東京某廃所──地下三百メートル。
第二次世界大戦以降使われていなかったこの場所にて人だかりが出来ていた。その数約五千人。七割が成人男性、残りの三割が成人女性と満十二歳以上の子供だった。ただの一般人の集会とは思えないほどの緊張感が走る彼らは整列して段差がついた場所を見ている。そこには教壇が設置されている。左右離れた場所に黒服のサングラスを掛けた人が立っている。しばらくすると白髪の老人が現れ教壇の前に立つ。
「諸君待たせたね。これから次の作戦について説明する」
何もなかった岩壁にスクリーンのように映像が映し出される。そこに映されるのは要塞の設計図、武装の種類、これから起こそうとする作戦についてだった。
「大型作戦は今回で二度目だ。そしてこの作戦にてこの国を、日本を我々のものにする。前回の秋雨のハロウィンではスタジアムにて仮面ライダーの殲滅を図ったが大半の戦力がある人物達によって無力化された。名護家の介入、予期できた事態ではあるがマスカレイドにまで対応してきたのは想定外だった。しかし彼らとて守備範囲には限界がある。どれだけ強かろうが彼らは人の域を出ない。アークすら彼らは破壊してしまった。数えられる兵器も大半が封印されている。常人には扱えず封印を解いたとしても必ず途中で使用を中断するだろう。それまで戦い続けられる存在しか現在の我々の戦力にはいない。故に心配には及ばないということだ。
今回はこの要塞を使い地上と空両方から攻める。設計図にも書いてある通り数多の兵器を積んでいるこの要塞を破壊しうることは出来ない。第一目標として首都東京を堕とす。勿論名護家の介入が考えられるし自衛隊も考えられるが既にそちらは既に手を打ってある。邪魔な名護家を破滅させ我らの時代を作る。支配の先にあるのは我らの楽園。この世をあるべき姿へと変えるのだ」
男が両手を広げ意思を示すと歓声が湧き上がる。あの男を支持するように、崇拝するように。スクリーンにメールのマークが浮かび上がるとその場にいた全員の端末にメッセージが届いた。当日の作戦配備の図と編成の表。完全に実行する準備は出来ている。彼らのモチベーションは高まっている。
彼は全員に背をむけ壇上から姿を消すとニヒルに笑い小さな声を溢した。
「世界すらすぐに手に入れてみせる。全ての情報を私が手に入れ、絶望の世界を作るのだ」
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「そういや思ったんだけどさ、地上と空からだけなんかな」
「は?何言ってんだお前」
敵戦力についてそれぞれが調べている最中、ふと快斗君が言った。水中、この場合おそらく海中だがその可能性は否定は出来ないが基本的にそれはあり得ないだろう。地上を攻めにくるのにわざわざ海にいる必要はない。すでに国内に組織がある以上海から来ても仕方ないのだ。
「陸と空はわかるんだよ。でもなんかそれ以外でも来そうだなーって」
「海から来るってか?」
「いやもっとこう、賢そうな手段というか」
「賢そう?」
「てかよく考えれば地上を攻めたら戦えないとはいえ警察とか自衛隊が出て来るだろ一応」
「弦巻と名護が出てくること知ってれば市民の警備に回るだろ」
「そうなんだけどよ、もっと何か見落としてるっていうか」
見落としてる……どういう部分でだろうか。
「なんか当たり前に思えてて実際違うような……」
「灯台下暗しってこと?」
「あーそれっす。でも何がそうなってるのか」
「そこがわかってないのかよ……いや待てよ」
今度は京君が考え込んだ。何か思い当たる節でもできたのか顎に手を当てて考え込んでいる。当たり前だと思っているから見えない?戦っているから当然だと思っているからか?名護家と弦巻家が関わっているから問題ないと思えるところなのだろうか。自分達の無意識なところももう一度考え直してみる。
「なぁ、秋雨のハロウィンのことなんだけどよ」
「急にどうしたの?」
「あのスタジアムっていつできたものだ?」
「何でだ?」
「普通あんなスタジアム作るはずないだろ」
「そういえばかなりの改造が施されていたような」
