出している。
案内された部屋にはスーツの男の人が数人が立っていた。確か新一とバンドをしていた人たちだから覚えている。でもその中の一人だけは完全に知らない人だった。
「さて、とりあえず座りたまえ、新一君の現状について話そう」
「彼は生きているのよね」
「そう……だね。今情報が入ったけど無事に第一段階終了というわけだ」
「第一段階?」
「彼の体は先の戦闘で腹部大動脈破裂していたが今しがた処置を終えたらしい」
とりあえず助かったということだけはわかり安心した。でも言い方に引っかかりを覚える。
「次に何をするの?」
「第二段階、次は新一君の人格に対してアプローチをかけてみようと思う」
「外から同行できるものじゃないってこの間京が言ってたわ」
「間違いじゃないね。アプローチって言っても舞台を用意するだけだ」
「…どういうことですか……?」
「それに関しては我々から説明しましょう」
スーツの人が手を挙げる。無機質な顔には覚えがあってキーボードを担当していたのを思い出した。
「一条は休みのためこの私橋本が説明する」
「はしもっちゃんもう嬢ちゃん達の前で素出したことあるんだからかしこまんなくてもいいだろ」
「馬鹿言え、場所を考えろ。説明するにあたって一つ確認しておくことがあります。現在名護新一の体には二つの人格が存在している、間違い無いですね」
二つの人格、つまり新一と深次のことだろうか。見合わせて全員が頷くと間違いないと判断したのか話を続ける。
「フェーズ2は我が名護家の精神科担当の中本の開発により生まれた治療システムによって行われます。治療は彼が目覚めるまで行われると考えられます」
「じゃあ永遠に目覚めないっていうことは」
「それはないね。処置を終えたってことは今は安定期だ。だからいずれ目を覚ます」
「皆様が心配されるのもわかりますが弦巻家は世界最先端の技術を持っています。ですから安心してください」
「わかりました…」
「ではここからは私が説明させていただきましょう。先ほど紹介された精神科担当の中本です、どうぞお見知り置きを」
「それで、治療システムというのは」
「彼は今眠っている状態です。そこを利用して機械を通して彼の内部に干渉します」
「そんなことができるんですか!?」
「その理論を提唱したのがこの人なのでやってもらわないと困りますね」
「橋本さんそれの言い方は少し圧力が。ですがやってみせましょう。人の脳には電気が走っておりそれは特定の電流を流し神経を通して体全体に命令をしています。その電気を利用して干渉するのです。ですが最終的には彼自身にどうにかしてもらう必要があります。なので我々は舞台を用意するだけになりますが」
「その舞台っていうのは?」
「彼がイメージする景色が映りますが彼らが自分達なりに結論を出しやすい場所ですね」
「心象風景といった方がわかりやすいか」
「いや難しいだろ。ようはあれだろ?夢の中みたいな」
「その言い方が一番わかりやすいですね。夢の中で対話出来る空間をちゃんと設定するのが外部である我々の役割です」
「そんなことする必要があるのですか?」
「自身で設定した夢の空間なんてあやふやじゃないですか。逆に聞きますが皆さんは寝ている時に自分が夢を見ているなんて自覚ありますか?」
そう言われると不思議と納得する。夢の中だなんてその時は常識のことだから意識の外にあるわけだから考えているはずもない。
「だからこそ外部入力という形で彼らに夢の中であること、だからこそきちんとした対話が出来るということを伝えることが我々の仕事なのです」
「なるほど、では具体的にどう対話させるのですか?」
「そりゃあ話し合いが一番ですけど今までのデータを見させてもらった限りで見れば殴り合いが一番でしょうね」
「えっ、夢の中で自分同士で殴り合うの!?」
「なんかすごい光景ね」
「信じられません………」
「まぁ可能性の一部ですから」
「坊ちゃん同士の殴り合いなんてそうそう見れるもんでも無いから俺は見てみたいけどな」
「どっちが強いのかは俺も気になるがそういっている場合でも無いだろう」
「少なくとも私たちはバイタルサインも見なければなりませんからね。あとは脳へのダメージも見なければなりません」
「大丈夫なのではないのですか?」
「本人同士の衝突なので最悪精神崩壊して廃人とかしてもおかしくないのでそのストッパーとして見る必要があるのです」
難しい話をしていて頭が混乱してきた。
「とりあえずこの情報量を一気に詰め込むと頭がパンクしそうになるな」
「では簡単にまとめましょう。1、新一様の精神世界を作るサポートをする。2、新一様が壊れないように管理する。3、最後まで結果を見届けて現実を受け入れる。これが我々の仕事です」
最後にしれっと新しいことを追加されたような気がするのだけど、それでも新一が戻ってきてくれることを願っていた。