「ちょっと調べるから待ってろ」
快斗君が手に持っていた端末で資料を探したのかスタジアムの情報が部屋のスクリーンに展開される。記録は五ヶ月前と記載されスタジアム内のさまざまな情報が広げられていた。出撃用ユニットや格納庫など本来スタジアムとしての機能ではいらないものまで造られている。
「まじかこんなにあったのか」
「普通に要塞みたいなもんだよなこれも」
「でもこれ一般の人達も使ってたんだよね?」
「そうっすね、あの事件の一ヶ月前にはサッカーの試合会場として使用されてたみたいっす」
「じゃあ国のものを勝手に改造したってこと?」
「でも一年もの間にこんなてんこ盛りに出来ないだろ」
「そもそもそんなことする必要なんて……あー!」
「何だどうした大きな声出しやがって」
声が出せなくなったのか身振り手振りを全力でやってこっちに伝えようとしている姿を見て何を考えているのか予想する。けど何を考えてもわからなかった。
「早くなんか言えよ」
「」ジタバタ
「言いたいこと色々とあって物理的に言葉が詰まってるんじゃない?」
「」ウンウン
「はぁ〜?」
京君はやる気が失せつつも快斗君を見ると目を見開いてそういうことかと大きな声を出すと近くにあった受話器と快斗君からタブレット端末を奪い取る。少し話すと受話器を乱暴に置いて走って部屋を出ていく。とりあえず僕達も後を追いかけると敷地内を出て表に停めてある車の中に入る。扉を閉めるとすぐに車は出発し座る前に顔をぶつけあ。
「一体どうしたのさ」
「あのスタジアムを作ったやつのところに行くぞ」
「工事の人のところか?」
「違えよ。作るように支持したやつのところだ」
「どうして急に」
「国のものなんだから簡単に手を出せるはずがない。なのに手を出せたってことは裏で繋がっている奴がいた、違うか?」
「「あー!!!」
快斗君と顔を見合わせて声を出した。確かにそれなら簡単に介入する事ができる。仮にそいつが他に関わっていることがあれば情報も聞き出せる。持っていなかったとしても経緯とかから調べれば他の施設の情報も得られるかもしれない。
「お前ら知能レベル下がったかと思ったぞ」
「普通はそこまで思いつかないと思うけどな」
「流石北の名探偵」
「どーもどーも」
「やめろってN◯Kに怒られるぞ」
「ちなみにさっき快斗君は何て言おうとしてたの?」
「似たような感じで元々要塞にする予定だったんじゃないかなーって」
「だとしたら余計行くべきだよな」
目的地に着くと正面玄関から入ろうとせずに門を飛び越えた人達がいた。二人は着地するとなにやってんだという目で僕を見る。確かに緊急事態だけど君達がそうなるのかぁ……
──割とこっち側だろうなアイツら。
否定したいけどこれ見たら否定できないなぁ……
鉄砕拳で内玄関ドアを破壊し支持したであろう政府の人間がいる部屋の扉を蹴破って突入する。中にいた人達は驚いたのかこっちを見たまま固まっていた。
「よぉ議員、ちょっと失礼するぞ」
「なんだね君達は!?」
「北の名探偵だ。今から質問するから答えろ」
「なんでこんなところに」
「五ヶ月前にお前が作ったスタジアム、あれは当初の設計通りではない違うか?」
「そ、そんなことはない!あれは私が支持した通りに作られている!」
「簡単に鵜呑みできる分けないのは分かってるよな?こっちには現在のスタジアムの施設情報がある」
「なっ」
「京、これ」
快斗君が本棚から取り出したファイルを手にとって読む。中を開いて見せてくれたがそれは間違いなくあのスタジアムの資料だった。
「もう言い逃れは出来な」
「そんなもの私は知らない!」
机を叩いた議員は立ち上がって怒声をあげる。それでもやることは変わらないと京君は淡々と告げる。
「否定したところで証拠が出ちまったんだ。それにアンタは隠蔽した容疑とテロリストに加担した容疑で捕まるだろうな」
「そんなことしていない!大体君達は何なんだね、人様の家に入り込んでこんなことまでして」
「国民を脅かすのが議員の仕事か。生憎俺はそんなやつ人だと思わねぇよ。それに自分のことを人様なんて言うやつ敬うことすら出来ないな」
「……っ」
「や、やっぱりこうするべきだったんだ!」
今までただ震えているだけの秘書が動き出して議員の机から拳銃を取り出し京君に向けた。震えている手で銃を持っているためいつ誤射されてもおかしくないが僕達は全員落ち着いていた。
「なにやっているやめろ!」
「議員はここまで頑張ったのにこんなことで止めさせるわけにはいかないんだ!」
「馬鹿なことは止めろ。そんなことしてもアンタらは何も得られない」
「黙れ黙れ黙れ!!」
「そもそも俺たちはアンタ達をこれ以上巻き込まなゴフッ」
「快斗君……?」
ボタボタと重い音が聞こえ快斗君を見ると口から血を流していた。胸から銀色の棒が突き出て赤い液体を付けている。何処からの攻撃だと見渡そうとすると快斗君の背中が急に歪み緑色の怪物が姿を現した。
「良かった、ちゃんと気が緩んでて」
「テ、メェ……」
引き抜こうとした刃を快斗君が手で掴みながら本棚に一度突進する。刃を離した怪物を捕まえて快斗君は窓を突き破って一緒に飛び降りた。議員達は何も知らないのか怪物どもに怯えている。作戦ではないのか。突き破った窓から下を覗くとふらふらしている快斗君の姿と体制を立て直した化け物の姿があった。
「なんで刺されて動けてんだよ」
「火事場の馬鹿力ってやつだろ………」ゼェゼェ
「死に損ないが」
「快斗!」
「まだ辛うじて……生きてる………で、あってるか?日本語難しいな………」
その日本語であっているがそれ以上にピッタリな言葉が見つからない程だ。このまま処置をしなければ彼は死んでしまう。いや、急いで医療班を呼んでも助かる可能性は低いだろう。でも呼ばないよりかは生存率が上がるとスマホで黒服さん達に至急連絡する。すぐに向かうとのことだが間に合うかどうかはわからない。
「まぁいいか。一人殺せたのなら十分だ」
「本当に、俺が死ぬと……思う、かぁ………?」ヒューヒュー
「すでにまともに喋れなくなっているだろう。死ぬならさっさと死ね」
怪物は口から長い舌を出して快斗君に刺さっていた刃を引き抜き手元に戻すと同時に銃を数発撃って弾丸を命中させた。その状態でも立ち続けている快斗君は去ろうとしている怪物に告げた。
「逃がさねぇよ」
逃げようとする怪物に弱々しくもナイフを投げて背中から倒れる。あっさり避けられたがその上から変身した京君が降ってくる。踵落としをした地面は軽くヒビが入っていた。そのまま彼は化け物に殴りかかりに行く。
「探偵か。仲間を助けなくていいのか?」
「新一がどうにかしてくれる。俺の仕事はお前をぶん殴ることだ」
何かが飛んでくる可能性も踏まえて変身して飛び降り快斗君の元へと向かう。止血作業をするが血は止まらない。京君がこっちと距離を取るように誘導しながら戦ってくれている。その間に何とかして黒服さん達がくるのを待たなければいけない。しかし出血の箇所が多すぎるため僕の手だけじゃ足りない。背中を刺され胸を撃たれたとなると肺と心臓にダメージがあるのは確実だ。止血とオウキュ処置をするのに二人以上は必要だと判断した時だった。生気がなくなったのを感じた。呼吸は少し前になくなった。脈は辛うじてあるからこそ止血していたのに間に合わなかった。
「どうやら間に合わなかったようだな」
「………」
「これ以上闘い続けたら今度はお前が死ぬぜ」
京君はこっちのことを気にもせずに殴り続けていた。いやきっとわかっているのだろう。それでも今出来ることをやろうとしている。彼の意思を無駄にする訳にはいかないと抱えていた快斗君を下ろそうとすると傷口から蒼い炎が噴き出していた。それは突如大きく燃え上がり快斗君全体を包み込む。熱いのに痛みが走ることはない。僕が死んだということはなさそうだ。けれど快斗君を包む炎はさらに大きく、家を越える高さにまで燃え上がる。炎の勢いに視界が塞がれるが次に見た時には人が立っていた。さっきまで抱えていた快斗君はいつの間にか手元からいなくなり代わりに一歩離れたところに人影ができている。
「………何だあれは」
「まさか…?」
蒼い炎の中から現れた白いマスクは化け物に告げた。
「逃がさねぇつったろ」